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日銀の2度の大規模金融緩和で株は上がったが、そのウラで起きていることとは?(撮影:今井康一)
もし「日銀バブル」が崩壊したらどうなるのか 日経平均「15年ぶり高値」の裏側にあるもの
http://toyokeizai.net/articles/-/62926
2015年03月12日 草食投資隊:渋澤健、中野晴啓、藤野英人 東洋経済
株価が堅調に推移しています。直近ではやや高値波乱となっていますが、米国やドイツでは連日、過去最高値を更新。日本の株価も15年ぶりの高値水準を付けてきました。その背景には何があるのでしょうか。草食投資隊の3人が、「株価の裏側」について検証します。
■日本株は公的セクターの「総食投資」状態?
藤野:「マーケットが汚れている」って思いませんか?
中野:ん?どういうこと?
藤野:このところの上昇相場についてなんですが、まあ、株価が上がっているのはよしとして、問題はプレイヤーだと思うのですよ。株高なのに、個人投資家は売っている。じゃあ、なぜ株価が上がっているのか。これ、サラリーマン買いですよね。GPIFとか日本郵政とか、あるいは日銀が、「仕事だから」と言って買っているだけ。結果、インデックス買いになって、確かにインデックスは上昇しているのだけれども、個別銘柄で見ると、あまり株価が上がっている感じがしない。
渋澤:我々は「草食投資隊」だけれども、今のマーケットの主役は「総食投資隊」だね。
中野:ますます???わからない。
渋澤:いや、つまりね、国を挙げて、総出で日本株を買いに来ているな〜って思って、「総食」。GPIFも日銀も、そして、今度は郵政まで……。爆買い状態じゃないですか。
中野:あ、なるほどですね。総食(笑)。
藤野:そして、この爆買いの裏にあるのが、今や世界的に進行している金利の急低下。金利が消滅しかかっています。
中野:確かに、イールドカーブ、すなわち金利曲線を見ると、今まで見られなかった形をしていますよね。本来イールドカーブって、短期が低くて、長期になるほど上がっていくという形だったのですが、最近は短いところから中期にかけて下がり、その先の長いところに向けて上昇していくという形になっています。
■マイナス金利というバブルは、なぜ起きているのか
藤野:経済の教科書になかった現象ですよね。
中野:そもそも「マイナス金利」って経済の教科書に載っているんでしょうか。
渋澤:載っていないでしょう。このままだと日本でもいずれマイナス金利が実現しそうですよね。これ、明らかにおかしい現象でしょう。本来、金利ってお金を借りた側が、お金を貸した側に支払うものですが、これが逆転するということでしょう。あまりにもおかしな話だし、そのなかで株価が上昇するのはいいけれども、あまりにも不安定という感じがします。
藤野:まあ、そうなのですが、でも下がるとはかぎらないのがマーケットなのですよね。
渋澤:でも、それってバブルでしょう。
中野:仮に今、起っているのがバブルだとしても、それがいつ弾けるのかがわからない。下手をすれば上に持っていかれてしまう恐れがある。だから、買わざるをえないというのが、今の株高の裏にあるようですね。
藤野:マーケットの主要プレイヤーが、ヘッジファンドから各国中央銀行に移りましたよね。特にリーマンショック以降、その傾向が加速した印象を受けます。
中野:それは当初、合理性があったと思うのですよ。何しろリーマンショックの直後は、マーケットから完全に流動性が消えてしまったのですから。まさに中央銀行が最後の買い手になったわけです。
ただ、異常な事態が収束したら、さっさと中央銀行は奥に引っ込まなければならなかったのに、ずっと主役の座に居座り続けてしまった。米国は今、ようやく出口に差しかかってきましたが、その途端、今度は日本と欧州が量的金融緩和を実施して、状況がますますおかしくなったというのが、現状でしょう。
渋澤:市場に流動性を供給という大義で、日銀はETFやJ-REITを買っているじゃないですか。欧米って、どうなんだろう。
中野:少なくとも米国の場合は、国債とファニーメイなどの住宅ローン債権です。
渋澤:国債も住宅ローン債権も償還日が設けられていますよね。中央銀行が継続的に買ったとしても、一方で償還を迎えるものがあるから、両者が均衡すれば、バランスシートの保有資産として、残高が大きく積み上がることはないでしょう。
でも、ETFやJ-REITには償還日がないので、買い続けているかぎりは残高が積み上がってしまいます。このようなバランスシートって、中央銀行の役目なんでしょうか。いずれ経済が正常化した時に、中央銀行のバランスシートも正常化させるために、これらが売りに出される必要がありますね。その時のインパクトって、どうなんでしょう。
中野:過去数十年にわたって続いたことは、徐々に常態化していくわけですが、それが今、大きく変わろうとしています。まさにターニングポイントなのでしょう。FRBのバランスシートが4倍にまで膨らむなんて、今までになかったことですが、恐らくこれが元の状態に戻ることはない。
これからは、中央銀行がバランスシートを膨らませて、市場に流動性を供給することが、ごく普通に行われるようになるのかも知れませんし、この超低金利もデファクトになるのかも知れません。問題は、それが何を意味するのかということですね。
■国家資本主義経済で歪むマーケット
渋澤:官製・国家主義資本経済ということでしょうか。
藤野:総売りの中で官だけが買うという、今の国債市場に起こっていることが、いずれ株式市場にも起こるのかも知れませんね。まさに中央銀行ひとりの爆買い。
渋澤:ただ、GPIFや郵政の財源は国民の資産ということで中身がわかりやすいですが、日銀の場合、よくわかりませんよね。それをやり続けるのは危険な気がします。しかも、ETFやJ-REITを買っているお金って、どうやって調達しているの? FB(政府短期証券)を発行して調達した資金?
