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パワーシフト〜欧州が米国を捨て、中国についた日
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150331-00069203-diamond-soci
ダイヤモンド・オンライン 3月31日(火)8時0分配信
3月12日、全世界に衝撃が走った。英国はこの日、米国の制止を振り切り、中国が主導する「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)への参加を表明したのだ。米国は、「もっとも緊密な同盟国」の「裏切り」に動揺した。しかし、それは「始まり」に過ぎなかった。
● 欧州が米国を捨てて中国についた! 歴史に見る世界のパワーバランスの変遷
その後、英国に続いてドイツ、フランス、イタリア、スイス、ルクセンブルグが、続々とAIIBへの参加を決めたのだ。これは、「欧州が米国を捨て、中国についた」ことを意味する。
中国への評価が極めて低い日本では、それほど重視されていないこの出来事。しかし、世界的には「歴史的大事件」といわれている。今回は、冷戦後の現代史を振り返りながら、世界のパワーバランスがどう変化してきたか見てみよう。
1991年12月25日、ソ連が崩壊し、戦後長くつづいた「冷戦時代」「米ソ二極時代」は終わった。これは、米国による「一極時代」の到来を意味していた。一方、欧州も新しい時代を迎えた。欧州は冷戦時代、西半分を米国に、東半分をソ連に支配されていた。しかし、ソ連崩壊で、西欧と東欧が一つになる道が開けたのだ。
「怖い東の白熊(ソ連)の死」。これは、世界から欧州の脅威が消滅したことを意味する。つまり、もはや米国に守ってもらう必要はない。そして、欧州の指導者たちは、大きな野望を抱いた。「もう一度、欧州に覇権を取り戻そう! 」。
どうやって? 著名なフランスの経済学者ジャック・アタリは、こう言っている。「通貨統合・政治の統一・東欧やトルコへのEC(=現在のEU)拡大。これらが実現できれば、欧州は二一世紀米国をしのぐ大国になれるだろう」。かつてのように欧州の一国だけで覇権をとることは、不可能。しかし、西欧と東欧が一体化し「一つの国」になれば、「米国から覇権を奪える」というのだ。
● イラク戦争を巡って米欧が対立 その後、米国の標的はプーチン・ロシアに
そして実際、欧州は着々と計画を実行していった。1999年1月1日、「ドル基軸通貨体制」を崩壊させる可能性のある通貨「ユーロ」が誕生した。
衝撃は、さらに続く。2000年9月24日、イラクのフセイン大統領(当時)は、「石油代金として今後一切ドルは受け取らない」「今後は、ユーロで取引する」と宣言。そして、同年11月、実際に決済通貨をかえてしまった。
フセインをそそのかしたのは、欧州覇権を目指したフランスのシラク大統領(当時)だったといわれている。米国は激怒し、「フセインはアルカイダを支援している」「大量破壊兵器を保有している」などとイチャモンをつけ、イラクを攻撃しようとした(米上院情報特別委員会は06年9月8日、イラク戦争に関する報告書を発表。上記2つの理由は根拠がなかったことを公式に認めた)。
フランスは、志を同じくするドイツ、そしてロシア、中国を巻き込み、国連安保理でイラク戦争に反対する。しかし、米国は、安保理を無視してイラク戦争を開始、フセイン政権を打倒した。
毎日新聞06年4月17日付は、この一連の出来事についてこう報じている(太線筆者)。
<イラクの旧フセイン政権は〇〇年一一月に石油取引をドルからユーロに転換した。
国連の人道支援「石油と食料の交換」計画もユーロで実施された。
米国は〇三年のイラク戦争後、石油取引をドルに戻した経過がある>
イラク戦争を巡る「欧州の乱」をなんとか力技で平定した米国は、次にプーチン・ロシアを標的に選んだ。米ロは03年、「イラク問題」「ユコス問題」「グルジア・バラ革命」、04年「ウクライナ・オレンジ革命」、05年「キルギス・チューリップ革命」などで、ことごとく対立。原油高がつづきイケイケのプーチンは07年6月、「ドル体制をぶち壊して、ルーブルを世界通貨にする! 」と宣言した。
<米露“破顔一笑” 「ルーブルを世界通貨に」プーチン大統領ますます強気
[サンクトペテルブルク=内藤泰朗]ロシアのプーチン大統領は10日、出身地サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムで、同国の通貨ルーブルを世界的な基軸通貨とすることなどを提唱した。>(2007年6月12日産経新聞)
