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ピケティ理論、日本は例外? 所得格差が縮小傾向
JACOB M. SCHLESINGER
原文(英語)
2015 年 2 月 9 日 13:25 JST 更新
都内で講演するトマ・ピケティ教授(1月) Tamura Sho/Aflo/Abaca Press
パリ経済学校教授のトマ・ピケティ氏は先月下旬に来日し、持てるものと持たざるものの格差が無慈悲にも拡大しているというメッセージを、講演会場に詰めかけた聴衆やテレビの視聴者へ発信した。
だが、最近の調査は、日本が同氏の著名な主張を証明するどころか、例外となる可能性を示唆している。
日本では1990年代初頭から、所得不平等度(上位1%層の所得が全所得に占める割合で測る)が着実に上昇しているが、ピケティ氏ら研究者が30カ国を対象にまとめた「世界最高所得データベース」によると、近年は頭打ち、さらには低下しているもようだ。
日本の最新データは、まだ公表されていないが、ウォール・ストリート・ジャーナルがピケティ氏の共同研究者から入手した。それによると、上位1%層の所得(キャピタルゲインを除く)が国民所得に占める割合は08年に9.5%でピークをつけた後、12年(入手できる最新の数字)の9%まで、4年にわたり毎年少しずつ低下している。
日本の傾向は米国と対照的だ。米国のデータは振れが大きいが、上位層の所得割合は金融危機後の底から素早く回復している。米国の上位1%層の所得が全所得に占める割合は13年(入手できる最新の数字)が17.5%で、その4年前に記録した16.7%から持ち直した。
ピケティ氏主導のプロジェクトに日本のデータで協力した一橋大学の森口千晶教授は、所得不均衡を招く要因が日本と米国では大きく違うと指摘した。米国では幹部の報酬が桁外れに多いが、日本にそうした慣例はないという。
ピケティ氏は電子メールでのやりとりで、日本の所得不平等度は直近データで低下したが、12年の水準は90年代初頭(7%)を大幅に上回っていると指摘した。日本で上位層の所得割合が09年から横ばい、ないしやや減少しているのはおそらくリセッション(景気後退)が原因で、長期傾向の変化を反映するものではなさそうだという。高所得層が得る所得は、景気低迷期に大きく落ち込む傾向がある。
ピケティ氏の著書「21世紀の資本」は、昨年末に日本語版が出版されて以来、国内でベストセラーとなっている。日本では他国と同様、ここ四半世紀で経済格差が拡大していることが明らかになっているが、そうした変化はさほど目立ったものではなく、米国や他の先進国と同じような傾向はたどっていない。
上位1%の所得層(キャピタルゲインを除く)が国民所得に占める割合【青:米国、赤:日本】
カリフォルニア大学バークレー校のエマニュエル・サエズ教授は、日本では特に幹部の報酬が会社規定や年功序列でかなり制御されているため、税引前所得の格差が一般的に小さいと指摘している。同教授はピケティ氏と共同で論文を執筆しており、森口教授とは日本の傾向について共同研究している。
米労働総同盟・産業別労働組合会議(AFL-CIO)の調査によると、米国では最高経営責任者(CEO)の平均報酬が一般労働者の354倍と世界最高だが、日本は67倍と世界でも有数の低さだ。
一橋大学の森口教授は日本における所得格差の拡大について、米国のように高所得層がさらに裕福になったからではなく、多くの労働者が低賃金の臨時雇用にとどまっているためだと述べた。日本では賞与や定期昇給がある伝統的な終身雇用制が減少している。
同教授は、正規雇用でない場合、賃金水準は大幅に低下すると指摘した。また、世代間でも格差は大きいとし、減少する正規雇用に高齢の労働者がとどまっていると述べた。
森口教授によれば、日本経済の健全性という意味でより大きな問題は、所得格差が大きすぎることではなく小さすぎることにありそうだ。上位所得層の賃金でさえ相対的に低いということは、才能ある者が必死に研究して画期的な発明をするインセンティブ(動機づけ)がほとんどないということだと言う。森口教授は実例として、より高い報酬を求めて最終的には渡米する日本の有名な発明家や野球選手を挙げた。2012年の時点で、日本の上位1%の平均所得は当時の為替レートで約24万ドルと、米国の約100万ドルを大きく下回った。
