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「2000万人の貧困」
「福祉行政は風俗産業に敗北している」
「元・難民女子高生」が語る支援の不備
2015年3月24日(火) 中川 雅之
日経ビジネス3月23日号の特集に連動した連載の第2弾は、若年女性への支援活動をする一般社団法人「Colabo」代表の仁藤夢乃氏へのインタビューをお送りする。
彼女らが主な支援対象とするのは、大人と子供の狭間にいる高校生世代。それを標的にした性風俗ビジネスなども跋扈する中で、社会は孤立する少女らに何ができるのか。
まずはColaboの活動内容を伺えますか。
(写真:竹井 俊晴、以下同)
仁藤:困窮状態にある10代の女の子を中心に支援活動をしています。中身としては大きく分けて4つあって、1つ目が夜間巡回と相談事業。夜の街を歩いて、ひとりでいる女の子とか、帰れずにいる少女たちと出会うような活動と、全国から寄せられる相談に対応します。
手法は様々で、直接会うこともあれば、LINEや電話を通してということもあります。やっぱり本人たちになじみのあるツールからの連絡は多いですね。去年1年間で90数人から相談があって、そのうちの3割ぐらいが地方の子でした。北は北海道から南は九州まで。週末に講演で全国を回っていますが、その機会を使ってその土地で相談者に会うようにしています。
一緒に食事することが支援に
仁藤:活動の2つ目が、食料面での支援です。これにはとても力を入れていて、一緒にご飯を作って食べたりするような場所や時間を持つんです。本当に貧困状態の子は、今日食べる物がないとか、誰かと食卓を囲んだ経験がないということが多い。ネグレクト(育児放棄)とか虐待を受けているケースも珍しくありません。
そういう子と一緒に食事をすることは、空腹を満たすだけでなく関係性の構築になります。信頼ができ、相談から支援につながりやすくなります。みんな、相談することにハードルを感じていますから、「ご飯食べに来なよ」と気軽に誘うわけですね。
3つ目が、「ユーススタッフによる活動」と呼んでいるんですが、うちが支援している当事者の女の子同士がつながって、何かイベントを企画したり、大人に向けてメッセージを発信したりするような活動を促しています。本人たちがそこで自分のことを話したりすることで、前向きになってもらえるんです。
例えば17歳で売春をやめた子が、15歳でまだ売春宿に囲われているような女の子に対して、いろんな話をしてくれたりとかするようなこともあります。自助グループを形成している、という感じでしょうか。
4つ目が啓発活動ですね。講演とか、大人向けの夜の街歩きスタディとか。街歩きでは、女の子たちがどういうところでどんな危険に遭っているのか、具体的にそれを見るようなツアーをやります。中学や高校でもよく話をします。
相談の85%ぐらいが、売春とかのJK(女子高生)ビジネス、性被害、性暴力に遭った経験のある女の子たちからのものです。
声を掛けてくるのは買春者ばかり
仁藤さんご自身も過去に渋谷で路上生活をしたご経験があるそうですね。
仁藤:高校時代、約10年前になりますけど、渋谷をさまよう生活をしていました。親が鬱になって家庭が崩壊して、両親は「離婚するけどどっち選ぶ」とかそんな状況になって。家に居場所がなくなったんです。
虐待と言っていいようなこともあって、家が安心して眠れる場所ではなくなったんですね。それで渋谷の街に出て、月の25日ぐらいを過ごすようになりました。漫画喫茶に行ったり、カラオケで朝まで過ごしたり、マクドナルドで朝まで過ごしたりということが多かったんですが、お金がない日には、ビルの屋上で段ボール敷いて寝た日もあります。
そういう生活していると、2種類の大人が声をかけてきます。1つが買春者。もう1つは、危険な仕事、夜の仕事にあっせんするようなスカウト。それしかいなかった。ほかの大人からは冷ややかな目で見られているような気がしてましたね。
私に限らず、そうした子はみんな、子供だけではどうにもならない問題を抱えています。だけど、そこに声をかけてくれる支援側の大人はいないんです。