結局、米ロ対立は、「実際の戦争」に発展する。それが、08年8月に起こった「ロシア―グルジア戦争」である(03年の革命で政権についたサアカシビリ・グルジア大統領(当時)は、親米反ロ政治家として知られている。現在は、反ロ国ウクライナの大統領顧問を務める)。
● 沈む米国、浮上する中国 リーマンショックが一大転換期に
幸いこの戦争は長つづきしなかった。翌月、「リーマンショック」から「100年に1度の大不況」が起こったからだ。世界的経済危機で、米国は沈んだ。ロシアでは、「08年で一つの時代が終わり、09年から世界は新しい時代に突入した」といわれる。米国とロシアは和解し「再起動時代」が到来した。
では、09年から世界は、どんな時代に入ったのだろうか? ロシアでは、「米一極時代が終わり、多極時代になった」という。そういう言い方もあるだろうが、世界では別の表現が流行した。そう、「G2時代」、つまり「米中時代」という言葉だ。
中国は、世界的に景気が最悪だった09年、9%を超える成長を果たし、「ひとり勝ち」状態になった。同国のGDPは2010年、日本を越え世界2位に浮上。現在は、すでに10兆ドルを超えたとされている。つまり、中国のGDPは、世界3位日本の2倍になっている(もちろん、統計上のウソを指摘する声もあるが)。
そして、軍事費も米国に次いで2位。世界は、事実として、経済力(=GDP)、軍事費世界1の米国と2位の中国を軸に回っている。しかも、「衰退する米国」「浮上する中国」というトレンドがはっきり見える。残念ながら、これは厳然たる事実なのだ。
● 英国の“裏切り”でシリア戦争を断念 失墜した米国の威信
このように、長期的に衰退の方向がはっきりしている米国。悪いことに、オバマ政権は、没落をますます加速させるような言動を繰り返している。たとえば、米国のバイデン副大統領は2013年8月27日、「シリアを攻撃する」と宣言した。理由は、シリアの独裁者アサドが、反アサド派に対し「化学兵器を使用したから」。
ところが、この根拠、イラク戦争時と同様「ウソ」だった可能性がある。こちらの記事を熟読していただきたい(太線筆者)。
<シリア反体制派がサリン使用か、国連調査官
AFP=時事2013年5月6日配信
【AFP=時事】シリア問題に関する国連調査委員会のカーラ・デルポンテ調査官は5日夜、シリアの反体制派が致死性の神経ガス「サリン」を使った可能性があると述べた。
スイスのラジオ番組のインタビューでデルポンテ氏は、「われわれが収集した証言によると、反体制派が化学兵器を、サリンガスを使用した」とし、「新たな目撃証言を通じて調査をさらに掘り下げ、検証し、確証を得る必要があるが、これまでに確立されたところによれば、サリンガスを使っているのは反体制派だ」と述べた。>
国連の調査によると、化学兵器を使ったのは、なんと「反アサド派」だというのだ。もちろん、アサドが化学兵器を使った可能性が全くないとはいえない。しかし米国は、この国連報告を完全に無視し、「アサド派だけが化学兵器を使った」と世界的プロパガンダを展開した。
プーチンは、米国が「戦争宣言」をするずっと前から、「化学兵器を使ったのはアサドではなく、『反アサド派』のほうだ」とあちこちで語り、国際世論に影響を与えてきた。そのせいか、バイデンが「シリア攻撃宣言」をしたわずか2日後の8月29日、英国は「シリア攻撃断念」の決定を下す。
常に米国の戦争につき合ってきた英国の「裏切り」。世界では、「米英の『特別な関係』の終わりか? 」と騒がれた。「誰も一緒に戦ってくれない」ことを悟ったオバマは同年9月10日、シリア攻撃を止める決定を下した。
● ウクライナ問題でも、米欧に亀裂 欧州の本音は「米国にはつき合いきれない」
シリア問題でバラバラになった米国と欧州は2014年3月、ロシアの「クリミア併合」によって、再度一体化する。米国は、欧州と日本を巻き込み、「対ロシア制裁」を強化しつづけている。一方で中国はロシア側についたので、世界の対立構造は「欧米日 対 中ロ」になった。
ところが、強固にみえる米国と欧州の結束に、ほころびが見えている。
政府軍と「親ロシア派」の内戦状態にあるウクライナ。昨年9月の停戦が(予想通り)破られた後、今年2月11日に、二度目の停戦合意が実現した。これを仲介したのが、ロシア、ドイツ、フランスである。なぜドイツとフランスは、ウクライナの停戦を望んだのか?
