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ターミネーター猛攻、高頻度取引が変えた日本株−発注率7割
(ブルームバーグ):「まるで映画の『ターミネーター』のようだった」−−。証券会社のトレーダーとして既に20年のキャリアがあった本河裕二氏(47)が日本株市場の異変を感じたのは5年前の春。高頻度取引(HFT、High Frequency Trading)時代が幕を開け、細かい利ざやの確保が従来に比べ急速に難しくなっていた。
バブル経済渦中の1990年に本河氏は証券界に身を投じ、その後7つの証券会社で株価指数先物などのディーラー業務を経験した。この間「技術革新はずっと起きてきたが、アローヘッド(arrowhead)の登場は転換点だった」と振り返る。
東京証券取引所は2010年1月、注文や約定処理の高速化ニーズ、取引件数の急増に対応するため、新たな株式売買システム「アローヘッド」を導入した。注文への平均応答時間は、稼働前の2−3秒から2ミリ秒へと1000分の1秒の世界に突入。取引所内に証券会社やHFT業者のサーバーを設置し、伝送時間を短縮した「コロケーションサービス」経由の注文件数は、スタート当初の10%から1年後には35%まで増え、5年が経過した現在は70%を占める日もある。
生き残りを懸け、圧倒的な力を持つ機械に人間が戦いを挑む「ターミネーター」の世界を本河氏が日本株市場に見たのは、注文を出そうとすると先に出され、既に約定済みとなるケースが相次いだためだ。ディーラーとして年間で1−3億円の利益を上げてきたが、「高頻度取引がはびこったことで、『1カイ2ヤリ』の小さな値幅取りは人間の手では勝てなくなった」と痛感した。
現在はインターネットトレーダーとなった本河氏の証券会社時代のディーラー仲間は、今では2割程度にまで減少。日本証券業協会によると、昨年末時点の証券会社の役員・従業員数は8万7046人で、09年末の9万5308人から8000人余り減っている。
フラッシュ・ボーイズとクラッシュ
東証の総売買代金はこの間に72%増え、コロケーションを通じた売買代金はブルームバーグ・ニュースの試算で約4倍となった。バーチュ・ファイナンシャル やタワー・リサーチ・キャピタル といった米国のHFT業者は、コンピューター・プログラムを駆使する機械化されたトレーダーとして日本でも活躍している。
HFT先進国の米国や欧州では、14年3月出版のマイケル・ルイス氏の「フラッシュ・ボーイズ」を契機に、公平な取引ではないとHFTへの批判が噴出した。同年4月には、欧州連合(EU)議会がHFTやアルゴリズム取引への規制を含む金融商品市場指令(MiFID)の見直しを承認、今後加盟国で法制化され、17年1月から実施予定だ。
米国では10年5月6日、ダウ工業株30種平均 が一時前日比で1000ドル近く暴落、わずか5分間で500ドル以上下げ、その後1分半ほどで500ドル以上急騰する悪夢を経験した。これは後に「フラッシュ・クラッシュ」と呼ばれ、HFTによる売買の影響が取り沙汰されている。
寛容な日本、市場構造に違い
日本では、欧米ほどHFTバッシングは起きていない。パインブリッジ・インベストメンツ・アジアのディーリングヘッド、ディクソン・モック氏はHFTをめぐる内外の温度差について、市場構造の違いが背景にあるとみている。
「『フラッシュ・ボーイズ』は米国で論議を呼んだが、アジア各国はおおむね1つの取引所を持ち、米国のように分散化していない。HFTのような取引は抑え込まれる」と同氏。50以上の取引市場がある米国では、投資家は同時に複数の価格をみなければならないが、日本では現物株取引の9割を東証1カ所が占め、こうした必要性に乏しい。
また、東証では05年4月から約定の有無にかかわらず、月間注文件数に応じアクセス料を取引参加者から徴収しており、HFTが海外で行う矢継ぎ早の注文や取り消しを一定程度制限し、市場安定化の一因となっている。東証株式部の大墳剛士調査役は、「ネット証券からの注文数量が非常に大きくなってきた状況で、全体的なシステム利用に関するバランスを取るため」と導入経緯を説明。HFTが存在感を示す前だったが、結果的に「HFTに対しても抑制効果が出ている」と言う。
