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英国と欧州主要国のAIIB参加には、したたかな外交戦略がある Photo:Gang-Fotolia.com
AIIBで英国が中国に寝返り 米国陣営総崩れの衝撃
http://diamond.jp/articles/-/69199
2015年3月30日 真壁昭夫 [信州大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■関ヶ原の敗走を思わせる米国陣営の総崩れ
3月12日、英国は、中国主導で設立する国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加することを表明した。米国が同盟国として最も信頼する英国が、経済的な実利を狙ってAIIBに加わる意味は大きい。
それをきっかけに、ドイツ、フランス、イタリアなどが雪崩を打ってAIIB陣営に加わることになった。これによって、中国の政治・経済的なプレゼンスは一段と高まる。今までの米国一極体制が脆くも崩れ始めているようだ。
2013年、中国は、世界の金融市場における米国の牙城を崩すべくAIIB設立を表明した。それに対して米国は、主要同盟国に対し中国の計画に賛同しないよう呼びかけた。その呼びかけは奏功し、つい最近まで主要同盟国は米国の主張を受け入れるとみられてきた。
ところが、中国経済の成長は予想以上のペースで進み、世界経済の中で同国の実力は大きく躍進した。欧米諸国の中にも、積極的に中国からの投資を誘致したり、13億人を抱える中国市場に積極的に参入したりする動きが目立ち始めている。
そうした中国にすり寄るスタンスが決定的になったのが、今回の英国のAIIB参加表明だった。米国は、英国の行動に強い不快感を示し明確に批判した。
英国の実利を追求する行動は、米国サイドから見ると、あたかも関ヶ原の戦いで西軍の小早川秀秋が徳川方に寝返ったことのように感じるかもしれない。主要同盟国が先を争って中国陣営に走り、AIIB創設に関して米国陣営は一気に総崩れの様相となった。関ヶ原の戦いで西軍が敗走する姿に似ている。
■米国中心の金融システムを切り崩すことを目論む中国
2013年、中国がAIIB創設を提唱した背景には、既に“世界の工場”の地位を確立した中国が、金融分野でも覇権国である米国に対する明確な対立軸をつくることにあった。つまり、中国が金融分野でも米国に挑戦する姿勢を示したのである。
元々、アジア地域のインフラ投資に関する金融機能は、1966年に米国とわが国が中心になって立ち上げたアジア開発銀行(ADB)が果たしていた。
それにも拘らず、あえて中国がAIIB創設を目論んだのは、基軸通貨であるドルを土台にして、米国主導のADBや国際通貨基金(IMF)、さらには世界銀行(WB)が発言力を持つ世界の金融体制を崩し、中国主導のシステムをつくり出す考えがあったからだ。
そうした中国の思惑は、ある意味では当然だったかもしれない。中国は多くの人口を抱え、国内の豊富で安価な労働力、海外からの投資や技術移転などもあり高成長を遂げ、“世界の工場”の地位をわが国から奪取することに成功した。
また、高い伸びの軍事費を注ぎ込み、安全保障の分野においても米国を脅かす存在にのし上がった。特に、近隣のアジア諸国とは領土をめぐる紛争を抱えるものの、覇権国である米国も、対中国で容易に強硬な姿勢を示すことが困難になっている。
そうした状況を考えると、中国が次のターゲットにするのは、米国が圧倒的なプレゼンスを示す金融の分野になることは理解できる。中国としては、徐々に自国通貨である人民元の規制を外し国際通貨に育成する一方、米国主導の国際金融のシステムを切り崩すことを想定している。
AIIBのように途上国のインフラ投資案件に融資する仕組みをつくることは、国内の供給能力が過剰な状況にある中国にとって大きなメリットがある。AIIBが融資を行い、それに基づいて中国企業中心に、インフラ作りのためにセメントや鉄鋼などの輸出を振興できるからだ。
■経済的な実利を取った欧州主要国 大きくそがれた米国陣営の勢力
足元の世界経済の状況を見ると、全体として供給能力が需要を上回っている。その証拠に、わが国や欧州、さらには米国や中国でもデフレ懸念に悩まされる状況にある。つい最近までインフレに苦しんでいた中国でも、卸売物価指数が前年対比で4%を超えるマイナスになっている。
その結果、主要国は自国の過剰供給能力を満たすため、金融緩和策を取り自国通貨を弱含みにすることで輸出を振興する積極策を取っている。特に、世界経済の成長力の中心と言われる、アジア地域の発電所や鉄道などのインフラ需要の高まりを掴むことは喫緊の課題となっている。
中国自身、つい最近までインフラ投資に関する海外からの輸入がかなり伸びていた。しかし、中国経済が目覚ましい勢いで成長し生産能力や技術力を高めたため、今後は、中国が他のアジア諸国、さらには次の発展地域を見込まれるアフリカ諸国へと触手を伸ばすことになるだろう。
そうした動きを中国政府がサポートする意味でもAIIBの意味は大きい。そこに、欧州諸国などが、成長が見込めるアジア市場や中国の豊富な資金などを狙ってAIIBに参加する。
米国の主要な同盟国である英国やドイツ、フランス、イタリアなどが、安全保障上の要素よりも経済的な実利を目指してAIIBに加わる。今後、さらに追随国が出るものと見られ、米国陣営の勢力は大きくそがれた格好だ。
したたかな外交力を持つ欧州主要国がAIIBに加わったからと言って、すぐに中国の軍門に下るとの理解は適切ではないが、一連の動向によって、米国の威信に傷がついたことは間違いない。
■対立軸ができるのは歴史の必然 問題は、中国のスタンス
予想外にAIIB参加国が増えたことで、すぐにIMFやWBを中心とした金融の体制が崩れるとは考え難い。しかし、中国が豊富な資金力を駆使して、アジアやアフリカ諸国のインフラ投資案件を精力的に扱うことになると、金融システム内の勢力に変化が起きることは避けられない。
今後、注目されるのは、実際にAIIBがどれ程の融資案件をまとめることができるかだ。AIIBは、基本的に出資比率に応じて投票権を持つとみられる。現在の状況では、中国が30%から40%の出資になるだろう。
一方、欧州諸国は10%に満たないプレゼンスに甘んじることになるだろう。AIIBは理事会を常設しないとみられることを考えると、圧倒的に中国の発言力が強力になるはずだ。
そうした状況下、設立に参加するアジア諸国や欧州諸国が、どれだけ実利が取れるかは未知数の部分もある。期待されたほど実利を享受できないと、参加国の関心は次第に薄れることも考えられる。中国の経営能力は注目されるところだ。
一方、中国主導の対米対立軸ができることは、考えようによっては歴史の必然かもしれない。世界の歴史を振り返ると、覇権国として君臨できる期間は限られてきた。米国とて、永久に覇権国として世界の頂点に立つことはできない。
覇権国に対する新しい対立軸ができることによって、歴史が新しいページを開いていく。それは歴史の必然だろう。問題は、中国が近隣諸国などに対して高圧的なスタンスを和らげ、世界の常識に合致するような行動を取ることができるか否かだ。
それができないと、いくら経済的な富を蓄積しようと、中国について行く国は少なくなってしまう。それでは中国が世界の一極を担うことは困難だ。中国は、これからも様々なことを学習する必要があるだろう。
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