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まさかこんなことになるとは シャープ、最終局面へ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42502
2015年03月17日(火) 週刊現代 :現代ビジネス
世界に冠たるブランド企業が、あれよあれよと土俵際まで追いつめられた。もう、打つ手はほとんど残っていない。社長が替わっても、人と事業を切っても、やはり会社の根っこは変えられないのか。
■戦い、そして敗れた
急転直下。黒字から赤字へ、2000億円以上の転落劇だった。
実に合計9000億円超の赤字を計上、財界に大きな衝撃を与えてからわずか2年足らず。シャープが再び崖っぷちに追い込まれている。
3月3日に駆けめぐった「シャープが主力銀行に支援要請」「工場閉鎖、リストラを検討」という一報。2月初めから、'15年3月期決算で計画を600億円も下回る300億円の赤字を計上する見通しが示されていた中、このニュースは「死の宣告」にも等しかった。
もはやシャープには余力も未来もない—株価は暴落、国内の格付け機関は同社の株を「投機的水準」に格下げした。不採算事業の撤退と工場閉鎖を断行すれば、最終的な赤字は2000億円にも膨らむ見通しだ。市場では、主力行の三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行も「見捨てた」とすら囁かれる。
前回の巨額赤字計上から、社長は2回も替わった。ほんの数年前まで、「世界一の液晶メーカー」だった大企業が、銀行の救済がなければ即座に破綻という状況にまで追い込まれた。これが本当の「最終局面」なのか。30年以上同社に技術者として勤務、液晶や太陽電池の研究開発に携わり、現在は立命館アジア太平洋大学で教鞭をとる、中田行彦氏に聞いた。中田氏は今年1月に上梓した『シャープ「液晶敗戦」の教訓』でも同社の失敗を分析している。
まだシャープが「早川電機工業」と呼ばれていて、業界12位のメーカーにすぎなかった'71年に入社した私にとって、このニュースは本当に残念です。「今期は黒字」と言われていたのに、大赤字だった。「健康体になった」という油断があったのかもしれません。これまで以上に厳しい再建策が要求されるのは確実ですから、もう以前のようなシャープには戻れないでしょう。
今回の赤字転落は、'12~'13年の巨額赤字・経営危機とは別物であると考えるべきです。そして別物であるがゆえに、より深刻だといえます。
前回の経営危機の原因は、私の近著でも詳しく述べていますが、一言で言えば「投資の失敗」でした。「世界の亀山モデル」で液晶テレビのブランド化に成功した亀山工場の成功体験があったせいで、当時の片山幹雄社長は、'09年に稼働した堺工場へ亀山の約4倍、3800億円もの高すぎる投資をした。
その直後、韓国のサムスン製液晶を使った「5万円テレビ」などの安価な製品が市場を席巻し、大量の在庫を抱えてしまったのです。在庫となった高価な液晶は、結局海外のメーカーへ赤字処分せざるを得なかった。この過剰在庫という時限爆弾が爆発し、「シャープ危機」が顕在化しました。
しかしその後は、中国のメーカー・小米科技からスマートフォン用の液晶で同社の全製品の約60%もの大量受注を受け、かなり持ち直していた。昨年の3月期決算では115億円の黒字で、「このままいけば大丈夫」というところまで回復したはずでした。
ところが、昨秋からソニー・東芝・日立3社の液晶部門を統合し、政府系ファンドが出資する合弁会社「ジャパンディスプレイ」に一気にシェアを奪われてしまった。株価が公開価格から大幅に下がったジャパンディスプレイは、価格競争を仕掛けざるを得なかったのです。
明暗を分けたのは、スマートフォンに欠かせない「タッチパネル」でした。シャープの作るパネルは、タッチセンサーと液晶が別々になっていた。これに対して、ジャパンディスプレイのパネルは「インセル方式」というタッチセンサーと液晶が一体化したタイプで、安価だった。中国市場で展開された、この日本企業同士の戦いに敗れたことが、シャープが苦境に陥った直接の原因でした。