前述の世界最高所得データベースは賃金の格差を測定するもので、富の格差は対象外だ。富(株式や不動産などの保有資産)の格差を計測することは、所得よりも難しい。ピケティ氏は先日都内で行った講演で、日本の全ての富、つまり資本の価値は国民所得のおよそ6倍で、米国の4倍を上回り、富裕国有数の高倍率だと指摘した。同氏はこれが日本の経済的不平等を拡大させる可能性があると示唆した。その理由として、資本収益率は経済成長率を上回る傾向があること、日本のように人口が減少すると(富を相続する人の数が減り)相続人1人の引き継ぐ財産が従来より大きくなる確率が高いことを挙げた。
もっとも、日本の富が他国よりも均等に分配されている兆しもある。都内に拠点を置くアーカス・リサーチのアナリスト、ピーター・タスカ氏は日本経済新聞への寄稿で、国際基準で見れば(日本の)富の不平等度は低いと指摘。日本の上位10%が保有する富は、調査対象の48カ国の中で2番目に低かったとする研究もあると述べた。さらに、10億ドル以上の資産を持つ人の数は、日本全体よりもトルコの首都アンカラの方が多いと結論付けた研究もあるとした。
現在の日本が抱える大きな問題は、安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」の下で経済的不平等が広がっていることだ。入手可能なデータは安倍政権がスタートした12年末までの分しかない。安倍政権下で株価が倍増する一方、物価上昇や消費増税の影響を除いた実質賃金が減少したことからみると、格差は再び拡大しているのかもしれない。
カリフォルニア大学バークレー校のサエズ教授はアベノミクスについて、経済成長の押し上げにある程度貢献しており、上位所得層にとって良い政策だろうと述べた。
だがこれは必ずしも、日本経済、あるいは中間層にとって悪いという意味ではないとサエズ教授は続けた。ピケティ氏は米国のように格差が大きすぎると最終的に経済成長が損なわれると主張しているが、サエズ教授は格差を縮めることよりも繁栄を回復することに注力すべきだとし、経済成長を取り戻すことが最優先の問題で、こうした格差の影響はその次に取り組むべき問題だと述べた。
***
ジェイコブ・スレシンジャー
ウォール・ストリート・ジャーナル アジア経済主席特派員・中央銀行担当エディター
ハーバード大学経済学部卒業。St. Petersburg Times 記者を経て、1986年ウォール・ストリート・ジャーナルデトロイト支局に記者として入社。89〜94年東京支局特派員。その時の取材をもとに日本の政治についての『Shadow Shoguns:The Rise and Fall of Japan's Postwar Political Machine』を執筆。帰国後ワシントンで経済記者、政治記者、ワシントン支局副支局長を経て2010年東京支局長に就任。2014年より現職。03年、特別報道チームの一員として企業不祥事を暴いて解明した報道シリーズでピュリツァー賞を受賞。14年、スタンフォード大学「2014年ショレンスタイン・ジャーナリズム賞」を授与された。Twitter @JMSchles
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アベノミクスに「第4の矢」論―ピケティ氏著書が手本に
By DAVID REILLY
2015 年 1 月 30 日 15:10 JST
パリ経済学校教授のトマ・ピケティ氏が今週、世界的なベストセラーとなった著書「21世紀の資本」の日本語版の発売を記念し都内で来日講演を行った。日本で行われている大規模な経済実験が次はどこに向かおうとしているのかを探る上で、ピケティ氏の来日は注目に値する。
パリ経済学校教授のトマ・ピケティ氏 AFP/Getty Images
安倍晋三首相が掲げるデフレ脱却に向けた経済政策「アベノミクス」は、大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略という3本の矢で構成される。だが、アベノミクスの評価に陰りが見えることを懸念する首相のブレーンの間で、富の再配分という第4の矢を追加してはどうかとの議論が浮上している。
当然ながらピケティ氏は著書で、こうした再配分を通じて世界的な不平等を解消するよう求めている。日本では、2年前にスタートしたアベノミクスをめぐり、大企業や株主を潤わせているだけで中小企業の経営や労働者の暮らしぶりは悪化しているとの批判が出ているため、再配分に向けた取り組みが既に始まっている。政府は企業に賃上げを求め、内部留保を積み上げる企業の姿勢を批判している。日本企業の内部留保残高は2013年度末時点で328兆円に達している。これは名目国内総生産(GDP)の約68%に相当する規模だ。
政府は今のところ「公職の権威」を活用しているが、いずれはピケティの著書を手本にしようと決断するかもしれない。
