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スカイマーク破綻を招いた下手なモノマネ&広報、LCCで唯一ピーチ好調の戦略的理由
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150314-00010002-bjournal-bus_all
Business Journal 3月14日(土)6時1分配信
2012年は、日本の格安航空元年だったといわれている。しかし、この年に新規参入した格安航空会社(LCC)3社のうち好調といえるのは、14年3月期には単年黒字を達成したピーチ・アビエーションだけだ。エアアジア・ジャパンは出資元の全日本空輸とマレーシアのエアアジアが合併を解消してバニラ・エアになり、ジェットスター・ジャパンは2年目も赤字で低空飛行のままだ。
1998年に運航を開始したスカイマークは、日本の航空産業の規制緩和によって新規参入できた航空会社の第1号だ。ピーチやバニラやジェットスターのように全日空や日本航空傘下にはないので、第三極と呼ばれることが多い。とはいえ、サービスの簡素化と大手2社に比べて安い料金を売りにしているので、利用者視点からみればLCCのグループに入れてもよいだろう。このスカイマークも今年、経営悪化で民事再生法の申請に至っている。
世界のLCCは、米国のサウスウエスト航空のビジネスモデルを模倣することでつくられたといえる。米国の航空業の規制緩和は78年に始まったが、サウスウエスト航空は71年から営業を開始した。その年こそ赤字だったが、その後40年以上利益を計上し続けている。固定費比率が高く、利益を出すことが難しいとされる航空業では非常に珍しいことだ。14年の旅客数は8600万人で全米1位、世界でも第4位につけており、模倣するに値する会社だといえる。
世界の航空市場に占めるLCCのシェア(座席数ベース)は25%を超え、特に欧州では35%にまで成長している。だが、各国で数多くのLCCが誕生する一方で、すでに50社以上が倒産しており、好調な会社が非常に少ないのも事実だ。同じ会社をマネしているのに、なぜ結果が異なるのだろうか?
●サウスウエスト航空のビジネスモデル
サウスウエスト航空のビジネスモデルの基本は、次の4点にあるとされる。
(1)同一種類の航空機(ボーイング737)を使用→パイロットを含めた乗組員や整備士の訓練の簡素化(部品在庫を含め、機体の維持経費の削減もできる)→従業員の生産性が高くなる
(2)2つの空港をノンストップで結ぶ。しかも、中小の混雑の少ない空港を利用→スケジュールの遅延が少ない→便数を増やすことができる→機体の稼働率を高める
(3)限定的な顧客サービス。食事サービスや指定席を排除→20分以内に発着作業を完了することで航空機の回転率を上げる→機体の稼働率を高める
(4)マルチタスクをこなす従業員。例えば、簡単な清掃は乗務員がこなす→発着時間が短くなる→従業員の生産性が高くなり、機体の稼働率を高める
サウスウエスト航空は、燃料価格のヘッジング【編註:価格変動に伴うリスクを先物取引を利用して回避すること】を競合に先駆けて採用している。確かに、これも利益を出すには重要な要素ではあるが、利益を上げながら低料金を実現するLCCのビジネスモデルという観点では、上の4つが基本要素として挙げられるだろう。
4つの要素は複雑に絡み合っている。例えば、大都市の2番手空港や中都市の空港をノンストップで飛ぶ。長距離路線は飛ばないから、機体はボーイング737の1種類で事足りる。また、数時間の飛行のため食事を出さずに済み、狭い座席でも乗客は我慢できる。目的地に着いたら乗務員が簡単な清掃をして新たな乗客を迎える。そのため20分以内に離陸できる。このように4つの要素は関連しており、1つでも欠けると全体に問題が出てくる。
競争戦略で有名な米経営学者のマイケル・ポーターは、マネしやすい企業(ビジネスモデル)とマネしにくい企業との違いを「活動マップ」を描くことで視覚的に説明した。つまり、その企業のビジネスモデルに特有な、すなわち競合他社との差別化に効果的な要素が互いに影響を与え合い、複雑に絡み合っていればいるほど簡単にはマネができない。LCCの場合、顧客サービスを排除すれば成功するというわけでもなく、機体を1種類にすればそれで成功するというわけでもない。4つの要素は互いに影響を及ぼし合い、全体として頑強なビジネスモデルを構築するのだ。
●日本の航空規制がLCCの成長を阻害
