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「極ZERO」騒動 前代未聞!「払った税金115億円、やっぱり返して」サッポロビールに天下の国税が負けるのか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42196
2015年02月23日(月) 週刊現代 :現代ビジネス
千載一遇のチャンスが巡ってきた—。国税に狙い打ちされ、115億円の税金を納めたサッポロビールがついに反撃の狼煙をあげた。「極ZERO」を巡る騒動が再燃、両者の全面戦争が始まる。
■返還要求は「予定通り」
「国税庁から指摘を受けた当初から、『極ZERO』は第3のビールで間違いないと考えてきました。我々としては、それに則って返還を要請しただけです。
この要求が受け入れられるか否かは、国税が判断することですから、我々はその判断を待つだけ。こちらからは、いつまでに回答してくれという期限は申し出ていません。国税からも、いつまでに決めるということは明言されていない。事態の決着には、時間がかかるかもしれません」
本誌の取材に対し、こう語るのは、サッポロビールの尾賀真城社長だ。
今、国税とサッポロビールの間に、一大事件が勃発している。「払った税金115億円を返して欲しい」と、サッポロビールが国税に対し返還要求を起こしているのだ。
「長い酒税の歴史の中で、100億円を超える返還要求はいままでありません。まさに前代未聞の出来事です。国税がこの要求にどう反応するのか。これは、今後の酒造メーカー全体と国税の関係を左右しかねない問題に発展します」(ビール業界に詳しいジャーナリストの永井隆氏)
争点になっている「極ZERO」は、今やお馴染みとなった「プリン体ゼロ・糖質ゼロ」を初めて謳い、'13年6月の発売を皮切りに大ヒットを飛ばした人気商品。「その金の卵」を取り巻く状況が急変したのは、昨年1月のことだった。「『極ZERO』は第3のビールにあたらないのではないか」と国税が指摘したことを受けて、サッポロビールは自主的に『極ZERO』の販売を中止。同7月には登録を発泡酒に切り替えて再発売するという異常事態となった。
「発泡酒としての再発売は、サッポロビールにとって苦渋の決断だったでしょう。しかし、年間を通して最もビール系飲料の売り上げが伸びる夏場を前に、同社はなんとしてでも『極ZERO』を復活させたかった。人気商品が終売となれば、社の経営に響くという判断がありました。
結果的に発泡酒扱いになっても『極ZERO』の人気が衰えなかったのは、不幸中の幸いだった。しかし、この騒動でサッポロビールが大打撃を受けたのは紛れもない事実です」(全国紙経済部デスク)
時期を同じくして、同社は第3のビールとして過去に納めた税額と、「発泡性酒類」として計算し直した税額との差額115億円を自主的に納付した。それと同時に、延滞税として1億円も支払っている。
サッポロビールの振る舞いは、まるで国税に対して「全面降伏」したかのように映った。しかし、実態はそうではなかった。サッポロビールは反撃の時を虎視眈々と狙っていたのだ。
「社内では、今回の返還要求を『当然だ』と捉える向きが大勢を占めています。そもそも、国税が『極ZERO』を発泡酒ではないかと言ってきたときも自主調査を行いましたが、第3のビールとして問題はないという結果がでていたんです。
それでも115億円を納付したのは、もしウチに問題があることが分かってから納付すれば、それまでの期間で膨れ上がった延滞税も払わなければいけなくなるからです。実は、当初から社内ではとりあえずおカネを払っておいて、後に確証が得られれば返還要求をするという取り決めがありました」(サッポロビール幹部社員)
■国税の言いなりにはならない
つまり同社の追加納付は、やむをえない状況下での緊急措置だったということだ。前出の幹部社員は続ける。
「追加納付したときは、悔しかったですよ。特に開発、製造部の人間は『俺たちは間違っていない』と感情を露にしていた。それで、指摘を受けた昨年の1月以降も調査を継続して、今回の結論に至りました。今は国税が一体どんなことを言ってくるのかと、待ち構えている状況です」
さらには、ライバル他社の動向も、今回の騒動と無関係ではないという。前出の永井氏はこう解説する。
「1月27日、キリンビールの『のどごしオールライト』が第3のビールとして商品化されました。キリンビールは当初から国税と話し合い、すり合わせた上で発売したのでしょうが、『極ZERO』はそれが不十分だったのかもしれない。しかし、他社の商品が第3のビールとして認可されるのを見て、それならばウチも認められるのが道理だと捉えたとも考えられます」
