05. 2015年2月27日 08:17:26
: jXbiWWJBCA
「3月末に日経平均2万円突破」 7社から聞く根拠 ニッポン株式会社の実力は2万5000円、好調な業績がエンジンに 2015年2月27日(金) 清水 崇史 日経平均株価が節目とされてきた1万9000円に迫ってきた。IT(情報技術)バブルに沸いた2000年4月以来、約15年ぶりの高値に、市場関係者の間では「3月末には2万円奪回」の期待も膨らむ。日本株のうなぎ上りは続くのか――。株価の基礎となる主要企業の業績から試算してみると、日経平均は2万5000円程度まで上昇余地のあることが分かった。 「株価の方程式」が、日本株の強気相場を代弁している。日経平均を構成するのはトヨタ自動車、三菱UFJフィナンシャル・グループ、ファーストリテイリングなど日本を代表する225社。これを225事業で成り立つ「ニッポン株式会社」と捉えると、「日経平均=225社の一株当たり利益(EPS)×予想株価収益率(PER)」に分解できる。 業績好調でEPSが上昇するか、投資家が将来の利益成長を期待して高いPERを見込めば株価の上昇に弾みが付く。「株価は収益と期待の掛け算」と言われるゆえんだ。ニッポン株式会社は、リーマンショックの損失が一巡した2009年度以降、5期連続で経常増益をたどっている。2015年度も好調な業績が続く見込みだ。 ニッポン株式会社の2ケタ増益は続く では、相場はどの程度まで上昇するのだろうか。日経ビジネスが主要証券7社に聞き取り調査したところ、2015年度の経常増益率見通しは平均12.6%だった。日経平均のEPSは、1万8000円台を回復した2月16日時点で1105円。ここを出発点に証券7社の期待通りに企業が業績を伸ばした場合、EPSは1244円まで上昇する。業種別では「自動車などの輸出関連のほか、小売業やサービスの内需関連でも高い伸びが期待できる」(野村証券の松浦寿雄ストラテジスト)との見方が多い。 ●2015年度の企業業績見通し(証券各社まとめ) 増益率(%) 対象社数 野村証券 14.4 金融除く190社 大和証券 11.6 金融を除く200社 SMBC日興証券 9.4 金融含む250社 みずほ証券 10.8 金融除く1249社 ゴールドマン・サックス証券 19 金融含む1656社 UBS証券 12.1 主要500社のうち金融、電力、ガスを除く JPモルガン証券 10.8 金融含む約310社 7社平均 12.6 注)2月25日時点の各社見通しで一部本誌聞き取り調査を含む。増益率は経常利益、UBS証券のみ純利益。JPモルガン証券は2015年暦年。 次に焦点となるのがPERだ。日本株のPERは2003年4月以降、構造改革やM&A(合併・買収)への期待感から上昇ピッチを強め、「小泉郵政解散相場」(2005年8月〜2007年7月)では23倍前後と、欧米株の10〜15倍前後より高めでも問題ないとみられていた。 しかし2008年秋のリーマンショック以降、少子高齢化を背景にした構造的な低成長社会も重なり、状況は一変した。PERは足元で17倍弱に過ぎない。2014年の年間平均も15.96倍だった。 市場の想定するメーンシナリオは、企業業績が12%強拡大し、PERが現在とほとんど変わらない17倍で推移した場合、日経平均の「実力」は2万1150円程度となる。短期的に大幅な相場上昇は見込めないとしても、1万9000円前後の水準は「業績面から見れば、まだ割安感がある」(ゴールドマン・サックス証券の鈴木博美ストラテジスト)。 市場関係者が「3月末に2万円台乗せ」と自信を見せる根拠も、このあたりにありそうだ。 PER20倍なら、日経平均は2万4880円を超える では、仮に将来の利益成長とアベノミクスによる構造改革を織り込む形でPERが上昇したらどうか。PERが20倍まで上がれば相場上昇に弾みがつき、日経平均は2万4880円を超える計算になる。 ただ、景気や企業業績の先行きには不透明感も漂う。例えばトヨタ自動車は2016年3月期のEPSが市場予想平均で776円。今期より12%高いが収益は為替相場に左右されやすい。1円円高に振れると営業利益は年間417億円吹き飛ぶという。製造ラインで10銭単位のコスト削減努力を重ねているトヨタにとって、為替の影響は大きい。円安で輸出採算が改善しているとはいえ、いったん為替が逆戻りすれば増益率が市場予想まで伸びるとは限らない。 