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公的年金運用問題の「裸の王様」は厚労省だ
http://diamond.jp/articles/-/68565
2015年3月18日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] ダイヤモンド・オンライン
■塩崎大臣vs厚労省 官製相場の主役のガバナンス問題
株価が日経平均で1万9000円を超え、官製相場の主役と目されるGPIF(年金積立金管理運用特別行政法人)への関心が高まっている。国民としては、130兆円を超える公的年金の積立金がどのような体制と責任の下で運用されるのか興味のあるところだし、市場関係者は「公的相場操縦」の執行部隊であるGPIFの意思決定過程が気になる。
現状では、GPIFは、基本的に理事長(三谷隆博氏)が決定権と責任を負う独立行政法人として、厚生労働大臣の命ずる運用を執行する組織だと理解される。
ただし、専門性の高い資産運用に関しては、有識者によって構成された運用委員会の審議を参考に、現場の責任者として民間運用会社出身の水野弘道氏(通称「CIO」:Chief Investment Officer)をスカウトするなど、理事長をサポートする体制を取っている。GPIFは資産運用に関する専門的人材を集める準備として、理事長とCIOの年俸を大幅に引き上げるなどの手も打っている。
一方、GPIFを所管する厚労省の塩崎恭久大臣は、かねてよりそのガバナンスを問題視しており、昨年の就任以来、GPIFのガバナンス改革を早く行いたい意向を持っていた塩崎大臣と、現行体制を大きく変えたくないとされる厚労省(いずれも伝聞であるが)との確執があると伝えられてきた。
こうした言われ方は塩崎大臣側で不満に思うかもしれないが、両者の争いは当面、厚労省(年金局)側が勝利を収め、GPIFのガバナンス改革は先送りとなっていて、先頃、3月末で任期を迎える三谷理事長の続投が報じられた(14日・ロイター)。
しかし、報道によると、三谷理事長の任期は今後のGPIFのガバナンス体制の議論によって短縮される可能性があり、また、同氏は任期一杯での辞任の意向を持っていたが、後任の調整が付かずに慰留されたという。確かに、三谷氏にとって、現状のGPIF理事長は、高給ポストにはなったものの、留任して気分の良いポストではなさそうに思える。総合的にはお気の毒だ。
三谷理事長の留任については、GPIFの運用を「公的相場操縦」への加担に向かって簡単に押し切られた理事長である点で心配に思うことと、しかし、内外の金融・運用業界の後押しを受けて今後GPIFが業界のカモになる路線を推進するトロイの木馬のような人物が理事長にならなかったことへの安心が、相半ばする。
個人的な希望を言うなら、三谷理事長には、年金運用の真の問題である厚労省の問題(後述)を堂々と指摘して糺すべく努力してもらいたいと思っている。理事長ポストに未練はないということなら、氏がこの問題の矢面に立ってくれることを期待してもいいのではないか。
■ガバナンス改革のために「強い委員会」をつくるとすると…?
ところで、GPIFのガバナンス改革を行うとして、どのような体制が考えられるのか。
先日、国会で公的年金運用の問題について質問を行った民主党の岸本周平衆議院議員は、ハフィントンポストの同氏のブログに「日銀のように理事会に権限を持たせて、その議事録を後で公表するようなガバナンス改革は必要だと思います。また、年金は国民の資産なのですから、当然、国民の代表たる国会に報告義務を課すべきです」という意見を書いておられる。
同ブログには、「2009年にOECDがGPIFのガバナンスに関してレポートを出しています。その中で、目標収益率やリスク許容度、資産運用方針を決定するため理事会を設置すること。その際、外部委員として、労使の代表に加え、利害関係者や金融業界とはつながりのない学者などを含めること。さらに、年間事業計画、予算、年次報告を国会承認とすることなどが提案されています」とある。
文中、理事会とあるのは、日本銀行政策委員会に相当する組織を指しているのだろうか。
仮に、その組織を「公的年金積立金運用政策委員会」と名付けよう。たとえば、日本の政策委員会が日銀の金融政策を決定するごとく、GPIFの運用方針を審議・決定する強力な委員会をつくるとどうなるだろうか。
まず、委員会を構成する委員の人選が問題だ。日銀の政策委員のように、政府が指名して、国会での承認手続きを経て決めるのだろうか。専門性の高い運用の議論に実質的に参加できる労使の代表がいるのかどうかが疑問だし、「利害関係者や金融業界とはつながりのない学者」を探すこともなかなか困難だろう。