恭順姿勢から一転して攻勢に打って出たサッポロビール。しかし、この返還要求は国税からすれば、明確な反乱に映るだろう。酒造メーカーにとって、国税は酒類の製造免許発行という首根っこすら抑えている「親玉」。その国税にたてつくことは、自らの首を絞めることになりかねない。それにもかかわらず、なぜ同社は反旗を翻したのか。
「これまで、ビールメーカーは国税との間で強固な上下関係を強いられてきました。それだけに、今回の要求は下剋上とも受けとれる。今、酒造業界には、国税の言いなりになっても、得にならないのではないかという疑念が湧きはじめているのかもしれません。
さらに、企業が国税を相手取り起こした裁判で、このところ国税が負け越しているという事実も、サッポロビールには追い風になったのではないでしょうか」(元財務省キャリアで税務訴訟専門弁護士の志賀櫻氏)
志賀氏が指摘するように、昨年来、国税はIBMをはじめデンソー、ホンダ、ヤフーに追徴課税取り消しの裁判を起こされている。この4件の裁判は、1審時点で国税の1勝3敗。ヤフー以外には、すべて不当な追徴課税の取り消し判決が下るという体たらくだ。ムリな課税を進めるあまり、日に日に権威を失墜させていく国税の姿がうかがえる。前出の志賀氏が続ける。
「裁判所は、今まで『国税がやっていることは間違いがないだろう』という前提に立っていた。ところが数年前、当時現役だったある国税庁長官が『現場で迷ったら、課税するように。もし裁判になったら、私たちがひきとるから』と言ったらしい。それを最高裁事務総局が聞きつけたのがきっかけで、裁判所の国税不信が広がりました」
さらに、36年間という長きにわたり査察官などを務め、調査の現場に立ち会ってきた国税OBの大津學税理士は、当局が抱える問題をこう指摘する。
「一連の裁判が示しているように、今、国税全体の調査レベルが低下している。要するに、調査するにしても、きちんとした準備をした上での理論武装ができていないんです。
今回の件に関して、酒類の分析、判定をしたのは鑑定官と呼ばれる技術者。彼らは酒類分析の専門家にもかかわらず、今回のような騒動を招いてしまった。その根本には、『とりあえず取れそうだから課税をしてしまえ、どうせ酒造メーカーは自分たちに刃向かえないんだから』という意識があったのでしょう」
国税も、絶対ではない。やり返すなら、今しかない—。凋落する一方の国税を前に、サッポロビールはこの好機を逃したら次はないと気勢をあげたのかもしれない。
■飼い犬に手を咬まれた!
さらに同社には、国税が進める酒税改定に対してクギを刺す狙いもあった。
「昨年秋に持ち上がった税制改革で、第3のビールが増税されて発泡酒と一体化し、ビールは減税される方向に向かっていました。売れ行き好調な発泡酒や第3のビールを増税するのは、取れるところからむしり取るという国税、ひいては財務省のあからさまな狙いが見える。サッポロビールの返還要求は、これ以上国の思い通りにはさせないという決意のあらわれなのでしょう」(専門誌記者)
本誌の取材に対し、尾賀社長は「返還がなかった場合、裁判までいくかは未定です。それぞれの段階に応じて対応する」と答える。しかし、事態はそう簡単には収束しないだろう。'11年に終了した武富士の贈与税裁判で、国税から勝訴を勝ち取った升永英俊弁護士は、こう語る。
「国税がサッポロビールの主張を認めてスンナリと返還に応じるかといえば、その可能性は低い。おそらく、これまでのケース同様に国は徹底抗戦の構えを見せ、訴訟まで発展するでしょう。個人的には、サッポロビールは『絶対に取り返してやる』という意気込みで、正当に主張したほうがいいと思います」
升永弁護士は続ける。
「いざ裁判になり、サッポロビールの主張が認められることになれば、国税は115億円の本税と1億円の延滞税の他に、税金の返還にかかる利息の『還付加算金』も上乗せして支払わなければなりません。
現在、還付加算金の利率は年利で1・8~1・9%。このおカネは、当然国民から徴収されることになります」
仮にサッポロビールが追加納付した日から1年後に、サッポロ側が勝訴したと仮定すれば、国税は115億円×1・8~1・9%の還付加算金を払う必要が生じる。その額はおよそ2億1000万円。発泡酒「極ZERO」(350〓缶、165円と設定)を約130万本も買える計算になる。国税は税収を増やしたいあまりに、結果的に国民に余計なカネを使わせたことになるのだ。
この「極ZERO」騒動は、今後さらなる波紋を呼ぶ可能性もあるという。前出の大津氏は指摘する。
「今回の騒動は、国税からすれば飼い犬に手を咬まれる屈辱的な出来事。状況次第では、今後国税は引き締めのためにあらゆる酒造メーカーに対して一層強硬な姿勢を取り始めるかもしれません」
ビールメーカー全体を巻き込みかねない国税とサッポロビールの対決。その火蓋は切られたばかりだ。
「週刊現代」2015年2月21日号より
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