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原油下落で2015年は実質賃金が3%超上昇する
http://diamond.jp/articles/-/69063
2015年3月26日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] ダイヤモンド・オンライン
今年の春闘の賃上げ率は2.5%程度になると予想されている。昨年が2.19%程度であったのと比べると0.3ポイントほど高い。
2014年においては、消費税率の引き上げによって消費者物価が約2ポイント上昇した。また、円安によって消費者物価が上昇した。したがって、それらを差し引くと、実質賃上げ率はゼロないしマイナスだった。
15年には、消費税の影響がない。したがって、仮に物価上昇率がゼロなら、実質賃上げ率は2%以上になるだろう。これは、今後消費を増加させ、経済を好循環に導くだろう。
以下では、この状況をいま少し詳細に見ることとしよう。
■経済全体の賃上げ率は実際は1.1%程度
第1に注意すべきは、経済全体としての賃上げ率は、春闘賃上げ率で言われる数字よりは低くなることだ。
春闘賃上げ率として通常用いられる上記の数字は、厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ集計」にある数字だ。
04年以降の集計対象は、資本金10億円、従業員1000人以上で労働組合がある企業である。これは、大企業であり、賃金レベルも賃上げ率も、経済全体に比べると高い。
実際、毎月勤労統計調査における賃金指数の対前年比と上記集計における賃上げ率を比較してみると、図表1に示すように、かなりの差がある。
春闘賃上げ率と5人以上の事業所の現金給与総額対前年比の乖離は、12年には2.48ポイントもあった。14年においても、1.39ポイントの差がある。
経済全体の賃上げ率は、5人以上の事業所の現金給与総額対前年比によってより適切に表わされると考えられる。
したがって、仮に春闘賃上げ率の差が15年においても1.39ポイントであるとすれば、春闘賃上げ率が2.5%である場合の15年の経済全体の賃上げ率は、1.1%程度になると考えられる。
これまでは名目賃金が
物価上昇に追いつかなかった
次に、実質賃金上昇率について考えよう。
名目賃金上昇率から消費者物価(生鮮食品を除く総合)の上昇率を差し引いたものを実質賃金上昇率と考えよう。
この値は、図表1の下半分に示すとおりである。春闘賃上げ率をとっても賃金指数の対前年比をとっても、2014年の値はマイナスだった。つまり、実質賃金は下落したわけである。賃金指数の実質上昇率は12年からマイナスだったが、14年にはマイナス幅が拡大した。
実質賃金の上昇率は、春闘賃上げ率をとっても賃金指数の対前年比をとっても、円高期のほうがずっと高かったのである。
図表1に見られるように、10年には春闘での実質上げ率は3%に近かった。それが13年には約半分になり、14年にさらに落ち込んだのだ。
以上のことをもう少し詳しく見ると、つぎのとおりだ。
図表2に見るように、名目賃金指数の対前年比は、11、12年頃に比べれば、13年以降高まった。しかし、これは、図表3に見るように、円安の影響で消費者物価指数の対前年比が高まったのを追っただけである。
しかし、名目賃金の引き上げは、物価上昇に追いつかなかった。そのため、図表4に見るように実質賃金が低下したのである。
■今年の消費者物価上昇率はマイナス0.2%程度になる
すでに述べたように、2015年の賃金指数(従業員数5人以上)の対前年比は1.1%程度になるだろう。では、実質はどうなるだろうか?
これを見るには、消費者物価の動向を予測する必要がある。消費者物価指数の対前年増加率はどうなるだろうか?
この連載の第3回で述べたように、日本の消費者物価指数は、輸入物価指数と高い相関を持っている。
http://diamond.jp/articles/-/68237
そこで、輸入価格指数の動きを見ると、図表5に示すとおりだ。
原油価格の下落によって、輸入物価上昇率は14年12月以降大きく低下していることがわかる。14年12月において0.3%となり、15年1月にはマイナス6.7%、2月にはマイナス9.9%となっている。
原油価格の輸入価格指数は、15年2月において、14年9月の66.7%にまで下落している。これ以上さらに下がる可能性もあるが、ここでは、このレベルで以後一定になると仮定しよう。そして、為替レートも現状程度で変わらないとする。
この仮定の下で対前年伸び率を計算すると、図表6に示すようになる。15年6月頃までの輸入物価の対前年伸び率は、マイナス8〜9%程度の値になる。
消費税の影響を除く消費者物価上昇率は現在0.2%程度である。仮に、「輸入物価指数の対前年伸び率の10分の1が6ヵ月後の消費者物価上昇率になる」という連載第3回に述べた経験則が今後も成立するとすれば、消費者物価上昇率は、15年6月頃にゼロになり、15年後半はマイナス0.1%程度になるだろう。
輸入物価指数の上昇率14年7月から15年6月までの平均を見ると、マイナス2.65%だ。したがって、15年を通しての消費者物価の平均上昇率は、マイナス0.2〜0.3%程度になるだろう。
■15年の実質賃金上昇率は3.1%程度で円高期と同程度
先に述べたように、賃金指数の伸び率(5人以上の事業所)は1.1%になるだろう。
消費者物価上昇率がマイナス0.2%だとすれば、実質賃金上昇率は1.3%になる。2014年に比べて3.1ポイントの上昇であり、大きな改善だ。
ただし、中期的に見ると、15年の実質賃金上昇率が格別に高いわけではない。実際、図表1に見られるように、10年の実質賃金上昇率は1.5%だった。
むしろ、最近の値が低かったのである。
春闘賃上げ率で見てもそうである。15年の実質春闘賃上げ率は2.7%となるが、これは、10年の値に及ばない。
つまり、実質で見ると、15年の賃上げが格別大きいものとはいえないのだ。
むしろ、ここ数年の実質賃上げ率が低かったのである。
図表2、3、4に関してすでに述べたように、円安の影響で消費者物価が上昇し、名目賃金の伸びがそれに追いつかなかったために、こうした現象が生じた。
■デフレ脱却で成長率が下がり物価下落して成長率高まる
円安のような外的要因によってインフレ率が高まるとき、名目賃金はそれに追いつかないことがわかったのだ。
今後の見通しとしても、仮に円安がさらに進めば、2015年後半の消費者物価上昇率が再び上昇する可能性がある。そうなれば、実質賃金の伸び率は、先に述べた値よりは低くなるだろう。
そうなる可能性は低いが、仮に日銀が言うように2%の物価上昇が実現したら、名目賃金の伸びが1.1%では、実質賃金の伸びはマイナスになってしまう。
日本銀行は、消費者物価が上昇すれば、人々のデフレマインドが払拭されて経済が活性化するとしている。
しかし、実際には、そうしたことは起こらないのである。実際に生じたのは、これまで示したように、円安によって消費者物価上昇率が上昇し、名目賃金上昇率がそれに追いつかずに実質賃金が下落するということだったのである。
ここでは計数を示さなかったが、それが実質消費減少させ、経済活動を縮小させた。つまり、日銀が言っているのとはまったく逆のことが生じたのだ。
昨年の暮れ以降に生じているのは、原油価格の下落によって、この過程に歯止めがかかり、経済が好循環に向かい出したということである。物価下落によって経済活動が活性化するのだ。
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