加えて、例えば、今のようにGPIFにリスク資産を買い増しさせたいという意向を政府が持っている場合は、運用に積極的な「イケイケ派」の学者がリスクテイクに消極的な「慎重派」の学者よりも指名されやすくなりそうだが、GPIFの運用方針が政府の意向で大きく左右される可能性はあまり気持ちのいいものではない。
もっとも、日銀の政策委員会についても同様のことが言えるわけで、議事録が後に公開されて個々の発言者の責任が問われることと、委員の個人的・専門的良心を頼りにするよりないのだろう。
付け加えると、この種の委員会は「事務局」の位置づけと人選が肝心だ。実質的には、しばしば個々の委員の意向よりも、事務局の考えと行動が委員会の結論を左右する。特に資産運用に関しては、マーケットの情報を収集し、データのハンドリングや運用意思決定に関する各種の計算などを適切に行いつつ、議論の方向を時にはリードし、時には調整する役割が事務局には求められる。
政策委員会は運用の執行部隊の上位に立つ意思決定を行わなければならないわけで、委員会の事務局と、運用現場とはメンバーを画然と分けなければ、有効なコントロールがなされない。
合議制による運用方針決定に関する、多くの運用ビジネス関係者の「実感」を推測して代弁すると、「会議の末決まった運用戦略にろくなものはない」、「合議で決めた運用方針でマーケットに勝てる気がしない」、というあたりの感想を持たれる方が多かろうと思う。筆者もそう思う一人だが、根本的に「他人のお金」である年金資金の資産運用には、この種の非効率性はつきものだと割り切るしかない。民主主義の意思決定の中に、運用のガバナンスを取り込むのはなかなか大変なことだ。
■失敗した場合のリスクをどうするのか 運用責任のあり方として極めて無責任
ところで、独立性の高い「年金積立金運用政策委員会」ができたとして、それで公的年金の運用が良くなるかというと、そうは思えない。最大の課題である、運用目標そのものが、現状のように厚生労働大臣から与えられるのでは、運用方針はこれに制約されるからだ。
今回決定された運用方針は、「名目賃金上昇率+1.7%」という運用目標を与えられて、この達成が未達になる確率が債券100%の運用よりも小さくないポートフォリオの中から、リスクの小さなものを選んだ、といった大筋でつくられたものだ。そもそも債券100%の利回りでは平均的なケースで目標利回りに届かないのだから、相当額のリスク資産を組み込まなければ目標に届かないのは当たり前だ。
一方、積立金の運用でどれだけのリスクを取ることになり、それが年金財政にとって適切なのかは、年金の財政検証に反映されていない。政府の中長期経済見通しから、これくらいの利回りが可能だろうと数字をつくっただけだ。本来なら、どの程度のリスクを取るとどの程度の利回りが想定されて、それが年金財政にどう影響するかを判断しながら、ポートフォリオの期待リターンを選択するプロセスが必要だ。
厚労省としては、失敗した場合のリスクは「政府の見通し」と「有識者による検討」でヘッジしたつもりかもしれないが、年金運用のあり方としては極めて無責任だ。それに、いくらGPIFのポートフォリオが巨大だとしても、25年もの運用期間(長すぎる。せいぜい5年だ)を想定してポートフォリオをつくるような人々のどこが専門家であり「有識者」なのか甚だしく疑問だ。
■誰かが「王様は裸だ!」と指摘しななければならない
また、公的年金積立金運用のリスクの負担は、国の財政ないしは、年金加入者が負担することになるが、「どれくらいのリスクに対して、どれくらいの利回りを目指すのか」という説明と合意がなされた形跡がない。これは、民主主義の下での年金運用にあるべき原則を大きく逸脱している。
新しく決まったGPIFの基本ポートフォリオでは、リーマンショック時よりも小さな下げ相場でも、単年度で20兆円を超す運用損失が出ておかしくないレベルのリスクを取っているが、このリスクに対する説明と合意のプロセスが不十分だ(十分説明がなされた上で、国会等で合意されるべきだ)。
現在の公的年金運用では、個人や企業の資産運用なら当たり前の、(1)現実的な前提に基づいて、(2)リスクを勘案しながら、(3)どのくらいのリターンを目指すかを考える、という初級のFP(ファイナンシャルプランナー)でさえ当たり前のプロセスが成立していない。
「王様は裸だ!」と誰かが指摘しなければならないのだが、無知で迷惑な王様はあえて名指しするなら厚生労働省年金局だ。GPIFは金庫番役の下僕に過ぎない。最も必要なのは、公的年金の運営プロセスの中に、「運用」を正しく位置づけ直すことであり、GPIFのガバナンスはその次の問題だ。
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