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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第116回 日本の経済成長の「黄金パターン」
http://wjn.jp/article/detail/1884341/
週刊実話 2015年3月19日 特大号
筆者が望む「日本の経済政策」は、
「安全保障強化(防衛・防災・防犯・エネルギー・食料・医療・介護・流通など)の需要に対し、潜在GDP(供給能力)を高めることによる高度成長の再来」
である。
「高度成長の再来」と書くと、「そんなことができるはずがない」と反発を受けそうだが、我が国が少なくとも「高度成長期と同じ環境」になることは、実は確定している。
どういうことか。
我が国は現在、少子高齢化により生産年齢人口が総人口に占める割合(生産年齢対総人口比率)が低下している。生産年齢人口とは、15歳〜64歳までの、いわゆる「現役世代」のことだ。
日本の生産年齢人口は、総人口を上回るハイペースで減少している。結果、我が国は総需要(名目GDP)に対し供給能力(潜在GDP)が不足する「インフレギャップ」の状況に間違いなくなる。
現在、一部の業界で「人手不足」が顕在化しているが、こんなものでは済まない。生産年齢人口対総人口比率が低下している以上、近い将来、我が国は「超人手不足」という問題に直面することになるのだ
そして、人手不足が深刻化し、インフレギャップが拡大した環境において、安全保障を中心とした需要を満たすために「生産性向上」により潜在GDPを拡大しようとしたとき、我が国は再び華やかな経済成長の時代を迎えることになる。
生産性の向上とは、ミクロレベルで見ると、
「企業で働く労働者一人当たりのモノ・サービスの生産を増やすこと」
という意味を持つ。
労働者の数が変わらない状況で、モノやサービスという付加価値の生産が増えれば、当然ながら企業の利益は増える。
さらに、マクロレベルの生産性向上とは、
「生産者一人当たりのモノ・サービス(付加価値)の生産の拡大」
なのだ。
GDP三面等価の原則により、付加価値の生産、需要(消費・投資)、そして「所得」は必ず一致する。つまりは、生産性が向上すると、国民の「所得」が増えていくことになるわけだ。
所得が増え、豊かになった国民は消費(民間最終消費支出)や投資(民間住宅など)という需要を拡大するため、
「インフレギャップを埋めるための生産性向上が、国民を豊かにし、需要を拡大することで、インフレギャップが埋まらない」
という、素晴らしい環境、すなわち高度成長期と同じ環境が実現することになるのである。
日本が高度成長した理由は、人口増でも輸出増でもなく(影響がゼロというわけではないが)、インフレギャップの拡大と、ギャップを埋めるための日本国民、日本企業、そして日本政府による生産性向上の努力だったのである。
インフレギャップを埋めるため、日本国民が生産性を高めると、生産者一人当たりの所得が増える。所得が増えた国民は、需要を増やす。需要が増えると、インフレギャップはまたもや拡大してしまう。
というわけで、インフレギャップを埋めるために、また国民が生産性向上の努力をする。実際に生産性が高まると、所得増加により国民が豊かになり…と、「生産性の向上⇒生産者の所得拡大⇒民間の需要拡大⇒インフレギャップ⇒生産性の向上」の循環が継続することこそが、日本の経済成長の黄金パターンなのだ。
もっとも、デフレが継続している状況で無闇に生産性を高めると、同じ量のモノ・サービスを生産するために必要な労働者の数が減ってしまう。すなわち、同じ粗利益(付加価値)を稼ぐために必要な「ヒト」の数が少なくなるという状況になりかねない。
デフレ期に「労働者の数を減らす」形で生産性が向上した場合、企業の利益は確かに増えるが、国民経済としては困った話になる。
何しろ、総需要(=付加価値の総計=名目GDP)が増えないにもかかわらず、「同じ付加価値を生産する人の数が減る」以上、当たり前だが失業者が増える。失業者は消費を減らすため、総需要はますます低迷することになってしまうのだ。
つまり、デフレが悪化する。「黄金パターン」とは真逆の悪循環が発生し、国民は貧困化していく。
ミクロ(企業単位)では合理的な生産性向上が、マクロ(国民経済)では極めて非合理な結果をもたらす。これもまた、合成の誤謬(誤り)の一種というわけである。
まとめると、とにもかくにも日本経済はさっさと「需要(名目GDPの支出面)」を拡大し、デフレギャップからインフレギャップへと転換しなければならないという話だ。
具体的には、「誰か」が総需要となる消費、投資を拡大し、「総需要>供給能力(インフレギャップ)」の環境を創出する必要がある。デフレ期に主体的に消費や投資を増やせる存在は、もちろん政府以外には存在しない。
政府が安全保障強化(防衛・防災・防犯・エネルギー・食料・医療・介護・流通など)のための支出を増やし、国民経済の環境をインフレギャップに持ち込むのだ。
首尾よくインフレギャップの環境になれば、企業は生産性向上により供給能力の拡大を目指すことになる。その後は、生産性の向上が国民の豊かさと新たな需要を創出する「黄金パターン」が、民間主導で実現することになるだろう。
ちなみに、高度成長期の我が国は、生産年齢人口一人当たりの実質GDPが、何と平均で7%を超える上昇を見せた。マクロ的に毎年7%超の「生産性の向上=国民の所得増大」が続いたのである。
そして、我が国は生産年齢人口対総人口比率の低下により、否応なしにインフレギャップの時代へと突入する。人口構造は簡単には変わらないため、近い将来、日本国が「超人手不足」となるのは間違いない。
いかがだろうか。「少子高齢化により、日本は衰退する」とマスコミでは報じられている。とはいえ、現実は逆の可能性もあるのだ。
少子高齢化による生産年齢人口比率の低下こそが、日本経済を救うことになる「未来」もあり得ることを理解すると、世の中が異なる色で見えてこないだろうか。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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