私はその後、高校卒業程度認定試験を受けるため予備校に入りました。そこでつき合ってくれる大人との出会いがあって前向きになれたんですけれども、周囲の友達は、危険な仕事にだまされて入って、人身取引のような被害に遭ったりとか、妊娠したり、中絶したり、摂食障害になったりしています。自殺した友達も10代のうちだけで3人いました。
でも、そういう子たちの存在は社会から「ないもの」とされてしまいます。そういう子たちが、ほかの選択肢を持って生きられるようにと思って、大学進学してからこういう活動をしています。
以前と今で状況は深刻化しているのでしょうか。
仁藤:今は、そういう子が行くところが本当にないんです。私の頃だったら、まだ漫画喫茶に入れたり、居酒屋にも入ろうと思えば入れた。だけど今は年齢確認などの規制が厳しくて、入れるところ、たむろできる場所がほとんどなくなりました。
渋谷なんか、夜いたらすぐ補導されますからね。
見えにくくなった売春
はた目には、そういう子がいなくなって良くなったように見えますけど、別にその子たちの問題が解決するわけじゃありません。だから女の子はスマホで泊めてくれる人を探します。どんどん大人の目につきにくくなっているんです。
今、みんなアプリで出会うんですね。誰と連絡しているか、周りの人に全く気づかれずに泊まるところを探せる。逆に彼女たちを狙う大人側も、人目につかずに直接個人にアプローチできるようになっちゃったんですね。昔は街で声をかけるしかなかったのが、何々高校とか調べるだけで、無数に出てくる。1人につながれば、周りにいる女子高生もすぐ見つけられます。一般の大人と少女が極めて容易に連絡が取れてしまう。
警察などの対策はどうなんでしょうか
仁藤:警察とか行政は、昔から女の子を補導するというやり方で何とかしようとしています。ネットの状態は認識していて、ウェブ上でのおとり捜査や、「サイバー補導」とかもやっています。実際、私がかかわっている子でも毎月何件か、そうした形で補導されています。
これは一定の効果はあるんですよ。でも問題なのは、補導した後にサポートにつなぐとか、そういう視点が欠けているんです。見つけた女の子にただ注意して、親と学校に連絡して終わりです。親からの虐待を背景に売春している子などは本当に多い。それに対して「親にばらす」という行為は、解決にならないどころか事態を悪化させることにしかならない。
捕まる少女、捕まらない大人
一方で「買う側」の男性については、JKビジネスなんかでも、ホテルのレシートがあって、さらにLINEのやりとりで、「幾らでお願い」とか「きょうはありがとう」とか、そんな決定的な証拠が出てこない限り、捕まることはほぼありません。
例えば女の子に、「僕とホテル行かない?」と持ちかけている大人は、ネット上にはごまんといます。けど、それは取り締まられずに、それに答えたりする女の子は「補導」の対象になる。
補導は少年法に基づいています。子供を守るための措置ですから、子供にしか適用されません。だから、悪いことが起きる前の措置は、子供を対象にしかできないんです。
でも本当は、そういうことを持ちかけている大人たちこそ取り締まらなければいけない。子供たちはそれで学校と家に連絡が行くわけですから、大人側でも親と職場と家族とかに連絡がいくようになるだけで、ずいぶん違うはずなのですが。
ニュースになるのは大人の逮捕なのでイメージはないかもしれませんが、実際は大人はほとんどのケースで捕まりません。例えばそういう女の子の携帯には、300人くらい買春者のアドレスの連絡先が入っているのが普通です。でもそれは捜査の対象にすらならない。証拠が不十分なケースがほとんどですから、その労力を割くことが難しいということでしょうね。
買春者が少女の"理解者"に
大人が野放図にされてしまう現状があるということですね。
仁藤:情報のギャップもあります。女の子たちは、自分がやっていることのリスクとかについてほとんど知りません。言葉巧みに近づいてくる買春者の言葉を信じて「いい人」と思ってしまう。
売春というと数万円とかの値段を想像されるかもしれませんが、5000円、下手をすれば200円とか700円でやっている子もいます。知的障害がある子とか、あと誰かとゆっくりご飯食べるだけでも喜びに感じる子もいますから、そういうのに付け込んでとか。
「そんなおっさん、あなたの体目的で優しいこと言っているだけだよ」と私が言っても、「やだ、そんなことないよ。分かってくれるんだよ。あの人はこれが犯罪だなんて絶対分かってないよ」とかって結構言われますしね。
