http://www.asyura2.com/15/hasan93/msg/855.html
Tweet |
デフレ:物価下落の高い代償
2015年02月27日(Fri) The Economist
(英エコノミスト誌 2015年2月21日号)
低インフレやマイナス圏のインフレが世界中に広がっている。それは思っているよりも大きな心配の種だ。
先進国の中央銀行にとって、「2」は特別な意味を持つ数字だ。物価が年2%上昇すれば、ほとんどの買い物客は、物価の緩やかな上昇を概ね無視できる。そして、ほんの少しのインフレは大きな助けになる。多少のインフレは企業経営者に、非生産的な労働者を突っつく手段――賃金凍結は実際には2%の賃金カットを意味する――と、会社の利益を投資に回すインセンティブを与えるからだ。
最も重要なことは、それが経済をデフレと、物価下落がもたらしかねない気の滅入る選択――現金をため込んだり、購入を先延ばししたりすること――から遠ざけることだ。だが、この2%のマントラへの公然たる信奉にもかかわらず、一定期間の物価下落が到来しそうだ。
デフレの気配
デフレの気配はいたるところにある(図1参照)。米国と英国、カナダ――すべて2%以上の成長を遂げている国――でさえ、インフレ率は目標を大きく下回っている。物価は東洋で冷え込んでおり、中国のインフレ率はわずか0.8%だ。日本の2.4%というインフレ率は消滅しそうだ。デフレに逆戻りしているからだ。タイはすでにデフレ状態にある。
だが、最も目を引くのはユーロ圏だ。インフレの過去――1980年代にはインフレ率がイタリアで年平均11%、ギリシャで20%だった――は、遠い昔の記憶だ。今ではユーロ圏の19カ国中15カ国がデフレに陥っている。インフレ率が最も高いオーストリアでも、わずか1%だ。
原油でかなり多くのことに説明がつく。ブレント原油は、1年前は1バレル110ドルだった。それが今は60ドルだ。この45%の値下がりは、各国経済にじわじわと伝わっている。英国では、2月17日に公表された統計が、エネルギー価格と輸送価格の下落が一因で、1月のインフレ率(消費者物価指数の上昇率)が前年比で0.3%だったことを示していた。これは過去最低の部類に入る数字だ。
米国では、ガソリン価格が過去6カ月間で35%下落している。ディーゼルと灯油の価格も下落している。
物価の下落は――それ自体では――悪いことではない。冬場のエネルギー利用は不可避であり、消費者は、安価な燃料で暮らし向きが良くなる。企業も喜んでいる。光熱費が下がっているうえに、プラスチック容器から洗剤に至るまで、さまざまな投入原価が低下しているからだ。
節約された分の一部は還元されている。輸送費がかさみ、多くの包装を必要とする食料品は安くなっている。
これらはプラスの供給ショックの顕著な特徴だ。原油価格の下落は、経済がより安い価格でより多くのモノを供給できることを意味する。エネルギーや輸送、石油をベースとする投入物への依存度がはるかに低いサービス部門では、物価はまだ上昇している(上掲の図2参照)。
耐久財を販売する業界では、デフレはもっと気掛かりなように見えるかもしれない。新車の価格は、英国では横ばい、ポルトガルではゆっくりと下落しており、ギリシャでは急落している。ギリシャでは、新車は2005年より20%近く安い。だが、多くの業界にとって、物価の下落は目新しいものではなく、生活の一部だ。
ユーロ圏では、電話、コンピューター、カメラの価格が10年間下がり続けている(スペインでは電話機が10年前より90%安い)ため、デフレが買い物客にショックを与える可能性は小さい。長年にわたる物価下落を経験した日本でさえ、買い物が先送りされている証拠はほとんどない。
雇用改善がインフレにつながっていない理由
短期間の物価下落による購買力の拡大は歓迎される。先進国では、雇用の大幅な改善にもかかわらず、賃上げがめったに見られない。米国では、2010年初めから1000万人以上の労働者が仕事を見つけ、1500万人超でピークをつけた失業者が40%減少した。日本でも同様に、失業者が360万人から230万人へと大幅に減少している。
