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3月18日、「異次元」の異名をとる日銀の量的・質的金融緩和(QQE)が始まって、間もなく2年が経過する。写真は17日、政策決定会合後の記者会見に臨む日銀の黒田東彦総裁(2015年 ロイター/Yuya Shino)
焦点:黒田日銀緩和2年、浮上するQQEの光と影(上)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0ME08J20150318
2015年 03月 18日 19:53 JST
[東京 18日 ロイター] - 「異次元」の異名をとる量的・質的金融緩和(QQE)が始まって、間もなく2年が経過する。日銀が前例のない大胆な政策に着手したのは、黒田東彦氏が総裁に就任した2013年3月20日。この間、市場心理は劇的に変化し、15年ぶりの株高を演出、最高益企業も続出している。
だが、目標の物価2%は未達だ。ロケットような推進力を目指す黒田日銀はどこへ向かうのか、2年間の足取りから今後の軌道を探った。
<緒戦の大勝利と突風>
「2年でマネタリーベースを2倍にして、物価を2%に引き上げる」という「2年・2倍・2%」のボードを黒田総裁が使って、QQEを発進させたのが13年4月4日。そこから円安が加速し、日経平均は「棒上げ」状態で上昇した。
1週間後の4月11日、元日銀審議委員で安倍晋三首相の経済ブレーンの1人である中原伸之氏は、QQEで大きく価格変動する市場を見据え、爆弾低気圧ならぬ「爆弾高気圧」のニックネームを考案する。マーケットが想定外に変動し、QQEが内外の市場関係者から注目されている様子は、まさに「爆弾」の形容詞がピッタリと当てはまった。
この激変の中核に存在したのは、市場心理の変化だった。黒田総裁と同じ財務官経験者である渡辺博史・国際協力銀行(JBIC)総裁は「センチメントを変えたことは評価されるべき」と称賛する。
だが、1回目の「突風」が海外発で吹いた。13年5月22日、バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長(当時)が「今後数回の会合で債券購入のペースを減速させる決定をすることもあり得る」と述べ、円安と株高のトレンドが乱れた。
翌23日以降、日経平均.N225は一転して下げ基調となり、一時高値からの下げ幅は1000円を超えた。
ある国内金融機関の関係者は「アベノミクスと黒田緩和は、海外からの力に意外ともろいという印象を市場に与えた」と振り返る。
日銀幹部の1人もその直後、「日本経済の基調が弱いため、海外経済に左右されやすいのがわかった」と述べていた。
しかし、米経済と米株が「バーナンキショック」から立ち直り出すと、ジワリと円安が進み出し、株価も底を打って再び上昇トレンドを描き出す。
2013年の1年間でドル/円JPY=EBSは90円から105円へ下落、日経平均は1万0604円から1万6291円へ5割も上昇した。竹中平蔵・慶大教授が「アベノミクスの最初の1年3カ月は大成功」(15年3月3日の講演)と賞するのも、その市場パフォーマンスの高さからだろう。
円安も誘因となって外国人観光客が急増。東南アジア旅行客のビザ緩和と相まって、2012年に836万人にとどまっていた訪日外国人数が13年には1036万人、14年には1341万人に増加した。「倒産直前の温泉旅館が、中国人観光客の急増で復活した例もある」(政府・与党関係者)と、低迷がちな地方の景気回復に一役買っている。
その間、物価も着々と上昇。13年4月には前年比で0.4%のマイナスだった消費者物価指数(生鮮食品除くコアCPI)が、14年4月に同プラス1.5%(消費増税の影響除く)まで上昇した。
急速な円安進行に加え、労働需給のひっ迫も物価上昇をサポート。実質経済成長率見通しが下振れる一方で、雇用環境は改善を続け、顕在化した供給の天井が、物価動向に重要な需給ギャップの縮小を促す構図を作り出した。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の嶋中雄二・景気循環研究所長は、円安・株高・外国人観光客数増・国内生産回帰の開始により「名目3%成長が実現できる環境ができた」と評価する。
ある日銀幹部が「想定通りというか、正直に言えば想定以上に順調に物価は上がっている」と述べていた。
<うわさされる官邸と日銀の認識ギャップ>
ところが、第2の「突風」が今度は予想以上に強く、そして長く吹き出した。14年4月からの消費増税だ。消費の落ち込みは、政府・日銀の想定を上回り、安倍晋三首相も国会答弁などで、消費に弱さが見える要因の1つに、消費増税の影響を挙げた。
民間でも、積極的な金融緩和を支持する三菱UFJリサーチ&コンサルティング・主任研究員の片岡剛士氏は「消費税の影響が誤算だった」と指摘する。
早稲田大学の若田部昌澄教授は「消費税でアベノミクスは、振りだしに戻ってしまった」と分析する。
日銀はQQE導入後の2013年4月に公表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で、需給ギャップについて13年度から15年度までの「見通し期間後半にかけて、需要超過幅を拡大させていく」と見込んでいた。
だが、こうした需要の低迷や成長の下振れを受け、改善が後ずれした。日銀試算では、14年7─9月期でも小幅マイナスにとどまっており、需給ギャップ改善の遅れが物価の足取りを鈍らせた面もある。
