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大塚家具の確執劇は、大変贅沢な悩みである 企業の3分の2が後継者不在に悩み
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150317-00010002-bjournal-bus_all
Business Journal 3月17日(火)6時1分配信
2月最終週から3月第1週にかけて、テレビや新聞、ビジネス誌などで大塚家具創業者の大塚勝久会長と、その娘・久美子社長との確執劇を見ない日はなかった。それぞれには言い分があり、メディアとしても議論しやすく取り上げやすいネタだし、視聴者や読者から人気があるのもよくわかる。しかし、このような創業社長と2代目社長の確執劇は、大塚家具にとどまるものではなく、実はいろいろな企業で見ることができる。
みずほフィナンシャルグループ、明治安田生命保険、損害保険ジャパン日本興亜、東京海上ホールディングスなどそうそうたる企業の出自は、旧安田財閥である。その創業者である安田善次郎氏は1909年に一線を退き、娘婿である安田善三郎氏(ジョン・レノンの妻、オノ・ヨーコの祖父)へ経営権を譲った。善次郎氏は事業ポートフォリオを金融事業へ集中させていたが、善三郎氏は産業部門へそれを拡大しようと考えた。当初、産業部門への進出を認めていた善次郎氏だが、善三郎氏はなかなか結果を出せない。
善次郎氏は家督を善三郎氏に譲りはしたものの、事業経営の実権を把握し続けていた。そして娘婿である善三郎氏はそれに口を挟むことができず、自由な経営を阻害されていた。この善次郎氏と善三郎氏の確執は、大正期に入り、さらに激しくなる。日本鋼管に対する支配権の強化をめぐり激しく対立した結果、善三郎氏は安田家を去ることになった。
安田財閥がもともと得意分野であった金融事業に集中したのは、リスク・マネジメントの観点からはよかったのかもしれない。しかし、産業部門への進出をあきらめたため、日本の四大財閥(三井、三菱、住友、安田)の中で他の三大財閥と比較して、大正期以降、事業拡大では大きく後れを取ることになってしまった。
創業者の強大な権力と、二代目の事業ポートフォリオの転換、そして結果を出せないとすぐに創業者が口を出してくる――。まさに現在の大塚家具と同じような状況である。
筆者は家具業界に詳しいわけではないので、久美子社長と勝久会長のどちらの言い分が正しいかは判断しかねる。既存事業領域にとどまれば、旧安田財閥のようにライバルと比較して頭打ちになるのは避けられないだろうし、仮に新規事業領域に進んでいっても、ライバルと伍して戦えるかどうかはわからない。ただし、新規事業領域に進んで少々失敗したからといってすぐに創業者が口を挟むのでは、その企業に成長はない。
●日清食品の成功事例
カリスマ創業者に挑みながらも事業を拡大しているのが、日清食品ホールディングス代表取締役社長の安藤宏基氏だ。日清食品も創業社長と二代目以降の息子たちとの確執が激しかった。創業者は、チキンラーメン、カップヌードルの生みの親、安藤百福氏。1981年に社長の座を長男の宏寿氏に譲ったが、経営方針の違いからわずか2年で社長に復帰。そして、現社長の次男、宏基氏が85年、社長に就任した。宏基氏の打ち出した有名なスローガンが「打倒!カップヌードル」だ。宏基氏はカップヌードルやどん兵衛、焼そばU・F・Oなどのビッグ・ブランドに安住する企業には成長も未来もないと考え、このようなスローガンを打ち出したわけだ。その結果、ラ王やSpa王など、既存のビッグ・ブランドに負けず劣らず、ヒット商品を出すことができた。
百福氏は晩年まで経営意欲旺盛だったようで、亡くなる前年の95歳の時ですら、東南アジアに工場を建てようと計画していた宏基氏に「広げすぎるな。うまくいかない」と述べ、最後は「俺が辞めるか、お前が辞めるか、どちらかだ」と怒り、宏基氏は計画を断念したという。さすが、創業経営者の迫力は違う。
●国内企業の3分の2が後継者問題に悩み
比較的創業者とうまく付き合ってきた宏基氏は、創業者とうまく付き合うための4つの教訓をこう述べている。
教訓その1 会社の無形資産の中で最大価値は「創業者精神」であると思え
教訓その2 2代目の功績は創業者の偉業の中に含まれると思え
教訓その3 2代目は「守成の経営」に徹すべし
教訓その4 創業者の話に異論を挟むな。まず「ごもっとも」と言え
その3については、「いやいや、どんどんチャレンジしてきたじゃないですか」と突っ込みたくなるが、とにかく創業者を立てながら経営を進めてきたことがうかがえる。この「4つの教訓」は、宏基氏の著書『カップヌードルをぶっつぶせ! 創業者を激怒させた二代目社長のマーケティング流儀』(中央公論新社)で述べられているのだが、むしろ本書の帯にある作家・堺屋太一氏の言葉「二代目には創業者の偉さがわかる。創業者には二代目の苦労はわからない。二代目こそ、強靭で謙虚で大胆でなければならない」が、宏基氏の本音だろう。
もっとも、帝国データバンクの調べによれば、国内企業の3分の2に当たる65.4%が後継者不在で悩んでいるという。事業を承継させる適任者が存在しないわけだ。そんな状況の中、創業者を脅かすような2代目がいるということは、本来はとても頼もしい、ありがたい状況である。
大塚家具の勝久氏は、自分の方針と異なる久美子氏に頭を悩ませているかもしれないが、それは、後継者不在に悩む多くの企業と比較すると、大変贅沢な悩みなのである。
(文=牧田幸裕/信州大学学術研究院(社会科学系)准教授)
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