■先行投資が裏目に出た
これに加えて、私はもうひとつ原因があったと考えています。それは橋興三社長が、社員たちの「人心の疲弊」を早く回復させたいと考え、優先してしまったのではないかということです。「日経ビジネス」では、昨年夏以降、業績の回復が見えてきた頃から中途退職したOBが再雇用で現場に復帰したり、一部の工場で新卒採用が再開されたりといったことがあったと報じられています。
シャープは社員を大切にする会社で、'12年のリストラが62年ぶりだったほどです。しかし、回復の兆しが見えたからといって、すぐに雇用を元に戻そうとするのは、集中治療室に入っていなければいけないはずの患者が、「治った」と思ってムリに歩き回ったり不摂生をするようなもの。しかも、一度社内の雰囲気が緩むと、もう一度引き締めるのは難しい。
橋社長は、就任後にシャープの経営理念が書かれた紙を社員に配るなど、創業当時の文化に立ち戻ろうとしています。しかし、再建途上の会社では、微妙な判断ミスが赤字転落につながりかねない。しかも、一度赤字になってしまうとどんどん額が膨らんでいきます。
なぜ当初は300億円と言われた赤字額が1000億円以上、場合によっては2000億円以上にまで達するのかというと、不採算事業を切る際には減損処理が必要になるからです。
今回、液晶と並ぶ看板事業だった、太陽光パネルの生産から全面撤退することが検討されているようです。太陽光パネルには私も18年間携わっていましたし、事業としても自立できる目前だったので、断腸の思いです。
実は、太陽光パネルからの撤退が赤字膨張の原因の一つです。シャープは、パネルの原材料である多結晶シリコンを先行予約で購入しています。以前シャープは、太陽光パネルの原材料が足りずにシェアトップから転落したことがありました。その教訓から、現在では予約して確保しているわけです。
しかし長期契約を結ぶと、原材料の価格が下がっても高値掴みを強いられます。こうした状況で太陽光パネルから撤退するとなれば、減損処理として長期契約の補償もしなければなりません。少しの赤字が、こうして一挙に何倍にも膨らんではね返ってくるのです。
■市場から締め出された
今後、太陽電池の他にもLEDやセンサーの工場も閉鎖するそうですが、そうなれば、仮に救済が成功したとしても、シャープはこれまで以上に液晶で勝負せざるを得なくなるでしょう。
かつてシャープは、サムスンの安価な液晶パネルに敗れました。このことを指して、「高級大型液晶テレビの市場が立ち上がらなかった」「シャープの予測が甘かった」と総括する向きがありますが、私の見方は少し違う。シャープは「市場の動向を予測することに失敗した」のではなく、「サムスンが仕掛けたワナにはまった」のではないか、と疑念を抱いています。
実は当時、シャープを敗北に追いやったサムスン側も、決して液晶で儲かっていたわけではありませんでした。「5万円テレビ」が売り出された翌年の'10年以降は、液晶ディスプレイ事業単体で100億円単位の赤字が出続け、その責任をとって担当の幹部が更迭されています。
しかし、サムスン全社で見ると、その間もしっかり黒字をキープしている。サムスンは、スマートフォン事業などで培った経営体力と当時のウォン安を背景にして、「肉を斬らせて骨を断つ」とばかりに価格破壊を仕掛けた可能性があるのです。
目的は、「残存者利益」を得るためです。競争力を失った企業が市場から追い出されれば、生き残った者が利益を独占できる。この戦略は功を奏し、実際に'11年から'12年のたった1年間で、サムスンが薄型テレビの年間シェアを6%も伸ばした一方、日本のメーカーは軒並みマイナス20~30%以上と急落しました。
こうして、シャープが賭けていた「高級大型液晶テレビ」という市場そのものがサムスンに封じ込められた可能性がある。
追い打ちをかけたのが、'10年に投入した、業界初の「4原色」テレビの失敗です。これは、通常のテレビが赤・緑・青の「3原色」しか表示できないのに対し、4色目の黄色を加えることで、映像がより鮮やかになるという触れ込みの製品でした。
