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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第119回 所得創出への道
http://wjn.jp/article/detail/2269744/
週刊実話 2015年4月9日 特大号
日経平均が、本稿執筆時点で1万9000円を突破している。
現在の政策を継続する限り、あるいは外国において○○ショック(例:ギリシャショックなど)が発生し、急速な円高にならない限り、日経平均が2万円を超える可能性は高いだろう。
何しろ、黒田(東彦)日銀が量的緩和政策を継続し、為替レートを円安に維持している。日本の証券市場は取引の65%が外国人投資家であるため、円安になると日本株が「外資」にとってお買い得という話になり、日経平均は上昇する。
加えて、現在の日経平均は“五頭のクジラ”によって買い支えられているのだ。クジラとは何のことかと言えば、日本株に巨額の「買い」を入れてくる日本の公的な機関投資家たちである。具体的には、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)、共済、かんぽ生命、ゆうちょ銀行、そして「日本銀行」の五頭になる。
要するに、公的マネーが株式市場につぎ込まれ、現在の株高が演出されているという話なのだ。
UBS証券によると、五頭のクジラの買い余力は、以下の通りとなっている。
●GPIF 7.1兆円
●共済 3.4兆円
●かんぽ生命 3.4兆円
●ゆうちょ銀行 10.3兆円
●日本銀行 3兆円
ちなみに、日本銀行の「株式購入」は、個別の株銘柄を買っているわけではない。上場投資信託(ETF)を買っているわけである。
さて、外国人投資家や五頭のクジラが主導しているとはいえ、現実に日経平均は15年ぶりの水準を回復しているのは確かだ。
それにもかかわらず、2014年(暦年)の国内総生産(GDP)はマイナスに終わり、さらに我々国民の実質賃金が、相変わらず対前年比マイナスで推移しているのはなぜなのだろうか。
簡単だ。所得(マクロ的にはGDP、ミクロ的には実質賃金など)とは、国民が生産者として働き、生産したモノやサービスが購入されなければ創出されないためである。
株式とは企業の「資本」であり、モノでもサービスでもない。株式の値段がどれだけ高騰しても、証券会社が提供する「株式売買サービス」などを例外に、国民の所得は生まれない。
また、インフレ率とは前述した「モノ」「サービス」の価格の変動率を意味する。
株式はモノでもサービスでもないため、どれだけ株式市場が活況を呈しても、インフレ率には直接的には何の影響も与えない。
3月17日、日本銀行の黒田総裁が、金融政策決定会合で記者会見した。
同会見で、黒田総裁は「物価マイナスに転じる可能性を排除できない」と、インフレ率の指標であるコアCPI(生鮮食品を除く消費者物価指数)が今年、マイナスに陥る可能性を示唆した。
日本銀行は、実は黒田日銀発足前から量的緩和により、マネタリーベース(日本銀行が発行した現金、日銀当座預金の合計)を増やしている。
日銀が銀行から国債を買い取り、マネタリーベースは2011年1月の約100兆円から、'15年1月には279兆円にまで拡大した。
中央銀行が4年間で170兆円超のおカネを発行しても、コアCPIは、消費税増税分(2%)を除くと、'15年1月の数値で対前年比0.2%増に過ぎない。
なぜ、日本銀行が200兆円近い巨額の「日本円」を発行したというのに、インフレ率は低迷し、我々の所得が増えないのか。
理由は、日銀の金融政策、あるいは「政府のデフレ対策」と表現した方がいいのだが、「所得創出への道」が不明確であるためだ。
現在の日本の経済政策(デフレ対策)は、大きく二つの問題を抱えている。
一つ目は、「物価」の定義にある。
本連載でも繰り返しているが、そもそも日本銀行のインフレ目標が、コアCPIで設定されていることが変なのだ。日本のインフレ率は、エネルギー価格を含む「生鮮食品を除く消費者物価指数」で測られているのである。
何が悲しくて、エネルギー自給率6%の日本が、インフレ率に外国から輸入する原油価格を含めなければならないのだろうか。日本のインフレ率は、コアCPIではなく、エネルギーを除いた「コアコアCPI」で見るべきなのだ。
二つ目は、量的緩和はいいとして、
「そこから所得創出(=GDP拡大)が導かれるルートが不明確」
という点である。
日本銀行が国債を買いとり、日本円を発行する量的緩和を実施した時点では、別に誰の所得も生まれておらず、物価にも何の影響も与えない。
先述の通り、所得とは、
「国民が生産者として働き、モノやサービスという付加価値を生産し、消費や投資として支出されて初めて創出される」
わけである。
量的緩和により株価がどれだけ上がろうと、外貨がどれだけ買い込まれようとも、物価には直接的に何の影響も与えない。もちろん、所得も生まれない。
無論、量的緩和により円安になり、株価が上昇すると、
「株価が上昇し、キャピタルゲイン(=債権や株式等資産の価格の上昇による利益のこと、もしくは含み益)を得た国民が消費を増やせば、所得が創出される」
という資産効果や、
「将来、インフレになると予想すると、国民は消費を増やす」
という“理屈”は理解できる。
とはいえ、資産効果がいくらなのか、あるいはインフレ予想が消費を何パーセント増やすのか、はこの世の誰にもわからない。資産効果や期待インフレ理論は、事前に「計測不能」なのである。
それに対し、財政出動は計測可能だ。たとえば政府が公的固定資本形成(公共投資から用地費等を除いたもの)を追加的に10兆円増やせば、国民の所得が直接的に拡大し、日本のGDPは「確実に2%以上」成長することになる。
ここに、乗数効果が加わるため、実際の成長率はさらに高まる。
この「当たり前のこと」を政治家や官僚が理解してないか、もしくは理解していないふりをしているからこそ、日本国民は「株価上昇と所得縮小」という奇妙な事態から抜けられないでいるのである。
ならば、国民が理解するしかあるまい。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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