01. 2015年2月20日 20:34:55
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コラム:原油安の「とばっちり」を受けた中銀の物価目標=山本雅文氏 2015年 02月 20日 17:52 JST 山本雅文 プレビデンティア・ストラテジー マーケットストラテジスト[東京 20日] - 昨年11月末の石油輸出国機構(OPEC)総会での減産見送りによって拍車がかかった原油安。金融市場では近年、影響力の大きいプレーヤーが結託して利益を得ようとする広義のカルテル行為が次々と告発され消滅していく中で、OPECの決定を受けた制御不能とも見えた原油安はカルテルの逆襲を垣間見せる異例な出来事だった。 その標的としたものはシェール革命と米国のエネルギー覇権主義、ロシア帝国主義、あるいは石油精製基地を収入源の一つとする過激派組織「イスラム国」など諸説紛々だが、最大の「とばっちり」を受けたのは世界の多くの中銀が導入している「インフレ目標制度」かもしれない。 昨年後半以降の原油価格の急落・半減を主因に、オーストラリアやニュージーランドなど多くの国でエネルギー価格を含む総合インフレ、あるいはそれに近い実勢インフレ率が中銀のインフレ目標レンジの下限を割り込んだ。ユーロ圏では、1月の消費者物価指数(HICP)が、欧州中銀(ECB)の中期的な物価安定の定義である「2%を下回るが、これに近い」水準をはるかに下回るマイナス0.6%(前年比)となった。 英国でも、1月の消費者物価指数(CPI)が1989年の現行統計開始以来の最低水準であるプラス0.3%(同)にまで落ち込んだ。イングランド銀行(BOE)のカーニー総裁は、現行のインフレ目標制度導入後に目標の下限を割り込んで財務相に書簡を送る羽目になった歴史上初めての総裁となったようだ。 日銀も、昨年12月の国内CPIが消費増税の直接的な影響と生鮮食品を除いたベースで前年比プラス0.5%であるから、多くの主要国中銀のインフレ目標レンジである「2%から上下1%」に鑑みれば、レンジ下限を割り込んだ部類に入るといえよう。 こうした中、エネルギー価格を含む総合インフレ、あるいはそれに近いインフレ率を目標としている中銀は次々とハト派化し、金融緩和に追い込まれた。主要国中銀の中では、ECBのマイナス金利・量的緩和導入を筆頭に、カナダ中銀とオーストラリア準備銀行(RBA)が利下げに踏み切り、ニュージーランド準備銀行(RBNZ)もタカ派スタンスを中立化させた。 なお、カナダでは実勢インフレはまだ目標下限を割り込んでいないが、産油国であるため原油安が成長率見通しの下方修正につながったことと、インフレ率が将来的に目標下限を割り込む見通しを示した上で利下げを行っており、市場にはサプライズだったが周到に準備された先制的な(preemptive)対応と評価すべきだろう。 しかし、そもそも原油安という中銀が持つ金融政策・調節手段では直接解決できない要因によるインフレ低下に対して、金融政策により対応するというのは正しいあり方なのだろうか。 <原油安に翻弄されにくい米英の金融政策> もともと、これはエネルギー価格を含む総合インフレをターゲットとしているために生じた問題だ。原油安の影響で大きく下落したエネルギー関連物価はどうしようもないので、金融緩和によってその他の品目を押し上げ、全体としてのインフレ率押し上げを図っていることになる。 ではなぜ総合インフレをターゲットとする中銀が多いのかと言えば、消費者物価という統計は国民の間に比較的馴染みがあり、必ずしも経済・経済政策の専門家ではない政治家および彼らが代表する国民とのコミュニケーションが容易であることが大きいとみられる。 確かに、中銀が食料とエネルギー価格を除く、いわゆるコアインフレ率を目標とする場合、それら除外品目は一般庶民の生活にとって非常に重要な品目なので無責任だ、という議論につながりかねない。 物価目標のターゲットとすべきインフレ指標については様々な考え方があり、各国で事情も異なる。だが、筆者は総合インフレを基本的なインフレ目標としつつ、たばこ増税・消費増税などの税制変更や今次局面のような原油価格の急変といった中銀がコントロールできない品目あるいは変動を除外した基調的インフレ率も参照した上で、2%のインフレ目標を達成するよう金融政策を調整する枠組みが理想的ではないかと考えている。 