さらに消費税をめぐって、安倍首相と黒田総裁との間に微妙なずれが生じているのではないかとの思惑も、政府・与党内の一部で意識され出していた。
2014年4─6月、7─9月と2四半期連続で国内総生産(GDP)が前期比マイナスとなったことで、官邸は消費増税の影響の大きさに驚く。
消費不振の理由について財務省・日銀が「駆け込み需要の反動」「夏の天候不順」としたことなども含め、安倍首相とその周辺は「本当にそうなのか、と懸念を深めていた」(官邸筋)という。
4月増税の影響が色濃く残る中、黒田総裁が当時、2015年10月に予定されていた10%への消費税再増税の重要性を力説したことも、安倍首相周辺の心証を悪くしたとの声も、政府関係者の一部から挙がっていた。
さらに3つ目の突風が、日銀ロケットの軌道に大きな影響を与え出した。原油価格の下落によるCPI上昇率の鈍化だ。足元の上昇率がどんどんゼロ方向に縮小すれば「2年・2%」という日銀の目標や、目標達成に向けた日銀のやる気を疑われかねない。
日銀のやる気が疑われ出すと「せっかく上がってきたインフレ期待に、水をかけることになりかねない」(日銀幹部)という判断が、電撃的な追加緩和を決断させる。
複数の政府筋は、日銀から直前まで財務省に追加緩和に関する「動き」は伝わらず、財務省にとっても電撃的だったと打ち明ける。
ところが、ここでも首相官邸と日銀との間に、認識ギャップが生じていた可能性がある。政府関係者の一部は「黒田総裁が消費税再引き上げを狙って動いたのではないか」とささやいていた。
ただ、当時の状況を振り返ると、追加緩和によって「だれがち」だった日経平均に再び上昇モメンタムの「スイッチ」が入り、安倍政権の支持率上昇に貢献したことも事実だ。
ある与党関係者は、追加緩和による株高が、増税延期に反対だった自民党内の声を抑制する効果を持ったと指摘する。政府高官のひとりは、追加緩和が「結果的に解散支援になった」と述べた。
<追加緩和反対者が指摘した副作用>
また、日銀のこの決定過程では、政策委員9人のうち4人が反対に回るという投票結果も生み出した。
そこで論点として浮上したのは、1)国債買い入れの拡大に伴って市場がQQEを財政ファイナンス(財政の穴埋め)と認識する可能性、2)一段の金利低下による金融機関収益への影響と金融面の不均衡が蓄積するリスク、3)円安進行に伴う中小企業経営や家計への悪影響──などだ。
市場関係者の中にも、QQEの副作用に目を向ける声が出始めた。ある国内金融機関の幹部は「金融の現場には、得体のしれないマグマが溜まりつつある」と述べる。
昨年10月31日の追加緩和は、QQEスタート時の「全面的称賛」から、「副作用」を指摘する声を生み出し、図らずも「満2年」を前に、QQEの効果と副作用について、議論を再構築する場を提供したとも言える。
上記の3つの副作用とは別に、QQEの政策効果として当初期待されていた1)金利低下による貸出増、2)円安による輸出増──という波及経路も、見込みと食い違っていたのではないかとの指摘が、市場関係者から出ている。
14年の銀行貸出は前年比2%程度の伸びにとどまり、アベノミクス開始前と比べ、伸び率は1%程度しか拡大していない。
輸出は、14年末から前期比ベースでようやく増加基調に転じている。ただ、12年11月ごろと比べ、円安が5割も進んだのに比べ、輸出の回復ペースは鈍い。
黒田総裁は2月26日の参院財政金融委員会で「原油価格の急落と、消費税引き上げ後の消費低迷と、円安にもかかわらず輸出が伸びなかった点」が想定外であったことを認めた。
「アベノミクスの終焉」の著者として、反アベノミクスの立場を鮮明にしている福井県立大学の服部茂幸教授は「消費の落ち込みは過去と比べて圧倒的に今回の方が大きく、消費増税に全てを押しつけることはできない」「消費は伸び悩んでおり、その意味で金融緩和の効果はない」と述べている。
また、物価が上がらないのは、果たして原油価格の下落だけが原因なのかどうか。一部のエコノミストは、コアコアCPI(除くエネルギー、食料品)の上昇率も鈍化していることを見れば、物価の基調が決して強くないことを物語っているとみている。
デフレ脱却には強力な金融緩和政策の継続が必要としている東京大学大学院経済学研究科・経済学部の渡辺努教授は、日本では、多くの品目の物価上昇率が前年比ゼロ%となっており、2%に多数の品目がある米国とは、インフレ期待のアンカーのされ方が異なると説明。今後も強力な緩和で、企業の価格設定に影響を及ぼす必要があると分析している。
黒田総裁は2月27日の講演の中で、15年も続いたデフレ均衡から脱出するためには「ロケットが強力な地球の引力圏から離れる時のように、大きな推進力が必要になる」「他国の衛星より低い高度1%の軌道までたどり着けば十分というのではない」と力説した。
2年間のQQE実施で得られた「利点」と「副作用」の詳細な点検によって、この先のロケットの軌道が決まることになるだろう。その際に重視されるのは、QQE緒戦の戦いで勝利を飾った原動力である「期待」ではないだろうか。
その期待を維持、強化するため、黒田総裁がどういう手を打ってくるのか、内外の市場関係者の注目は、春の気温上昇とともに高まりそうだ。
*見出しを修正して再送しました。
(竹本能文、伊藤純夫 編集:田巻一彦)
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