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CITICへの出資を発表する伊藤忠・岡藤社長〔PHOTO〕gettyimages
有力企業「のるか、そるか」の大買収、その意味 「会社の存亡」をかけた決断をなぜしたのか
いま、この国の経済が大きく変わろうとしている
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42377
2015年03月10日(火) 週刊現代 :現代ビジネス
■「二度とやりたくない」けれど
「大型の投資案件が進められているという話は、社内でも噂になっていたのですが、これほどの規模だとは誰も想像していなかったので、社内では衝撃が走りました」
こう語るのは、北米に駐在する伊藤忠商事の社員。大型の投資案件とは、中国中信集団(CITIC)への出資のことだ。
伊藤忠は今年1月20日、タイの最大財閥チャロン・ポカパン(CP)グループと共同で、中国最大の国有複合企業、CITICの傘下企業に1兆2040億円を出資すると発表した。折半の出資なので、伊藤忠が負担する額は約6000億円。日本企業の対中国投資としては過去最高額だ。
伊藤忠は大手商社のうち三菱商事、三井物産に次ぐ3番手。資源に強い上位2社と違って、繊維・食品など非資源分野でナンバーワンを目指すという大きな目標に向かって大博打に出た。
「社内の調整もあるし、針の穴に象の足を3本突っ込むみたいなもんや。もう二度とやりたくないわ」
伊藤忠の岡藤正広社長は経済誌のインタビューで、今回の資本提携をふり返って、このように語っている。長くタフな交渉のストレスが心臓に来て、2回も検査を受けたというから、会社の存亡をかけた「のるか、そるか」の大勝負である。
「岡藤社長は住友商事の後塵を拝して万年4位だった伊藤忠を『3位にする』と言って、有言実行した実力者。今回の投資で本当に業界1位を狙えるかもしれないという空気が社内でも生まれてきました。一方で、CITICがかなりの不良債権を抱えているのではないかという不安の声も聞こえてきます」(前出の社員)
伊藤忠以外にも、海外における日本企業の投資は活発化している。2月10日にはキヤノンが監視カメラ世界首位であるスウェーデンのアクシス社を買収すると明らかにした。投資額はキヤノンの連結純利益2500億円('14年度)を上回る約3337億円で、同社としては過去最大の買収規模となる。一眼レフなどのデジタルカメラ市場が縮小するなか、今後ますます進むと見られる監視社会化の波にうまく乗ろうというわけだ。
また、2月24日には日立製作所がイタリアの航空・防衛大手フィンメカニカ傘下の鉄道車両、信号メーカー2社を計約2500億円で買収することがわかった。これも日立にとって過去最大規模の買収額で、同社の'14年度純利益に相当する。鉄道のような交通インフラは、家電などと違って参入障壁が高く、安定的な収入を見込める。
経済ジャーナリストの松崎隆司氏は語る。
「M&A情報を提供するレコフ社の調査によると、'14年に日本企業が海外で行った買収案件は557件に上り、過去最高になりました。
海外でのM&Aが増えている一つの要因は、国内市場が明らかにシュリンクしてきているので次の戦略として外に出ていくしかないということ。そして、'13年度の日本企業の内部留保は約320兆円もあり、買収のための資金が豊富であることも追い風になっている」
サントリーは昨年、米国のビーム社を1兆6500億円で買収し、大きな話題を呼んだ。
「ジムビームの名を知らない欧米人はほとんどいませんが、サントリーのことを知っているのは一部の愛好家だけです。今後、サントリーはビームの販売網を使って、ジャパニーズ・ウィスキーを世界に広めていく戦略に出るでしょう。新浪剛史社長はブラウンスピリッツ(ウィスキー類)で、世界一を目指すと明言しています」(経済ジャーナリストの永井隆氏)
■投資家が黙っていない
だがここで、ふと素朴な疑問が頭をよぎる。数百億、数千億円規模の純利益を出しているような優良企業が、なぜ高いリスクを冒してまで海外企業を買収する必要があるのか。利益率の高い企業として地盤を固めたり、自前で海外進出を図る戦略ではいけないのか—という疑問である。
経営コンサルタントの小宮一慶氏は、企業が次々と海外M&Aに打って出る理由を次のように分析する。
「最近は、投資家たちがROE(株主資本利益率)に注目するようになった。ROEとは株主の資金が、どれだけ企業の利益につながったかを示す値です。現金を貯めこまず次々投資をして成長をしないとROEが高まらず、投資家たちから厳しい注文がくるのです」
グローバル資本主義の世界では、「身の丈にあった小商いをして日銭を稼げばいい」という価値観は通用しない。株主たちは企業が無限に成長し続けることを求めているし、もし企業に成長する気がないのなら、現金を貯めこまずにさっさと配当金として吐き出すことを要求する。
「百年コンサルティング」代表の鈴木貴博氏は、「高成長を維持し続けない企業は、グローバル資本主義では生き残れない」と語る。
「マッキンゼーが'00年代初頭に、過去20年にわたって、買収を繰り返して成長し続けた大企業と、そうでない大企業を徹底的に調べた。
すると、さらなる成長を追わずに収益重視の戦略をとった企業は、最初の10年は好調でも次の10年で凋落していく傾向が高いことがわかったのです」
■守りに入れば「死ぬ」
成長か死か—グローバル企業は守りに入った瞬間死ぬしかないのだ。だが、言うまでもなく海外投資にはリスクが付き物。M&Aのアドバイザリー会社SCSグローバルの取締役、松本茂氏が語る。
「日本企業が関与した100億円以上のM&A案件で、買収から10年以上経過したものを調査しました。すると半分くらいが撤退したり、売却したりして失敗していることがわかりました。
例えば、M&Aは『時間を買う』とよく言われますが、工場や従業員を買収できても、そこから収益を出すには意外に時間がかかる。買収対象の会社が赤字だったら、結局遠回りしてしまい、余計に時間がかかってしまうケースも多い。M&Aの成功例といわれるブリヂストンの米ファイアストン買収にしても、安定的に利益を出せるようになるには20年ほどかかっています」
体力がない企業は負債に耐えきれず、損切りして売却するというケースも多いのだ。
毎日のように大型のM&Aが発表されているが、買収が成功するか否かは未知数である。冒頭の伊藤忠社員が語る。
「CITICへの投資の話が発表されると、伊藤忠の株価は下がりました。市場はリスクが高すぎると見たんですね。でもリスクのないところに投資の妙味はない。
岡藤社長を始め、伊藤忠にはがむしゃらに上を目指すという気風があります。商社の社風に関する小話で、こういうのがあります。『濁流の川を渡るのに、資金が豊富な三菱商事の社員は橋をかける。スマートな三井物産はヘリコプターで越える。保守的な住友商事は三菱の後について橋を渡る。だが、伊藤忠社員は泳いで渡る』というものです」
伊藤忠のみならず、海外進出を目論む多くの有力企業の社員たちが、気概とガッツでグローバル資本主義という濁流を渡ろうと次々に川に飛び込んでいる。だが、すべての泳ぎ手が、川の向こうにたどり着けるわけではないのもまた事実である。
「週刊現代」2015年3月14日号より
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