やや複雑に聞こえるかもしれないが、今次局面に当てはめれば、総合インフレは低下しているが中銀がコントロールできない原油価格の影響を除いた基調的インフレ指標が低下しているわけではないので今回は金融緩和の必要がない、といった説明が可能になる。 過去には多くの中銀で実質的にそうした対応が取られてきた面もあるが、今回の原油安への対応をみるに、隔靴掻痒(かっかそうよう)というか、総合インフレ目標という制度があるがゆえにコントロールできないものをコントロールしようとしている、あるいは通貨安を通じて景気を刺激したいがインフレの高止りによりできなかった金融緩和を、原油安を利用して実行している国があるようにみえる。 また、原油安がなければ適正圏内だった多くの品目のインフレ率が、原油安を受けた金融緩和で過度に押し上げられてしまう面もあるはずだ。オーストラリアやカナダでは、すでに過熱気味の住宅市場が不必要な下支えを受けることになるとみられる。 この点、米国や英国は中銀がコントロール不能な原油安の影響に左右されにくい制度運営を行っている。まず米国は、総合インフレではなくコアインフレ、すなわちコア個人消費支出(PCE)価格指数を重視することで、総合インフレをインフレ目標としている他の中銀と比べて、エネルギー価格の振れからくるインフレ率変動に一喜一憂せずに済み、より基調的な経済成長やインフレ圧力に焦点を当てて金融政策を決定できる。 この結果、米国では昨年12月の総合インフレが前年比プラス0.8%、同月の総合PCE価格指数が前年比プラス0.7%といずれも米金融当局のインフレ目標であるプラス2%を大きく下回って推移しているにもかかわらず、これらの数字は金融政策の予想の観点からは市場で全く注目されず、コアPCE価格指数が前年比プラス1.3%でなかなか2%に近づかない点に議論が集中している。 これについてすら、景気全般の回復や労働市場の改善継続を受けて中期的に2%へ収斂(しゅうれん)するというシナリオが維持されており、米国では原油安からくるディスインフレに対応した量的緩和再開といった非生産的な議論が回避されている。むしろ、原油安の将来的な消費および景気全般に対する押し上げ効果が将来的な利上げの必要性を高めることになり、今年半ばの利上げ開始シナリオが維持されている。 なお、直近1月の連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨では早急な利上げ開始に慎重論が示されたが、これは必ずしもインフレ低下によるものではなく、第4四半期国内総生産(GDP)成長率の鈍化など、実体経済活動の鈍化リスクに配慮したものとみられる。 英国ではBOEが総合インフレを2%から上下1%ポイント内に維持するインフレ目標政策を採用する中で、前述の通り直近の総合インフレ率が前年比プラス0.3%へ低下した。もしこれがユーロ圏で起きていたら量的緩和拡大の議論につながっていたような状況にある。 もっとも、BOEは原油安のインフレ押し下げ効果は一時的で、むしろこの一時的効果が一巡すれば年末にかけてインフレ率が急反発するリスクを指摘した上で、米国と同様に将来的な景気刺激効果も考慮し来年に向けた利上げ開始シナリオを維持している。本来、BOEはインフレ目標レンジ下限割れで財務相に対して書簡を送り、背景と対応を説明せねばならないが、そこでも同様の説明をし、足元の原油安を受けたインフレ低下を事実上無視し、形式的なインフレ目標に縛られずに金融政策を運営している。 日銀は基本的に原油安に翻弄される中銀の部類に入るが、最近は原油のインパクトへの対応に関してブレがみられている。日銀はインフレ目標の対象となるインフレ率として、消費税と生鮮食品を除くCPIを採用しているため、原油価格の影響を大きく受け、そのインフレ率も既述の通り12月には前年比プラス0.5%まで低下。2013年4月に量的・質的金融緩和を開始した際の約束だった2年間すなわち2015年度中の2%目標達成からどんどん遠ざかっている。 昨年10月末に日銀は追加量的緩和を行ったが、その際の説明として、消費増税後の景気悪化が想定以上であったことに加えて、原油安からくるインフレ率低下やデフレマインド復活リスクというロジックを援用した。もっとも、最近では原油安によるインフレ押し下げを追加緩和の理由に使うのではなく、インフレ目標を2015年度内に達成できない言い訳に使っている節がある。インフレ目標政策の「柔軟な運用」の一言に尽きるが、ロジックが一貫しておらず、原油安・インフレ率低下に対する日銀の金融政策反応関数が非常に読みにくくなっている。 <日銀追加緩和の見送りリスク> いずれにせよ、原油安を受けたインフレ率急低下により、多くの国でインフレ目標レンジの下限を突破してしまう事態となっている。まさにOPECによってインフレ目標制度の頑強性が試されている状況だが、不思議と市場参加者の間でインフレ目標政策への不信感が高まっているという話は聞かない。 ただし、これは市場参加者の中銀に対する信認が高いからだとみるのは的外れかもしれない。それが正しいか間違っているかに関わりなく、中銀は金融政策のルールとその解釈を決定・変更する権限を持っており、市場参加者は不本意でもそれに従わざるを得ないためだ。 こうした状況下での為替ストラテジーとしては、まず原油安でもひるまず近い将来の金融引き締めに向かっている米ドルと英ポンドは相対的に強くなるだろう。他方、昨年半ば以降の原油急落を受けて、今年半ばまでは前年比インフレ率がさらに低下する可能性が高く、それにインフレ目標政策上、金融政策対応を行う傾向がある国の通貨、すなわちユーロ、オーストラリアドルやニュージーランドドルは(追加)金融緩和期待が高まりやすく下落圧力がかかり続けるだろう。 逆に言えば、後者は原油急反発局面になればハト派姿勢を急に取り下げ、タカ派化するリスクがある点も頭に入れておく必要がある。 日銀は上述の通りロジックが必ずしも一貫していないように見受けられることから、政治的圧力の有無を含めた原油安からくるインフレ低下への金融政策反応関数、および2015年度中を中心とするインフレ目標達成という枠組みの微修正リスクも考慮しつつ戦略を立てねばならないところに難しさがある。 筆者は基本シナリオとしては、やはり原油安という中銀が操作不能な要因によるインフレ率低下であっても、2%のインフレ目標制度の導入自体がデフレマインド払拭(ふっしょく)につながるという大義名分の下でこれまで大規模緩和をやってきた以上、2015年度中の2%目標達成が実際上かなり難しいとしても達成しようという努力が続けられるべきとみている。早ければ4月、遅くとも7月に追加緩和を行い、円安も援用してインフレ率を押上げようとするだろう。このため、年央にかけての米利上げ開始を受けたドル高と相まって、125円方向へ円安が進むとみている。 ただし、4月中に統一地方選を控えていることから、株価がよほど下落して下支えする必要が出てこない限り、追加緩和の円安が選挙でマイナスに働くリスクが考慮され、追加緩和は先送りされるリスクがある。政府からの暗黙の了解を得て2015年度中の2%達成を事実上諦め、追加緩和を行わないリスクも従来に比べ高まっている点には注意が必要だ。 *山本雅文氏は、外為投資に関する調査・分析・情報発信を行うプレビデンティア・ストラテジーの代表取締役兼マーケットストラテジスト。日本銀行で短観調査作成、外為平衡操作(介入)や外為市場調査・モニタリングに従事した後、ドイツ・フランクフルト駐在を経てセルサイドに転出。日興シティグループ証券で通貨エコノミスト、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド銀行東京支店およびバークレイズ銀行東京支店で日本における為替ストラテジーチームのヘッドを歴任後、2013年8月にプレビデンティア・ストラテジーを設立。国際基督教大学卒業。 http://jp.reuters.com/article/jp_forumcolumn/idJPKBN0LO03720150220 アングル:年前半の米成長に黄信号か、「産油国リスク」利上げに影響 2015年 02月 20日 19:19 JST [東京 20日 ロイター] - エコノミストの間で、米国の今年前半の成長率を下方修正する動きが出始めている。原油安のなかで、産油国である米国内の設備投資停滞が低成長につながる「産油国リスク」に加え、個人消費も思ったほど強くならないといった懸念も浮上。利上げ開始時期の遅れやその後のペースに、不透明感が強まっている。 <好調な米経済の死角、設備投資の急減速指摘も> 18日に公表された議事要旨によると、1月の連邦公開市場委員会(FOMC)では、低調に推移しているインフレ率をめぐる議論が行われたが、物価や賃金が上がりにくくなっている米経済への漠たる不安はFOMC内でもぬぐえていないもようだ。FOMCからの利上げ時期やペースについてのメッセージに対する市場の受け止め方も、強気・弱気様々だった。