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中国主導の国際金融機関設立で、日米が圧倒的敗北か 中国バブルの崩壊リスクも
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20150325-00010000-biz_bj-nb&ref=rank
Business Journal 2015/3/25 06:02 町田徹/経済ジャーナリスト
「米国にとって外交的な大失敗と化しつつある」。
「麻生(財務大臣)が中国主導の国際機関(構想)にジレンマをのぞかせた」
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)はこのところ連日のように、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立構想を推進する中国が、日米両国に対して圧倒的な外交的勝利をおさめたかのような記事を掲載している。
確かにFTが主張するように、米国が長年、国際通貨基金(IMF)・世界銀行体制の改革を店晒し(=たなざらし)にしておきながら、中国がAIIB構想を打ち出した途端、その問題点をあげつらう戦略を採ったのは事実である。インフラの整備に巨額の資金を必要としているアジア・アフリカの途上国や、中国の成長力に魅せられた欧州諸国の事情を無視して、闇雲に米国追従型の対応をみせた日本も思慮が足りなかったかもしれない。
英国が設立メンバーとして参加の方針を表明したのをきっかけに、欧州諸国だけでなく豪州、韓国といったアジア太平洋諸国までもが雪崩を打ったようにAIIBへの加盟に意欲を見せており、政府内部には日本も追随すべきだとの声があがっているという。
しかし、一連の構想には重要な検証が欠けている。それは、AIIBの大口スポンサーになると表明している中国政府の財政力に関する分析だ。中国版バブル崩壊に苦しみ、外資の獲得に躍起となっているはずの同国に、果たしてそのような実力があるのだろうか。
●国際金融機関体制の見直しを怠ってきた日米
まさか母国・英国政府の方針転換にエールを贈る意図があるわけではないだろうが、FTの最近の論調は、米オバマ政権に辛辣だ。3月16日付記事『中国マネーの磁力が米国の同盟国を惹き付ける』では、冒頭で記したように「AIIB構想は、米国にとって外交的な大失敗と化しつつある」とした上で、事の本質はワシントンを拠点として米国人が歴代総裁を務めてきた世界銀行と、その新たなライバルになるAIIBとの「権力闘争」だと切り捨てた。
翌18日付記事『中国への「配慮」は悪いことではないかもしれない』では、米政府高官が英国の中国に対する「配慮」を行き過ぎだと批判したことをやり込めた。FTは、米国がこの「配慮」について、第2次世界大戦前の英仏両国がナチス・ドイツによるチェコスロバキアの一部併合を黙認し、その弱腰が大戦につながったとされる「宥和」策と同様にみなしていると指摘した上で、習近平国家主席が率いる中国は、ヒトラー総統統治下のドイツとは違うと断定。なんら「配慮」をせずに、中国を一方的に封じ込めようとするほうが、中国をナチス化させる端緒になりかねないと主張して、「(AIIBへの)関与を是とする強い根拠がある」と結論付けている。
また、20日付記事『麻生(財務大臣)が中国主導の国際金融機関(構想)にジレンマをのぞかせた』では、麻生大臣の発言の背後に、日本が歴代総裁を輩出してきたアジア開発銀行(ADB)とAIIBが競合するリスクがあると指摘してみせた。
FTの指摘で的を射ているのは、ドルを基軸通貨とした国際通貨制度やIMF、世銀、ADBなどの国際金融機関体制の見直しを、日米が長年にわたって怠ってきたことへの厳しい指摘だろう。これらの制度・体制は、第2次大戦末期に欧州の復興を目的につくられ、70年代初頭には崩壊した「ブレトンウッズ体制」の名残りにすぎない。
●最大の被害者は中国
特に、リーマン・ショック後の日米両国の露骨なサボタージュは目を覆いたくなる。新興国の発言権を拡大するIMF改革案は、2010年のG20財務相・中央銀行総裁会議で合意したものにもかかわらず、今日まで米議会が批准を拒否し続けており、日の目を見ていない。ルー米財務長官は今月18日の議会証言で、改めてIMF改革案を承認するよう求めたものの、共和党議員の中には改革案を疑問視する向きが多く、可決のメドがたたなかった。G20では、当初案を放棄して、米国抜きのIMF改革を模索するしかないと受け止めているという。
