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中国・北京の国家水泳センターで記念撮影を行うAPEC首脳会議に参加する各国の首脳。中央に習近平・中国国家主席(2014年11月10日撮影)〔AFPBB News〕
中国のシルクロード構想は 周到に練られたエネルギー戦略だ 日本の通商戦略も動き出すべき
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20150319-00043211-biz_jbp_j-nb
JBpress 2015/3/19 11:34 宇佐美 典也
中国のアジア・中東方面の外交が活発化している。
その中核となるのは、中国を中心に現代版シルクロードの構築を目指す「一帯一路」と呼ばれる構想だ。
一帯一路構想は2013年頃から提唱され始めた新しい概念で、中国から中央アジアを経由して欧州にいたる陸路を「シルクロード経済帯」(一帯)とし、中国から東南アジア、インド、アフリカ、中東を経て欧州に至る海路を「21世紀海上シルクロード」(一路)と名付け、この地域を包括する経済共同体の構築を目指す構想である。
あまりにも壮大なため荒唐無稽な話にも聞こえ、当初は中国の雑多な動きを包括的に説明するアドバルーン的な構想に思われていたのだが、2014年11月に北京で開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が一帯一路構想の実現に向けて独自に400億ドル(約4兆5800億円)の基金を創設し、対象地域のインフラ整備を支援すると表明したことから、急速に構想の現実味が増してきた。
■一帯一路構想の3つのメリット
一般に「一帯一路構想」の推進による中国のメリットは、(1)国内の過剰生産構造の解消、(2)新たな資源ルートの確保、(3)発展が遅れる内陸地域の再開発、の3点にあると考えられている。
第1点目の「過剰生産構造」についてだが、中国の製造業は生産能力が過剰なため軒並み稼働率が低下しており、深刻な状況にある。国内の賃金上昇や東アジア諸国の工業が起ちあがってきたこともあり、もはや主要市場である米国、欧州、日本向けの生産拡大は望めない。そこで一帯一路構想では将来的な成長が望める未開拓地域のインフラ整備を進め、新たな市場を開拓することを目指しているわけである。
続いて「新たな資源ルートの確保」についてだが、中国は21世紀に入り急速に資源輸出国から資源輸入国へと転換し、石炭はオーストラリアやインドネシアに、原油は中東に依存している。原油の輸入にあたってはマラッカ海峡を通らざるを得ず、また石炭の輸入にあたって太平洋を通らざるを得ない。しかしながらこの2つの海路は中国の管理下になく、エネルギー安全保障上の問題を抱えることになっている。この点、一帯一路構想の実現により石炭を代替する天然ガスの輸入の陸上通路が拡大し、また海運通路の多様化が実現すれば中国の資源安全保障環境は大きく改善する。
中国の地域別1人当たりGDP(2012)(「2014 White Paper on International Economy and Trade」経済産業省より)
最後に「発展が遅れる内陸部の開発」についてだが、中国の経済発展は沿海地域に異常に偏った形で進んでおり、華北・華東といった沿海部と西北・西南といった内陸部では、平均所得が3〜4倍もの差が生じている。
2014年7月の北京大学中国社会科学調査センターの発表によると、貧富の格差を図る指標であるジニ係数は0.73に達したと報告されており、日本のほぼ2倍にまで達している。これは暴動誘発レベルと呼ばれる0.5をはるかに超える値になっており、中国政府にとっての中西部地区の発展は政権維持のために不可欠となっている。一帯一路構想は、中西部のインフラ開発・製造業投資を加速させる重要なコンセプトとなり得るものである。
■エネルギー安全保障戦略としての「一帯一路」
このように一帯一路構想には様々な期待が込められているわけだが、実際のところ「現代のシルクロード」が開かれたからといって、経済的に取り残されたこの地域で取引の対象となる製品・食品は乏しい。必然的に、先行して取引される主要産物は“資源”ということになる。
それを踏まえて、一帯一路構想は先に挙げた利点をバラバラに考えるのではなく、一体的に理解すべきものと考えられる。すなわち「中央アジア・東南アジア方面へのインフラ投資・資源開発投資を通じて、国内の生産設備の稼働率を上げて不況を解消し、新たな陸路・海路を開発することでエネルギー安全保障を確保しつつ、発展するこの地域での貿易ルールを中国主導で作る」といった一連の文脈中で一帯一路構想は捉えるべきである。これは現代中国にとって初の本格的な国際戦略である。