今年前半の米経済の見方に、下方リスクを指摘する声が増えている。 その一つが「産油国リスク」としての設備投資減速だ。エネルギー産業を中心に、設備投資への下押し圧力がはっきりとしてきた。商務省発表の米製造業の新規受注は12月まで5カ月連続減少、ISM製造業新規受注指数も1月に大幅に減少した。米国企業の景況感も、昨年秋以降、急低下している。家計部門とは対照的に、企業部門の悪化が目立っている。 2月の日本政府の月例経済報告でも、米国経済への評価を上方修正する一方、今後の原油価格下落の影響に留意が必要との指摘が加わった。 米国の産油量は日量1000万バレルと、ロシアとほぼ並び世界第3位の規模だ。 野村総合研究所・金融ITイノベーション研究部長の井上哲也氏の調べでは、ここ数年急激に伸びてきたシェール関連投資など固定資本投資はこの1、2年をとっても20%近い増加率で、製造業全体の投資に匹敵する規模となっている。雇用についても、雇用者数全体に占める鉱業のウエートはわずかとはえ、ここ数年、非農業部門の雇用者増加分の3分の1程度が、鉱業を中心とする6州の寄与で占められているという。 このエネルギー産業の設備投資の減速は米経済全体の下押し圧力となると指摘するのが、SMBC日興証券シニアエコノミストの丸山義正氏。15年第1・四半期の米経済は、1%成長まで減速するとみている。「シェール産業に依存度の高い地域では資本財需要の縮小や消費支出の減少なども同時に生じるため、米国経済全体にとっても無視できない悪影響となるだろう」とみている。 このため、15年前半は1.8%成長と、潜在成長率を下回るペースとなると予測している。 <個人消費も鈍化見通しが浮上> 2つ目が、個人消費が期待されているほど伸びない可能性だ。 JPモルガン証券は今年前半の米国成長率見通しを下方修正し2.75%としたが、設備投資に加えて個人消費もその主要因だ。同証券のシニアエコノミスト・足立正道氏は「所得や雇用が強い割に、12月の消費は伸び悩んだ。市場の期待インフレ率も弱い」とみている。 原油安が家計の消費を上押しすると期待されているだけに、消費の弱さが一時的な現象なのか、あるいは何か景気の弱さに起因するものなのか、原因は不明だという。 <コンセンサスは「慎重な利上げペース」> 従来に比べて米国経済に対する見方がやや弱気に傾いているなかで、米連邦準備理事会(FRB)による利上げとその後のペースへの見方も変化しつつある。 井上氏は、利上げ開始時期は当初見通し通り年央に実施し、FRBとしては様子を見るだろうと予測しているが、「問題はその後の利上げペースにある」と指摘。「もし物価や賃金の上昇ペースが一層鈍れば、米FRB内部で利上げは不要と主張する勢力にとって好材料となる」とみている。 丸山氏も、原油価格の下落に伴う設備投資減速の影響を考慮に入れ、従来の毎回利上げから1回ずつ休みを入れての利上げペースに減速すると、見通しを修正したという。 ただ、マーケットとFRBウォッチャー、そしてFOMCメンバーとの間でも、米経済への見方も、利上げ開始時期もその後の具体的なペースも、認識はまだ共有されていないようだ。足立氏は「唯一コンセンサスとなっているのは、利上げペースは慎重にという部分だけ」と指摘、消費や設備投資の不透明感が強い中で利上げをめぐるリスクは後ずれ方向とみている。 (中川泉 編集:石田仁志) http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0LO0QP20150220 コラム:金融緩和「懐疑論」の落とし穴=村上尚己氏 2015年 02月 20日 18:10 JST 村上尚己 アライアンス・バーンスタイン(AB) マーケット・ストラテジスト [東京 20日] - 1月まで海外市場では複数の不確実要因(ギリシャ問題、ウクライナ情勢、原油価格の大幅下落)を背景に、欧州以外の株式市場の上値は重く、一方で米国債などの安全資産が極端に買われ長期金利の低下が続いた。ただ、2月に入って、原油価格の下げ止まりなどを受けて、米国市場では株式、長期金利ともに昨年末の水準まで戻りつつある。 これらの不確実性をめぐる思惑で日々のマーケットは動いているが、一方で堅調な成長が続く米国だけではなく、金融緩和による刺激効果で欧州経済が復調し、先進国経済は総じて回復している。米連邦準備理事会(FRB)が現在想定しているとおりに、年央に利上げを始められる経済状況にあることが認識され、それを踏まえた(FRBの政策を反映した)価格水準が意識されたことが、2月初頭からの株高、金利上昇をもたらしていると筆者はみている。 