IMF改革の遅れの最大の被害者は中国だ。同国はGDPで世界第2位(16%)を誇るにもかかわらず、IMFでの発言権は第6位(4%)しか与えられていない。米議会が承認しようとしない改革案が実現したとしても、新たな発言権は6.4%と第3位(1位:米国17.4%、2位:日本6.5%)にとどまる。しかも、改革が米国抜きとなると、新興国への配分原資が減り、中国の発言権はほとんど増えない可能性が大きい。
状況は、1966年設立のADBも似たり寄ったりだ。日米両国がそれぞれ15.6%で仲良く最大の出資国になっており、中国は第3位(6.4%)に甘んじている。ADBが昨年5月にカザフスタンで開催した年次総会では、17年までに融資枠を現在より2割増の150億ドルにする決定を下したが、その際にあえて増資を避け、低所得国向けの融資の財源だった「アジア開発基金」を資本(新資本金は500億ドル、約6兆円)に組み込む手法を選択した。増資をすれば、中国の出資比率が高まって同国の影響力が拡大するので、日米両国が増資を避けたというのである。
加えて、IMF、世銀、ADBといった国際金融機関のトップポストに中国人が就いた実績はない。基軸通貨がドルである限り、中国企業は為替リスクに悩まされる。この点は日本企業も同じだ。
こうした中で、世界第2の経済大国に成長した中国は、いつまで経っても旧秩序を温存しようとする日米両国に苛立ち、中国を軸にした新しい秩序の構築に野心を燃やしてきた。今回のAIIB構想はその柱で、習近平国家主席自身が13年に対外的に提案したものだった。中国のインフラ輸出を有利にするだけでなく、人民元の基軸通貨化にも効果的とみられている。
●欧州諸国もAIIBに追随
では、途上国や欧州諸国に、AIIBはどう映るのだろうか。日本がかつて世銀の融資を受けて首都高速道路を建設したように、アジア、アフリカの途上国には巨額のインフラ整備資金が必要で、国際金融機関からの借り入れを切望している国が多い。ADBによると、アジア太平洋地域では、今後10年に約8兆ドル(約960兆円)の資金が必要という。深刻な資金不足が予測されていた。
そうした中で、中国は資本金1000億ドル(約12兆円)のAIIBを今年中に設立し、最大でその資本金の半分を出資すると表明した。途上国からみれば、貸し手の国際金融機関が増えることは歓迎すべきことである。
また、欧州諸国では、英財務省が3月12日にAIIBに参加する方針を表明したのを機に、ドイツ、フランス、イタリア、ルクセンブルグ、スイスが雪崩を打って追随した。アジア太平洋地域では、一旦は参加を見合わせた豪州が姿勢を転換して創設メンバーに入る協議に入ったほか、韓国や台湾も参加に意欲をみせているという。これらの国々が狙っているのは、AIIBが融資するインフラのプラントや工事の受注だ。もちろん、大口スポンサーの中国との関係強化に役立つという算盤を弾く国もある。
さすがに、看過できなくなってきたのだろう。自国のAIIB参加には頑なな態度の米政府も、ホワイトハウスのアーネスト大統領報道官が3月17日の記者会見で態度を軟化し、「既存の国際機関を補完することが国際社会に利益をもたらす」とAIIBにIMF、世銀、ADBとの連携を呼びかけた。また、ロイター通信が新華社電の転電として伝えたところによると、IMFのラガルド専務理事は3月22日、AIIBとインフラ融資の分野で「喜んで」協力すると話したという。
前述の麻生発言で明らかなように、日本が中国主導のAIIBに参加する可能性も皆無ではなくなってきた。マイナーな発言権しか得られなくても、AIIBで日本の立場を主張する方策を残すことには意味があるからだ。
ただ、そうなった場合に日本政府は、ブラジルとインドが昨年7月半ばに同じ新興国の中国、ロシア、南アフリカとの間で創設に合意した「新開発銀行」のケースで採った戦略と比べて、自らの戦略性の稚拙さを反省する必要があるだろう。このケースでは、ブラジルとインドがスクラムを組んで、経済力で勝る中国の突出を抑えるため2年にわたる交渉を粘り強く続け、設立メンバーである5カ国が平等に100億ドルずつ出資するという合意にこぎ着けた。今後、新たな参加国を募り、最終的に1000億ドルまで増資するものの、設立メンバーである5カ国の出資比率が55%以下に落ち込まないように増資することにも合意しているという。
日本もAIIB設立問題で、インドをパートナーにして、ブラジルが新開発銀行設立交渉で採ったような戦略を講じていれば、もう少し互角に中国と渡り合えたのではないだろうか。政府、財務省には反省すべき点がありそうだ。
