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[一目均衡]自社株買いの功罪
編集委員 北沢千秋
「できれば自社株買いはやめてほしい……」。農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)の奥野一成・運用担当執行役員は複雑な表情だ。
話題の主はファナック。株主還元と投資家向け広報に後ろ向きな企業の代名詞といわれてきた同社が、増配か自社株買いを検討すると伝えられ、市場はその「変節」を歓迎した。
「日本のバークシャー・ハザウェイ」を目指して農林中央金庫からスピンオフしたNVICは、運用するファンドでファナック株を長期保有中。それでも株価急騰を喜べないのは、「株主が還元でお金を受け取るよりも、会社に預けていた方が高い利回りを得られる」と考えるからだ。
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上場企業の自社株買いが活発だ。背景には自己資本利益率(ROE)の向上を求める市場の圧力がある。ROEの分母を削る自社株買いは数値改善の即効策。今年は米議決権行使助言会社が打ち出した「過去5年平均のROEが5%を下回る企業は株主総会でトップの選任に反対する」という基準の回避や、JPX日経インデックス400の採用銘柄入りを狙い、「年度末に駆け込みで自社株買いをする企業もある」(大和証券投資戦略部)という。
短期マネーは自社株買いをはやすが、長期投資家の目線は少し冷ややかだ。
まず、株価との見合いの問題がある。企業がバランスシートの左側の現金を使い、右側の純資産を買い戻すのが自社株買い。教科書的には、PBR(株価純資産倍率)が1倍を割っているような株安局面が好機だ。PBRが高いと、将来の利益期待(プレミアム分)を上乗せした値段で純資産を買い戻すことになり、企業価値を毀損しかねない。PBRが4倍超のファナックが自社株買いをするのは合理的とは思えない。
株主が企業に自社株買いを望むのは、経営者不信の表れともいえる。どうせ手元に豊富な現金があっても、成長のために活用できないだろうと考えるからだ。もしも信頼できる経営者が次の成長のため、投資機会を虎視眈々(たんたん)と狙っているなら、長期投資家は安易に自社株買いを求めないはずだ。
NVICの奥野氏は「自社株買いや増配の要求は所詮、限られた利益のパイをどう切り分けるかの議論」と主張する。それよりも望むのはパイの拡大で、持続的にパイを大きくできる企業が投資対象だ。
一例が、やはり長期保有する信越化学工業という。同社の金川千尋会長は「ROEを高めるために最も重要なのは利益の絶対額を増やすこと」が持論。ROEが高くても利益の額が小さければ、成長の原動力となる機動的な大型投資ができないからだ。
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水膨れしたバランスシートのスリム化や成長機会の喪失で、自社株買いをした方がいい上場企業が多いのは事実。だが、「自社株買いなどもってのほか」と、かたくなに拒否する企業ももっと出てきてほしい。
[日経新聞3月24日朝刊P.17]
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