ドル円相場は、2014年10月末の日銀による追加緩和を受けて、1カ月余りで10円以上上昇し、120円台まで円安が進んだ。ファンダメンタルズの方向はドル高円安で変わらなくても、年間変動率に相当する大幅な円安が短期間で進んだこともあり、ドル円の上昇はさすがに一服した。2014年12月以降は、米欧の株式や債券市場ほどには先に挙げたリスク要因に影響されず、1ドル=116―121円のレンジで推移している。 昨年12月19日掲載の本コラム「ロシア危機でリスクオフの円高到来は本当か」(here)で「ロシア発のリスクオフによる円高」などの後付けの解説について批判的に論じたが、とりあえず円高は短期的なアヤにとどまっている。 日銀緩和という大イベントを終え、こう着感が強まっているからなのだろうか。一部メディアによる日銀に関する記事が材料となり、ドル円相場が不安定に動く場面があった。 具体的には、「現時点で一段の追加緩和を行うことは日本経済にとってむしろ逆効果になるとの見方が日本銀行内で浮上している」と、米メディアが(日銀)関係者への取材で明らかになったとして2月半ばに報じ、そのヘッドラインだけでドル円相場が一時円高に急速に振れたのだ。日米の金融政策がドル円の方向性に大きな影響を与えるのだから、仮に日銀の政策スタンスの変化を意味するなら、先に述べた「一時的なアヤ」では済まない。 ただ、実際には、こうした記事で登場する「関係者」が、日銀執行部やスタッフなどの政策立案にかかわる人物なのか不明である。読み手には誰か分からないわけだが、筆者は、黒田東彦総裁率いる日銀の金融政策に批判的なスタンスを崩さない人物が、「関係者」として登場したと推察している。 <「インフレで景気失速」の誤解> 2013年4月以降の金融緩和政策の効果によって、日本経済の回復が始まり、労働市場の需給も改善すると同時に、脱デフレのプロセスが始まった。日銀はその後も、プラス2%のインフレ完遂にコミットして緩和強化を継続し、依然さらなる緩和強化の余地がある、と黒田総裁は度々述べてきた。実際に2月18日の黒田総裁の記者会見の発言を踏まえると、これまでのスタンスと全く変わりないとみられる。 先行してアグレッシブな金融緩和を行ったFRBや日銀を見習う格好で、これまで政治的な制約を受けていた欧州中央銀行(ECB)が2015年からデフレ阻止のための量的緩和に踏み出した。経済安定化を実現するために、成長率を底上げして、デフレ阻止に挑むのは世界各国における潮流になっている。さらに、量的緩和だけでなく、欧州の各中央銀行は、FRBや日銀が踏み出さなかった、マイナス金利政策を導入するに至っている。 日本では、2012年末の安倍政権誕生と日銀の体制刷新によって、先に述べたとおり、強力な政策対応が実現して景気回復が始まった。金融緩和がもたらす景気刺激効果による雇用拡大が支えとなり、2014年4月の消費増税という性急な緊縮財政政策のショックも、何とか乗り越えられそうになっている。金融政策の転換でようやく日本経済や労働市場の正常化が始まったわけで、金融政策の効果の大きさについて多くの国民が気づいているだろう。 先日、2014年10―12月の国内総生産(GDP)統計が発表されたが、3四半期ぶりに日本経済はプラス成長に転じた。米国を中心とした世界経済復調と円安効果で輸出が増え始め、増税ショックから立ち直りつつある。金融緩和によって企業業績底上げと雇用拡大が実現し、消費の落ち込みというショックを和らげたためだ。 これが現実だが、金融緩和策への懐疑論が根強いからだろうか、2014年度に起きた増税後のマイナス成長への景気失速が、「インフレ上昇」によってもたらされたというシンプルな理屈が、最近一部で公然と語られている。 実際には、家計の購買力を奪ったのは、消費増税に伴う家計部門から公的部門への強制的な所得移転と考えられる。名目賃金が緩やかに上昇し始めたが、それ以上のインパクトで大型増税が実施されて家計の実質購買力が目減りしたのだ。 「目標に届かない低いインフレ率にいかに対応するか」という問題に、先進各国の中銀が果敢に対応してきたが、それに加えて、原油安の影響で、多くの新興各国の金融当局が2014年末から同じ問題に直面して金融政策のスタンスを大きく変更している。そのような中で、「金融緩和によるインフレ上昇で景気が失速した」というのは、デフレマインドが定着した日本でしか聞かれない不思議な議論にしか聞こえない。 