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搾取される中間層 金持ちはより金持ちに、貧乏はより貧乏になる理由 進む富の偏在
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150215-00010002-bjournal-bus_all
Business Journal 2月15日(日)6時0分配信
『21世紀の資本』(トマ・ピケティ/みすず書房)が売れている。日本では昨年12月に発売され、通販サイトのアマゾン・ドットコムの総合順位(書籍)で5位(1月27日現在)というから、売れ行きのすさまじさは想像を超えている。通常アマゾンの上位ランクは、グラビアアイドルの写真集や啓発本、それから漫画が占める。経済学の専門書である同書が、出版不況の真っただ中でこれほど売れるのは奇跡といってよい。もちろん購入しても読まない人も多いはずだし、そもそもベストセラーとは普段本を読まない人が買うから何十万部、何百万部も売れるのだ。
とはいえ、この現象は単なるブームではないような気がする。今の時代を覆う理不尽さに対する国民の不満の表れと思えて仕方ないのだ。同時に、始まったばかりの相続増税について、それまで考えてもいなかった疑問が湧いてきた。
まずはピケティの理論を簡単にみておこう。ピケティは膨大な税務データを分析することで、資本主義社会では富と所得の格差は必然的に広がる、とする法則を導き出した。こうした手法は社会科学では新しいわけではないが、ピケティの斬新さは、分析した税務データが過去200年間に蓄積された膨大な「生データ」という点だ。こうした作業が可能になったのは、いうまでもなく情報技術の進化にほかならない。手作業の時代にピケティと同じ問題意識を持つ研究者がいたとしても、分析作業にコストと時間がかかりすぎ、法則までたどり着くのは不可能だったに違いない。
ピケティはまず、アメリカやフランスにおける所得格差に注目する。例えば、現在のアメリカでは、人口の1%が同国総所得の25%を占めている。さらに人口の10%が同50%を占めている、と現実を突きつける
次は資産格差だ。アメリカの上位10%が所有する資産は全体の70%、次の10〜50%の中位層は同25%、そして残り50%の下位層は同5%にも満たない。ヨーロッパはどうか。上位層が同60%、中位層が同35%、そして下位層が同5%で、中間層の割合が異なるだけでヨーロッパでも下位層は資産をほとんど持っていない。しかも興味深いことに、1810年当時のヨーロッパでも上位層は同90%の資産を独り占めしており、残りの10%を中位層と下位層が5%ずつ保有していたというのだ。
つまり、所得と資産の大半は200年前から一部の金持ちに偏在していたということだ。そして、時代と共に中間層が形成されたものの、下位層は相変わらず貧乏のままなのだ。
●r>g
では、なぜいつの時代も上位層は所得も資産も多いのか。
この問いに対する答えがr>gだ。rは資本収益率。ここで資本とは、投資に回した資金のことで、同時に実物資産と金融資産の合計を意味する。資本収益率rは、資金を資産に投資した結果得た利益。つまり、rは資本の投資利回りである。gは経済成長率を意味するので、r>gとはこの200年間rが常に経済成長率gを上回っていたということだ。経済成長とは国全体の付加価値(富)が増えることだから、国全体の付加価値の増加gより、資本運用によって得た所得rの増加のほうが多かったということである。
この法則は、企業に当てはまるのだろうか。試しに管理会計を使って考えてみよう。
企業における資本とは、調達した資金(=お金)のことだ。企業は、資金を資産として運用して利益を得ている。バランスシート(BS)を見れば、企業における資金の状態は一目瞭然だ。BSの右側である負債と資本は資金の調達源泉を、そして左側の資産が資金の運用状態を表しているからだ。
経営者のミッションは、株主や債権者から預かった資金を効率的に運用して利益を上げることだから、総資産(=総資本)に対する利益の割合を表す投下資産利益率ROA(利益÷総資産)が、経営効率を測定する指標として用いられるのである。
このROAはピケティのrと同義と考えられる。そして、もうひとつのgは、企業の売上高増加率に置き換えることができる。
つまり、ピケティの法則を企業に適用するならば、ROAの伸び率は、常に売り上げの伸び率に勝っているということだ。
こう考えると、巨大企業がますます巨大化する理由が見えてくる。ROAは常に売り上げの伸び率より高いので、利益は売り上げの伸び以上の速度で増え続ける。その結果、巨大企業の資本はますます増加して投資も増える。こうして巨大企業の利益と資本は増殖し続ける。例えば、中国の国営企業が瞬く間に世界のトップに躍り出たのも、韓国のサムソングループや現代グループが突出して拡大し続けるのも、戦前の我が国の財閥が解体させられたのも、同じ理由といえそうだ。逆に、中小零細企業の経営がいつまでたっても資金繰りが苦しいのは、そもそも運用できる資本が少なく、かつROAが低いからである。
●相続増税のまやかし
とはいえ、企業と個人に同じ法則が当てはまると断定するのは早計だ。なぜなら、企業は常に競争にさらされており、マネジメントがうまくいかなければ倒産に追い込まれて、すべての資産が消えてしまうことがあるからだ。ところが、資産家の家庭に生まれ落ちれば、それだけで資産を手にすることができる。そして、しかるべき機関に資本運用を任せれば、本人が何もしなくても資産は所得を増やし続ける。
つまり資本主義の社会では、必然的に所得と資産の偏在が生じてしまうということだ。だからこそ、この不公平を是正するために、国による強制的な富の再配分が必要であり、具体的には相続税の課税強化ということになる。
日本では、今年から格差是正、富の再分配機能強化の観点から、相続税法が大きく変わった。主な改正点は、基礎控除の引き下げと、税率の引き上げだ。基礎控除額が「5000万円+法定相続人×1000万円」から「3000万円+法定相続人×600万円」に縮小され、2億円超の金額に対する税率が引き上げられ、6億円超の最高税率が55%になった。
だが、富の再配分の観点からすれば、超富裕層により高い税を課すべきだったにもかかわらず、たった5%増えたにすぎない。その一方で、基礎控除額を引き下げて、中間層に幅広く課税しようとしている。
総務省統計局の資料(平成21年度)によれば、1億円以上の家計資産を有する世帯は3%、5000万円以上が6.7%である。家計資産の内訳は、金融資産、宅地・住宅、耐久消費財を含むから、地価の高い都市部は当然高くなる。今回の増税で、相続税を納税する世帯は全体の3%から5%程度に増えるという。家計資産が5000万円以上1億円未満の人たちが狙い撃ちされたのだ。しかし、こうした人たちは富裕層ではない。土地が値上がりし、こつこつと貯めた預金が課税範囲に達したというだけにすぎない。相続税を支払うために、老後の資金がなくなるかもしれないのだ。ちなみにアメリカでは、遺産税の基礎控除は500万ドル(約6億円)で、準富裕層や中間層には課税しない。
戦後、日本の中間層は分厚くなった。せっかく増えた中間層に対して課税を強化し、最高税率をたった5%引き上げただけでは、富の偏在をなくすという目的は達成されない。デフレの時代につくられたこの税制が、日本経済にとってマイナスに作用することのないように祈るばかりだ。
(文=林總/公認会計士・税理士)
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