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東京日本橋にある日本銀行本店(撮影:尾形文繁)
なぜ、インフレ率2%計画は破綻したのか 日銀総裁の語る理論は、そもそも間違い
http://toyokeizai.net/articles/-/59973
2015年02月08日 リチャード・カッツ:本誌特約記者(在ニューヨーク) 東洋経済
日本銀行ははっきりと降参の白旗を上げてはいないが、灰色の旗を出している。2013年3月に黒田東彦氏が総裁に就任した際、彼は「2−2−2プログラム」というものを掲げた。これは、2年間で、2%のインフレ率を、いわゆるマネタリーベースを2倍にすることで達成しようというものだった。
日銀は日本国債を大量に買い入れてマネタリーベースを倍増させたが、逆に民間保有分が減少し、1年物と2年物の国債金利がわずかにマイナスになるほどだった。また、全体の5分の1の銀行貸し付けには、0.5%以下の金利を課している。
にもかかわらず、日銀は大部分のエコノミストたちがずっと言ってきたことを最終的に認めざるをえなくなった。2年で2%のインフレ目標は無理なのだと。
■インフレ率0.9%見通しも、まだ高い
2013年4月、黒田氏率いる日銀政策委員会は2014年度のインフレ率は1.4%(生鮮食品と消費増税分を除いて)になると約束していた。しかし今年1月21日、日銀は予測を0.9%に下方修正した。そして多くのエコノミストがこの数値はまだ高すぎると見ている。
2年前、日銀は2015年度に1.9%のインフレ率を達成して目標を実現すると約束したが、今になって、インフレ率は1.0%にしかならないと言っている。英HSBCなどの民間のエコノミストは、実際の数値は0.5%に近いと述べている。
原油価格の下落により、今年の春は一時的なデフレ期間となっている。今回の日銀の下方修正の発表では、目標は2016年度に達成するとし、そのインフレ率は2.2%だと宣言している。HSBCは再び、実際にはその約半分の1.2%であろうとしている。HSBCが正しいとすると、「2−2−2」は「3−1−4(マネタリーベースを4倍にして3年でインフレ率を1%へ)」に変わりうる。このことから黒田氏の信任度低下が複数のメディアで報じられている。
黒田氏は目標未達を原油価格の下落のせいにしたいようだ。それも一因ではあるが、それより、2−2−2計画の裏側にある理論の全体に本質的な欠陥がある。
黒田氏は「自己実現する予言」という魔法を信じている。人々と企業がインフレ率が2%に到達すると本当に思うように仕向ければ、人や会社はそれが実現するかのように行動する、という。つまり、人々は物価が上昇する前にもっとカネを使うようになる一方、企業は人を増やして賃金をより多く払うようになる。
言い換えると、インフレ率が2%になるかのように行動することで、本当に2%になるというのである。
このロジックは事実に反している。英国内閣事務局が20年間蓄積してきたデータは、人々はインフレを予想すると消費を控えることを示している。
なぜなら、人々は、賃金は物価ほど上昇せず、実質的な収入が下がることを正しく予測するからである。だが、黒田氏は、理論の世界に住んでいるようだ。
■いくらガソリンを入れても、車は動かない
黒田理論に基づいて、安倍晋三首相は1年前に、インフレと消費増税を補うに十分な「驚きの賃金上昇」が2014年に起こると「確信している」と書いている。安倍政権で実質賃金は5%も下がっている。
もし安倍首相がほかの2本の矢も本当に実施していたら、黒田氏の大規模な金融緩和はもっと成功していたであろう。だが、よく知られる安倍首相の「3本の矢」のいずれも、ほかの2本がなければ成功しないのである。
残念なことに安倍首相が財政刺激策をやめて財政緊縮策を採用したため、3本目の矢は単なる聞こえのよい目標にすぎなくなってしまった。黒田氏を自動車整備工に例えるなら、「車はガソリンが必要だから、15ガロンのタンクがついた車に30ガロンのガソリンを入れればうまくいく」と言っているようなものである。
エンジンがおかしいとお客が指摘すると、黒田氏はさらに30ガロン追加しようと勧めてくる。それでも車が動かないと、ため息交じりにこう言うのである。「“アクセル期待感”を持って車が動くと信じれば、車は動くのですがね」と。
(週刊東洋経済2015年2月7日号)
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