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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第113回 ピケティ論争
http://wjn.jp/article/detail/9150755/
週刊実話 2015年2月26日 特大号
アメリカなどで大ベストセラーとなったフランスの経済学者トマ・ピケティの『21世紀の資本』が我が国でも話題になっている。
『21世紀の資本』は極めて分厚い本なのだが、実はピケティはほとんど一つのことしか言っていない。
すなわち、
「r(資本収益率)がg(経済成長率)を上回ると、持続不可能な格差を生み出す」
である。
どういうことか。
g(経済成長率)とは、もちろんGDP成長率のことだ。そして、GDPとは、
「生産者が働き、付加価値(モノ・サービス)を生産し、消費・投資として誰かが支出(購入)したとき、所得が生まれる」
という、所得創出のプロセスと密接なかかわりがある。
GDPは国内の所得創出のプロセスにおける「生産」の合計であり、同時に「支出」「所得」の合計でもあるわけだ。
生産面、支出面、所得面のGDPは必ず同額になる。これを、GDP三面等価の原則と呼ぶことは、本連載で何度か解説した通りだ。
すなわち、gとは国民が「労働」により獲得する所得の増加率を示しているわけである(厳密には実質GDPの成長率)。
それに対し、rは投下された資本の収益率だ。ピケティは、日米英独仏など先進国のデータを過去数百年(!)に渡り遡って分析し、資本主義の社会ではほとんどの時期で「r>g」が成立していることを発見したのである。
ピケティは過去の平均を見ると、資本収益率が4%程度に落ち着き、先進国の経済成長率は1.5%ほどになることを実証した。
言い換えれば、資本主義とは政府が累進課税などの所得分配政策を採らない限り、社会は「持続不可能な格差」の状況に向かわざるを得ないというわけである。
また、「r>gが継続し、格差が持続不可能な状況になっていく」ということは、富裕層を優遇すると、投資等でお金が国内に滴り落ち(トリクルダウン)、国民経済全体が潤うというトリクルダウン理論は成立しないことになる。
筆者は以前から、最近のアメリカなどのデータに基づき、トリクルダウンが成り立たないと主張してきた。ピケティは、“歴史的にも”トリクルダウンが発生しないことを証明してしまったのだ。
ゆえに、ロナルド・レーガン政権以降のアメリカなどで推進された富裕層減税、法人税減税などの「強者優遇政策」の正当性は失われた。
富裕層や法人に減税をしたところで、国民経済の成長には貢献せず、国内の所得格差拡大を招くだけなのだ。必要なのはむしろ「所得税の累進性の強化」になるわけである。
最近の日本の状況を見ると、'90年代後半から「r>g」の状況に陥っていることがわかる。「持続不可能な格差」が開いていく構造になっているのである。
しかも、日本はまさに'90年代後半('98年)から、経済成長率が落ち込むデフレーションの時代に突入した。
デフレ下では、「r>g」どころか、gが全く増えなくなる。さらに、物価の下落率以上のペースで給与所得が下がり、実質賃金が継続的に減っていくため、国民はどんどん貧困化していく。
国民が貧困化する反対側で、我が国では橋本龍太郎政権、小泉純一郎政権により各種の構造改革が実施された。「金融ビッグバン」「持ち株会社解禁」「派遣労働解禁」「会社法制定」などなど、「株主中心主義」への転換が行われたのである。
その上、法人税は減税されていき、所得税の累進性も弱まっていった。加えて、低所得者層の負担は重く、「逆累進性」がある消費税の税率が引き上げられた。
結果、我が国の「一億総中流」という“強み”は失われてしまった。
'05年頃を思い出してみて欲しい。
当時は、やたらと「時価総額経営」という意味不明なコンセプトが尊ばれていた。株価が高かろうが低かろうが、本業とは関係がないはずなのだが、
「株価が高いことが、いいことだ」
という考え方が社会に広まり、経営者は「株価を引き上げるための経営」を迫られた。
その結果、短期的な利益を追求し、正規社員を非正規に切り替え、労働分配率が下げられた。逆に、配当性向は継続的に高まっていったのである。
我が国は「r>g」になっている状況で、rをさらに高めることを続けたことになる。これで社会が不安定化しなかったら、そちらの方が不思議だ。
「r>g」は、最近の株価と実質賃金の動きからも確認することができる。
昨今の日本では日経平均が上昇する反対側で、クロスする形で実質賃金が落ちている。
実質賃金という所得の上昇率を(キャピタルゲイン=債券や株式など資産の価格の上昇による利益=を含む)投資利益率が上回っているのだ(実質賃金は上昇どころか、中期的に下落しているが)。
ピケティ・ブームの影響を受けたのか、安倍晋三総理は2月2日の参院予算委員会で「トリクルダウン理論」について、「我々が行っている政策とは違う」と否定した。
とはいえ、安倍政権の金融政策偏重のデフレ対策や、成長戦略という名の「構造改革」、法人税減税と消費税増税の組み合わせは、明確に「トリクルダウン」の政策だ。
安倍政権が現状の経済政策の舵を大きく変えない限り、総理は「日本の格差を持続不可能なまでに拡大した」政治家として、歴史に悪名を残すことになるだろう。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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