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【第367回】 2015年2月23日 真壁昭夫 [信州大学教授]
世界を覆う低インフレが示す、金融緩和策の限界 主要国で鮮明化するデフレ傾向 背景には世界的な需要不足
日銀にとっても悩ましい状況だ
Photo:G-Fotolia.com
?世界経済を概括すると、主要国で低インフレあるいはデフレ傾向が鮮明になっている。
?
?わが国の消費者物価指数は前年対比で3%近い上昇を示しているものの、そのうちの約2%は昨年4月の消費税率引き上げ分だ。今年4月からそれが剥落すると、恐らく、消費者物価指数は1%を下回る水準になるだろう。
?景気回復が進んでいる米国でも、インフレ率はFRBが目標とする2%を下回っており、今のところ消費者物価指数が大きく上昇する状況にはない。EU圏もディスインフレ傾向が一段と鮮明化している。さらに、従来、インフレ期待が高かった中国でも物価水準は落ち着いている。
?こうした世界的な低インフレ傾向の背景には、何といっても世界レベルの需要不足がある。モノを買いたい人よりも、売りたい人の方が多いのだから、モノの値段が上がりにくいのは当然のことと言える。
?重要な問題は、世界的な需要不足の状況がそう簡単に解消されそうもないことだ。現在、米国を除く世界の主要国はいずれも金融緩和を行い、通貨の供給量を増やすことで景気を刺激し、物価水準を押し上げる政策を取っている。
?しかし、各国中央銀行の必死の政策運営にも拘わらず、世界経済が大きく回復する気配は今のところ見られず、物価水準も低迷したままだ。今後の世界経済の行方と、それに伴う金融市場の動きを考えてみる。
長引くバブルの後始末
先進国の低迷と新興国の減速
?足元で世界的に需要不足に陥っている状況を、単純、明快な一つの解で説明することは難しい。いくつかの要素が絡んでいると考えるべきだ。
?まず頭に浮かぶのは、世界経済の循環的要因だ。一般的に経済の波には、短期的な在庫調整による40ヵ月程度のキチン循環、企業などの設備投資を中心とする10年程度のジュグラー循環、さらには60年程度の長期波動であるコンドラチェフ循環が知られている。?
?1990年に米国のITバブルが崩壊し、世界的に景気が落ち込んだ時期を景気の谷とすると、その後、世界的な情報通信技術の発達によって世界経済の回復が明確になり、中国などの新興国経済の台頭もあって、世界経済は上昇過程に入った。
?しかし、その上昇傾向は長続きせず、2000年代中盤に米国を発端とする世界的不動産バブルが発生し、リーマンショックによって再び世界経済は落ち込んだ。
?バブルが崩壊した後には、必ず不良債権処理に伴う金融機関の経営破綻と、企業のリストラによる労働市場の悪化が起きる。それによって景気は大きく落ち込む。今回も同様のことが世界的に発生した。
?ただし、バブルの後始末のペースは主要国間で異なっている。米国経済はいち早く、リーマンショックから立ち直りつつある。一方、ユーロ圏のペースは遅れ気味だ。所得水準が相対的に高く、大きな有効需要を持つ主要先進国の景気低迷の時期が重なったことで、世界的な需要が低迷することになった。
?もう一つ無視できないのは、期待された新興国経済の伸び率が鈍化していることだ。それは、循環的要因というよりもむしろ構造的な要因と見るべきだろう。例えば、中国はつい最近まで二ケタ成長を達成してきた。
?しかし、主な輸出先である主要先進国の景気が低迷すると輸出の伸びは鈍化し、それに伴い設備投資の勢いも減殺されることになった。一次産品などの輸出に依存してきた新興国の経済も、中国同様に伸び悩み傾向を示している。これらはいずれも需要の伸びを下押しする要因だ。
技術革新の需要創出効果も重要
現状では「欲しいものがない」
?景気波動を考えるとき、経済活動の基礎になる技術革新や、新製品の開発のマグニチュードを忘れるべきではない。新しい技術の開発によって製品コストが低下すると、今まで手が出なかった人たちが実際の購買に動くことが考えられる。
