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安倍政権の経済政策では、景気回復を実感している人は依然約2割いるかどうかに過ぎない。それはなぜなのか(写真/アフロ)
安倍政権下で景気回復を実感できない理由 「過去最高水準の賃上げ」に隠れた真実
http://toyokeizai.net/articles/-/64328
2015年03月26日 中原 圭介 :経営コンサルタント、経済アナリスト 東洋経済
読者の皆さんは景気回復を実感しているでしょうか。先日の日本経済新聞では、日経とテレビ東京が実施した世論調査において、景気回復の実感を聞くと、「実感していない」が81%にものぼったとの報道がありました。
一方、「実感している」は13%にとどまったこと、アベノミクスを「評価する」は39%で、「評価しない」の41%と拮抗したことなどを同時に報じています。私もいろいろな場で「アベノミクスの恩恵を受けているのは約2割の人々に過ぎない」と訴えてきましたが、この世論調査でも概ねそれに近い結果が出ています。
■「過去最高水準の賃上げ」の真実
連合の調査では、2014年春の労使交渉において、定期昇給とベアを合わせた賃上げ率は2.07%と、1999年以来の高さとなりました。2015年春の労使交渉においても、主要企業では過去最高水準の賃上げが相次いでいるようです。このままいくと、2014年と同じ水準、あるいはそれ以上の賃上げが達成できることになるでしょう。
こうした報道を見ている人の中には、日本経済に明るさが戻ってきたように感じられる方もいるかもしれません。
ところがこれは、連合に加入する労働者に限った話であり、その割合は日本全体の労働者のわずか12%程度にすぎないのです。つまり、メディアで盛んに取り上げられている「過去最高の賃金上昇」とは、労働組合がない企業の労働者は含まれていないわけで、賃金の大幅上昇はごく一部の大企業だけで達成されていることなのです。
昨年の2014年も「2%の賃金上昇を達成した」という話題が、多くのメディアで取り上げられましたが、実のところ、日本全体では2014年の名目賃金は前年比で0.8%しか上昇していませんでした。そんななかで消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)が3.3%も上がったために、実質賃金は2.5%も下がってしまっていたわけです。
■本来2014年は消費増税に耐えられる環境になかった
2014年の実質賃金の下げ幅はリーマンショックの影響を受けた2009年以来、過去2番目の大きさになっています。ちなみに、2013年の消費者物価指数は前年比で0.5%上昇したのに対し、名目賃金は0.0%とまったく伸びなかったために、その結果として、実質賃金は0.5%下がってしまっています。つまり、とても2014年4の3%の増税に耐えられる環境ではなかったのです。
その一方で、前回の増税前にあたる1996年には、消費者物価指数が前年比で0.0%の伸びにとどまったのに対して、名目賃金は1.1%増えていました。
つまり、2013年とは異なり、実質賃金は1.1%増えていたので、家計は増税前に購買力を蓄えることができていたのです。
だから、1997年の4月の消費増税直後は、経済指標は悪くありませんでした。実際に、1997年4―6月期のGDPは前期比で増加していましたし、株価は経済指標の好調さを予想して5月に高値を付けていたくらいなのです。
その後、7月からのアジア通貨危機や11月からの金融システム危機により、経済指標は急激に悪化していくことになりましたが、少なくとも1997年の増税は、外部的要因がなければ失敗ではなかったわけです。
その時の状況をよく分析もせずに、単純に1997年と2014年の増税を同じケースとして括ってしまうのは、明らかに誤りで稚拙な考えです。
2つのケースではそれぞれ、実質賃金という重要な指標が真逆の方向を示していたのです。そして、そういう誤りをしているからこそ、政治家は政策を見誤り、経済識者は経済見通しを大きく外してしまうわけです。
国民目線で経済を見る場合に、実質賃金はとても重視すべき指標です。
政府の「経済の好循環実現に向けた政労使会議」における内閣府提出資料によると、デフレが本格化した2000年以降の実質賃金の推移は、名目賃金が年平均0.8%減、消費者物価指数が0.3%減とされています。
つまり2000年代に入ってからの日本の実質賃金は年平均で0.5%減少を続けているという計算になります。
ただし、名目賃金の下落のおよそ3分の2がアメリカの住宅バブルの崩壊と、その後のリーマンショックの影響であったことを考えると、実は日本の実質賃金は外部的な要因を除くと、2000年〜2012年のデフレ期でほとんど下落していなかったことがわかります。
そして、4月に発刊になる『格差大国アメリカを追う日本のゆくえ』(朝日新聞出版)でも触れましたが、何よりも危惧すべきは、2012年末以降の第2次安倍政権誕生後の実質賃金の下落率や下落幅が2007〜2009年の一連の金融危機のときに迫る勢いであったということです。
これが安倍政権誕生から2年以上が経った、日本経済の実態なのです。
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