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2014年12月15日、世界の先陣を切ってトヨタ自動車が発売した水素燃料電池車「MIRAI(ミライ)」。
トヨタが燃料電池車の特許を無償開放した本当の理由
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150222-00014608-president-bus_all
プレジデント 2月22日(日)20時15分配信
■特許開放はスタンドプレーなのか
昨年12月15日に世界の先陣を切って水素燃料電池車の市販モデル「MIRAI(ミライ)」を発売したトヨタ自動車。が、トヨタの打つ手はそれだけではなかった。今年1月6日、アメリカのラスベガスで開催された世界最大の家電見本市CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショウ)で、今度は5700件近くにのぼる燃料電池車に関する単独特許を2020年まで、水素ステーション関連については永久に無償化すると発表、メディアを騒然とさせた。
それからさらにおよそ1カ月がたった今、トヨタに寄せられた特許使用に関する問い合わせは十数件であるという。自動車メーカーも含まれているというが、水素ステーションや水素製造を手がけるエネルギー関連企業が主体とみられる。
この問い合わせ件数が多いか少ないかはさておき、燃料電池開発では競合関係にあるメーカーからは、「トヨタがなぜ特許開放を声高に打ち上げたのか、動機がわからない。なぜなら、少なくとも大手メーカーは以前から製品化を視野に入れた研究開発を進めており、それぞれ柱となる特許を持っている。スタンドプレーではないのか」といった声も聞こえてくる。
別の見方もある。燃料電池車の開発ではトヨタと並ぶ世界のトップランナーと目されるホンダの開発系幹部は次のように語る。
「燃料電池車は技術的にとても難しい。ウチは08年に燃料電池車『FCXクラリティ』をリース販売しました。3年で200台を予定し、量産ラインも組んだのですが、いざ売り出してみると、想定外の技術的難問が噴出して結局頓挫しました。その後、技術の進化で燃料電池車のクルマ単体としての問題は解決されつつありますが、難しいのはそれだけではない。トヨタは世界の中でも最も多くの開発資金と人員を割いて燃料電池車の開発を推進してきたメーカー。それだけに、水素の難しさは誰よりもわかっているはず。世界にプレーヤーを増やして、技術革新や量産の広がりをうながしたいという思いは本物なのでしょう」
■技術革新途上の囲い込みは意味がない
トヨタ関係者も「2020年は永久ではないが当面という意味。それを過ぎたからといって、必ず有償化すると決めているわけではない。あくまで特許を利用する側との話し合いによります」と、特許による技術防衛や知財収入より、とにかく燃料電池車に参入するプレーヤーを世界で増やすことを優先させる考えを示す。
知的財産は自動車メーカーにとってはきわめて重要なもの。それをトヨタが無償で提供すると決断した動機は何か。考えられる理由のひとつは、電気自動車や燃料電池車のような技術進化がまだ低位にあるジャンルでは、もともとオープンソースが向くという特質を素直に受け止めたのではないかということだ。
燃料電池車に先行して普及が始まっている電気自動車を巡っては、一時、バッテリー技術を持つメーカーの囲い込み競争が起こるのではないか考えられたことがあった。が、実際にはそうならなかった。電気自動車はエネルギー効率の面から見れば最高のパフォーマンスを持っているのだが、バッテリーの性能や耐久性、価格は、ユーザーが求めるレベルの平均値に到底至っていない。もしその中で画期的なものが生まれてきたとしたら、否応なく古い技術を捨てて新しい技術を使わざるを得なくなる。競争力を失った自社技術に固執しても負けるだけだ。技術革新途上の分野においては、囲い込みは意味がない。
燃料電池車はまさに、その技術革新途上にある技術だ。トヨタが発売したミライは、燃料電池の小型化、省資源化、高圧水素タンクの低コスト化など、革新的な技術が盛り込まれているのだが、エコカーとしての性能は決して傑出したものではない。ミライはJC08モード下で水素1kgあたり130km走行することができるという。水素1kgが持つエネルギーの量はおよそガソリン4リットル分に相当するので、ガソリン車風に燃費を表示すると32.5km/リットルという数値になる。
この数値はミライが属するミドルクラスセダンのエンジン車のなかで目下の燃費トップランナーであるホンダ「アコードハイブリッド」の30km/リットルをわずかに上回るだけで、水素製造や高圧タンクへの充填で生じるエネルギーロスを考慮すると、既存のハイブリッドカーに効率で圧倒されているというのが実情なのだ。実は、トヨタもつい最近まで、燃料製造から走行までをトータルに計算したWell-to-Wheelでは、再生可能エネルギーなどを使わない限りエンジン車のハイブリッドのほうが効率が高いというデータを出し、そう宣伝していたのだ。
■水素社会の実現はイバラの道か
「燃料電池の理論効率は80%を超えると言いますが、エンジンだってカルノー限界と呼ばれる理論効率はものすごく高い。理論値を言うのは意味がないんですよ。自動車用に向いている低温型の固体高分子燃料電池は、理論値よりはるかに低いレベルにとどまっていて、それを劇的に上げる特効薬はまだ見つかっていない。電気自動車との差を詰めるどころか、今のままだと技術革新が急激に進んだエンジンにキャッチアップされかねない」(燃料電池技術者)
それでもトヨタが燃料電池車に力を入れるのは、ひとえにエネルギーセキュリティのためだ。現在、原油価格が大幅に下がり、化石燃料の供給リスクが高まるという観測は大幅に後退しているが、トヨタは地球規模の人口増大と経済成長に伴うエネルギー問題は必ず再燃するとみている。それに備えた技術革新を今から促す必要があるというのは、長期的には至極妥当な戦略と言える。
「水素エネルギーが技術の妥当性を含めてメインストリームになるかどうかは未知数で、重要な要素技術を持っている企業も参入には二の足を踏んでいるというのが現状。現在の特許はすぐに陳腐化するという読みもあるのでしょうが、遠未来を念頭に置いたビジョンを立てて特許の無償化に本気で踏み切るのであれば、トヨタの行動力はすごいと思う」(前出のホンダ幹部)
水素エネルギーは安倍信三首相の打ち出す成長戦略に組み入れられており、マスメディアの論調も水素はバラ色といった太鼓持ちのようなものが多い。が、現実は水素社会の実現はイバラの道。トヨタの特許無償化という策が功を奏してプレイヤーが増え、困難をきわめる技術革新が生まれる原動力となるかどうか、その成り行きが大いに注目される。
ジャーナリスト 井元康一郎=文
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