中野:いや、FBは為替介入を行う際の資金ですよね。輪転機回してお金を刷って、それをETFやJ-REITの買い付けに回しているだけじゃないですか。
渋澤:え〜、紙幣を刷るということは……、お金を増やして、それで株を買ってる。なんか、ますます“きな臭い”感じがしますね。
藤野:ただ、今のところは、ものすごい含み益になっているはずです。
中野:だから、マジックなんですよ。日銀による国債の買い入れは財政ファイナンスだという批判を受けていますが、ETFは現物を買っているわけですから、日銀は株式そのものを買い出したということですよね。このまま買い続けたら、日銀は実質的に日本企業の大株主?
藤野:メガバンクは保有している国債を日銀に買ってもらう。そこで得た国債の売却資金を、今度はJ-REITの買い付けに回している。企業融資などの成長資金には回らない。なんだか滅茶苦茶な状態ですね。
渋澤:しかも機関投資家は、保有している国債が償還を迎える一方、新たに発行される国債は金利がゼロだから、投資資金を持っていく場がない。マーケットがどんどん、ひずんでいく感じがします。
中野:渋澤さんも藤野さんも、長年、金融の世界で生きてきたわけですよね。言うなれば、この分野のプロです。でも、今の状況をきちっと整理して説明しろと言われても、なかなか決め手に欠ける。そんな状況ですから、多くの国民は今、債券市場や株式市場で何が起こっているのか、ほとんど理解できていないのではないでしょうか。そのなかで、恐らくはとんでもないことが起こっている。よく考えてみると怖い話です。
渋澤:運用会社にはスチュワードシップ・コード、企業にはコーポレートガバナンス・コードが導入されつつありますが、国家資本主義が進むとなれば、政府や中央銀行にもコードが必要になるはず。でも、この状況を見て国民がジャッジするのは非常に難しい。このままだと、政府や中央銀行のやりたい放題になることを懸念します。
藤野:金利が消えつつあることの意味を、もっと深く考える必要はあるかも知れませんね。要するにこれって、みんなが現金をそのまま抱えて、じっとしているからでしょう。この間、ある小売業の経営者と、最大のライバルはどこかという話をしていたのですよ。本来なら、どこかのスーパーマーケットとか、百貨店とか、あるいはネット通販の名前が挙がると思うじゃないですか。
ところがそうじゃない。最大のライバルは「現金」だというのです。20万円の現金と20万円のバッグを並べた時、多くの人は現金を選ぶと言うんですね。完全にお金が目的化している。お金を使って何かをしようという発想がなくなっている。拝金主義ここに極まれり、という感じです。
中野:人生で最も大事なことはお金を集めること、なんですね。
渋澤:しかも、それを日銀がバックアップしているようにも見えます。何しろETFやJ-REITを買って、世の中にお金をどんどんばらまいているのですから。
中野:まあ、でもこうしてせっせとETFを買っているわけですから、株価そのものは上がりますよね。
渋澤:225平均株価で2万円という声がだいぶ高まってきましたが、自然とその水準に達するでしょう。ただ、ゼロ金利ということは、経済成長もないことを意味します。なのに、株価だけは上がっている。
藤野:水をどんどん足して、お風呂の水位が上がっているのと同じ状況ですからね。逆にお風呂の栓を抜けば、ぐっと水位が下がる。だから、栓を抜かないかぎり、株価は上昇し続けるでしょう。
渋澤:この世で無限なのは、宇宙と中央銀行(笑)。
藤野:中央銀行の爆買いが続くと、いつの日かビッグバンです(笑)。
中野:それ、怖いですよね。お札をどんどん刷ってETFを買い続けると、日銀に対する信用が大爆発するかも。
藤野:お金は日銀に対する信用が裏付けになって初めて価値が生まれるものだから、その信用が崩壊したら、現金を抱えていること自体がリスクになります。現金で持っていれば安心だと思っているのであれば、ちょっと考えなおした方がいいかも知れません。
渋澤:その意味では、株式投資の方が安心とも言えますね。現金は、中央銀行に対する信用がなくなれば価値がなくなる恐れがありますが、仮にそうなったとしても、日本人の生活は続きます。その生活のために必要な、日本企業に対する信用までなくなるわけではありませんから。
藤野:確かに。先の戦争でも、実は株価は上がっていましたからね。
渋澤:まさに究極のリスクヘッジ手段。
中野:株式は企業の実体が裏付けになっていますからね。ここまで大量にお金を刷るという現実を目の当たりにすると、逆に現金のほうが、バーチャルな存在かも知れません。そこをしっかり理解したうえで、自分の資産の置き場所を考えてもらいたいですね。
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