サウスウエスト航空は、航空業規制緩和が進むとともに路線を拡大して成長していった。日本の場合は、86年以降、段階的に規制緩和政策が進められているとはいえ、制約はいまだに多々存在する。
例えば、空港における制約。日本のLCCでピーチだけが好調なのは、ピーチが関西国際空港を拠点としているからだといわれる。他の2社の主要拠点は成田空港。関空は24時間運営だが、成田は騒音問題の影響で夜11時から翌朝6時までは発着ができない。しかも、混雑する空港だ。1路線で安定的な黒字を出すには1日4往復(8便)の運行が必要とされるが、成田を拠点とするバニラやジェットスターはせいぜい3往復6便しかない。そのうえ午後11時の門限に遅れれば、翌朝の初便が欠航となる。
24時間利用可能な関空を拠点にしたピーチは、12年の就航から1年間で平均定時出航率は83%でLCCトップ、欠航率も大手並みの1%。当然のことながら利用率も増え、14年の平均搭乗率は83%と極めて高い。
そもそも、日本の大手空港のインフラ条件はLCCが利益を出して飛べるような内容にはなっていない。発着枠などの運航条件の制約もあり、着陸料や使用料も中国や韓国に比べると3倍ほど高い。もちろん、成田をはじめ国内の他空港も、海外の空港との競争を視野に制約や料金を変更する傾向にはあるが、そのスピードは遅い。ちなみに、1座席1キロメートル当たりのコストを見ると、エアアジアが3円台、国内LCCは8円台、国内大手航空会社は10〜11円だとされる。
このような日本の航空産業の制約は、日本のLCCがサウスウエスト航空のマネをしきれない大きな理由のひとつとなっている。
●サービスの簡素化に失敗したスカイマーク
そしてもうひとつの要因は、顧客サービスの簡素化に関係することだ。特に、スカイマークの例がわかりやすい。
スカイマークは12年に消費者への苦情対策について、消費者庁から改善勧告を受けている。機内で配布していた文書「スカイマーク・サービスコンセプト」には、スカイマークの機内サービス方針が8項目記されていた。例えば、「機内での苦情は一切受けつけません。不満がある場合は、お客様相談センターあるいは消費生活センター等に直接ご連絡ください」と書いてあった。苦情を公的機関に押しつける姿勢は容認できないとして、消費者庁は文書回収を指示した。その一方、この文書の書き方が傲慢だと世間一般からも批判された。例えば、「荷物の収納の援助を行いません」「幼児の泣き声に関する苦情は一切受け付けません」といった項目に関し、LCCでは手厚いサービスがないのは仕方ないとしても、文章の書き方が断定的で上から目線だとの指摘が相次いだ。
この出来事に関する報道では、「たとえ格安航空でも、日本の消費者には日本流の丁寧なサービスが必要なのではないか」「海外では格安と引き換えの不便さを利用者はある程度理解して利用しているが、大手の高いサービス水準に慣れた日本の利用者には戸惑いがある」という論調が目立った。つまり、「価格」と「サービス」の両立を日本の消費者は求めているという意見だ。これは、正しい意見だろうか?
筆者は、このメディアの論調は間違っていると考えている。現に、ピーチの井上慎一CEOは「関西の人たちは合理的だから、価格が安い分、サービスが簡素化されていることを納得している」と発言している。確かに、関西と関東では消費者の考え方に少しは違いがあるだろうが、それよりも消費者にいかに上手に事前広報をするかの影響が大きいのではないだろうか。
ピーチに関しては、関西財界が積極的にサポートをし、地元メディアでもたびたび大きく取り上げられた。これによって、一般消費者も低価格は低サービスだというトレードオフの関係についてかなり啓蒙されたといえる。
消費者調査に特化した専門誌「日経消費インサイト」(日本経済新聞社)による『LCC利用者の意識と行動調査2014年』によれば、12年以降に飛行機で国内旅行した人のうち、国内線LCC利用率は関東13%に対して関西30%。それだけPR効果があったということだろう。しかも、ピーチの利用者の2〜3割は飛行機を初めて利用した客だ。
●事前広報が顧客の満足度を上げるカギ
サービスを研究するサービスサイエンスという学問においては、客がサービスを利用する前に抱いている期待(事前期待)を、実際に利用した後の感想や評価が上回れば満足することがわかっている。反対に、期待が大きすぎると評価との差が大きくなり、不満足度も大きくなる。つまり、顧客満足は絶対値ではなく、事前期待と実績評価の相対値で決まるとされる。