ちなみに、日本において、現在の完全失業率である3.5%程度では、完全雇用には依然遠いので、名目賃金の上昇は緩やかにしか起きない。正社員などの待遇を求める労働市場の需要は依然として大きく、満たされていないのである。実際に、脱デフレに失敗した2000年代半ばも、この程度の失業率低下は観察された。いったんデフレ期待が根付いてしまった日本において、金融緩和を中途半端に止めるリスクが大きいということだ。 ところで、本稿で指摘したような金融緩和懐疑論が最近目立つようになった一つのきっかけは、3月末で任期を終える宮尾龍蔵日銀審議委員の後任人事が、官邸主導で、現在の執行部を支えるかたちに決まったことと関係しているかもしれない。 かねてから指摘しているとおり、日銀審議委員の選定に関する政府の判断は、アベノミクスを前進させる上で非常に重要である。そして、宮尾氏の後任には日銀副総裁の岩田規久男氏との共著が複数あり、標準的な経済理論に精通した早稲田大学教授の原田泰氏が選定された。アベノミクスを完遂させるために金融緩和を徹底して経済安定化を完遂することが依然重要であることを、官邸は十分理解していると判断できる。 そう考える筆者にとっては、この政治判断は、2015年以降の日本経済、金融市場を考える上で、ポジティブな材料である。ただ、こうした人事に反応してか、金融政策に懐疑的な真逆の見方を持つ方々の水面下の動きが、「関係者」の思いなどのかたちで表れるのだろうか。 また、「物価目標達成の先送りを政府が容認した」「日銀は政治に配慮して金融緩和に早期に動けない」などの議論も最近筆者は耳にしているが、いずれも本質から外れた見立てに思える。これらの見方の根本にも、金融緩和政策への懐疑的な見方が前提にあると筆者は考えている。 それにしても、金融緩和への懐疑的な見方が依然として根強い現状は、アベノミクスが発動された当初からほとんど変わっていないように感じる。筆者のような投資家の目線からみると、非常に興味深い。 「金融緩和は偽薬に過ぎない」などの思いに囚われ、過去2年の株高、円高修正の相場を見過ごしてしまった方が、かなり存在しているとすれば、宴(うたげ)の終わりはかなり先なのかもしれない。 *村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。 http://jp.reuters.com/article/jp_forumcolumn/idJPKBN0LO0AI20150220 債券先物が続伸、日銀オペ結果受け買い優勢−超長期債利回りは上昇
(ブルームバーグ):債券市場では先物相場が続伸した。日本銀行が実施した国債買い入れオペの結果を受けて買いが優勢となった。半面、来週に40年債入札を控えて超長期債利回りは上昇した。 20日の長期国債先物市場で中心限月の3月物は、前日比5銭高の147円31銭で開始した。午後に入って水準を切り上げ、一時は147円47銭と、日中取引ベースで9日以来の高値を付けた。その後はやや伸び悩んで、結局は7銭高の147円33銭で引けた。 三井住友アセットマネジメントの深代潤債券運用グループヘッドは、きょうは日銀の買い入れオペも入ったとし、「いろいろ不安視されていた状況が一巡した」と指摘。債券先物の上昇につながったと説明している。 日銀が発表した長期国債買い入れオペの結果では、残存期間1年超3年以下、3年超5年以下、10年超25年以下の応札倍率は前回から低下した。一方、25年超は上昇した。落札金利は4本とも、基準となる前日の日本証券業協会の売買参考統計値との按分利回り較差がマイナスとなった。平均利回り格差は横ばいの1年超3年以下を除く、3本がマイナスと、全体的には市場実勢より低く落札された。 長期金利は1週間ぶり低水準も 日本相互証券によると、現物債市場で長期金利 の指標となる新発10年物国債の337回債利回りは、前日午後3時時点の参照値より0.5ベーシスポイント(bp)低い0.385%で開始。午後に入ると水準を切り下げ、一時は0.375%と10日以来の低水準を付けた。その後は0.39%で推移。5年物の121回債利回りは午後に入って0.105%と9日以来の水準まで下げた後、0.115%に戻している。 20年物の151回債利回りは一時2bp低い1.175%と10日以来の水準まで低下した後、1.215%に上昇。30年物の45回債利回りは午後に入って上昇に転じ、3bp高い1.445%まで水準を切り上げた。