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年収400万円のあの人も残業代ゼロになる日 「1000万円プレーヤーだけ」と思ったら大間違い
http://toyokeizai.net/articles/-/61269
2015年02月21日 戸舘 圭之:弁護士 東洋経済
安倍政権が2015年の通常国会で成立をもくろんでいる、通称「残業代ゼロ法案」が物議を醸している。
企業には労働基準法で定められた一日8時間、週40時間の法定労働時間を超える残業(時間外労働)をした労働者に、原則として一定の割増賃金(残業代)を支払う義務がある。
■高年収ホワイトカラーを残業規制の対象外に
これに対して、現在、有識者会議などで検討されている残業代ゼロ法案は、現行労基法で残業規制の対象となっている労働者のうち、「年収1075万円以上を稼ぐホワイトカラー系の労働者」に限って残業規制を一部見直す、つまり残業代を払わないように改正するというのが柱だ。
別名で「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」とも呼ばれている。ホワイトカラー・エグゼンプションとは米国生まれの制度で、その名のとおり、ホワイトカラー労働者を残業規制の対象から外す(エグゼンプション)ことを意味する。
2月13日に公表された労働政策審議会の分科会報告から、問題の部分を引用しよう。やや専門的で難解な表現となるが、原文をそのまま掲載する。
「時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応え、その意欲や能力を十分に発揮できるようにするため、一定の年収要件を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、長時間労働を防止するための措置を講じつつ、時間外・休日労働協定の締結や時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の適用を除外した労働時間制度の新たな選択肢として、特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)を設けることが適当である」(平成27年2月13日労働政策審議会「今後の労働時間法制等の在り方について(建議)」)
要は「時間ではなく成果で労働を評価するためには、残業代をゼロにしなければならない」というのが根本にある理屈である。
「年収1000万円プレーヤーの話だから自分には関係ない」と思うビジネスパーソンが大半かもしれない。確かに現時点ではそうかもしれない。たとえば東洋経済オンラインが独自推計した「最新版!『40歳年収が高い』トップ300社」(2014年10月15日配信)で見ると、40歳で年収1075万円以上をもらっていると推計される上場企業社員は27社しかない。集計対象である全上場企業約3600社の1%未満だ。今回の残業代ゼロ法案で対象になりそうな労働者は多めに見積もっても全体のせいぜい1割に満たないと考えていいだろう。
だが、ここに落とし穴が隠れている。
この残業代ゼロ法案がひとたび成立してしまえば、後の法改正でその対象を広げる、つまり年収要件を下げていく方向に動いていく可能性は十分に想定される。
この議論は過去10年にわたって繰り返されてきた。発端は2005年。日本経団連が表明した「ホワイトカラー・エグゼンプションに関する提言」にその考えが示された。当時そこにまとめられた残業代ゼロ構想の理想型は、「年収400万円以上で時間の制約が少ない頭脳系職種、つまりホワイトカラー労働者をすべて残業代ゼロにすること」だ。
経団連の意図はこうだ。「総務や経理、人事、企業法務、ファイナンシャルプランナーなどのホワイトカラー労働者の場合は、労働時間の長さと成果が必ずしも比例しないため、工場労働者がモデルとなっている現行の労働時間規制はなじまない。ホワイトカラーの生産性を上げるためには、年収や年齢で対象者範囲を限定せずに、労働時間規制を外すことが望ましい」。
■際限のない長時間労働を強いられかねない
残業規制を外すことで懸念されるのは、残業代が削られるだけでなく、現実に“自分の裁量で働き方が調整できる”というホワイトカラー労働者でなければ、際限のない長時間労働を強いられかねないことだ。残業代ゼロ法案については、労働組合や法律家団体などが反対の姿勢を表明している。
そもそも現行の法制度の下で「時間ではなく、成果で評価する」ことはできないのだろうか。実はそれは問題なく可能であり、現に成果主義を採用している企業は数多く存在している。そもそも、賃金をいかなる体系で決めるかどうかは、各企業がさまざまな観点から工夫をして制度を導入している。
月給制の企業であっても、営業職では歩合による賃金を定めていたり、ボーナスでは業績に応じて各労働者の賃金に差を設けていたりするのはよくあること。極端な言い方をすれば、最低賃金を下回らない限り、どのような賃金体系をとろうと法的には全く問題はない。
残業代は、通常の給料とは別に法が定める労働時間を越えて労働した場合に、超過した労働時間の長さに応じて支払われる。あくまで時間外労働が行われた分に対しての割増賃金が定められているに過ぎず、労働者を成果ではなく時間で評価しているわけではない。残業代をゼロにしたからといって、「時間ではなく成果で評価される働き方」が実現される保証は何もない。
実際、労政審の今回の報告書では、これまで研究職や記者など労働時間の自由度が高い企画業務型の労働者に限って適用が認められていた裁量労働制の対象範囲を、一般の営業職にまで拡大適用するという内容の改正案も同時に提案されている。1日8時間、1週間で40時間と厳格に定められた労働時間規制の撤廃を今の政府が目論んでいるフシが感じられる。
■残業代が割り増しされている理由
そもそも現行労基法で定められている一日8時間、週40時間を超えた場合に払われる残業代とは、何のための制度なのか。それは、心身に悪影響が生じ、場合によっては命を落とす危険(過労死)になりかねない長時間労働を抑制するためだ。
残業代は、基本的な給料に一定の割増率を掛けて支払わなければならない。使用者(企業)にあえて重い経済的負担を使用者に負わせることで、長時間労働を行わせない方向にインセンティブを働かせているのである。残業代は、長時間労働の歯止めとして機能しているのであり、労働者の経済的な利益の問題だけではなく「命」の問題として残業代を考える必要がある。残業代ゼロ法案は、このような長時間労働を防ぐための制度をなくしてしまうことにつながる可能性がある。
かつて第一次安倍政権時代の2007年にも同様の制度導入が提案されたが、長時間労働の拡大を懸念する世論の反発にあい法案提出は断念された。現在においても、労働者の置かれている状況は当時とは変わらない。サービス残業(賃金不払い残業)の是正が進んでいるとは言い難く、労働基準監督署に是正を求められる企業は少なくない。その中には時折、有名な大企業も含まれる。
労働基準法は、労働者が「人たるに値する生活」を送るために最低限使用者が守らなければならない労働条件を定めた法律である(労働基準法1条)。そしてこの労働基準法は、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障した憲法25条、労働者の勤労の権利などを保障した憲法27条に由来する憲法的な価値を有する法律である。労働時間規制は、まさに「人たるに値する生活」を労働者に保障するための最低限の規制として位置づけられている。
憲法に基づいて、労働者に「人たるに値する生活」を保障するために制定された労働基準法がいま重大な危機に瀕している。
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