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2012年末、国会で首班指名を受ける安倍首相。筆者によれば、アベノミクスは最初から間違っていた(撮影:尾形文繁)
なぜ「円高・デフレ」が日本を救うのか アベノミクスは最初から間違っていた
http://toyokeizai.net/articles/-/62232
3月4日 小幡 績:慶應義塾大学准教授 東洋経済
この2月、日本株は上昇を続けた。世界的な株高もあるが、日本は後半ほぼ一本調子で上げ続けた。これでもう、日本経済は安泰なのだろうか。
■ 「売る人」がいなくなった日本株
なぜ株が上がり続けたのか。
第1に、下がる理由がなかった。売る投資家がいなかったのである。
2014年10月末以降の大幅な円安で、多くの海外投資家はドルベースでしか投資を考えないから、円安傾向を見込んで、日本株を売り時とみて、売った投資家が多かった。
GPIFと日銀が日本株をさらに買い増すというニュースで、日本株自体の需給期待から、日本円ベースでは株価は上昇したから、一時的なピークであり、今後は円安による下落傾向継続だから売り時という判断は、非常に論理的であったのである。
この結果、海外投資家の多くは、日本株のポジションを大きく落とした。誰も日本株を持っていない状態になったのである。だから、売る人はもうほとんどいなかった、あるいは売りたくても売るものがなかったのである。
もちろん、それなら空売り、と思うかもしれない。しかし、空売りをするのは、空売りをすれば、それに引き込まれて投げ売りをする保有者がいるからである。そうなるとスパイラル的に暴落する。
暴落しなければ、空売りを仕掛けても、儲かるほど安い価格で買い戻せない。つまり、追随者、下落スパイラルに怯えて売ってしまい、自ら下落スパイラルを作ってくれる保有者がいないと成り立たないのである。
現在は、売る人がいない。国内投資家は、短期に売買をする投資家は少ない。過去の塩漬けになっていた株式の含み損が解消し、いわゆるヤレヤレ売り(やっと買値に戻って、いままでの含み損を抱え続けたことに疲れ果ててホッとして売る)はすでに一巡しているから、それほど出てこない。
実は、日経平均株価が1万8000円になるとそれが出てきたのであるが、ここも一気に水準を突破してしまったために、大きな売りの流れにはならなかった。
少し補足すると、売りの流れが生まれる可能性とは、このヤレヤレ売りが出て、一直線の上昇が踊り場を迎え、一時的に停滞するような流れになると、この上昇局面の前半で買った短期あるいの投資家が、いったん利益確定をしようとして売り、こうなるといったんピークをつけて下がり始める。
■ おなかの中が空っぽだった、海外投資家
この流れに乗って、もっと上がると思っていた中期の投資家が、利益が乗っているうちに売ろうとする。こうして売りの流れができたはずである。しかし、実際の株式市場は、この一時的な踊り場の余裕を与えず、株価は一直線に上昇していった。だから、売りの流れは生まれなかったのである。
では、一直線の上昇の原因は誰が作ったのか。それは海外投資家である。前述のように、彼らは、おなかをすかせていた。
正確に言えば、おなかの中が空っぽだった。日本株のポジションをほとんど持っていなかった。そこへ、円安が止まり、ドルベースでの下落トレンドは終わったという認識がコンセンサスとなった。そこへ、世界的な株価上昇の流れが来た。日本は、GPIF、日銀のプッシュが、特に前者の動きは、このところ急だ。買うなら今しかない、ということで、多くの海外投資家が、この流れに飛び乗ったのである。
この海外投資家が作った流れに、日本国内の個人は、ヤレヤレ売りを出しつつ、これまで株を買った経験が少ない投資家が、今度こそ乗り遅れたくないと、みんなが降り始めるかどうか迷っているタイミングで入ってきた。個人が愚かなら、機関投資家はその上を行くかもしれない。いまさら、年金関連が、GPIFの配分変更に追随して日本株の買いに傾いてきて、買い続けている。こうして、大きな買いの流れが続いているのである。
したがって、上昇が続いた第2の理由は、買い手が買いまくったからである。それは当たり前のようだが、ここまで、皆そろってシンプルに買い進むケースは少ない。そして、支えに、日銀、公的年金があるというのも、もちろん歴史的には珍しい展開である。
つまり、誰も売らず、皆が買い、しかも、公的セクターが買いを主導したとなれば、上がらないはずはない。だから、一直線の上昇となったのである。
一方、実体経済のニュースはほとんど相手にされなかった。株価の動きは投資家の都合、需給だけであり、GDPの回復基調が、依然予想を下回り続けていることなど実体経済の弱さは影響しなかったし、輸出数量がここにきて増加し始めた、というポジティブな数字にも無関心であった。だから、株価と実体経済は、現在はほとんど無関係なのである。
そこで、実体経済である。実体経済は悪くない。予想より悪いのは、予想が悪かったのである。高い成長率を予想した方が悪いのである。