40年物の7回債利回りは4.5bp高い1.555%まで上昇した。 三井住友アセットの深代氏は、24日の40年債入札について、「超長期債の戻りが速かったので、少し警戒しておいた方がいい」と指摘。また、来週は米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長が議会証言を行う予定で、「利上げ期待がどういう風になっていくか」が注目だとし、「買い戻しがやや急だったこともあり、少し調整する可能性はある」とみる。 一方、メリルリンチ日本証券の大ア秀一債券ストラテジストは、3月には国債の大量償還が控えているほか、年金基金などによる月末の年限長期化が見込まれると指摘し、「超長期セクターについては買いが優勢になりそうだ」とみている。 記事に関する記者への問い合わせ先:東京 三浦和美 kmiura1@bloomberg.net;東京 山中英典 h.y@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先: Garfield Reynolds greynolds1@bloomberg.net 山中英典, 崎浜秀磨 更新日時: 2015/02/20 15:34 JST http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NK0BC26TTDSC01.html 黒田緩和の目標延期は当然、枠組変更には代償-加藤元IMF副専務理事 (1
(ブルームバーグ):国際通貨基金(IMF)の副専務理事を務めた加藤隆俊氏は、日本銀行の黒田東彦総裁が2%の物価目標の達成時期を先延ばしするのは「当然」だと言う。原油安など異次元金融緩和を導入した当時に比べ状況が大きく変化しているためだ。これまでの金融政策の枠組み自体を変える場合には代償は高くつくとの見解も示した。 現在は国際金融情報センター理事長の加藤氏(73)は19日のインタビューで、2%の物価目標は「ある程度のインフレ期待を維持するのに必要」だが、達成期限については日銀が掲げる2年程度を「ガチガチの目標と考える必要はない」と述べた。大幅な原油安は異次元緩和を導入した「2年前には想定できなかった」と指摘。環境変化に応じて「達成時期も変わってくるのは当然のことではないか」と語った。 日銀は1月に公表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)の中間評価で、エネルギー安によるインフレ率の押し下げ効果を2015年度に0.7−0.8ポイントと推計。消費者物価見通しを14年10月末時点の1.7%から1%に下方修正した。ただ、ドバイ 原油価格が1バレル=55ドルを出発点に、16年度までの見通し期間の終盤にかけて70ドル程度に緩やかに上昇していくと想定。16年度は2.1%から2.2%に引き上げた。 ニューヨーク原油先物相場は1月29日に1バレル=43.58ドルと14年6月の高値から約6割下落。その後も50ドル前後と四半期ベースでは09年3月末以来の低水準で推移している。日本の12月全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI )は、4月に実施された消費増税の影響を除くと0.5%程度で物価目標の4分の1。19日付の産経新聞は、日銀が物価目標の達成時期を先延ばしする方向で検討を始めると報じた。 激しい値動きに慣れる IMF幹部を04年から10年2月まで務めた加藤氏は、日銀だけでなく欧州中央銀行(ECB)なども量的緩和政策を採用し、各国の国債利回りは「かつて経験したことのないような水準にあり、民間の需要は限られている」と指摘。「入札の都度、値動きがかなり激しくなるが、それに慣れることも必要かもしれない。ボラティリティはこれからも高くなるリスクはあるだろう」と副作用に言及した。 日銀は2%の物価目標を2年程度で達成するため、マネタリーベース を積み増す「量的・質的金融緩和」を13年4月に導入。14年10月末の追加緩和では、長期国債買い入れを従来の月6兆−8兆円から8兆−12兆円に増額した。年換算すると、政府が15年度に入札を通じて機関投資家へ販売する国債の市中発行額152.6兆円の最大9割超にも及ぶ額となる計算だ。 加藤氏は、それでも日銀が「金融緩和の基本的な枠組みを変えるのは、もっとコストがものすごく高い」と指摘。