仮に日経平均のEPSが直近の1105円から伸びずPERも17倍に据え置くと、株価の戻りは1万8800円前後が精いっぱいだ。現時点で1万9000円に迫る株価水準は、既に投資家の期待がやや行き過ぎている状況とも映る。 銘柄選別で重要度を増すROE では上昇相場では、どのような銘柄を選別したらよいのだろうか。ヒントのひとつになりそうなのが、ROE(自己資本利益率)だ。最終的なもうけである純利益を、自己資本で割って計算する値で、値が大きいほど「稼ぐ力」が高いことを裏付けている。 日本企業のROEは平均8%台で15%前後の米欧勢に見劣りし、長期の株価停滞の一因になってきた。売上高に照らして利益率の低いことが主因だ。 伊藤邦雄・一橋大学教授は「外向きには株主重視の経営を標榜しながら、社員やグループ企業など内向きには極端なシェア争いや社内目標の達成を強いてきた。この二枚舌経営がROE低下の背景にある」と指摘する。デフレ時代で価格競争に明け暮れ、団塊の世代を中心に高コスト体質が続いてきたことも否めない。 安倍政権がROEの底上げを成長戦略のひとつに打ち出しているように、伊藤忠商事は早期に15%を目指すほか、三井化学は今後2年内に8%以上にする方針。ROEを重視する外国人投資家が存在感を増していることも大きい。 低ROE企業は上値の重さが目立つ ただし、株式市場で注目されている企業が、必ずしもROEを重視しているとは限らない。相場の上昇が続く中、ROEが低い企業は、市場の評価が芳しくなく、上値が重いケースが目立つ。 一例が「東京ディズニーリゾート(TDR)」を展開するオリエンタルランド(OLC)だ。人気映画「トイ・ストーリー」を題材にした新アトラクション「トイ・ストーリー・マニア!」や、ヒット映画「アナと雪の女王」をテーマにした特別イベントで集客は好調。稼ぎの蓄積を示す利益剰余金は過去10年間で約2倍に膨らんだ。それでも分厚い資本が収益の高さに照らしてROEを抑える一因になっている。 OLCの加賀見俊夫CEO(最高経営責任者)は、「ROEは結果論。定量的な目標ありきの経営はしない」と強調するが、ディズニーの華やかな企業イメージの陰で年金基金などの中にはOLC株の売却に動いているところがある。投資家の疑心暗鬼を裏付けるように、株価は3万円の大台に乗せた後、上値の重い場面が目立つ。足元でOLC株が上昇しているのは、今春に1株を4株に分割することが大きい。財務のテクニックに頼った株高が続く保証はどこにもない。 富士フイルムホールディングスも市場の評価が芳しくない企業のひとつだ。2017年3月期までの中期経営計画で初めてROE重視を打ち出した。ただ、その目標は7%に過ぎない。企業買収などで利益を増やしながら株主配分も拡充する二正面作戦は、ややもすれば総花的な経営に終始しかねない。 全日本空輸(ANA)を傘下に持つANAホールディングス(HD)は、生きたお金の使い方が求められる企業の代表格だ。2012年7月、1700億円規模の大型増資に踏み切ったものの、目立った投資案件はパイロット訓練会社の買収(137億円)くらいにとどまる。ミャンマーの航空会社「アジアン・ウィングス・エアウェイズ」への出資(25億円)は取りやめた。 ANA HDのROEは5%前後。株価はアベノミクスの本格化した2012年12月から8割強の大幅高を演じたが、日経平均株価は既に2倍以上になっていることに照らすと出遅れ感がある。経営陣の手腕が問われる局面だ。 ANA HDと相前後して1000億円規模の増資に踏み切ったマツダは、メキシコ工場の新設など、これまで遅れていたグローバル戦略を加速している。市場予想によると2016年3月期も15%の最終増益率を確保する見通し。2012年12月からの株価上昇率は3倍強と、自動車大手でも屈指の水準だ。 かつてグローバル企業の筆頭格とされたホンダが停滞気味なのに対し、マツダや富士重工業が気を吐く様子は、稼ぐ力次第で株価だけではなく、業界の勢力図が大きく変わることを示している。 「日経平均が2万円を超えるのは時間の問題」――。こんな見方は市場関係者や企業経営者の共通認識になりつつある。2万円台を回復した後の株式相場は「ニッポン株式会社」が総花的に買われていく段階から、ROEの高い企業を選別する次の段階に移ることは間違いなさそうだ。 このコラムについて 記者の眼 日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20150225/277951/?ST=print
|