02. 2015年3月18日 05:43:57
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世界は強化、国内は緩和 業界を揺さぶる銀行規制論 「邦銀には相当影響が出るし、日本にとっては国家財政に関わる問題。世界経済にもインパクトを与える話で、銀行の監督当局が決めるルールに収まるスケールではない」 国際的な金融規制を決めるバーゼル銀行監督委員会の常設事務局が置かれる国際決済銀行(BIS) 日本の金融当局幹部が気色ばむ、重大な銀行への規制議論が水面下から顔を出そうとしている。世界の金融当局者で構成され、国際金融規制を決めるバーゼル銀行監督委員会。そこでは現在、銀行が持つ金利の上昇リスクに対して自己資本の積み増しを求める案が議論されており、3月中にもたたき台が公表される見込みなのだ。
金利が急上昇すれば、国債の価格は急落して銀行は巨額の含み損を抱えてしまう。また、貸出金利が長期で固定されたまま資金の調達金利が上がれば、逆ざや状態を招く恐れもある。そうした金利リスクに備えて自己資本を厚くするというのが新たなルール案だ。 ただ、邦銀は日本国債を大量に抱えている。しかも、邦銀のビジネスモデルは主に短期金利で預金による資金調達をし、長期金利で融資をして長短の金利差で収益を上げる構造のため、影響は甚大だ。 新ルールが導入されれば、邦銀は金利リスクを落とすために国債を大量に売る可能性がある。となれば国債価格の急落(金利の急上昇)を招いて、自ら金利リスクを顕在化させかねないのだ。 「英国やドイツの主導で進んできた」(メガバンク幹部)この新規制案だが、日本は米国などと共に反対の立場だ。国益を懸けた各国の“綱引き”が行われており、「日本にとっては当初の案よりだいぶマシになってきた」(同)。 とはいえ、「今度出てくる案は相当粗くて全世界で物議を醸すはず」(前出の金融当局幹部)とのことで、予断を許さない状況だ。 国内は17年ぶりの規制緩和 緊迫した世界の規制強化論とは一転、国内では銀行界の規制緩和に向けた議論が金融庁の金融審議会で始まった。1998年に解禁した金融持ち株会社のルールを17年ぶりに見直す。傘下に持てる子会社の業務範囲の拡大や、余資運用などグループ内での重複業務の統合をしやすくする方針だ。 共同持ち株会社をつくる形式での経営統合が進む地方銀行の再編の後押しにもつながる可能性を秘めている。「地銀が生き残るために何がしたくて、それにはどんな規制が邪魔なのか。地銀が持ち株会社で本当にやりたいことを議論の場で出してほしい」。ある金融庁幹部はそう語り、幾つかの地銀を壇上に上がるようけしかけるつもりだという。 かつて信用金庫業界では、相次ぐ取引先の海外進出に伴って金融当局へ規制緩和を打診。取引先の海外子会社への直接融資解禁を勝ち取った。規制の強化であれ緩和であれ、銀行界は“待ち”の姿勢で翻弄されるのではなく、自ら訴えかけて関わる主体性が求められている。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久) http://diamond.jp/articles/-/68608
宿輪ゼミLIVE 経済・金融の「どうして」を博士がとことん解説 【第7回】 2015年3月18日 宿輪純一 [経済学博士・エコノミスト] 米国の利上げはどのようにして誰が決めるのでしょうか? なぜ、米国は利上げに向かうのか ?イエレンFRB議長がいつ利上げに踏み切るのか。今、金融市場の関心はこの一点に尽きると言っても過言ではありません。 ?正確に言うと、利上げは米国の金融政策を決定する連邦公開市場委員会 (FOMC:Federal Open Market Committee) において投票によって決定されます。そのプロセスなどは後ほど詳しく解説しますが、連邦公開市場委員会は、今後6月16・17日、7月28・29日、8月はなくて、9月16・17日に開催されます。市場が注目する米国の利上げは、この3回のうちに行われると考えられます。 ?近年、先進国では経済の成熟化に伴い成長率が下がってきました。そして、2008年からのリーマンショックや2010年からの欧州債務危機の影響が世界的に広がり、欧州を除いた先進国は量的金融緩和(QE:quantitative easing)を開始しました。