そうした観点で見ると、LCCのサービスについて、関西圏以外の日本の消費者は、事前にサービスと価格との間にトレードオフがあることを十分に知らされていなかったのではないかという疑問が生じる。つまり、LCCにはサービスを期待すべきではないという広報活動(啓蒙活動)が足りていなかったということだ。
例えば、欧州最大の旅客数を誇るLCC、アイルランド・ライアンエアーのマイケル・オーリアリーCEOは、過激な発言で頻繁にメディアをにぎわせる。11年には、機内トイレを有料にしたいと発言して話題になった。「乗客が空港で用を足してくれば、トイレの数を減らすことができ、それが座席数の増加につながり、結果として運賃を安くすることができる」として、有料トイレは客にとっても得になると説いた。
実施するか否かは別にして、このような発言はメディアも面白がって取り上げ、それが客の事前期待をつくる。06年に持ち込み荷物の有料化に踏み切った際には批判もあったが、「有料にすることで客は機内持ち込み荷物を減らそうと考え、チェックインカウンターや係員の数も減らせるので、コストが下がり、運賃を減らせる」と説明し、実行に移された。手荷物一個につき約500円徴収したが、基本運賃を同額値下げしたため、客も文句を言えなかった。このような経緯であれば、「価格」と「サービス」はトレードオフの関係にあるということを一般消費者も実感できる。さらに、会社経営者のコスト削減に対する真剣さも実感できる。
オーリアリーCEOについては、12年には立ち席をつくる計画もしたが、規制に反するとの指摘を受けてあきらめたといった報道もあった。このようなニュースがメディアに登場すればするほど、ライアンエアーはコスト削減に貪欲な会社→それだけ料金が安いという事前期待ができあがり、敷居が下がる。そして実際に乗ってみると、思っていたよりは乗り心地もサービスも悪くなかったと高評価を得られることになるのだ。
ピーチが就航前に関西国際空港で開いた運賃発表会では、「大阪−札幌4780円」「機内サービス有料」という手書きのボードが使われ、いかにコストをかけないように準備したかを印象づける記者会見になった。事務所の備品をネットオークションで購入したことや、1円単位のコスト削減策が話題になり、メディアで紹介された。これも事前期待をつくるためのPR活動として効果的だった。
●スカイマークの矛盾
その点、スカイマークの顧客戦略、コミュニケーション戦略は矛盾していた。14年に、仏エアバスA330型機を導入したときには、超ミニスカートの女性客室乗務員がA330の機体の前で写真に納まった。A330が飛ぶ路線において半年間限定でミニスカの制服が採用されるとしていた。ところが、A330導入よりミニスカートに話題が集まってしまい、保安上や業務上の問題、またセクハラの危険などを指摘する声があふれた。それに対して、当時の社長だった西久保愼一氏は、「キャンペーン服として用意したものが、あまりに評判が沸き立ち、こちらも困惑している。かなり歪んだ解釈をされているのは非常に残念だ」と答えている。
ここで思い出してほしいのだが、12年に物議を醸した「スカイマーク・サービスコンセプト」には「客室乗務員は保安要員として搭乗勤務に就いており接客は補助的なものと位置付けております」とはっきり書いてあった。ミニスカートの乗務員が緊急時に主要職務とされる保安業務をどう果たすのだろうか。まずジャージーに着替えてから対処するとでも言うのだろうか。
確かに、サウスウエスト航空も、最初はホットパンツとゴーゴーブーツを履いた女性乗務員で有名になった。地方の小さな格安航空が営業を開始してもメディアは取り上げてくれないため、ホットパンツとゴーゴーブーツで名を馳せた。しかし、それはあくまで70年代のことだ。当時はミニスカート全盛時代で、ホットパンツもゴーゴーブーツも乗務員の制服としては異色だったためニュースになったが、当時の流行のファッションだった(ちなみにホットパンツは71〜72年に日本でも流行している)。また、セクシーな制服は、「Love Airline」として「Love」をウリにしていたサウスウエスト航空の企業テーマにも合っていた。
そういった歴史を考えると、スカイマークの14年のミニスカートは時代錯誤としかいいようがない。それ以前に、サウスウエスト航空が有名になったひとつの要因だけを取り上げ、ほかの要因や背景と関係なしにマネする行為は、マイケル・ポーターが言うところの「下手な模倣」だ。
ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学教授
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