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物価目標2%を問い直す:追加緩和で達成めざせ 片岡剛士氏:導入2年 賞味期限切れ 須田美矢子氏
http://www.asyura2.com/15/hasan94/msg/440.html
投稿者 あっしら 日時 2015 年 3 月 17 日 03:12:10: Mo7ApAlflbQ6s
 


 「物価目標2%」は、量的緩和政策の正当化ないし理屈付け用のテーマなのだから、それを自己目的化しても議論してもほとんど意味がない。
 せいぜい、経済成長の軌道に乗せるためには、2%程度の物価上昇状況が経路として必要というものでしかない。
 テーマは、国内投資の増加で貸し出しと雇用者所得を増加させることでCPI及びGDPデフレータを上昇させるというものである。賃上げも、そのための“誘い水”として意義があり、たんに賃上げだけを達成しても、実質所得は変わらないどころか逆に減少することになる。

 また、マネーストック(マネーサプライ)の増加は物価上昇に寄与するが、日銀の量的緩和策のように、マネタリーベースの増加それも日銀当座預金アカウントの数値を肥大化させるだけでは物価上昇に影響を与えることはない。
 せいぜいのところ、量的緩和政策に伴う金利低下が円安傾向をもたらすたことで、輸入物価の上昇を通じて国内物価が上昇する可能性がある程度。

 「出口」論の必要性が語られているが、量的緩和政策は「国債財政管理政策」なのだから、悪性インフレになるまでは、「出口」を模索する必要もなければ、「出口」に向かうわけにもいかない。

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[創論]物価目標2%を問い直す

 日銀の異次元緩和(量的・質的金融緩和)開始から、もうすぐ2年。当初約束した「2年で2%の物価上昇」の実現はなお遠い。日本経済は再生へ歩みを進めているのか。緩和積極派の論客、三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員、片岡剛士氏と、元日銀審議委員のキヤノングローバル戦略研究所特別顧問、須田美矢子氏に聞いた。


追加緩和で達成めざせ
三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員 片岡剛士氏

 ――物価上昇が遅れています。そもそもマネーの供給を増やせば物価が上がる、という効果は存在するのですか。

 「2013年は物価が順調に上昇し、予想どおりの効果が出た。金融機関の資産構成を変えるポートフォリオリバランス(資産組み替え)効果が円安・株高をもたらした。2%のインフレ目標をコミット(約束)し、マネーの増加ペースをその達成に見合うものに一気に引き上げたことで、期待インフレ率(先行きの物価見通し)も高まり、相乗効果を生んだ」

 「14年の消費増税が第一の誤算だ。デフレの罠(わな)から抜けきっていない状況では賃金もあまり上がらず、増税による物価の上昇や駆け込み需要の反動減が、経済に悪影響をもたらした。危機からの回復途上であるため、財政緊縮のダメージは非常に大きなものになってしまう。昨年10月に追加緩和をせざるを得ない状況に追い込まれた」

 ――原油安もインフレ目標の達成に強い逆風です。

 「第二の誤算だ。政権側からインフレ目標は1%でもよい、といった声も出ているが、物価が再び下がりそうな局面で、2%目標を見直すことには反対だ。黒田東彦総裁の責任問題に波及しないよう配慮している面があるのかもしれないが、逆に日銀の信用を毀損させてしまう」

 ――そもそも、2年程度という達成期限に無理があったのでないですか。

 「インフレ目標では中長期での達成を目指すのが通常だが、日本はまだ予想インフレ率が2%で安定しておらず、強いコミットメントで期待感を醸成するため、期限を2年程度に区切ったのだろう。重要なのは目標を決めたら、安定して達成するまでやりきること。達成は1年程度、遅れるかもしれない。しかし原油価格は一国の中央銀行に制御できるものではなく、かつ一時的な現象であるならば、2%目標は堅持すべきだ。その点の説明責任が求められる」

 ――追加的な金融緩和は必要になりますか。

 「一時的にせよ、物価がマイナスになるのであれば、実績に照らしてインフレ予想が形成される面も考えると、マイナスの影響が出る可能性はある。4月末といったタイミングで追加緩和に踏み切ることを期待している。株価指数連動型上場投資信託(ETF)の購入拡大など、質的な緩和の側面を強く打ち出すことが効果的だろう」