早い者勝ちの宿命
東証のデータによると、14年のコロケーション経由の1日平均約定金額は1兆1010億円に達した。日本でもHFTの存在感が高まるに連れ、市場からは影響力の増大を懸念する声も上がる。
損保ジャパン日本興亜アセットマネジメントの中尾剛也シニアインベストメントマネジャーは、「HFTはノイズを増幅させる機能を持っている」と指摘。1日の間に株価が乱高下するのは望ましことではなく、「ノイズが大きくなってトレードのタイミングに気を付けざるを得ないため、トレードコストが上がる」と話した。
一方で本河氏は、「マーケットは早く買って、早く売れた人が勝つ。この本質は今も変わっていない。手法が変わっただけだ」とターミネーターの存在を認めながらあすも戦いに臨む構えだ。
東証ではことし9月24日にアローヘッドのリニューアルを予定。信頼性と利便性、システム処理能力の3点で一層の向上を図り、連続約定気配制度の見直しのほか、注文抑止・取り消し機能(キルスイッチ)や異常な注文の発注を制御する「ユーザー設定型ハードリミット」など取引参加者向けのリスク管理機能を新設する。
米調査会社のTABBグループの創設者、ラリー・タブ氏は「伝統的な取引コスト分析だけでは、投資家が求めるものを見れないこともある」とし、適正価格で注文執行ができているかどうかをより細かくチェックするなど、ファンドマネジャーらに一層の努力を求めた。
記事に関する記者への問い合わせ先:東京 長谷川敏郎 thasegawa6@bloomberg.net;東京 Yuji Nakamura ynakamura56@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先: Sarah McDonald smcdonald23@bloomberg.net 院去信太郎, 上野英治郎
更新日時: 2015/03/05 09:19 JST
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NJ4RE26K50Y801.html
意外と優遇されている個人投資家の注文執行
BILL ALPERT
2015 年 3 月 3 日 08:32 JST
意外と優遇されている個人投資家の注文執行 Illustration: William Waitzman for Barron's
• 証券会社による個人投資家志向
昨年ベストセラーになったマイケル・ルイス著の「フラッシュ・ボーイズ」が、HFT(ハイ・フリークエンシー・トレーディング=超高速取引)トレーダーが個人投資家を犠牲にしていると主張して以来、多くの個人投資家が動揺している。しかし、話のその部分は単に間違いだ。個人投資家は株式の注文において市場の最良の価格を獲得しているという証拠がある。そして驚くべきことに、その優位性は過去数年間で拡大している。
個人投資家の注文獲得競争によって、小規模投資家が成り行きで取引する場合、実際には公表気配値よりも有利な価格で執行されている。それによる投資家の恩恵はディスカウント・ブローカーの売買手数料に相当し、金融市場分析会社のレグワンによると、昨年は業界全体で約6000万ドルが個人投資家に還元されたことになる。皮肉にも、この大半はマーケットメーカーと個人向け証券会社のIT化によるものである。
本誌は数カ月をかけて、大手ホールセール・マーケットメーカーの取引品質報告書を分析した。その結果、ヘッジファンド運用会社シタデルのマーケットメーキング部門である、シタデル・セキュリティーズで平均的取引価格の恩恵が最大と判断した。米証券取引委員会(SEC)が要求するデータに基づくと、10-12月期に1000株の取引当たりで投資家に約5ドルの恩恵をもたらした。これはディスカウント・ブローカーの7.95ドルの手数料と比較すると少ないが、それでも結構な額である。同社に次ぐのは、UBS(UBS)、ツー・シグマ・セキュリティーズ、KCGホールディングス(KCG)である。
