03. 2015年3月23日 07:20:20
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石川和男の霞が関政策総研 【第42回】 2015年3月23日 石川和男 [NPO法人 社会保障経済研究所代表] 再エネ補助金“来年度2倍増”が生む国民負担 先行したドイツの苦い教訓に耳を傾けよ! 来年度の再エネ買取総額は 1兆8000億円を超える 過剰な補助が“太陽光バブル”を生む Photo:moonrise-Fotolia.com 太陽光や風力といった自然エネルギー(再生可能エネルギー)を利用して発電した電気を、電力10社が固定価格で10〜20年間買い取ることを義務付ける仕組みは“FIT”(固定価格買取制度)と呼ばれる。買取費用は電気料金に上乗せされ、一般家庭や企業など需要家が負担する。一般家庭の場合、毎月の電気料金明細票に「再エネ発電賦課金」と書かれているのがそれだ。
3月19日、経済産業省が発表したところでは、平成27年度の再エネ賦課金単価が1kWh当たり1.58円(標準家庭[1ヵ月の電力使用量が3001kWh]で月額474円)に決定したそうだ。これだけだとあまりピンと来ない人も多いと思うが、経産省が発表した資料をよく読むと、相当の危機感を抱いてしまう。 端的に言うと、「平成27年度は、非住宅太陽光(いわゆるメガソーラーなど)からの買取電力量の増加で、買取総額は1兆8000億円を超える。これは、平成26年度の買取総額の2倍」というもの(参考1)。詳細については、私のブログ記事を参照されたい。 ◆参考1 出所:経済産業省資料のp3 FITは再エネ導入を強力に促進するための助成策で、ドイツの制度を参考にして創設された。日本でFITが始まったのは2012年夏だが、ドイツでは2000年から実施されている。
ドイツのエネルギー政策に関する日本のマスコミ報道は、“2022年の原子力ゼロ化と、再エネ発電比率の2020年35%〜2050年80%を目指すために邁進している”ことへの賞賛が多い。ドイツのこうしたエネルギー政策を含む一連の流れは“Energiewende”(エネルギーヴェンデ[エネルギー転換])と呼ばれる(参考2)。 ◆参考2 出所:Deutscher Industrie- und Handelskammertag(ドイツ商工会議所)
再エネ導入に邁進する ドイツの決意と負担 他方でドイツは、これまで15年にわたる再エネ導入促進の結果、日本とは比較にならないほど大きな負担を背負うようになっている。 私は、今月上旬から中旬にかけてドイツを訪問し、連邦政府関係5ヵ所、州政府関係2ヵ所、産業団体関係1ヵ所、消費者団体関係1ヵ所、再エネ事業者関係1ヵ所の計10ヵ所の再エネ政策担当者らと懇談してきた。 いずれの訪問先でも、“Energiewende”の推進に対するドイツ政府を始め関係各方面の揺るぎない決意を確かに感じた。もしかしたら、彼らは“2022年の原子力ゼロ化”や“再エネ発電比率の2050年80%”という大目標を実現させるためならば、いかに大きな負担であろうとも厭わないのではないか――そんなふうに思えることもあった。 ここで、訪問先での再エネコスト負担論に関するものを簡潔に紹介しておくと、次の(1)〜(4)の通り(この訪問の成果は膨大かつ充実したものであり、次回以降の本シリーズ枠や別の場で順次公開していく予定)。 (1)エネルギーヴェンデ完遂への決意 ドイツ国民は、エネルギーヴェンデの完遂に向けて邁進している。その大目的を達成するためには、再エネ導入増で電気代が上がったとしても許容する土壌がある。 家計に占める電気代の割合は2〜4%程度なので、再エネコスト負担増による電気代の上昇は大きな影響なし。低所得層には、消費者センターが省エネ型冷蔵庫を無償供与するなど、エネルギーコスト低減への支援を行うこともある。 (2)再エネコスト負担に関する問題の顕在化 しかし、家庭消費者に『エネルギー貧困』という問題が浮上していることも確かだ。今以上に高い電気代は払えないと悲鳴を上げる家庭需要家が出てきている。太陽光発電システムを設置できるのは、それなりに裕福な一軒家だけ。特に低所得者は、太陽光発電システムを購入できる財力がない。これは不公平。 産業需要家の負担は免除されるが、外国との産業競争上、非常に不利で、産業空洞化も。ドイツはEUで最も高い電気代なのだ。 それでもエネルギーヴェンデを推進する方針は変わらない。今後、こうした諸課題に対して、ドイツ政府は明確な答えを出していく必要がある。しかし、まだ根本的な解決策は見出されていない。 (3)“太陽光バブル”をめぐる日独の共通点 FITは再エネ導入促進に大きく寄与した点で大成功と言えるが、2010〜11年の太陽光発電の急増(参考3)を放任したのは大失敗。ドイツ連邦環境省筋は2008年から“太陽光バブル”の発生に対して警鐘を鳴らしていたのに……。 ◆参考3 出所:Deutsche Energie-Agentur (ドイツ・エネルギー・エージェンシー)