要するにそういう子たちが、「自分の理解者」だと思えるのは唯一買春者ということです。だから、基本的にその子たちは支援する人たちと結びつかないですね。
「助けて」と言うのは難しい
行政は「助けて」と自分から言える人については助けられても、自分から助けを求められない人について無力だという批判があります。
仁藤:虐待を受けた子などは、自分がそもそも支援を受けられる存在だと思えていません。「助けて」と言うことがすごく悪いことなんだって教えられていたりとか、人に頼らずに自分で稼いで生きていかないといけないと思っていたりします。社会の「自己責任論」のど真ん中で生きてきてしまった人は、「自分が悪いから、助けなんて求めない」となってしまいます。
支援を必要とする子が、行政などの窓口に来ないのは当たり前だと思うんですよ。福祉や支援が行き届かないというのは、支援のあり方が機能してないだけの話だと私は思います。居場所が必要とか、どんな支援が必要かとかいう議論はしても、その「中身」を子供たちにどうやって届かせるかという部分が全然間に合ってないなと思います。
「その子たち」には、出ていかなければ会えません。児童相談所でも、警察でも「私はこういう被害に遭っていて、助けてください」と、被害の状況と「助けて」ということをはっきり自分の言葉で言えなければ、そもそも対応してもらえない。ですが、支援が必要な人ほど、1人でそれをするのは難しい。だから本来はそういう子たちに寄り添うというか、近づいていくことが必要なんです。
熟練スカウトのスキル
だけど現実は、それをしているのは行政や親などではなく、買春者らだと。
仁藤:はい。新宿でも渋谷でも毎晩100人ずつぐらいスカウトの人が立って客引きをしています。その人たちは毎晩やっているので「どの子なら引っかけられるか」を見極める目が肥えている。さらに、こういう子にはこう声を掛けた方がいいということも分かる。なにせ毎日、何年もやっているわけですから。
ただ街で声かけるだけじゃありません。困っている女の子が集まりやすいスポットをちゃんと知っている。例えばビジュアル系バンドのライブハウスの前とかだと、そういう人に貢いでいる依存傾向の高い子が多いから、そこに行って、「バイト探してない? 危なくないバイトだよ。風俗とかじゃないし」と言うとかね。
若い子に馴染のあるツールの勉強もすごくしています。私でも子供たちに教えてもらうまで知らなかったようなアプリにも、そういう人たちは大勢登録している。出会いアプリとかだったらまだ分かりやすいですけど、ゲームのアプリとか、それのチャット機能とか、そういうところまで丁寧に、丁寧に根を張ってるんです。
スカウトも仕事ですから、自分が連れて行く女の子が店で定着して活躍してくれた方が、覚えが良くなる。だから、その子にはどんな店を紹介したらいいか必死に考えるんです。宿がある店なのか、親が厳しいから7時には帰れる店なのか、ギャル系かおとなし目か、詳しくその子のニーズを聞いて、その子に合った店を紹介するんです。その店でうまくいかなくても、また次も紹介してくれる。
「敗北」を認めて現実的な対策を
同じことを、本当は支援側もしなければいけません。10人でも毎日渋谷や新宿に立ってチラシをまいた方がいいと思います。相談者に一カ所の施設を紹介するだけで、そのあとは知ったこっちゃないという行政の対応はたくさんありますが、変わらなくてはいけない。
4月に施行される「生活困窮者自立支援法」でも伴走型支援というのが言われていますが、それを聞いた時に、これ、スカウトがずっとやってきたことじゃんと思ったくらいです。現状、福祉行政や支援者の活動は、そうした夜の世界の提供するものに負けているんです。福祉とか支援の敗北ですよ。
サイバー犯罪なんかの対策にハッカーを行政が雇っちゃってというケースは聞くようになりましたが、こういうことにも応用できる考え方ではないかとは思います。「負けている」ということを認めることからじゃないと、始められないと思います。
こう言うと反発もあると思いますが、ある意味では、福祉行政などに彼らのやり方を見習って欲しい。女の子に必要な衣食住とか関係性を与えているのが、そういう人たちだという現実があります。
「修学旅行費」と「給食費」のために売春