米国では2008年から、日本でも2013年から日本銀行の黒田総裁が、質的・量的金融緩和を開始しています。 ?金融緩和の目的は、そもそもは金利を下げることによって、貸出(借入)がし易くなりまた、金利が下がるので預金よりも株価などの資産に資金が流入し資産価格が上昇することによって景気を良くするというものです。 ?米国の場合はドル資金量が当初約8000億ドル程度でありましたが、最近では約4兆ドルとなんと5倍にも膨れ上がっています。 ?ちなみに、日本の緩和マネーも同程度まで増加してきています。これはマクロ経済でよく使う手法ですが、GDP対比でみると、米国は約2割強、日本は約7割と、日本の政府債務残高と同様ダントツの比率です。 ?ただし、金融緩和は、そもそも一時的な政策です。身体の治療でいうと輸血みたいなものです。一時的に血の巡りがよくなって楽になります。言い換えると、痛み止めです。しかも、楽になるのでもっと欲しくなるという中毒化する特徴があります。海外のメディアは「モルヒネ」とも揶揄している向きもあります。また痛み止めですから、経済の悪いところを本質的に治すわけではなく、放置してさらに悪化するという特徴があります。この点で金融緩和と構造改革は相いれない政策なのです。 ?しかし、米ドルは基軸通貨として、世界の金融市場をはじめとした金融取引の約4割5分、外貨準備では約6割で使用されています。以前の国際経済学では貿易を重視しましたが、最近では世界の決済量(マネーフロー)からすると貿易は約3%しかないため金融市場に与える影響は極めて低いのです。 ?その米ドルが利上げに向かいつつあります。昨年、特別に参加させていただいたFRBの内部セミナー(ミィーティング)では、量については、基本的には国債の期日で量が減っていく「自然減」を基本として2020年までに2兆ドルまでに減らすとしていました。 ?そもそも、米国の金融担当者はこの量的金融緩和を異常なことと理解しており、今回の利上げも「正常化」といっています。方向としてみれば、利上げであり、その時期も6月以降ぐらいではないかと市場では予想されています。 米ドルの利上げは新興国にとってのリスクになりかねない ?先ほども申し上げましたが米ドルは基軸通貨であり、世界的な影響、とくに金融市場への影響が大きいのです。ここで基軸通貨としてのジレンマが露呈してきます。 ?米ドルは米国の通貨であり、その金融政策は米国内の状況・利益のために行われます。中央銀行法を読んでも他国への配慮については書いていない。つまり米国のために勝手に行って良いのです。 ?しかし、いままで米ドルが金利を上げると、過去に南米危機の事例もありましたが、新興国が影響を受ける可能性もあります。金利を上げると新興国が利払いできなくなることに加え、ドル金利の上昇で資金が流出するため新興国も金利を上げなければならなくなるからです。金利を上げると当然、景気に対してはネガティブな影響があります。 ?現在、中国をはじめとした新興国は決して状況が良いわけではないので、影響も大きいのです。もちろん、現在世界経済を牽引している米国の成長率が落ちることも気になります。 イエレンFRB議長の判断を左右する9つの指標 ?通常の中央銀行では、その役割は基本的には物価のコントロールです。しかし、米国の中央銀行はその法律で定められている役割が違います。物価の安定と「完全雇用」を目標としているのです。このような中央銀行は他にはありません。日本銀行も物価の安定が目的で、政府が行う経済政策に反しないこととなっています。 ?さらにいうと、各国の経済政策には根本的な目的があります。米国経済の最大のトラウマは大恐慌で、それは株が下落すること、すなわち景気が悪化することでした。そのため景気の刺激にはそもそも力が入るのです。雇用は景気の代表的な指標です。 ?そのため、米国の金融政策を考える時に雇用の状況が大事になってきます。この観点からすると、FRBは国際金融市場の番人でありながら、労働市場が専門のジャネット・イエレンが任命されるのは理に適っているのです。彼女はもちろん経済学博士号を持っており、その博士論文は失業・賃金と景気の関係でした。まさに現状のテーマです。 ?いままでのFRB議長は失業率や非農業部門雇用数を重視していました。