●中国財政の問題
そういった外交戦略の問題とは別に、もうひとつ指摘しなければいけないのが、中国版バブル崩壊に苦しむ中国財政の実力の問題だ。非公式の意見交換だったのでここでは匿名とするが、AIIB問題に関して筆者は先週、2人のエコノミストの意見を聞く機会があった。
そのうちのひとりはジャーナリスト出身で、歴史好きのシニアエコノミストだが、この人物は開口一番に「アジア版、経済版のワルシャワ条約機構にならないか心配だ」と言った。ワルシャワ条約機構というのは、冷戦時代に旧ソビエト社会主義共和国連邦が東欧諸国を巻き込んで結成したものの、1991年に消滅した軍事同盟のことである。旧西ドイツの再軍備や北大西洋条約機構(NATO)加盟に対抗して結成されたものだったが、加盟諸国の経済的崩壊が原因で存続できなかった。つまり、このシニアエコノミストは、ワルシャワ条約に例えることによって、経済的な無理が祟り将来AIIBが崩壊することにならないかとの不安を明かしたのである。
もうひとりのエコノミストは、政府機関の要職を務めたこともある大物だ。この人物は「気持ち悪いですよね」と切り出した。そして、「シャドウバンキング中心に大量に発生した不良債権や、過剰生産力の整理にめどがついたとは考えられない」と、政府を巻き込んで中国を蝕んでいるはずの経済問題を指摘し、国際金融機関の設立を主導するような余力があるのかと疑問を呈したのだった。
2人のエコノミストの懸念は、決して杞憂と言い切れない。というのは、今なお頻繁に尖閣諸島で領海侵犯などを繰り返して緊張関係が続く領土・安全保障分野とは対照的に、経済分野では昨年暮れから中国が雪解けムードづくりに躍起になっているとしか考えられない出来事が相次いでいるからだ。年末・年始に訪中した日本の財界人やビジネスマン、金融マンらを取材すると、「過去数年間、頑なに公式会談に応じなかった首相、副首相クラスが気軽に出てきた」とか、「酒宴で、これまで乾杯を部下任せにしていた大臣クラスが自ら率先して盃を飲み干していた」といった証言が枚挙に暇のないほど聞かれるからだ。
また、自動車や電機などのメーカーの間では「てっきり廃止になったと思っていた共同の技術開発協力プロジェクトが突然復活した」といった話もある。とどのつまり、中国が日本からの資金獲得・技術導入を目指す話ばかりなのだ。
●中国が国をあげて外貨獲得に邁進する背景
もうひとつ、指摘しておきたいのは、世界第2の経済大国になり、巨額の外貨準備を保有するようになったといっても、中国の資本蓄積はまだ底が浅く、外貨準備の多くが海外からの借り入れにすぎない点である。日本のような自己資金で外貨準備を積み上げている国家に比べると、安定感はまだまだなのだ。
ほんの一例だが、AIIBのライバルと目されているADBの国別融資残高をみると、その実態が浮き彫りになる。中国は全体(117億2000ドル)の18.1%を借り入れており、インドに次いで第2位の大口の借り手なのである。片方で大口の借金をしておいて、もう片方でそれを上回る大口のスポンサーになろうとしているのだ。ちょっとした綱渡りの状態といってもよいかもしれない。
冒頭でも指摘したように、リーマン・ショック後、中国は政府主導の大型景気刺激策に打って出て、不動産バブルの崩壊に直面、多くの地方自治体やシャドウ・バンクと呼ばれるノンバンクの経営が危機的状況に陥ったり、日本の7〜8倍の生産設備を構築した鉄鋼業が過剰生産設備を背負い込んで四苦八苦したりしているとされている。
だが、中国からは、その深刻さも、克服策もほとんど満足にディスクローズ(情報開示)されていないのが実情だ。米連邦準備理事会(FRB)が今年秋にも踏み切るとされている利上げが現実になれば、国際的な通貨危機が起きかねない。そうなれば、中国に注ぎ込んでいた資金を回収する向きが続出しても不思議はない。そういった事態に備えて、中国は国をあげて外貨獲得に邁進しており、日本にもラブコールを送っているのではないか。そんな見方が成り立つのが、昨年暮れからの状況なのだ。
AIIBの大口救済先の第1号が出資最大手の中国というような悪夢が、まったく起きるリスクがないと言い切れるのか。経済は規模の大きさだけで安全性が保障されるものでは決してない。一連の問題で後手に回りっ放しだからこそ、日本は今一度、中国の財政事情を徹底的に検証しておく必要があるだろう。
(文=町田徹/経済ジャーナリスト)
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