 ――緩和が長引くと政府と日銀の距離感が問われます。

 「政府と日銀は連携をさらに強めるべきだ。物価安定に向けた双方の責任を明確にするため、日銀法を改正し、共同宣言に法的根拠を持たせる。日銀法上の物価安定の定義を明確にし、雇用最大化の義務を明記する必要もある」
 「政府が問われるのは、財政健全化に向けた日程だ。17年4月に次の消費増税をすると宣言しており、いわば時限を決めた財政緊縮のコミットメントだ。日銀にとって、それまでに財政緊縮が可能な環境、そして緩和が出口に進めるような環境を整える必要があることを意味する。今の状況だとギリギリではないか。本来なら時限を定めず経済の改善を見極めるべきだろう」

 ――連携が強すぎると財政ファイナンス(財政赤字の穴埋め)が懸念されませんか。

 「実態的にはすでに財政ファイナンスになっている。禁じ手といわれるが、国の資源が十分に使われていないデフレ下なら、政府の財政赤字も、中銀による国債の買い入れを通じた通貨供給も許容される。インフレ下では禁じ手なのだ。その境目が、2%のインフレ目標を達成できるか否かになる」
 「いざ物価が上昇し始めると止まらなくなり、ハイパーインフレになるという批判もある。量的緩和の懐疑論者の最後の砦(とりで)ともいえる主張だが、精緻に検証された議論ではない。日銀は2%目標の達成後、かなり長い時間をかけて出口に向かうだろうから、長期金利は数年単位で徐々に上昇していく流れが想定される。金融システム不安が起きたり、金融政策運営に支障を来したりするような事態になるとは思えない」

 ――黒田総裁は出口論に口を閉ざしたままです。

 「これからは真剣に議論する機会があってもいい。とくに財政・金融政策の連携を考えたとき、どんな日程で財政の健全化と日銀の緩和規模の縮小を進めていくべきか、政府と共同して議論する必要は出てくるだろう」

 かたおか・ごうし 慶大院修了。大規模な金融緩和によるデフレ脱却を主張し続けてきた。早大非常勤講師も務める。42歳。

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導入2年 賞味期限切れ
キヤノングローバル戦略研究所特別顧問 須田美矢子氏

実体経済への波及は疑問

 ――2年間の異次元緩和の効果をどう評価しますか。

 「円安と株高が起きたことは認める。1年目は円安の効果でコストプッシュ型の物価上昇が起きた。だが次のステップである実体経済への波及効果は疑問だ。物価上昇を強く宣言することによって期待インフレ率を制御できるとは思えない。マネーの量を拡大する効果も乏しい」

 ――消費増税がなければ、もっと実体経済への効果が出ていた、との声もあります。

 「消費の弱さは増税も一因だが、円安で生活にかかわるモノの値段が継続的に上がったことも、消費者心理を大きく悪化させたと考えている。さらに消費だけでなく、輸出も設備投資も停滞していた」
 「今回、マネーによる物価押し上げを主張する論者らが唱えた必要量を上回るマネーが供給されたのに、物価は十分に上がらなかった。海外では金融政策は万能薬ではないとの見方が広がり、中央銀行の間で財政刺激を求める声も上がっている。うまくいかなかった原因を消費増税に求めることは、海外と同様、金融政策の限界を認め、財政も大事だと言っているに等しい」

 ――20年デフレを打破するには思い切った措置も必要ではありませんか。

 「今の日本経済が『デフレ均衡』の状態なら必要だが、そうは思わない。デフレ均衡は人々がデフレになると思い、それが自己実現している状態だ。だが中長期の物価見通しを示すサーベイデータからは、物価の下落時でも、ならせば1%前後の上昇率で安定してきた様子もうかがえる」
 「問題は、潜在成長率が低いため、需給ギャップが縮小するのは早い半面、何かショックがあると、すぐに景気が失速してしまう点にある。物価の持続的な上昇を伴うような景気の良い状態は長続きしにくい。消費者も企業も、将来が見通せない不安感を抱えているからだろう」

 ――2年という期間を区切り、2%の物価上昇を目指す手法はどうみますか。

 「期限を区切って強硬なコミットメントで政策を進めると、物価至上主義になり、金融政策がそれに振り回されてしまう。その場合、コストプッシュ型の物価上昇しかないのだから、最終的な目標である物価安定のもとでの持続的な成長とは相いれない」
 「結果主義が極めて強い現状では、期待に働きかけるため、政策のコストを無視し、市場を驚かせるような大規模な政策を打ち続けなければならない。これでは市場との対話も成り立たない。将来の出口を見据えたときに、これでよいわけがない」

