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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 まず謝ることから始めよ
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週刊実話 2015年3月19日 特大号
厚生労働省は4月以降、加入義務があるのに厚生年金に加入していない事業所に対して強い指導を行い、応じなければ強制加入させる方針を固めた。厚生労働省が国税庁から従業員の源泉徴収のデータ提供を受けて調査したところ、厚生年金への加入を不法に免れている疑いの強い企業が80万社にのぼることが明らかになったからだ。
厚生年金は、フルタイムの従業員がいるすべての法人と、従業員5人以上の個人事業所に加入義務がある。しかし、厚生年金の保険料は年収の17.474%という高額であり、しかもその半分を事業主が負担しなければならないため、体力の弱い中小零細企業は厚生年金に加入せず、従業員自身に国民年金を支払ってもらっているところが多い。そうすれば、厚生年金保険料の企業負担分を支払わなくて済むからだ。
しかし、仮に厚生労働省が強制加入に乗り出しても、中小企業がすんなりと応じるとは思えない。そんな経営的余裕はないからだ。おそらく一番多くの中小零細企業が採用する対策は、従業員を一度解雇して再び個人事業契約を結ぶということだろう。従業員を外注先にしてしまえば、厚生年金保険料を支払う必要がなくなるからだ。ただ、そうなると日本中で大規模リストラが発生し、雇用が不安定なフリーランスが大量に生まれることになる。
実は国民年金では、すでに強制徴収が始まっている。日本年金機構は、2月から3月の間、控除後所得が400万円以上で、未納期間が13カ月以上の国民年金未納者を対象に、保険料の強制徴収を集中的に行っている。資産の差し押さえさえ行われているという。
厚生労働省がこうした強硬姿勢を取り始めた理由は、なんとか年金財政の破たんを防ごうとしているからだが、実はもっと深いところに本質的な理由がある。
厚生労働省は、かつては「公的年金は税金とは違う」ということを、ずっとアピールしてきた。「年金の保険料は、あなた自身にいずれ返ってくるお金です。ですから、あなたの豊かな老後を支えるために漏れなく保険料を支払ってください」と言ってきたのだ。
ところが、いまから11年前、「百年安心」の年金制度改正が行われた。そこで、年金は積立方式から賦課方式に変更された。自分自身の年金を積み立てるのではなく、集めた保険料を年金受給者で山分けする方式に変えたのだ。ただし、そうなると、年金は年金保険料という財源の分しか払えない。そこで年金給付の水準を引き下げるために導入されたのが、「マクロ経済スライド」だった。この制度によって毎年1%程度ずつ年金をカットすることになったのだが、昨年まではデフレが続いていたため、発動できなかった。それがついに今年4月から始動する。年金減額時代に突入したのだ。
これで、年金は完全に賦課方式となった。つまり保険料は税金と同じになった。だから、強制徴収なのだ。
ただ、11年前からいまに至るまで、政府は積立方式だとウソをついていたことを一度も謝罪していない。威圧的な態度をとる前に、まず国民にウソをついてきたことを謝罪すべきだ。そうでなければ、強制徴収の憂き目にあう国民は、とても納得できないだろう。
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