しかし実際に見てみると、普通のテレビとの違いがまったく分からない。止まっている画像ならまだしも、一瞬しか画面に映らない黄色の発色がいいかどうか、消費者に伝わるはずがありません。おまけに4原色を表示するためドライバを変えねばならず、コストも高い。技術的に「できるから」というだけの理由で、顧客が求めている以上のものを提供し、失敗してしまう。経営学では「イノベーションのジレンマ」と呼ばれる問題です。
ソニー創業者の盛田昭夫さんは、ビジネスには「3つの創造力」が必要だと述べています。まず、(1)元となる技術。次に、(2)その技術を使ってどんな製品を作るか。そして最後に、(3)作った製品の便利さをアピールし、新しい市場を作り出すこと、この3つです。
私は、液晶に賭けたシャープの戦略そのものが間違っていたとは必ずしも思いません。「液晶だけの一本足打法がダメだった」と指摘する人はたくさんいます。しかし、彼らが数年前まで何と言っていたかというと「選択と集中」でしょう。
シャープには、間違いなく(1)の技術力はある。それを生かす方策を考え、戦略的に市場を創り出さなければ、今後も復活は叶いません。
先ほども少し述べた通り、シャープがここまで追いつめられた発端は、堺工場に高すぎる投資をしたことでした。堺工場はもともと新日鉄の工場跡地をまるごと使用していて、広い敷地を埋めるために、関連メーカーの工場も同じ敷地内に囲い込んでいます。そのために投資額が大きくなりすぎて、損益分岐点が上がり「止められない工場」になってしまいました。
しかし現在、堺工場はシャープ本体から切り離され、シャープと台湾の鴻海が資本提携した企業「堺ディスプレイプロダクト」による運営で黒字が出ています。儲けは着実に出始めていたのです。
世界最大の「第10世代」と呼ばれる生産ラインをもつ堺工場の強みは、超大型液晶パネルです。アメリカや中国などの海外では、大型液晶テレビの需要は盛り上がってきている。例えば、部屋の壁一面を覆うような超巨大液晶の生産は、シャープにしか実現できないでしょう。
また、液晶パネルの消費電力を半分以下に減らすことができる技術「IGZO」にも、ニーズはあると思います。現在、この技術を製品レベルで使えるメーカーは世界中でシャープ以外に存在しない。メーカーと技術者は、難しい言葉を並べて細かい性能ばかり説明しがちです。しかし、例えば「低消費電力」をもっと打ちだすなど、技術的な価値を顧客の価値につなげる必要があります。
■「IGZO」もマネされる
シャープ創業者の早川徳次さんは「他社がまねするような商品を作れ」「他社がまねる商品は消費者が望む商品、つまり売れる商品のことだ」さらに「先発メーカーは、常に後から追いかけられるので、現状に満足せず、その先を考えなくてはいけない」とも言いました。まさに技術開発の真髄を表す言葉だと思います。
シャープが独占してきた「IGZO」の技術も、あと2年、いや1年以内にサムスンなどの他社が追い着くでしょう。しかも、技術革新のスパンはどんどん短くなっている。
ソニーの盛田さんが提唱した「3つの創造力」を、最も忠実にやっているのがアップルです。日本人は技術や機器からスタートして考える癖がどうしても抜けず、事業の全体像を考える「構想力」が弱い。シリコンバレーには、昔から様々な先端技術や人材が集まっていて、それがイノベーション(技術革新)を起こす土壌になっています。半導体もパソコンも、iPhoneもグーグルもそうやって生み出されてきたわけです。
パナソニックがBtоB事業を強化し、またソニーが保険や映画に注力して何とか黒字化を図る中で、シャープには何があるのか。最近はみんなテレビを見ながらスマートフォンをいじっているでしょう。どうすればそれを打破できるか。スマートフォンの「次」を考えるとしたらどうなるか。
シャープは現在、大阪駅構内の壁に、液晶パネルを何枚も並べてデジタル広告を表示し「大画面」と謳っています。しかし、それでは全くダメ。壁一面を世界最高品質の1枚の液晶で覆ってみせるくらいのことをやらなければ意味がありません。それが実現できる技術と構想力を、シャープは持っていたはずです。
「週刊現代」2015年3月21日号より
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