ドイツの失敗と日本の失敗は、太陽光バブル発生を許した点で共通している。再エネ賦課金が急増した要因は、太陽光発電の普及が予想を遥かに超えた異常な水準になったからだ。ドイツでは、太陽光発電設備の増設は2012年をピークに大幅に減少してきており、今後とも減少傾向で推移していく見込み。 (4)再エネコスト負担の大きさへのホンネ これまでに負担してきた莫大な再エネ賦課金について、例えば技術革新に投入していたらどんなに良かっただろうか……(筆者註:再エネ賦課金は2000〜2014年の累計で1000億ユーロ[約13兆円]を超えている)。 環境の異なる日本が ドイツ追従で良いのか? 以上のようなドイツの再エネ政策関係者が語っていることについて、読者の皆さんはどのような感想をお持ちになるだろうか? 日本のマスコミ報道には、“日本もドイツに追従すべし!やればできる!!”といった根拠のない精神論やスローガン的なものが目立つのだが、日本は、FITを制度化する際にドイツの制度を参考とした(というより、半ば良いとこ取りしかしなかった)ように、今後もドイツのエネルギー政策を参考にしていくべきなのだろうか? なんでもかんでも欧米先進国の例に倣う、脱原子力を決めた再エネ先進国のドイツの例に倣う、といった“盲目的なパクリ”ではいけない。そもそも、日本とドイツでは、資源エネルギーの調達環境も、経済社会環境も全く異なる。本来ならば、日本自身が自分で考え抜かなければならないのだが、他国の経験に教訓となるものがあるならば、それを踏まえた政策転換を図るべきだ。 私の「今回の訪問では、ドイツの再エネ政策の成功と失敗の両方を学びにきた」との問いかけには、「エネルギー政策は、それぞれの国が、それぞれの事情を勘案しながら進めていくべきことだ」とごくごく当たり前の回答が返ってくるばかりであった。 また、訪問先のドイツ連邦政府関係者の一人から、訪問と時を同じくして日本で行われた日独首脳会談の結果をわざわざ資料にして速報で配ってくれた(参考4)。この資料の趣旨からしても、彼らは、日本はドイツとは違うということを熟知しているようだった。 ◆参考4 拡大画像表示 出所:Bundesnetzagentur (ドイツ連邦系統規制庁) このままでは太陽光発電で 新たな国民負担が発生する 日本としては、やはり再エネコスト負担を増やさない方策を見出していくべきだ。特に、太陽光発電に関して特段の政策的な制御が必須である。これこそが、ドイツからの教訓として真っ先に参酌すべきことだ。 詳細については私のブログ記事を参照されたいのだが、日本では、太陽光発電システムを購入できる資金力を持った世帯は数%程度ではないだろうか。自治体によっては資金助成措置を用意してはいるが、一定以上の資金的余裕のある人でないと導入は難しいだろう。こういう実態を考えると、特に住宅用太陽光の導入は早晩頭打ちになると思われる。 同じ太陽光を利用する発電であっても、一般家庭で普及が難しいのに、資力のある事業者だけが設置し、しかも一般家庭による巨額の賦課金で賄われるが如くの“競争なき規制ビジネスモデル”は、もはや廃止すべきだ。 ところが、過去にFITに基づく認定を受けた太陽光発電事業に関しては、今後10〜20年間の買取が保証されることになる。今後運転開始するものに関しては、新たな国民負担が発生することになる。 冒頭で紹介した経産省発表によると、来年度の再エネ買取総額は1兆8000億円、再エネ賦課金総額は1兆3000億円にも上る。これを極力抑えるには、所要の資金が必要となる。そのための原資はどこからか捻出できないものだろうか? 私が提案したい方策は、昨年7月14日付けの本シリーズでの拙稿「耳触りが良いだけの再生エネ推進論から訣別すべし 原発収益を賦課金に充て、『安い再生エネ』を実現せよ」で述べた趣旨の通りである。 簡潔に言えば、原子力発電を高稼働率で稼働させた分(例えば、震災前2006〜10年の5ヵ年平均稼働率は約65%だが、稼働率を約90%にまで引き上げた場合の増分)の一部を再エネ賦課金の減免のための原資として充当するというもの。原子力発電を行っていない沖縄電力管内分については、原子力事業者の負担能力に応じて拠出するなど、制度上の工夫を施せば良い。 政府と原子力事業者は、政治的な難しさにかかわらず、原発の高稼働率稼働に関する試算をしておくべきだ。私の試算例では、東京電力柏崎刈羽原子力発電所を諸外国並みの高稼働率(稼働率約90%)で稼働させると、年間約1兆円の利益増効果が見込める。 “再エネvs原子力”という構図は不毛 「国産エネルギー政策」を推進すべき 今の技術水準では、太陽光・風力は、ベースロード電源である原子力・火力の代替にはなり得ない。今、日本では“原子力即ゼロ化”に代表される一部の極端な空気が、“再エネvs原子力”という不毛な対立構図を作り出しているきらいがある。 しかし、そうではなく、資源無き国の国産・準国産エネルギーである再エネ・原子力の共存を図る「国産エネルギー政策」を推進すれば、再エネコスト負担問題は一気に解決に向かう。これは技術的課題ではない。政治の意志で解決できることだ。 現在、2030年における電源構成(エネルギーミックス)の数値目標を策定すべく政府で検討が行われている。どのような結着になるか、まだ予断を許さない状況にある。 私としては、原子力と再エネについては「原子力◯◯%、風力◯◯%、太陽光◯◯%……」といった個別に細かな数字ではなく、「国産エネルギー(原子力+再エネ)全体で◯◯〜◯◯%、残りを輸入化石燃料(石炭+天然ガス+石油)全体で◯◯〜◯◯%」といった幅のある概数で示すべきと提案したい。一定の数値を決めても、どうせその通りにはならない。 過去の経緯や今後の日本のエネルギー安全保障やエネルギーコストを総合的に勘案すれば、2030年での数値目標は、概ね次のようなものに設定することが現実的にも妥当と考える。 国産エネルギー(原子力+再エネ):40〜50% 輸入化石燃料(石炭+天然ガス+石油):60〜50% http://diamond.jp/articles/-/68808
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