答えは、米国が「ウクライナに殺傷能力のある武器を提供する」方針を示したこと。米国が最新の武器を提供すれば、ウクライナ軍は強くなるだろう。すると、ロシアはバランスをとるために親ロシア派に武器を渡し、戦いはどんどんエスカレートしていく。そして最終的に、ロシアと欧米NATO軍の戦争に発展しかねない。
しかし、戦場になるのは米国ではなく欧州である。それで、いままでオバマに従ってきたドイツとフランスは、慌てて和平に動いたのだ。「停戦合意」直前の2月9日、メルケル首相はワシントンでオバマと会談している。ここでも、「好戦的な米国」「停戦を求めるドイツ」という考えの違いが明らかになった。
<ウクライナ>政府軍に武器供与検討 米大統領、独首相に?毎日新聞 2月10日(火)11時37分配信? 【ワシントン和田浩明】オバマ米大統領は9日、ホワイトハウスでドイツのメルケル首相と会談した後に共同記者会見し、ウクライナ東部で支配地域を広げる親ロシア派武装勢力に対する政府軍の防衛力強化を支援するため、殺傷能力のある武器の供与を検討中だと明言した。
このように、欧州では、「米国に従っていると、また欧州が戦場になりかねない」「つきあってられない」というムードがひろがりつつある。
● 英国は米国の要請を一蹴 「AIIB」に走った欧州の思惑は?
ここまで、米国衰退の長期的流れと、それを加速させるオバマ政権の失策について見てきた。その結果が今回の「AIIB事件」である。
AIIBは、習近平が2013年10月に設立を提唱した。表向きの目的は、「アジアのインフラを整備すること」である。アジア、中央アジア、中東など、すでに31ヵ国が参加を表明している。インド、ベトナム、フィリピンなど、中国と領土問題を抱える国々も参加していることに注目する必要がある。
しかし、一番の問題は、「親米」であるはずの欧州諸国の動きだ。既述のように、既に英国、ドイツ、フランス、イタリア、スイス、ルクセンブルグが参加を表明している。しかも、「米国の制止を無視して」だ。
ロイター3月24日付に、「AIIB問題で欧米に亀裂、中国「小切手外交」の勝利か」という非常に興味深い記事がある。
少し抜粋してみよう。
<いち早く参加を表明した英国のオズボーン財務相は議会で行った演説で、AIIBが英国にもたらす事業機会を強調した。「われわれは、西側の主要国として初めてAIIBの創設メンバーに加わることを決定した。新たな国際機関の創設の場に存在すべきだと考えたからだ」と述べた。この演説の前には、ルー米財務長官が電話で参加を控えるようオズボーン財務相に求めていた。>
米国のルー財務長官の要請を、英国が「一蹴した」ことがはっきり書かれている。つまり欧州諸国は、中国の影響力拡大を阻止したい米国よりも、アジアへのインフラ投資による「儲け」を重視した。米国のパワーが衰えを象徴するできごとである。
<中国国営の新華社は論評で「ドイツ、フランス、イタリア、そして主要7ヵ国(G7)のメンバーで米国の長年の同盟国でもある英国の加盟は、米国が掲げる『反AIIB』の動きに決定的な亀裂を生じさせた」とし、「負け惜しみは米国を孤立させ、偽善的にみせる」と批判した。>(同上)
ここまでで、「米国の衰退は長期的トレンド」であること、そして「オバマ政権の失策が没落を加速させていること」をご理解いただけただろう。
世界における「パワーシフト」は確実に起こっている(一方で、中国経済の成長率は年々鈍化し、外資が逃げ出しているという現実も確かにある。実際、この国の経済的繁栄は「終焉間近」という意見が多い)。
そして問題なのは、すでに十分強力なこの大国が、「きわめて反日的である」という事実なのだ。日本は、「米国の衰退」と「中国の浮上」という現実をしっかり認識し、行くべき道を慎重に見極める必要がある。
北野幸伯
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