本誌はブローカーを比較するために、一つの指標として、ブローカーが最良執行を提供するマーケットメーカーにどの程度の注文を発注しているかを反映するスコアを作成した。このスコアによると、トップはフィデリティ・ブローカレージ・サービスで、チャールズ・シュワブ(SCHW)とイー・トレード・フィナンシャル(ETFC)が同率で2位だった。なお、注文の大半を取引所へ流しているインタラクティブ・ブローカーズ(IBKR)などは、今回は対象としていない。
SECは約15年前に、株価の呼び値の刻みを1セントへ引き下げるとともに、注文執行の質に関する開示も求め始めた。マーケットメーカーや証券取引所は、今や規則605と呼ばれる規制に基づいて、毎月統計を報告しなければならない。個人向けブローカーは規則605に基づいて四半期ごとに、注文をどの執行場所へ取り次いだか、および、その取り次ぎでどの程度の報酬を得たかを開示しなければならない。この報告書は、顧客の注文の最良執行という法的義務をどの程度満たしているかを示すものと期待されている。
大半の投資家は、安い手数料のブローカーの見つけ方を分かっているが、注文執行については知識がない。この状況は今後数カ月で新たな業界基準が台頭するに連れて変化する可能性がある。
過去10年間、証券取引所は個人投資家の注文の競争で、マーケットメーカーにシェアを奪われ続けてきた。「フラッシュ・ボーイズ」は、個人投資家の注文に対する欲求が動機となって、コンピューター化されたウォール街のハンターが、情報を持たない弱小の獲物を食い物にしていると主張し、IEXグループについて、機関投資家の大口取引をHFTトレーダーのフロントランニング(顧客の注文を受けた後で、それよりも有利な価格で自己売買を成立させること)から保護するためのものであると描写している。いずれにせよ、個人投資家はIEXグループによる保護を必要としていない。なぜなら、テクノロジーを駆使しても、個人からの小口注文に対して確実にフロントランニングを行うことが不可能だからである。
シタデル・セキュリティーズのジャミル・ナザラーリ氏は、取引執行機関は多くの理由によって、機関投資家の注文よりも個人投資家の注文を優遇していると語る。マーケットメーカーにとって、特定の機関投資家からの矢継ぎ早の注文は、株価を動かして損失につながる可能性がある。従って、注文執行市場は、小口注文の方が大口注文よりも価格面で優遇されるという経済的パラドクス状態にある。KCGのような受け身のマーケットメーカーは、一件当たりでは少ない利益も、それを数でカバーしようと目論んでいる。
ホールセール・マーケットメーカーとしては、シティグループ(C)のオートメーテッド・トレーディング・デスク(以下ATD)や、デリバティブ大手のサスケハナ・インターナショナル・グループがある。彼らの競争手段の一つは、TDアメリトレード・ホールディング(AMTD)などのブローカーからの注文に対して手数料を支払うことで、もう一つは、売り買いのスプレッドの一部をあきらめ、現在の気配値より良好な価格で注文を執行することで、これは個人投資家にとって直接的な恩恵となる。1取引当たりの収入は若干減るが、件数が増えれば補えることになる。
シタデルやKCGなどの大手が個人投資家の市場シェアを争ってきたため、レグワンの推定によると、マーケットメーカー大手8社による執行価格の改善は、1株当たり0.27セントから0.56セントへと2倍に拡大した。これによって、証券会社から投資家に10億ドル超が移転されている。
SECもこの恩恵を認識しており、一部の注文の流れをマーケットメーカーから証券取引所へ移行させることになる規制の発表では、個人の注文を除外した。従って、注文執行の質は、そのような規制の提案に関する議論で非常に重要になっている。民間の取引所運営主体であるBATSグローバル・マーケッツは、株式ごとの情報を毎日開示しており、業界内で最良とみられる。
• 証券会社の注文執行の質比較
