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コラム:雇用統計後のドル独歩高に「自滅」リスク=上野泰也氏
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPKBN0M70A520150311
2015年 03月 11日 16:15 JST ロイター
上野泰也 みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
[東京 11日] - 3月6日に発表された米2月雇用統計で、非農業部門雇用者数は前月比29.5万人増と予想を上回る強い数字となり、失業率は2008年5月以来の水準である5.5%に下がった。これらの数字を材料にして「米利上げ6月開始」説が市場で久しぶりに勢いを増したため、米国債利回りは急上昇し、為替市場では幅広い通貨に対してドルが買い進まれた。
週明け9日以降もドル買いの勢いは止まらず、ドル上昇幅において出遅れ感があるとみられていた対円相場は、10日の東京市場で一時122円台に乗せた。
だが、今般の円安ドル高の持続性について、筆者はかなり懐疑的に見ている。統一地方選を控える日本の政府・与党から過度の円安をけん制する発言が出やすいという事情もあるが、最大の理由は、イエレン議長が率いる米連邦準備理事会(FRB)の利上げがアグレッシブなものになる可能性が極めて低いことである。
今回の米雇用統計を見ると、利上げ開始時期との関連で市場の注目度が高い民間部門の時間当たり賃金は24.78ドルで、前月から0.03ドル増にとどまった(前月比プラス0.1%)。前年同月比ではプラス2.0%で、過去5年ほど推移してきたレンジ内にしっかり収まる穏当な数字である。サービス分野のインフレ動向に大きな影響を及ぼす賃金の伸び率が加速し始めた兆候は、今回も見られなかったわけである。
昨年12月のFRB理事・地区連銀総裁経済見通し(中心的傾向)で、失業率の「長期」水準(自然失業率に相当)として示された数字は5.2―5.5%だった。このレンジの上限である5.5%まで実際の失業率が低下したため、米国では完全雇用が実現したのではないかとする論者もいる。だが、雇用の「量」だけではなく「質」についてもイエレン議長は以前から十分目配りしており、5.5%という数字が半ば機械的に早期利上げのトリガーになるとは考えにくい。
FRBが課されている2つの責務である「物価安定」と「最大雇用」のうち、利上げに始まる金融政策の正常化を推し進める際の議論の軸足は、「物価安定」へとすでに傾斜しつつあると筆者は見ている。実際、イエレン議長は2月下旬に行った定例議会証言の中で、以下のように述べている。
「労働市場の状況が改善を続け、さらなる改善が予想される場合、入手されるデータをベースにして、インフレ率がわれわれの2%の目標に向けて中期的に戻っていくだろうとFOMC(米連邦公開市場委員会)が合理的に確信する時に、FF(フェデラルファンド)レートの目標レンジを引き上げることが適切になるだろうとFOMCは見ている」(筆者訳)。2%に向けた物価上昇率加速について「合理的な確信」が得られたというコンセンサスがFOMC内で得られるまでには、データの蓄積を含め、少なからぬ時間が必要だろう。
また、米国の自然失業率が以前よりも下がっているのではないかという見解の持ち主が、FOMC内に複数名存在している。雇用情勢が改善しても賃金増加に加速感が出てこない時間が長くなる中で、そうした見解への支持は広がりやすいと考えられる。
その一方、3月のFOMC声明文で現在のフォワードガイダンスのキーワードである「忍耐強くいられる(can be patient)」が削除される可能性は、今年のFOMCで投票権を有する地区連銀総裁のうち3名、すなわちハト派のエバンズ・シカゴ連銀総裁、イエレン議長に近い存在とされるウィリアムズ・サンフランシスコ連銀総裁、タカ派のラッカー・リッチモンド連銀総裁の直近の発言内容から考えて、かなり高くなったと言わざるを得ない。
だが、同文言の削除はあくまでも利上げを開始する時期について政策当局が十分な自由度を確保するという選択であって、実際の利上げ開始決定は「データ次第」であるという根本原則に変わりはない。
そして、判断材料となるデータの中では、雇用者数や失業率よりも、賃金・物価関連の数字が重視されるだろう。失業率は順調に低下してきているが、前述の通り時間当たり賃金は前年同月比プラス2%前後のレンジ内に収まったままである。景気回復が続いていても雇用の「中身」がまだ濃くなっていないことに加えて、あるいはそれ以上に、グローバル化・IT化が進む中で賃金が上がりにくくなった(そして人件費をベースに決まる度合いが高いサービスの価格も上がりにくくなった)という世界経済の重要な構造変化が寄与していると、筆者は見ている。
さらに、米国ではドル高が財の価格上昇を抑制しており、サービスと財の双方で物価の上昇圧力が弱い状態が今後も続きそうである。このことは早期利上げ開始論にとって、強い逆風である。そして、それでもFRBが無理に利上げを始めれば(さらには積み重ねれば)、為替市場でドルの独歩高が進み、米国の景気・物価への下押し圧力が一段と強まってしまうというジレンマが存在する。
<125円台トライは秋まで期待薄>
もう1つ重要なことは、イエレンFRBがハト派寄りのアプローチに傾斜する根底にある「リスクマネジメント」という観点である。
すなわち、タイミングが早すぎる利上げを実行して失敗した場合にはその後の対応が困難を極める(利上げの撤回を意味する利下げだけでなく「QE4」への突入が現実味を帯びる)一方で、タイミングが遅れた利上げならばインフレ率の目標比上振れに対して追加利上げの幅やペースの調整などによって善後処置を講じることが十分可能だという考え方がある。
イエレン議長、フィッシャー副議長とともにFRB指導部のキーパーソンであるダドリー・ニューヨーク連銀総裁は先日、利上げ開始に際してはそうした方針をとるべきだと、あらためて述べていた。
3月10日の米国市場でニューヨークダウ工業株30種平均は前日比332.78ドルの大幅安になった。原因はドル独歩高が米国の企業業績に及ぼす悪影響への警戒感の強まりである。イエレン議長がじっくり待たずに利上げを行うようだと、「自滅する恐れがありますよ」という市場からの警告だと受け止められる。
米国の利上げはいわば「自然体」で、市場から促される形で「受け身」で行われるのが、現実問題として望ましいと考えられる。無理をすれば景気減速、物価上昇率の鈍化につながるだけでなく、バブルの色彩を帯びている米国株の大幅下落を通じて世界経済を大きな混乱に巻き込みかねない。
米国の利上げ開始は今年12月のFOMCまでずれ込むだろうという筆者の予想には、今回の雇用統計が発表された後も変わりがない。そして、その後の追加利上げペースは、賃金・物価動向によほどの状況変化(上振れ)がない限り、半年に1回程度といった極めてスローなものにとどまるだろう。
とすれば、ドル高円安が今回の雇用統計をスタート台にしてこのまま加速していくのは難しいという結論になる。ドル円が大きな節目である124.14円さらには125円を試すタイミングは、今年10月末近くに日銀が追加緩和に動いた後になるというのが、筆者のシナリオである。
*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。
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