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ベア4000円で春闘を引っ張ったトヨタの豊田章男社長。2020年まで視界は良好? photo Getty Images
賃上げはどこまで続くのか?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42538
2015年03月19日(木) 山崎 元 現代ビジネス
■確かに上がっているが消費税はカバー出来ていない
参議院の予算審議で、実質賃金をどう考えるか論戦があった。民主党の小川敏夫氏が、物価上昇分を差し引いた実質賃金は19ヵ月連続で下がっていると指摘したのに対して、安倍晋三首相は、「消費税の3%の引き上げ分を除けば、総雇用者所得は昨年6月以降プラスだ」、さらに「今年の4月には消費税率引き上げ効果は剥落して(実質で)プラスになっていく可能性は十分ある」と答えた。
1月の実質賃金は前年同月比1.5%減だ。
賃金は確かに上昇しているが、消費税増税分まで含めた物価上昇率に追いついてはいないのだ。普通の生活をしていると消費税は払わなければならないのだから、平均的勤労者が実質的に貧しくなっていることについて、首相は現実を認めるべきだろう。
端的にいって、アベノミクスは賃金に対してプラス効果を持っているが、昨年消費税率を8%に引き上げたことは失敗であった。賃上げは今のところその失敗を打ち消すほどの規模になっていないということだ。
一方、読売新聞(3月17日朝刊)によるとエコノミストの多くは15年春闘の賃上げを2.5%程度と見込んでいるという。この程度の賃上げが実現するならば、2015年度に入ってやっと、実質的な雇用者所得が消費税率引き上げ前を上回る可能性がある。
但し、「今年の4月には消費税率引き上げ分効果が剥落」するのは確かだが、これは、対前年比で統計を見る場合に印象が変わるだけのことなので、首相は、これを以て勤労者の所得が改善していると胸を張らない方がいい。言葉尻に意地を張るタイプの安倍氏がいかにもやりそうな間違いなので、少し心配だ。
■トヨタの賃上げから見える景色
代表的好業績企業として注目度の大きかったトヨタ自動車は、いわゆるベア(ベース・アップ)が4000円で、これは給与の1.1%に相当し、定期昇給分を合わせて3.2%増となる(組合員平均)という。一時金は満額回答の6.8ヵ月分で246万円だという。手元の電卓でつい計算してしまうが、246万円を6.8ヵ月で割って、18.8ヵ月掛けて年収を計算すると約680万円だ。
同社の豊田章男社長は「業績をあげたところは、先ず税金を払う。そして、従業員や地域に還元するのが経営者の当然の責務だ」と記者団に語った(『読売新聞』3月17日朝刊)。
トヨタが高水準の賃上げを決めたことは、波及効果の上でも好ましい。しかし、税金を払うのが先で、従業員は後だと本当に豊田氏が本気で思っているのだとすると、企業経営者としては、少々拙かろう。従業員への支払いは経費であるから、(経営的に)適正な給与を支払って、しかる後に利益に応じた税金を納めるのが正しい考え方だろう。政府に対する点数稼ぎの気持ちが思わず言葉に出てしまったのか、あるいは税務当局に好印象を与えるために意図的に間違えたのか、判然としないが、社員はがっかりしたに違いない。
好景気の塊のようなトヨタの経営者をしてなお税金を払った残りがあれば賃上げで還元しようと口走るくらいなのだから、「トリクルダウン」を実現させるのは大変なことなのだと分かる。
■官製春闘の功罪
今年の春闘でも、昨年に引き続き、いわゆる政労使会議が開かれて(開催はそれぞれ前年末)、政府・労働組合・経営者が一同に会して、政府が賃上げを要請して、近年としては大きな賃上げが連続して実現する。
2年続けて、全労働組合を合わせたよりも安倍首相一人の方が賃上げの役に立っているのではないかという展開だ。政府は、公的年金積立金を使って株価を作る一方で、賃金水準まで作っている。
原則論を言うなら、賃金は雇用者と被用者が自由な交渉の下で決めるもので、政府が賃上げに介入することはいいことではない。とはいえ、デフレ脱却に向けた環境整備の一環として、トリクルダウンの難しさを考えるなら、肯定出来る面もある。
経営者としては、経営への政府の介入を快く思わない原則論を胸に抱きつつも、「今回は、政府が要請しており特別なのだ」という名目で賃上げを決められることは、今後を考えると好都合な面もある。
一方、政府が賃上げを要請する異例の状況がいつまで続くかは、注目に値する。物価上昇を上回る賃金上昇が自然に実現するような環境になれば「官製春闘」はなくなるはずであり、その時こそが「アベノミクスは成功した」と言える時だろう。
一方、労働組合の側は、結果的にそこそこの賃上げが実現するものの、毎年その存在感が低下し続けているように見える。
■賃上げは続くか
今の経済環境で儲かっているのはトヨタのような恵まれた大企業であって、円安が重荷になる会社や、中小企業までは、賃上げが広がらないのではないかという意見もある。
しかし、業績がパッとしない会社でも、人手不足になると賃上げしないと必要な労働力が確保出来ない。政府が継続的な賃上げの実現を望むなら、労働需給がタイトな環境を維持出来るようなマクロ経済政策を行うことが最も効果的だ。逆に、仮に業績が良い企業であっても、労働市場の需給が緩いのであれば賃金を上げる必要はない。
今後がどうなるのかは難しい問題だが、企業関係者の話を聞く限り、現在の120円近辺の為替レートであれば、日本企業の競争条件はかなり有利だ。一部の大企業では、設備投資の国内回帰も見られる。
2017年度には消費税率10%への引き上げが(一応は)決まっていて「不景気が予約されている」ことが気懸かりだが、2015年度、2016年度はまずまずの雇用と賃金の環境が続くと期待して良いのではなかろうか。
株価と賃金で、先に上がったのは株価だった。先に下がるのもおそらく賃金よりは株価ではないか、というのが筆者の目下の予想だ。
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