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「上野泰也のエコノミック・ソナー」
貯まりに貯まった「タンス預金」36兆円は、一体どうなるのか?
2015年3月31日(火) 上野 泰也
振り込め詐欺に関するテレビのニュースを見ていて気付いたのだが、銀行などに資金を預けず、百万円単位の多額の現金を高齢者が自宅に保有しているケースが少なくないようである。そうした「タンス預金」を狙って、あの手この手で高齢者をだまそうとする悪者の存在が社会問題になっている。
日本は現金選好が強い国だと、昔から言われてきた。その上、超低金利が長期化して預金に利息がほとんどつかないとなると、わざわざ銀行などに出向いて出し入れする手間やコストを惜しんで、自宅に現金をそのまま置いておくケースが増えやすくなる。
タンス預金が振り込め詐欺に狙われやすい高齢者
また、株式などの金融資産や土地の取引が活発化する中で、銀行振り込みを用いず、あえて多額の現金のやり取りを行うケースが、1980年代後半のバブル経済の時期だけでなく、最近もある程度は出てきているとみられる。
では、そうした「タンス預金」はいったいどの程度の規模まで膨らんでいるのだろうか。正確な統計はどこにもないので、一定の仮定を置いて試算してみた。
まず、「タンス預金」は日本で最も高額の紙幣である1万円札で保管されているという前提を置いた。一方、千円札の伸び率は個人消費を中心とする実需に素直に連動しているとみなした。そして、両者の伸び率格差(1万円札−千円札)がプラスの時に、「タンス預金」が伸びていると考えることにした<図1>。すると、「タンス預金」が伸びた局面が3つ見出される<図2>。
■図1: 1万円札と千円札の流通高 前年同月比伸び率格差(1万円札−千円札)
(出所)日銀資料より筆者作成
■図2: 「タンス預金」とみられる1万円札流通高の増減(暦年ベース)<試算>
(出所)日銀資料より筆者作成
なお、5千円札については、両者の中間で性格が中途半端であり、流通額が相対的に少ないことに加え、2014年には識別マークの改良が行われる中で流通高が一時的にきわめて高い伸びを示すというイレギュラーな動きがあったことも勘案し、考察対象から外している。
<第1期(1985年〜90年)> 「タンス預金」約6.4兆円
日本がバブル経済に突入するより前の1984年には、1万円札と千円札の流通高の伸びはほとんど変わらなかった(年平均で前者が前年比+4.5%、後者が同+4.2%)。しかし、プラザ合意があった翌85年から、1万円札の伸びの方が目立って高くなる。こうした状態が90年の前半頃まで続いた。そして、土地を含めてバブルが完全に崩壊した91年に、両者の伸び率格差はマイナスに転じた。
<第2期(1993年〜2003年)> 「タンス預金」約24.5兆円
1993年、主役は「金融システム不安」にバトンタッチした。銀行などが多額の不良債権を抱えていることへの不安心理が預金者の間で徐々に高まる中で、金融緩和強化という政策対応がとられたこともあり、「タンス預金」は格段に増えやすくなった。
1万円札と千円札の流通高の前年同月比伸び率格差はプラス幅を拡大し続け、「タンス預金」は毎年、兆円単位で増加した。2001年3月に日銀が量的緩和政策を導入。そして4月からペイオフが部分解禁された02年には、銀行預金から現金を引き出して預け替えようとする動きやそのまま現金で持っておこうとする動きが活発になり、1万円札(年平均)の伸び率は前年比+13.1%に達し、千円札のそれ(同+3.2%)との伸び率格差は実に9.9%ポイントに拡大した。
2001年にタンス預金が5兆円超増加
この年は「タンス預金」が5兆円超の増加になったと試算される。その後、政府が公的資金投入を含めて不良債権問題への対応を強化したことで、不安心理は徐々に沈静化した。2003年までで「タンス預金」の増加は止まり、04年には1万円札と千円札の流通高の前年同月比伸び率格差はマイナスになった。
<第3期(2011年〜)> 「タンス預金」(2014年までで)約4.8兆円
その後しばらくは大きな動きがなかったが、2011年から「タンス預金」がまた増え始め、13年と14年には積み上がりがかなり活発化したように見受けられる。
電子マネーなど現金以外の決済手段普及によって千円札の伸び率が鈍くなったというテクニカルな要因が「タンス預金」の増加に計算上結びついたと疑われる部分はあるものの、それだけではあるまい。「アベノミクス」が展開される中で、金利が長期ゾーンも含めて一段と低くなったこと、株式取引が久しぶりに活発化していることの2点が、「タンス預金」の増加に寄与していると考えられる。
1万円札と千円札の流通高(年平均)の前年比伸び率格差をもとに筆者が試算した、84年から14年まで31年間の「タンス預金」増減の累計額は36.0兆円である。
この巨額の「タンス預金」はいったい、この先どこへ向かうのだろうか。
超低金利時代が終わるメドがまったく立たないことに鑑みると、銀行などの預貯金に還流するとは考え難い。かといって将来への不安感がいっこうに薄れない中では、個人消費や株式など金融資産への投資に積極的に回されるとも考え難い。
結局、「タンス預金」の多くはそのままの状態に置かれ、当面は残高がじわじわ増え続けるだろうと筆者はみている。
このコラムについて
上野泰也のエコノミック・ソナー
景気の流れが今後、どう変わっていくのか?先行きを占うのはなかなか難しい。だが、予兆はどこかに必ず現れてくるもの。その小さな変化を見逃さず、確かな情報をキャッチし、いかに分析して将来に備えるか?著名エコノミストの上野泰也氏が独自の視点と勘所を披露しながら、経済の行く末を読み解いていく。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20150327/279230/?ST=top
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