日本経済は2つの波において、下降局面である。ひとつは、アベノミクスバブルである。2013年は良くなりすぎた。そこから2014年がさらに良くなることは難しい。労働供給のボトルネックもあるし、資産効果は一度限りのもので、高額消費も一巡したら、次は出てこない。第2の波は、消費税引き上げの波である。駆け込み需要が大きければ、その反動も大きい。それだけのことである。反動減を弱く見積もった、あるいは駆け込み需要を過小に見積もったために、反動減を過小に見ていたのである。
■ 景気は悪くないが、「イマイチ」に見える二つの理由
しかし、通常の意味での、景気は悪くない。失業率はほぼ構造的失業率に近く、実質的に完全雇用と言える。一方、長期的な成長率は低下し、今後、日本経済の長期成長は望みにくいが、人口減、高齢化であれば、それが自然であり、労働者一人あたりのGDP成長率を考えれば、それほど悪くはない。いずれにせよ、大きく伸びるわけでも、破滅への道をたどっているわけでもない。
このような状況に置ける、望ましい経済政策はどのようになるであろうか。
まず、景気が今ひとつに見える理由は二つある。アベノミクスによる財政、金融政策のフル出動で2013年があまりに景気が良すぎた、過熱させてしまったことの反動である。そして、もう一つ、単純だが、主因となっているものは、円安である。経済学的に言えば、円安による交易条件の悪化により、実質所得水準が低下していることである。
原油は今は値下がりしているからいい。だが、これが値を戻してくれば、日本の消費者の生活はさらに目に見えて苦しくなる。いわゆるエネルギーが輸入の3分の1を占め、食料などの必需品がほぼ半分であり、衣料品、スマートフォンなど必需品(スマートフォンは必需品だ)が多く輸入されている。これらの必需品への円ベースでの支出が増大し、それ以外のモノ、サービスへの支出は大幅に減少せざるを得ない。これが国内需要を弱くするのである。
だから、円安で一見景気が良くなっても、輸出利益が増えても、長期には、国民所得が流出し、国家と国民は貧しくなり、成長力も景気水準も低下していくのである。
これは、何も初めてのことではない。小泉政権の戦後最長の好景気、2003年から2007年にかけてのことである。このときは、実感なき景気回復と言われた。実感とは、あいまいなもので、あのときも株高で、儲かっている人を儲けられなかった庶民が妬んでいるかのように言われたが、実はあの「実感」はデータに裏付けられたものだった。
あのときは、円安が進み、世界的なバブル、アジアの成長があって、輸出は大きく伸びた。このときは、今と違って、生産量も輸出量も、だから雇用量も伸びた。だから、間違いなく景気は良くなっていた、GDPが増えると言う意味で、良くなっていたのである。しかし、庶民の生活は苦しくなっていた。それは、まさに交易条件の悪化にあった。
資源価格が、世界的な投機により高騰した。穀物など、食料品も投機のあおりで高騰した。バイオ燃料などいうもっとも効率が悪く環境を破壊するものが流行し、食用穀物、飼料用穀物は高騰した。この結果、日本の輸入品の価格水準が高騰した。交易条件とは、取引の条件であるから、円安も、このような輸入品自体の価格の上昇も、日本には不利になる。これまで、自動車1台を売って、必要なモノを手に入れていたのだが、交易条件の悪化により、自動車2台売らないと、同じモノは手に入らなくなった。
■ 今こそ、円安を止めよ
つまり、輸入品、しかも必需品、とりわけ電力、ガソリンなどにつかうエネルギー資源への支出が急増し、それ以外の普通の消費への予算が大幅に減少したのである。つまり、買えるモノは減り、生活水準が下がったのである。これが実感なき景気回復の実態であった。
現在もまさに、まったく同じ状況となっている。2014年の景気低迷、実際には2013年10月から始まっていた景気の減速は、円安政策による、庶民の実質可処分所得の減少によるモノで、それで消費が減少したのである。駆け込み需要でそれが予想以上に見えなくなっており、2014年4月以降、これが顕在化したのである。
2014年10月末の追加緩和は、これに懲りず、アベノミクスによる景気減速、国民実質化処分所得減少の第二弾バズーカとなった。円安が急進し、株は上がり、これによる資産効果が出てくる一方で、庶民の消費はさらに冷え込んだ。
原油が下がっているのが、消費税引き上げ前の駆け込み需要と同じで、この影響を見えにくくしている、天恵だか、天災だかわからないが、ともかく、原油安に隠されているが、日本をあえて貧しくする、交易条件悪化政策がさらに進められ、日本経済は停滞していくだろう。
だから、いまこそ、円安を止めなくてはならない。これを詳しく、またさらに発展させ、取るべき政策、日銀の異次元緩和の出口のシナリオ、真の成長戦略を、拙著「円高・デフレが日本を救う」で提案した。またの機会に、この話もしたいと思う。
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