通貨安競争の懸念も浮上する中で「円安のために、という次元では考えないのではないか」との見解を示した。 「強いドル」の行方 円の対ドル相場は日銀が異次元緩和を導入した13年に21%と1979年以来の下落率を記録。2014年12月8日には1ドル=121円85銭と07年7月以来の安値を付けた。ブルームバーグが集計した為替予想データによると、今年末の予想中央値は125円だ。 足元では中東やウクライナをめぐる地政学的リスクやギリシャの債務危機、早期の追加緩和観測の後退といった円高要因に加え、各国中銀が金融緩和を競う状況だ。 米連邦準備制度理事会(FRB)は昨年10月末に量的緩和策を終了し、12月の連邦公開市場委員会(FOMC)では、利上げ開始まで「辛抱強くなれる」との声明を公表した。原油安を背景にインフレ率の伸びは鈍化している半面、雇用情勢は改善している。イエレン議長は早期利上げに慎重だが、ブルームバーグが米金利先物の動向などを基に算出した金利予想の確率では、米国が今年9月までに少なくとも0.5%への利上げがあるとの観測が約5割となっている。 主要6通貨に対する強弱を示すドル指数 は1月26日に95.527と03年9月以来の水準に上昇。1月のFOMC議事録はドル高進行が輸出に対する「持続的な抑制要因になる」と指摘したが、米国の為替政策を所管するルー米財務長官はこれまでのところ、ドル高けん制を公言していない。 加藤氏は、円・ドル相場は現在、「比較的落ち着いた状況にある」が、米利上げの「タイミングをめぐってボラティリティが高まるのは懸念材料だ」と指摘。FRBが市場との対話戦略を「的確に運営し、市場がある程度の準備期間を持てて、利上げペースもある程度想定ができるようなガイダンスを出すことを非常に期待している」と述べた。 米国の為替政策については、「政策当局者の発言もその時々でいろいろと変化する」と指摘。「これまではユーロ圏と日本がおぼつかない状況だった」ので、ユーロ安や円安に「あえて異議を唱えないというのが米国のスタンスだったと忖度(そんたく)する」と語った。 ただ、米国での景気不透明感や多国籍企業の収益目減り、中小企業の輸出制約などドル高の影響を懸念する声が米議会に届いた場合には「米当局者発言のトーンが変わってくる可能性は十分念頭に置いておくべきではないか」と指摘。市場との「コミュニケーション戦略としては、変える場合でも一挙に変えるのではなく、徐々にニュアンスを変えていくのだろう」と話した。 加藤氏は米利上げ の余波で1994年12月に発生したメキシコ通貨危機に大蔵省(現・財務省)の国際金融局長として対処。円が対ドルで95年4月に、当時の戦後最高値1ドル=79円75銭を付けた後、財務官に就任した。榊原英資国際金融局長らと円高是正に取り組み、主要7カ国(G7)共同声明や日銀の利下げ 、協調介入などで同年9月には100円の大台に押し戻した。04年から10年にかけては日本人として二人目となるIMF副専務理事を務め、世界金融危機などを対応した。 加藤氏は、日本政府の「主要発言者も円安進行には良い面と悪い面があるとのトーンだ。裏返すと、今くらいの水準でどうしても困るという印象ではない」と語った。黒田総裁も「円安に関する発言では、それなりに色んな逆櫓(さかろ)を付けているような印象だ」と指摘。市場への影響を考えると「一貫して同じトーンで話すことが極めて重要だ。総裁もそれを痛いほど認識しているのではないか」と述べた。 関連ニュースと情報:行天元財務官、戦後最長円安の確率50%以下−市場は先取りし過ぎミスター円・榊原氏:円安は「日本売り」にあらず、円買い介入あり得ない【クレジット市場】「崖下のぞき込む」恐怖−内海氏がトリプル安警告 記事に関する記者への問い合わせ先:東京 野沢茂樹 snozawa1@bloomberg.net;東京 Chikako Mogi cmogi@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先: Garfield Reynolds greynolds1@bloomberg.net 崎浜秀磨, 青木 勝 更新日時: 2015/02/20 14:13 JST http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NK1QOL6JTSEI01.html
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