 ――対案はありますか。

 「導入から2年たち異次元緩和の賞味期限は切れたと思う。金融政策も漸進主義でいい。通常の先進国のように、超長期での実現を目指す柔軟なインフレ目標に変更すべきではないか。多くの国民は物価上昇を困ったことだと感じている。経済の体温が適度に上昇すれば、物価も上向いていく。賃金も上がるなかで、少しずつ物価の上昇を受け入れられるようになるよう時間をかけるべきだろう」
 「最大の懸念は、財政の節度が失われるなかで、日銀の国債購入が財政ファイナンスにつながり、物価上昇に弾みがついてしまう可能性だ。残念ながら、政府の財政健全化に向けた姿勢には疑念を持たざるを得ない。夏には財政健全化の計画をまとめるというが、現時点ではきちんとした内容になるとは思えない」

 ――2%のインフレ目標があれば、物価上昇もそこで止まるのではないですか。

 「本当に物価上昇を止められるかは分からない。マネーの量の効果は、インフレ率が高いほど出てくる。とくに財政の節度が失われると、将来の増税も想定されなくなり、人々はお金をどんどん使おうとする。物価上昇が2%を超えても、国債価格が急落していたら金融システムの安定のために国債を買い続けなければならない事態もありうる。円安、高金利、物価高の悪循環になるおそれは消えない」
 「一刻も早く出口に備えた議論を始めるべきだ。2%の物価上昇がみえてからでは遅すぎる。市場が先を織り込み、混乱を招く。まず2%のインフレ目標が達成したらゆっくりとでも出口に向かうことを確認する。財政ファイナンスはしないことをはっきりさせておき、財政健全化を促す意味もある。出口とは別に、様々なリスクに応じ、緩和の規模を縮小できることを明確にしておくのも重要だ」

 すだ・みやこ 東大院博士課程単位取得退学。学習院大教授を経て2001年から2期10年にわたり日銀審議委員に。66歳。

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〈聞き手から〉「出口」巡る議論が必要

 日本経済の再生に向けた壮大な社会実験が、3年目に入ろうとしている。異次元緩和の効果や物価の認識を巡り、両氏の主張は大きく食い違う。こうした論争が続く間にも、日銀の国債保有残高はどんどん積み上がっていく。財政との距離は大きな焦点だ。

 当初掲げた「2年で2%の物価上昇」は遠いが、現在では「2015年度を中心とする期間」での達成を目指すと説明しており、あと1年ほどの猶予を残す。片岡剛士氏は「1年ほどの遅れ」に言及しており、現実になれば、目標達成が17年4月に予定される次の消費増税の直前になる可能性もある。
 財政と金融との連携強化こそが、長期デフレ脱却の決め手なのか。大規模な緩和の成功には健全な財政が不可欠なのか。両氏とも、日銀が口を閉ざす「出口」を巡る議論の必要性では、おおむね一致した。財政健全化の具体論と併せ、詰めていく必要がある。

(編集委員 大塚節雄)

[日経新聞3月15日朝刊P.11]

 

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コメント
 
01. 2015年3月18日 13:29:55 : nJF6kGWndY

QEで、全ての問題が解決するほど甘くはないのは当然だが

それでハイパーインフレになるというのも妄想


http://jp.reuters.com/article/idJPKBN0ME08J20150318
焦点:黒田日銀緩和2年、浮上するQQEの光と影
2015年 03月 18日 12:51 JST
[東京 18日 ロイター] - 「異次元」の異名をとる量的・質的金融緩和(QQE)が始まって、間もなく2年が経過する。日銀が前例のない大胆な政策に着手したのは、黒田東彦氏が総裁に就任した2013年3月20日。この間、市場心理は劇的に変化し、15年ぶりの株高を演出、最高益企業も続出している。

だが、目標の物価2%は未達だ。ロケットような推進力を目指す黒田日銀はどこへ向かうのか、2年間の足取りから今後の軌道を探った。

<緒戦の大勝利と突風>

「2年でマネタリーベースを2倍にして、物価を2%に引き上げる」という「2年・2倍・2%」のボードを黒田総裁が使って、QQEを発進させたのが13年4月4日。そこから円安が加速し、日経平均は「棒上げ」状態で上昇した。

1週間後の4月11日、元日銀審議委員で安倍晋三首相の経済ブレーンの1人である中原伸之氏は、QQEで大きく価格変動する市場を見据え、爆弾低気圧ならぬ「爆弾高気圧」のニックネームを考案する。マーケットが想定外に変動し、QQEが内外の市場関係者から注目されている様子は、まさに「爆弾」の形容詞がピッタリと当てはまった。