日本でも格差は広がる―欧米で話題『21世紀の資本論』
トマ・ピケティ氏
By Yuka Hayashi
フランスの経済学者でパリ・スクール・オブ・エコノミクスの教授、トマ・ピケティ氏の新刊書『21世紀の資本論』(Capital in the Twenty-First Century)が欧米で話題を呼んでいる。700ページにわたるこの著作では格差の拡大が避けられないと結論づけられているが、日本もこの流れの例外ではないという。
日本は長年にわたって比較的平等な社会を誇っており、ピケティ教授の母国フランスとともに、米国と比べて貧富の格差がかなり小さかった。ただ、教授は向こう数十年にわたり、日本でも格差が広がると主張している。
こうした結論は、安倍晋三首相の政策議論に一石を投じそうだ。法人税率の引き下げや消費増税など、安倍首相の推進する成長戦略が格差拡大を後押しする可能性がある。
残念なことに、ピケティ教授の著作が日本語に翻訳されるまでしばらく時間がかかる。日本での版権を持つみすず書房は、翻訳者の手配が最近終わったばかりで、まだ日本語版の出版日程は決まっていないと話した。フランスの出版社Editions du Seuilによると、日本語版は2017年3月に出版されるという。
ピケティ教授の主張の核心は、21世紀には小さな経済エリート集団に富が集中するため貧富の格差が拡大するというもの。これについて、米国や欧州では経済学者やジャーナリストらの間で議論が沸騰している。
日本の読者のためにピケティ教授の著作から主なポイントを列挙してみよう。同書には19世紀までさかのぼった日本の税務書類などから集められたデータが含まれている。
格差は新しい問題ではない。欧州との文化的相違にかかわらず、日本では20世紀初頭に欧州と同じくらい高い水準の格差が存在していた。ここでは一握りの富裕層が国民所得の大部分を独占していた。教授は著作の中で「所得構造と所得格差の両面で、日本が欧州とまったく同じ“古い世界”だったことを、あらゆる証拠が示している」と指摘。二つの世界大戦を経て格差は急速に縮小したが、これは戦争がエリートの富の大部分を破壊してしまったからだ。
日本では富裕層がゆっくりと富を拡大させている。日本では過去20年間にわたってじわりと富の集中が進んできたが、米国ほどの大きさではなかった。現在、日本の高所得層の上位1%が占める国民所得シェアは約9%に上り、1980年代の7%から2ポイント拡大。フランスやドイツ、スウェーデンは日本とほぼ同じペースでシェアが拡大したが、米国ではこれが10-15ポイント上昇した。高所得層の上位0.1%が占める国民所得のシェアは今の日本では2.5%ほどで、1980年代初めの1.5%から拡大したが、またしても拡大ペースは米国に追いつかなかった。
今後は日本も安穏としていられない。ピケティ教授は、日本と欧州を取り巻く潮流を無視することはできないと警告。教授によると「それどころか(日本と欧州が持つ)軌道はいくつかの点で米国と似通っており、10年から20年遅れている」という。「この現象が、米国の懸念するマクロ経済面での重大事となって表面化するまで待つべきではない」と教授は指摘する。
ピケティ教授の著作を読んだ数少ない日本人の中に、経済学者でブロガーの池田信夫氏がいる。池田氏は人気の高い言論プラットフォーム「アゴラ」を運営。同氏は最近、5月7日から全4回にわたる『21世紀の資本論』読書セミナーの広告を掲載した。受講料は2万円(女性と学生は1万円)。定員は20名だったが早くも35人が登録して、現在は応募を締め切っている。
池田氏は「すごい勢いで申し込みがきたのでびっくりした。これはきわめてアカデミックで難しい本なのに」と話す。出席者の多数が30代から40代のビジネスマンだという。
池田氏は、企業がキャッシュをため込んで賃上げを抑制していることを理由の一つに挙げ、ピケティ教授の著作が次第に日本との関連性を増してくると指摘。「もしかしたらこれから日本でも、普通の労働者と企業との間で階層間の格差が広がってくるかもしれない。ピケティは日本でも受けると思う」と話した。
原文(英語): Piketty on Japan: Wealth Gap Likely to Rise http://blogs.wsj.com/japanrealtime/2014/05/13/piketty-on-japan-wealth-gap-likely-to-rise/
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