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安倍政権の農協大改革は、羊頭狗肉である JA全中の監査権限を温存してしまった
http://toyokeizai.net/articles/-/62074
2015年03月07日 リチャード・カッツ:本誌特約記者(在ニューヨーク)
安倍晋三首相が進める農協改革について、影響力の強い農業圧力団体であるJA全中(全国農業協同組合中央会)と、大筋で合意がまとまった。首相は、これにより農業改革に道が開けると主張している。
しかし、首相が譲歩したことにより、その内容は大幅に後退した。真の意味で全中の力を弱めることこそが必要で、真の農業改革には農地使用法を大幅に改めるなどの、追加的措置が必須だ。安倍政権はこのような肝心の段階に踏み込んでいない、と改革論者たちは述べている。
全中はJA傘下の700の農協に対する監査権限を一手に握っているが、「改革」だと胸を張るに値するものになるかは、何よりも、この権限を全中から引きはがせるかにかかっている。この監査権限は、全中が傘下農協を支配下に置くための、最も有力な手段だといわれている。
■新設の監査法人が監査機能
ところが、全中の萬歳章会長が2月12日に日本外国特派員協会(FCCJ)で公言したように、安倍首相は、監査部門を全中本体から分離させ、全中が組織外に新たに作る監査法人に、これまで全中自身が行っていたのと同様の監査機能を持たせることで合意した。
民間の監査法人ではなく、全中が新たに作る監査法人を利用するよう、地方の農協の多くに圧力がかかるだろう。JAグループの営農販売部門を担うJA全農は、肥料の価格が他の業者より30%も高いといわれているにもかかわらず、70%の市場占有率を維持している。
安倍政権が主張するもう1つの大きな改革は、全中の法的地位を、特別民間法人から、経団連など他の業界圧力団体と同じ一般社団法人へと変更することだ。しかし全中は、都道府県農協の活動を調整する法的権限を保持している。そしてその都道府県農協は、特別民間法人の法的地位を維持したままだ。
もともと農協改革では、非農家である農協の准組合員による、農協の多様な商業サービスの利用を規制しようとしていた。しかし農業従事者の数が減少しつつある状況を考えると、非農家を顧客、貯蓄者、保険契約者等として確保できる体制は、JAにとって収入と政治力を維持するうえで極めて重要だ。
2012年時点で非農家である准組合員は540万人に上り、正組合員の数460万人を上回る。萬歳会長がFCCJで語ったところによると、全中は、安倍首相が5年の猶予期間を設けることで、不本意ながら合意を受け入れたそうで、准組合員のJAサービス利用規制が先延ばしにされ、棚上げされると期待しているようだ。
安倍政権の農協改革計画の根本的な弱点は、農協グループが特殊なタコのような怪物だとイメージすると理解しやすい。何百もの触手と数多くの頭を持った力強い組織で、全中はその頭の一つにすぎない。農協全体で25万人の職員を抱えるが、全中で働くのは220人だけだ。
■独占禁止法適用除外は全農自身の判断に
グループの商取引部門である全農は、高い価格で農家にモノを売り、安い価格で農産品を買い取ることが多い。全農は、効率化が進んだ北海道の酪農家が本州に出荷できる牛乳の量を制限しているが、理由は本州の酪農家を保護するためだという。改革論者たちは、全農を普通の企業へ移行させ、独占禁止法の適用除外から外すよう提言したが、安倍首相はその判断を全農自身に任せてしまった。
近日刊行の『The Political Economy of Japanese Trade Policy』の中で、元農水官僚で現在はキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁氏が、農協は「日本最大の企業グループだろう」と述べている。農林中金は預金高を90兆円まで増やした、日本第2位のメガバンクだ。全共連(保険部門)の運用資産は51兆円で日本生命に次ぐ2位。そして山下氏によると、全農の売上高は中堅商社と肩を並べる(それぞれ2012会計年度)。
全中改革もまた、現実には安倍首相が喧伝する「第3の矢」のうちの、大きく的を外した一本だということだ。
(週刊東洋経済2015年3月7日号)
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