この激変の中核に存在したのは、市場心理の変化だった。黒田総裁と同じ財務官経験者である渡辺博史・国際協力銀行(JBIC)総裁は「センチメントを変えたことは評価されるべき」と称賛する。

だが、1回目の「突風」が海外発で吹いた。13年5月22日、バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長(当時)が「今後数回の会合で債券購入のペースを減速させる決定をすることもあり得る」と述べ、円安と株高のトレンドが乱れた。

翌23日以降、日経平均.N225は一転して下げ基調となり、一時高値からの下げ幅は1000円を超えた。

ある国内金融機関の関係者は「アベノミクスと黒田緩和は、海外からの力に意外ともろいという印象を市場に与えた」と振り返る。

日銀幹部の1人もその直後、「日本経済の基調が弱いため、海外経済に左右されやすいのがわかった」と述べていた。

しかし、米経済と米株が「バーナンキショック」から立ち直り出すと、ジワリと円安が進み出し、株価も底を打って再び上昇トレンドを描き出す。

2013年の1年間でドル/円JPY=EBSは90円から105円へ下落、日経平均は1万0604円から1万6291円へ5割も上昇した。竹中平蔵・慶大教授が「アベノミクスの最初の1年3カ月は大成功」(15年3月3日の講演)と賞するのも、その市場パフォーマンスの高さからだろう。  

円安も誘因となって外国人観光客が急増。東南アジア旅行客のビザ緩和と相まって、2012年に836万人にとどまっていた訪日外国人数が13年には1036万人、14年には1341万人に増加した。「倒産直前の温泉旅館が、中国人観光客の急増で復活した例もある」(政府・与党関係者)と、低迷がちな地方の景気回復に一役買っている。

その間、物価も着々と上昇。13年4月には前年比で0.4%のマイナスだった消費者物価指数(生鮮食品除くコアCPI)が、14年4月に同プラス1.5%(消費増税の影響除く)まで上昇した。

急速な円安進行に加え、労働需給のひっ迫も物価上昇をサポート。実質経済成長率見通しが下振れる一方で、雇用環境は改善を続け、顕在化した供給の天井が、物価動向に重要な需給ギャップの縮小を促す構図を作り出した。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の嶋中雄二・景気循環研究所長は、円安・株高・外国人観光客数増・国内生産回帰の開始により「名目3%成長が実現できる環境ができた」と評価する。

ある日銀幹部が「想定通りというか、正直に言えば想定以上に順調に物価は上がっている」と述べていた。

<うわさされる官邸と日銀の認識ギャップ>

ところが、第2の「突風」が今度は予想以上に強く、そして長く吹き出した。14年4月からの消費増税だ。消費の落ち込みは、政府・日銀の想定を上回り、安倍晋三首相も国会答弁などで、消費に弱さが見える要因の1つに、消費増税の影響を挙げた。

民間でも、積極的な金融緩和を支持する三菱UFJリサーチ&コンサルティング・主任研究員の片岡剛士氏は「消費税の影響が誤算だった」と指摘する。

早稲田大学の若田部昌澄教授は「消費税でアベノミクスは、振りだしに戻ってしまった」と分析する。

日銀はQQE導入後の2013年4月に公表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で、需給ギャップについて13年度から15年度までの「見通し期間後半にかけて、需要超過幅を拡大させていく」と見込んでいた。

だが、こうした需要の低迷や成長の下振れを受け、改善が後ずれした。日銀試算では、14年7─9月期でも小幅マイナスにとどまっており、需給ギャップ改善の遅れが物価の足取りを鈍らせた面もある。

さらに消費税をめぐって、安倍首相と黒田総裁との間に微妙なずれが生じているのではないかとの思惑も、政府・与党内の一部で意識され出していた。

2014年4─6月、7─9月と2四半期連続で国内総生産(GDP)が前期比マイナスとなったことで、官邸は消費増税の影響の大きさに驚く。

消費不振の理由について財務省・日銀が「駆け込み需要の反動」「夏の天候不順」としたことなども含め、安倍首相とその周辺は「本当にそうなのか、と懸念を深めていた」(官邸筋)という。

4月増税の影響が色濃く残る中、黒田総裁が当時、2015年10月に予定されていた10%への消費税再増税の重要性を力説したことも、安倍首相周辺の心証を悪くしたとの声も、政府関係者の一部から挙がっていた。

さらに3つ目の突風が、日銀ロケットの軌道に大きな影響を与え出した。原油価格の下落によるCPI上昇率の鈍化だ。足元の上昇率がどんどんゼロ方向に縮小すれば「2年・2%」という日銀の目標や、目標達成に向けた日銀のやる気を疑われかねない。

