http://www.asyura2.com/15/hasan94/msg/592.html
Tweet |
米国政府はこれ以上「ドル独歩高」を許さない
http://diamond.jp/articles/-/68805
2015年3月23日 真壁昭夫 [信州大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■“米国一人勝ち”の状況下で続くドル高トレンド
足元の為替市場でドル独歩高の傾向が鮮明になっている。ドル独歩高の主な理由には、世界経済の中で“米国一人勝ち”の状況になっていることがある。
米国景気はしっかりした足取りで回復傾向を辿っており、懸念された労働市場の失業率も5.5%へと順調に下落している。それを反映して、米国の金融当局(FRB)は既に昨年11月に金融緩和策を終了し、今年6月以降、政策金利の引き上げを行うとの見方が有力になっている。
一方、わが国や欧州諸国などの主要先進国、中国を中心とした新興国の経済状況は、依然として低迷が続く。わが国やユーロ圏では量的緩和策が実施されており、潤沢な流動性が供給され続けている。
中国でも昨年から既に2回の金利引き下げが実施されており、今後、景気刺激のためにさらに金利水準が下げられることが予想される。その結果、米国とそれ以外の主要国の経済状況・金融政策のベクトルが反対方向に向かっている。
当面、そうした世界経済の構図は続くだろう。そうなると、実体経済や通貨間の金利差を考えても、ドルが強含みの展開になることは自然の動きと言える。基本的に、ドル高トレンドはこれからも続くはずだ。
しかし、ドル独歩高にも問題がある。海外展開が進んでいる米国企業にとって、自国通貨であるドルが強くなり過ぎるのは収益にも大きなマイナス要因となることだ。重要なポイントは、米国政府がドル高のマイナス面をどこまで容認するかだ。
■ドル高容認と言いつつも本音は企業にとって適度なドル安
米国の一人勝ちである世界経済のファンダメンタルズを考えると、為替市場でドルが買われやすいのは当然だ。米国とそれ以外の諸国の金利差を見ても、金利上昇余地があるドルに投資家の買いが集まりやすいからだ。
同国は、今までのところドルが独歩高の傾向を示していることを容認してきた。政府が為替市場の動向を静観してきた背景には、米国経済が相対的に堅調な展開になっていることに加えて、わが国やユーロ圏諸国の景気の回復が遅れていたことがある。
米国としては、自身が牽引役となって世界経済を引っ張る意識が強かったのだろう。自国経済の展開がしっかりして、企業業績も明確に上向いていたため、多少ドル高に振れても、景気回復の腰が折れる可能性は低いと考えた。
伝統的な経済運営の方策には、財政・金融政策があると教えられてきた。しかし、経済のグローバル化が進むと、為替の動向が経済に重要な影響を与えるケースが増え、財政・金融に加えて、もう一つ為替政策を経済運営の手段に含める考え方が多くなっている。
企業の海外展開が進み、為替動向が米国経済に大きな影響を与えるようになると、同国政府としても為替動向を抜きでは有効な経済運営が難しい。経済運営手段は、財政・金融・為替の三本立てになっているとの見方が有力だ。
今までの米国は、為替政策に関する考え方として、自国経済が堅調な間、基本的にドル高を容認する寛大なスタンスを取ってきた。しかし、いったん自国経済に陰りが出ると、そのスタンスは一変することが多い。
米国政府は表面的に「ドル高が好ましい」と言うものの、本音では「米国企業の業績が良くなる程度のドル安傾向」を望むケースがよく見られた。自国通貨がやや弱含みとなり、企業の業績が改善することを狙っているとみられる。
■政府とヘッジファンドの微妙な相互依存関係
米ドルが基軸通貨である以上、為替市場で最も重要なインパクトを持つのはドルの趨勢であることは言うまでもない。
米国政府は、為替市場の動きを自国経済の動向に呼応させて常にモニタリングしている。そして、何らかの措置が必要と判断したときには、高官が為替市場を牽制するような発言を行なったり、G7会議などでドルの動向に懸念を表明するなどの手法で、為替市場の動きを抑えるような行動を取ることが多い。
元々、各国通貨の動向は、当該国の経済状況や貿易収支、さらには金利差などの経済の基礎的条件=ファンメンタルズによって規定される部分が大きい。特に、短期的に見ると、通貨間の金利差が為替の重要な決定要因となる。
一般的に、投資資金は金利の低い通貨から、金利の高い通貨に流れる。ドル・円の為替を見ても、指標である米国債2年物の金利から、日本国債の2年物の金利を引いた差=スプレッドが広がる可能性が高まる。
特に為替市場で最も大きな取引を行うといわれるヘッジファンドは、こうした金利差に着目して為替の持ち高=ポジションを作ることが多い。彼らは稼ぐことが主目的で、世界中の経済変化に極めて敏感に反応する。
中でも、米国政府の為替政策には常に神経を尖らせており、FRBや政府高官が、金利や為替に関してどのようなスタンスを取っているかを常に綿密にモニタリングしている。
一方、米国政府もヘッジファンドなど大手投資家の動きを注視しており、「高官の発言でヘッジファンドなどが一定の行動を取るだろう」との予測を勘案して、為替政策を運営しているとみられる。そうした見方からすると、米国政府とヘッジファンドなど大手投資家の間には、それなりの相互依存の関係が存在するとも考えられる。
■米国産業界で強まるドル高是正の圧力
米国政府が為替政策を考える上で、最も重要なファクターは国内経済の動きだ。経済が堅調であれば、政府としても為替の動きにそれほど神経を尖らせる必要はない。
しかし、経済の先行きに不透明感が出たり、企業業績に伸び悩みの兆候が見えだすと、そろそろ為替政策に変化が出始める。特に政府が神経を使うのは、企業経営者の発言や業界団体からの要請、さらには政治家の世論形成の動きだ。
ドルは昨年1年間で、円やユーロなど主要通貨のバスケットに対して約13%上昇した。昨年の米国貿易赤字は約7300億ドルと約5%拡大した。赤字拡大の背景には、ドルが大きく上昇していることがあるとの見方が有力になりつつある。
特に、中国や韓国、さらには欧州諸国との貿易は過去最大の赤字を記録した。そうした状況に対して一部の下院議員から、「他国が自国通貨を切り下げることで、ドルが上昇しているは不公平」との発言も出ている。
一方、産業界からもドル高に対する懸念が表明される頻度が高まりつつある。米国には輸出比率が高い企業も多い。また、海外展開が進んだ企業にとってドル高が進行することは、海外で上げた収益のドルベースの手取り額が減少することになる。
株式市場でも、ドル高による企業業績の伸び悩みを懸念する声が高まっており、足元のニューヨーク株式市場でドル独歩高が鮮明化すると、米国主要企業の株価がさえない動きを示すことが多くなっている。
問題は、政府やFRBが自国経済の動向を睨みながら、どこまでドル強含みを容認するかだ。足元の堅調な経済展開を見ると、短期的に米国の政策当局がドル高の是正に動くとは考えにくい。
しかし、このままドル高を何年も容認するとも考えにくい。恐らく、来年にかけて、米国のGDPが伸び悩み、株式市場でもドル高懸念の声が高まってくるようだと、政府やFRBがドル高に対する懸念表明を行うと見る。
そのタイミングに呼応して、ヘッジファンドなど大手投資家は積み上げたドル買い持ち=ドル・ロングの利益確定に動くことが想定される。為替市場の動きは少しずつ変化する可能性がある。
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。