どんな事情を抱えた少女が多いですか
仁藤:売春をした子に「なぜ始めたのか」と聞くと、よくあるのが「修学旅行費が払えない」とか。何日までにその積立金を払わなきゃいけなくて調べたら、日払いでもらえる高額アルバイトが目に入る。そういう流れですよね。
あとは中学生で「給食費が払えない」というのもあります。結構いるんですよ、中学生で売春やめられないという連絡とか。ある女の子は経済的にも貧しい家庭で、ネグレクトみたいな状態で育てられていて、給食費が払えないから払ってなかったら、クラスのみんなの前で先生に「給食費、親にもらってこいよ」と言われちゃって。
でも彼女は、それを親に言えなかった。親がずっと仕事の愚痴を家で言っていて、もうこれ以上迷惑かけたくないと思ったみたいで。それで「中学生 バイト」を検索する。何が出てくるか、推して知るべしですね。
闇社会からの脅し
ご自身の活動の意義をどうお考えですか。
仁藤:活動をしていると、いろいろな圧力を感じることがあります。
ある時、売春宿に囲われている女の子とやりとりしているのが事業者側にばれて、その女の子の胸に私の名前を切って刻んで、その写真を私に送ってきたことがありました。要するに「関わるな」という脅しです。メッセージが来ることは割としょっちゅう。講演に直接来られたりもします。警察とか福祉関係の人には「絶対1人で講演に行くな」とか言われます。
JKビジネスは、やくざも守りたくてしょうがない業態なんですよね。若い年齢のニーズがあるというだけじゃなくて、彼らからすればそれをステップに従来の風俗産業に人を送り込もうという「育成」になるわけです。女子高生とか女子中学生を囲い込めれば、長く稼げるみたいに思う人からすれば、いかに私が潰したい相手かということです。
なぜそうまでして支援に関わるのですか
仁藤:でも、だって、やらなかったら、もう明らかにバランスが崩れていると思うんですよ。事業者に囲い込まれて「おまえ、ブスだから、顔変えてこい。整形の費用肩がわりしてやるから」と言われて、本当にさせられちゃう子もいる。誰かがやらないと、そんな子がもっと増えてしまう。
私は今、25歳ですけど中学生の子から見たら倍も生きている立派な大人ですよね。そういう現実を知っていて、無視する大人にはなりたくないな、と思っているんです。
日経を読むおじさんに分かって欲しい
実は、それこそ日経新聞を読むようなおじさんにこそわかって欲しいと思っているんです。ほんとに。皆さん、それぞれの世界で立派な方で影響力もあるわけですよね。だからこそ知ってもらいたいと思います。
この間、あるパーティーに呼ばれて出てきたんです。「輝く女性賞」みたいなやつの、若年部門で表彰を受けて。で、そこでいろいろな方にお目にかかったんです。自分の話をすると「若いのにすごい」とか「本当に感動した」とか言われるんですけど、その人たちはエルメスとかのバッグを持って、とてもキラキラしているわけですね。
別にそうするのがいけないというのではなくて、この世界の人たちに、もっと知ってもらいたいなと思ったということなんです。日本にこうした現状が広がっていることを実感している層と、そうでない層がすごく分断されている気がします。それを繋ぐという意味で、日経さんには少し頑張ってもらいたいと思っています(笑)。
今、支援したい女の子たちが駆け込めるシェルターを作りたいと思っています。駆け込めて、お風呂に入れて。買春おじさんについていかなくて済む選択肢を増やしたいんです。
まずゆっくりできる場所がなければ自分に向き合うこともできない。生活の基盤がないわけですから。
このコラムについて
2000万人の貧困
日本を貧困が蝕んでいる。月に10.2万円未満で生活する人は日本に2000万人超と、後期高齢者よりも多い。これ以上見て見ぬふりを続ければ、国力の衰退を招き、ひいてはあなたの生活も脅かされる。
日経ビジネス3月23日号に掲載した特集には収められなかったエピソードやインタビューを通じて、複雑なこの問題を少しでも多面的に理解していただければ幸いだ。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150323/279042/
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