?あるいは、画期的な新製品が開発されると、その製品に対する需要が大きく盛り上がることが想定される。20世紀後半以降の情報通信革命と呼ばれる動きの中で、パソコンやスマートフォン、タブレットPCなどに対する需要が拡大したことは記憶に新しい。
?あるいは、自動車に関してもハイブリット技術が開発され、低燃費で長い距離を走行する自動車が生み出されて、先進国を中心に需要の拡大が顕著になっている。さらに今後、燃料電池車や自動運転車が普及段階に入ると、それらの新製品は大きな需要を創出することになるはずだ。
?その意味では、技術革新と経済活動には密接な関連がある。問題は、そうした技術革新は常に生み出されるとは限らないことだ。時に、大きな技術革新や、画期的な新製品の開発が停滞する時期がある。上に述べた景気の循環、特に長期波動を形成する要素の一つに、技術革新があると考えられる。
?現在、1990年代に始まった情報通信革命が世界的に続いていると考えられるものの、かつて世界を大きく変革した画期的な新製品が出てきていないか、あるいはまだ普及期を迎えていないように思う。
?主要先進国で消費者のアンケート調査を見ると、「欲しいものがない」、「今あるものが古くなったら買い替える」などの消費行動を示す結果が多いと言われている。それでは、主要先進国の需要は大きく伸びることは難しい。
?実際の購買力を持っている先進諸国の需要が伸びないと、先進国向けの輸出依存度の高い新興国の経済が大きく盛り上がることは想定し難い。
金融緩和策の有効性を
検証する必要がある
?世界的な需要不足の中、景気の回復ペースが鈍化し低インフレに悩む各国は、いずれも金融政策を総動員して景気刺激・低インフレ脱却を目指して政策運営を行ってきた。
?米国やわが国、ユーロ圏などは量的金融緩和策に踏み込み、輪転機を回して紙幣を印刷し市中に供給してきた。お金を潤沢に市中へ注ぎ込むことで、人々がお金を使うようにして経済活動を活発化すると同時に、物価水準を押し上げることを狙ったのである。
?ところが今までのところ、思い切った金融政策だけでは、多くの国で期待されたほどの効果を上げることができていない。
?わが国は、90年代初頭に大規模なバブルが崩壊した後、ほぼ一貫して金融緩和策を取ってきた。特に、昨年3月、黒田総裁が日銀総裁に就任以来、“異次元の金融緩和策”を実施したものの、2年以内に部下水準を2%まで押し上げる目標の達成はかなり難しくなっている。ユーロ圏も、欧州中央銀行(ECB)の積極策にも拘らず物価水準の低迷が続いている。
?唯一、金融緩和策の効果が一部顕在化し出口戦力を検討している米国でさえ、物価水準はFRBが予想したほど上昇していない。そうした状況を見ると、金融政策が、実際の経済活動や物価水準にどれほどの影響を与えられるか真剣に検討する必要がある。
?かつて、ある中央銀行の幹部は、「企業が、消費者が欲しいと思うものを作ることが物価水準の上昇につながる、それは金融政策の範疇を超えている」と指摘していた。彼の指摘には相応の説得力がある。
?わが国のように各家庭に一通りのモノが揃っていると、企業が、今まであった製品を作っていても、消費需要を大幅に増加させることは難しい。それは中央銀行がお金を大量に供給しても同じことだ。お金をいくら供給しても、本当に買いたいものがなければ、人々の購買意欲は盛り上がらないからだ。
?そして人々が欲しがるものを作るのは各企業の仕事であり、中央銀行の仕事ではない。そのため、現在のような状況下で金融緩和策の有効性が限定される可能性は高いとみられる。
?金融緩和策によって、株式や不動産などの市場にお金が流れこみ、資産価格を上昇させる効果は期待できるだろう。その意味では、資産価格の上昇による消費の活性化=資産効果は見込めるはずだ。
?ただし、過剰な流動性による資産価格の上昇が行き過ぎると、バブル発生のリスクが高まることは十分頭に入れておくべきだ。バブルによって景気が改善する局面は良いが、バブル崩壊後の後始末には塗炭の苦しみを伴う。
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