そのような観点から改めて2014年以降の習近平氏の一帯一路構想を眺めてみると、特に注目すべき動きとして、第1にトルクメニスタン、ウズベキスタンといった中央アジア諸国と共同宣言を出したこと、第2にモルディブ、スリランカというインド洋の海洋諸国を訪問したこと、最後にシルクロード基金創設にあたってバングラデシュ、ラオス、モンゴル、ミャンマー、タジキスタン、カンボジア、パキスタンの首脳を特別に招待し「相互接続パートナーシップ強化対話会議」を開催し、重点的に投資をする姿勢を見せたことがあげられる。こうした点在する国々を線でつなげてみると、中国が意識するシルクロード構想の実態というものが見えてくる。
いわゆる陸路である「一帯」の実態として見えてくるのは、「トルクメニスタン → ウズベキスタン → タジキスタン → 中国」という天然ガスパイプラインの供給ルートだ。中国は近年大気汚染対策および地球温暖化対策の観点で、石炭から天然ガスへの燃料シフトを進めている。そしてトルクメニスタンは天然ガス供給の5割近くを占める最大の供給国となっている。この石炭から「天然ガスへのシフト」と「トルクメニスタンからの資源調達」の傾向は当面は変わらないと考えられ、「一帯」構想の中心は中央アジア地域での天然ガス輸入ルートの確保になると考えられる。
一方、海路である「一路」で運ばれる主要資源は石油となることが想定される。中国は石油輸入の過半を中東に頼っており、そのほとんどがインド洋を経由しマラッカ海峡を抜けて中国に運ばれている。現状、マラッカ海峡周辺海域を支配しているのはアメリカであり、これは中国にとってアメリカに首根っこをつかまれている状況に等しい。そこで中国としてはこうした状況を打開するために、中東 → モルディブ → スリランカを経由してミャンマーからパイプラインを通して重慶・南京まで運ぶ、マラッカ海峡を通らない石油ルートを完成させようとしている。
この場合インド洋の制海権を握るインドを牽制し、パイプラインが通るミャンマーの周辺国も取り込んでいくことが重要となるわけだが、そのためにインドを囲むパキスタン・バングラディシュ、ミャンマーと隣接するラオスなども投資によって取り込もうとしている、というところである。
アジアの経済連携の枠組み (内閣官房・TPP政府対策本部ホームページより)
■日本にも独自の通商戦略が必要
このように中国の「一帯一路」構想は荒唐無稽な大風呂敷なように見えるが、そのコアとなっているアジア圏での新陸路・新海路の開拓は中国の資源エネルギー戦略のニーズに根付いたものとなっている。
仮に一帯一路構想の一環として中国主導でこのような新資源ルートを開拓され制海権を握られてしまうと、マラッカ海峡という不安から解放された中国の外交の自由度はぐっと増すことになる。その結果、当然同国の海洋進出はますます野放図になるものと考えられるし、また東南アジアにおける貿易のルールも中国主導で決めようとしてくるだろう。そう考えると何らかの形で日本としても中国のこうしたエネルギー・通商戦略に備えていかなければいけなくなる。
まず考えられるのが、現在進められている環太平洋パートナーシップ(TPP)交渉の枠組みを前に進めつつ、拡大させ、東南アジアやインドを将来的に取り込んでいくことである。これは大きくは米国の通商戦略であるのだが、これに従う形で日本の政府の公式の方針もそれに則ったものなっている。
しかしながら中国からの投資が注ぎ込まれるASEAN諸国やインドという地域大国が、後からTPPのような強固な枠組みに事後的に加入するかどうかについては、いささか疑問がある。他に交渉が進められているアジア地域での通商の枠組みとして、日中韓、ASEAN、インド、オーストラリアなどを対象とした「東アジア地域包括的経済連携」(RECP)も存在するが、進展に乏しく、利害が対立する点が多い日中が相乗りして進められる通商の枠組みが今後機能していくことは想定しがたい。
そう考えると日本はTPP交渉を進めつつも、米国主導の枠組みに乗るだけでなく、そろそろ腰を据えてインドやASEAN諸国、さらにはロシアなどを取り込んで、成長するアジア圏での経済ルール作りを主導していくような独自の戦略を考えるべき頃合いに来ているように思える。
日本の通商戦略は戦後長らくアメリカの通商戦略の準ずる形をとってきた。しかしながら、中国という巨人が目覚めつつあり、国際戦略を持ち始めた今、そろそろ独自のビジョンを持つ必要に迫られてきている。
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