英国はさらに好調で、失業者の数は50%減少し、わずか80万人にとどまっている。病弱なユーロ圏でさえ、雇用はある程度増えている。不思議なのは、雇用の増加が賃金上昇という形でインフレにつながっていないのはなぜか、ということだ。
米国、英国、日本の失業率――いずれも危機以前の水準か、それ以下になっている――は、以前なら賃金上昇をもたらしていただろう。しかし、これら3カ国では、いずれも不安定な形の雇用が増えている。パートタイム労働が増えており、できることならより長時間働きたいと思っている「不完全就業者」も増えている。
以前より緩やかな契約が柔軟な労働力を生み出す一因になっていることから、臨時雇いの仕事――ウーバーに登録しているドライバーから建設現場の日雇い労働者まで――が急増している。雇用は増えているかもしれないが、労働者の交渉力は高まっていないのだ。
オバマ米大統領、おちゃめな動画をネットで公開
バラク・オバマ大統領は議会に最低賃金の引き上げを要請している〔AFPBB News〕
こうした新しい柔軟な労働市場の難点は、政治的反発を引き起こし始めている。
バラク・オバマ大統領は、議会に米国の最低賃金を7.25ドルから10.10ドルに引き上げるよう要請している。
英国では、2大政党がともに、不安定な「ゼロ時間」契約がいつ乱用になるのかを明確にする計画だ。日本の安倍晋三首相は最近、派遣労働者は正社員と同じ待遇を期待すべきだとの考えを示した。
こうした措置で賃金と企業のコストが上昇すれば、インフレが後に続くはずだ。
短期で終わっても経済を鈍らせる恐れ
だが、この種のデフレは、たとえ一時的であっても、経済を鈍らせかねない。インフレ率が2%であれば、現金の山の上に胡坐をかいている経営者は明確な選択を迫られる。より多くのリターンをもたらす何かに投資するか、配当として株主に還元するかだ。
どちらの対策――投資もしくは投資家の収益を増やすこと――も良いものだ。だが、物価が横ばいの時は、リスクを嫌う経営者は正当に資金の上に胡坐をかくことができる。物価が上昇していれば、企業が抱える現金の山――2014年は米国で2兆ドル、日本で229兆円(2兆1000万ドル)に達した――は、もっと早く活用されるだろう。
ユーロ圏はまた別の話だ。ドイツは別として、ユーロ圏諸国は、労働市場を効率化するための対策をほとんど何も取ってこなかった。大半の国が多くの余剰能力を抱えている。失業率は、2009年末には10%をわずかに下回り、米国と同じ水準だった。だが、それ以降ユーロ圏では失業率が上昇し、現在は11%だ。ギリシャでは25%近い。
これを克服するには何年もかかるだろう。2%の成長率で称賛されているスペインがたとえ現在のペースで進み続けたとしても、失業率が危機以前の水準に戻るまでに8年かかる。賃金の上昇を求める人は、わずかな期待しか持てない。このことは、長引くデフレのリスクを他の場所よりも大きな心配の種にしている。
物価の下落が続けば、名目ベースで固定されている債務は、返済するのが難しくなる。
コンサルティング会社マッキンゼーの最近の調査は、2007年から2014年にかけての総債務――政府、家計、企業――の動向を追跡した。ユーロ圏諸国が先頭に立っており、問題を抱えた「周縁」国5カ国と「中核」国3カ国で債務が国内総生産(GDP)比で55%以上増加した。収入が一貫して減少し続ければ、これらの債務は返済するのが不可能になるかもしれない。
動き始めた中央銀行
各国中央銀行は、ようやく行動に出ている。欧州中央銀行(ECB)は量的緩和(QE)のゲームに参加するのが遅れたが、3月には国債を購入するためにマネーを創出し始める。日銀は、インフレを2%に戻すために必要なだけQEを行うと公約している。新しい急進的な政策――マイナス金利――が流行しており、北欧の中央銀行がECBに続いてそれを採用している。
これらの試みが失敗すれば、その時は安い食料品と燃料の喜びは束の間で終わるだろう。債務に苦しむ国が債権者を寄せ付けないようにするために、物価下落によって浮いたお金をすべて使い果たす羽目になるからだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43041
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。