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軌道に乗るか宇宙ビジネス
(上) 衛星データで無人農業
日本独自の測位システム構築 全国で誤差5センチ内
日本の宇宙関連産業が新たな軌道に乗ろうとしている。国は今後10年で40基超の人工衛星を打ち上げる宇宙基本計画を打ち出した。具体的な数値目標を定め、企業に投資などを促す狙いだ。衛星で得たデータを農業の無人化などに生かす取り組みも急ピッチで進む。一方でロケット打ち上げや衛星製造の世界競争は激しい。「宇宙ビジネス」の現場を追った。
オーストラリアのニューサウスウェールズ州で、農地を無人のトラクターが耕す。日立造船やヤンマー、日立製作所が日本版全地球測位システム(GPS)を使って進める自動農作業の実証実験。走行位置がずれる誤差は5センチメートル以内だ。
日本版GPSの要となるのが、三菱電機が製造した準天頂衛星「みちびき」。既存のGPSは米国の衛星に依存し、山間部が多い日本では電波を十分に受信できない。位置測定では10メートルほどの誤差があるとされる。
近づく全自動化
国は1月に公表した宇宙基本計画で、日本の上空に長時間とどまる準天頂衛星を2023年度までに現在の1基から7基に増やすと決めた。日本独自の測位システムを構築し、全国どこでも誤差5センチ以内で位置を把握できる体制を目指す。
これにより、現在のGPSデータでは考えられない農業利用に道が開ける。ヤンマーグローバル開発センターの中川渉基幹開発部長は「種まきから収穫まで全自動化する未来も近づく」と話す。自動車の自動走行や小型無人飛行機(ドローン)によるインフラ点検なども現実味を帯びる。
準天頂測位システムの経済波及効果は20年に国内で最大1兆3900億円、カバーするアジア・オセアニア地域では2兆5700億円に達する見通し。人工衛星で得られるデータは「宝の山」だ。現在はデンソーやNTTデータなどが、同システムを使う実証試験に着手している。
商船三井などは欧州と日本を北極海経由で結ぶ定期航路に、地球観測衛星のデータを使う方針。このルートはスエズ運河経由よりも距離が短くコストを最大4割減らせるが、分厚い氷海に阻まれて航路設定が難しい。
NECが製造した衛星「しずく」は特殊なマイクロ波センサーを備えて水の観測に優れ、氷の状態や変動、海水温度を細かく割り出せる。商船三井は観測データから最も安全で燃費の良い航路をはじき出し、収益力を高める考えだ。
海外勢が先行
海外企業は日本勢の先を行く。米グーグルは20基以上の超小型衛星の運用を計画する米スカイボックス・イメージングを5億ドル(590億円)で昨年に買収し、ロケット製造のスペースXにも出資した。
A・T・カーニーの石田真康プリンシパルは「今後は衛星のデータを利用・解析するソリューションサービスまで含め、企業の競争と提携が世界的に進む」とみる。
米連邦航空局によれば、世界では14年からの10年間で780基以上の商用衛星が打ち上げられる見通しだ。衛星は水道、電気、ガス、電話に続く「第5のインフラ」になるともいわれる。現在は学術研究や政府利用を主な目的にしている日本の衛星打ち上げやデータ収集は、企業活動を大きく変える可能性を秘めている。
[日経新聞3月16日朝刊P.11]
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(下)脱・官公需頼み、ようやく一歩 製造費そぎ欧米勢追う
日本の基幹ロケット「H2A」のエンジン機器を製造するIHIの瑞穂工場(東京都瑞穂町)で、これまでにない取り組みが始まろうとしている。3D(3次元)プリンターを使う金属加工だ。
「プリンター」駆使
高い耐熱性が必要なエンジンには高価なニッケル合金を多く使う。切削加工で出る削りかすはコスト増の要因。プリンターだと設計モデル通りに無駄なく成形できる。牧野隆・宇宙開発事業推進部長は「徹底的に製造コストをそぎ落とせ」と号令をかける。
液体水素などリスクが高い燃料を扱い、最高3000度の燃焼温度に耐えるロケットエンジンの製造コストが高いのは業界の常識。しかし牧野部長は「宇宙用ではなく航空機や自動車などに使う量産工業品も最大限に活用する」と、常識破りの手法を宣言する。
三菱重工業ではH2Aの後継機「H3」(仮称)の開発が進む。2020年に投入する計画で、現在は100億円程度かかる打ち上げ費用の半減を目指す。
これまでロケット開発は宇宙航空研究開発機構(JAXA)が主導してきた。三菱重工が中核となる開発は初めてだ。阿部直彦宇宙事業部長は「国際競争力の底上げに向けて、部品1個から調達や設計を見直している」と意欲を示す。
3月初め、阿部部長はアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで宇宙開発担当の幹部と固い握手を交わした。カナダ、韓国に続く海外3カ国目の打ち上げ受注に成功したのだ。勝因は96.3%(27機中26機)の高い打ち上げ成功率だった。
しかし世界最大手の欧州アリアンスペースと比べると実績数は2割に満たない。打ち上げ費用でも新興の米スペースXは70億円程度と、三菱重工より3割も安い。欧米勢の背中は遠い。
三菱電機は昨秋、カタールの国営通信公社から通信衛星を受注した。対峙したのは米スペースシステムズ・ロラール(SSL)と仏タレスグループという「世界ビッグ5」の一角を占める強者連合だったが「安定した通信品質など信頼性が評価された」(蒲地安則宇宙システム事業部長)。
乏しい民間受注
NECは姿勢制御や通信機器などで構成する「バス」と呼ばれる基幹システムの開発費を半減した衛星を海外に売り込んでいる。昨年にはメキシコ政府と衛星開発の覚書を結び、受注への足がかりを築いた。
日本の宇宙産業は依然として官公需頼みだ。JAXAや経済産業省などからの受注が9割を占め、5割を民間で稼ぐ欧米勢との開きは大きい。
衛星運用で世界5位のスカパーJSATは16基の通信衛星を持つが、日本製は1基にすぎず、国内の需要も取り切れていない。衛星画像サービス最大手の日本スペースイメージング(東京・中央)も日本製衛星からの画像提供はない。
世界の宇宙産業の売り上げ規模は13年で約3142億ドル(37兆7千億円)と、5年前と比べて1.3倍に増えた。日本企業の宇宙ビジネスは官公需に依存しすぎず、世界大手と渡り合って海外需要を獲得していかなければ成長はない。
上阪欣史が担当しました。
[日経新聞3月17日朝刊P.15]
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