日銀のやる気が疑われ出すと「せっかく上がってきたインフレ期待に、水をかけることになりかねない」(日銀幹部)という判断が、電撃的な追加緩和を決断させる。

複数の政府筋は、日銀から直前まで財務省に追加緩和に関する「動き」は伝わらず、財務省にとっても電撃的だったと打ち明ける。

ところが、ここでも首相官邸と日銀との間に、認識ギャップが生じていた可能性がある。政府関係者の一部は「黒田総裁が消費税再引き上げを狙って動いたのではないか」とささやいていた。  

ただ、当時の状況を振り返ると、追加緩和によって「だれがち」だった日経平均に再び上昇モメンタムの「スイッチ」が入り、安倍政権の支持率上昇に貢献したことも事実だ。

ある与党関係者は、追加緩和による株高が、増税延期に反対だった自民党内の声を抑制する効果を持ったと指摘する。政府高官のひとりは、追加緩和が「結果的に解散支援になった」と述べた。

<追加緩和反対者が指摘した副作用>

また、日銀のこの決定過程では、政策委員9人のうち4人が反対に回るという投票結果も生み出した。

そこで論点として浮上したのは、1)国債買い入れの拡大に伴って市場がQQEを財政ファイナンス(財政の穴埋め)と認識する可能性、2)一段の金利低下による金融機関収益への影響と金融面の不均衡が蓄積するリスク、3)円安進行に伴う中小企業経営や家計への悪影響──などだ。

市場関係者の中にも、QQEの副作用に目を向ける声が出始めた。ある国内金融機関の幹部は「金融の現場には、得体のしれないマグマが溜まりつつある」と述べる。

昨年10月31日の追加緩和は、QQEスタート時の「全面的称賛」から、「副作用」を指摘する声を生み出し、図らずも「満2年」を前に、QQEの効果と副作用について、議論を再構築する場を提供したとも言える。

上記の3つの副作用とは別に、QQEの政策効果として当初期待されていた1)金利低下による貸出増、2)円安による輸出増──という波及経路も、見込みと食い違っていたのではないかとの指摘が、市場関係者から出ている。

14年の銀行貸出は前年比2%程度の伸びにとどまり、アベノミクス開始前と比べ、伸び率は1%程度しか拡大していない。

輸出は、14年末から前期比ベースでようやく増加基調に転じている。ただ、12年11月ごろと比べ、円安が5割も進んだのに比べ、輸出の回復ペースは鈍い。

黒田総裁は2月26日の参院財政金融委員会で「原油価格の急落と、消費税引き上げ後の消費低迷と、円安にもかかわらず輸出が伸びなかった点」が想定外であったことを認めた。

「アベノミクスの終焉」の著者として、反アベノミクスの立場を鮮明にしている福井県立大学の服部茂幸教授は「消費の落ち込みは過去と比べて圧倒的に今回の方が大きく、消費増税に全てを押しつけることはできない」「消費は伸び悩んでおり、その意味で金融緩和の効果はない」と述べている。

また、物価が上がらないのは、果たして原油価格の下落だけが原因なのかどうか。一部のエコノミストは、コアコアCPI(除くエネルギー、食料品)の上昇率も鈍化していることを見れば、物価の基調が決して強くないことを物語っているとみている。

デフレ脱却には強力な金融緩和政策の継続が必要としている東京大学大学院経済学研究科・経済学部の渡辺努教授は、日本では、多くの品目の物価上昇率が前年比ゼロ%となっており、2%に多数の品目がある米国とは、インフレ期待のアンカーのされ方が異なると説明。今後も強力な緩和で、企業の価格設定に影響を及ぼす必要があると分析している。

黒田総裁は2月27日の講演の中で、15年も続いたデフレ均衡から脱出するためには「ロケットが強力な地球の引力圏から離れる時のように、大きな推進力が必要になる」「他国の衛星より低い高度1%の軌道までたどり着けば十分というのではない」と力説した。

2年間のQQE実施で得られた「利点」と「副作用」の詳細な点検によって、この先のロケットの軌道が決まることになるだろう。その際に重視されるのは、QQE緒戦の戦いで勝利を飾った原動力である「期待」ではないだろうか。

その期待を維持、強化するため、黒田総裁がどういう手を打ってくるのか、内外の市場関係者の注目は、春の気温上昇とともに高まりそうだ。

(竹本能文、伊藤純夫 編集:田巻一彦)


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