バーナンキ議長の時には失業率が5.6%の時に利上げを行いました。現在はすでに2月の数字ですが5.5%となっています。しかし、イエレン議長は労働市場の専門家であるため、雇用統計のうち特に9個の数値を主として確認・分析しているといわれています。それは失業率・非農業部門雇用者数に加え・長期失業者割合・労働参加率・不完全雇用率・求人率・解雇率・退職率・採用率です。この数値群はイエレン・ダッシュボードといわれています。そのため、雇用統計ナイトなどと盛り上がっていても、失業率や雇用増加数をみて、瞬間的に盛り上がるということが難しくなっています。良く読まなればならないからです。 金融市場最大のイベント「利上げ」のタイミングはいつか? ?FRBは中央銀行で、政府の機関ではありません。 株式会社でその主要株主は大手米国金融機関です。投票も日本銀行の様に全員参加ではありません。 ?連邦公開市場委員会 (FOMC:Federal Open Market Committee) は金融政策を決定する会合で、FRB理事7人と連邦準備銀行総裁5人(ニューヨーク連邦準備銀行総裁と、地区連銀の持ち回りの総裁4人)からなっています。ちなみに、現在は理事が2人空席である。この12人での多数決の投票となります。 ?米国の理事は、当然のことながら経済学の専門家で博士号を持っていることが多く自分の考えや主張を最初から宣言します。インフレに対して厳しい見方をする人たちを「タカ派」、そしてインフレに対して寛容な見方をする人たちを「ハト派」といいます。 ?現在のメンバーを見てみると以下の様になっています。 [ハト派]イエレンFRB議長、ダドリー・ニューヨーク連銀総裁、エバンス・シカゴ連銀総裁、ロックハート・アトランタ連銀総裁 [中間派]フィッシャーFRB副議長、タルーロFRB理事、ブレイナードFRB理事、ウィリアムズ・サンフランシスコ連銀総裁 [タカ派]ラッカー・リッチモンド連銀総裁、パウエルFRB理事 ?このメンバーからすると、「無理に金利を上げる可能性は低い」ということができます。つまり、十分雇用の回復を確認してから対応することになりましょう。会合は年8回開催され、今年はあと、4月28・29日、6月16・17日、7月28・29日、9月16・17日、10月27・28日、12月15・16日となっています。この日程は覚えておいた方が良いでしょう。 ?米国の中央銀行FRBの利上げが今年の金融市場の最大のイベントなのは間違いないのです。 ※本連載は宿輪ゼミや大学講義、そして自身の研究に基づく個人的なものであり、所属する組織とは全く関係はありません。 【著者紹介】 しゅくわ・じゅんいち 博士(経済学)・エコノミスト。この4月から帝京大学経済学部教授就任予定。慶應義塾大学経済学部非常勤講師(国際金融論)も兼務。1963年、東京生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒業後、87年に富士銀行に入行。国際資金為替部、海外勤務などを経て、98年に三和銀行企画部に移籍。合併でUFJ銀行、UFJホールディングス経営企画部等に勤務。兼務で、東京大学大学院、早稲田大学、清華大学大学院(北京)、慶應義塾大学経済学部等で非常勤講師として教鞭。財務省・経済産業省・外務省等の経済・金融関係委員会に参加。2006年よりボランティアによる公開講義「宿輪ゼミ」を主催し、開催数間もなく180回、会員は7900人を超えた。映画評論家としても活躍中。主な著書に日本経済新聞社から『通貨経済学入門(第2版)』(2015年2月刊)、『アジア金融システムの経済学』、東洋経済新報社から『円安vs.円高―どちらの道を選択すべきか(第2版)』(共著)、『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』、『決済システムのすべて(第3版)』(共著)がある。 Facebook宿輪ゼミ:https://www.facebook.com/groups/shukuwaseminar/ 公式サイト:http://www.shukuwa.jp/ http://diamond.jp/articles/-/68571
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