機関投資家は、フロントランニングに冷や汗をかき、大口取引による価格への影響を心配しなければならないが、個人投資家はスプレッドだけを気にすれば良い。従って本誌は、マーケットメーカーやブローカーの注文執行の比較において、価格改善指標だけに注目し、規則605による開示内容を分析するソフトウエアを開発した。ちなみにその際、マーケットメーカーやブローカーを招いて意見と評価をもらった。
こうして本誌は、1株当たり純価格改善(気配値よりも良好に執行された取引から、気配値よりも悪く執行された取引を除外したもの)を計測した。2014年第4四半期でトップに立ったのはシタデル・セキュリティーズで、76億株の取引の1株当たり純価格改善は0.48セント。2位はUBSで0.46セント、3位はKCGとツー・シグマ・セキュリティーズの0.43セントだった。これらの結果は、取引した銘柄の時価総額やスプレッドなどによって異なる。そのため、最も一般的な分類であるS&P500指数の構成銘柄と非構成銘柄に分けて計測した結果、やはりシタデルが両区分でトップに立った。一方で、シティグループのATDはいずれにおいても最下位だった。
S&P500指数非構成銘柄の注文執行は個人向けブローカーにとって特に重要となる可能性がある。それら銘柄の流動性は低く、売り買いのスプレッドも広く価格変動も大きい。シタデルはS&P500指数非構成銘柄の執行量が比較的大きく、全体の純価格改善を支えている。
なお、株価が高く呼び値の刻みが広い銘柄の注文執行は、価格改善に大きな影響を及ぼす可能性がある。そのため業界は、気配値スプレッドに対する実効スプレッドの割合を示す指標(以下E/Q指数)に注目している。E/Q指数が小さければ、実際の注文執行価格は売り買いの気配値の中間に近づくことになる。
本誌の計算によると10-12月期には、シタデルのE/Q指数は、S&P500指数構成銘柄で平均57%、S&P500指数非構成銘柄で64%と最も低かった。それ以外各社のそれぞれの順位はKCGが2位(59%)と5位(71%)、ツー・シグマは3位(61%)と4位(70%)、UBSは4位(62%)と2位(68%)となった。
注文執行の質においてマーケットメーカーは重要であるが、大半の個人投資家は利用しているブローカーから得られる注文執行の方に関心を持っている。しかしこの分野の開示内容は不足している。規則605によるブローカーの開示は、注文を市場に取り次いでいる割合だけを示しており、マーケットメーカーが開示している多くの情報は含まれていない。SECは規則605をもっと前の段階で変更すべきだったという意見もある。
ブローカーの注文執行開示を最も適切かつ客観的に利用する方法は、各注文の加重合計に基づいたスコアの作成であると、本誌は考える。ここで加重合計は、当該マーケットメーカーのE/Q指数から計算する。高い値の方が好ましくなるような指標を作成するために、マーケットメーカーのE/Q指標を1から差し引いた。各社共に比較的似通った結果となったが、フィデリティが若干抜け出している。
取り次いだ注文を全て報告しているわけではないブローカーのスコアは低くなる。今回の分析では、フィデリティは成り行きの取引が多かった一方で、TDアメリトレードは指し値注文が多かった。一部のブローカーは注文執行の質を自発的にウェブサイトで公開しているが、使っている指標が異なるために比較は不可能である。
ウォール街の証券会社の団体であるファイナンシャル・インフォメーション・フォーラムが開発している注文執行の質に関する基準に基づいて、全ての証券会社が開示を始めれば、本誌の次回の調査はもっと明確になる可能性がある。一部のブローカーは新たな基準をウェブサイトや広告で取り上げ、投資家に対してブローカーを選択する際の新たな要因を提供するだろう。しかしあくまで自発的なものであることには留意が必要だ。
http://jp.wsj.com/articles/SB11785226218567734557404580493411353079280
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