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マクドナルドほどの大企業にとっても致命傷になる〔PHOTO〕gettyimages
国民的大論争にこの国のいまが見えてくる「異物混入」社会を考える 何が許せないのか、どうして許せないのか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41898
2015年02月07日(土) 週刊現代 :現代ビジネス
昔なら、笑い話で済んだかもしれない。しかし、いまでは一つのクレームで莫大な量の食べ物が廃棄されてしまう。「勿体ない」と頭では分かっていても、止められない—日本人は変わってしまったのか。
■たった1匹で会社が傾く
「従業員はいつも通り出勤しています。仕事ですか?工場の中を掃除したり、回収した焼きそばを分別して廃棄する作業をしたりしていますね。ニュースでは工場の機械を入れ替えると言っていましたが、その工事はまだ始まっていません。
生産再開がいつになるのかも、私たちには教えられていません。従業員の間では『いつになったら元に戻るんだろう』と不安の声が上がっています。でも、上司に聞いても何も教えてもらえないんです」
群馬県伊勢崎市郊外。この地で創業86年を迎える老舗、まるか食品の赤堀工場に勤める30代の女性は、不安げにこう話す。
工場には時折大型トラックが入ってきて、荷台から段ボール箱を降ろしている。屋外の別の一角では、白い作業服を着た数人の従業員が、カップ焼きそばの〓とかやくを分別し、人がひとり入れそうなほどの大きなゴミ箱へ次々と入れていた。おそらくは、返品されてきた何の問題もない商品を処分しているのだろう。
食品の「異物混入」問題が、このところ世間を賑わせている。すべての発端となったのは、昨年12月2日、ある大学生がツイッターに投稿した一言だった。
〈ぺヤングからゴキブリ出てきた〉
この発言と同時に彼が掲載した写真がある。インスタント焼きそばの麺から、確かにゴキブリの黒い腹と脚のようなものが飛び出して、頭の側は麺の中に埋もれているようにも見える写真だ。
あまりにも衝撃的なその写真は、あっという間にインターネット上を駆け巡り、マスコミも巻き込んで大きな話題となった。
販売開始から今年で40年という歴史を持つ「ぺヤングソースやきそば」は、押しも押されもせぬまるか食品の看板商品であり、特に関東圏では圧倒的人気を誇るインスタント焼きそばだ。年間の販売個数は実に5300万食にものぼる。
しかし、この不祥事を受けて、同社は年明けまでにすべての商品の生産・販売を休止。すでに出回っているものも回収・返金することを決めた。たった1匹のゴキブリによって、まるか食品は創業以来最大の危機を迎えるハメになったのだ。
「ぺヤングの定価は1食あたり170円。まるか食品の年間売り上げは約130億円です。返品の送料も負担し、そのうえ何ヵ月も工場を止めるわけですから、損害額は10億円を下らないでしょう」(地元紙記者)
まるか食品の広報担当者は、「生産再開の見通しはついていません。4月頃には再開したいという気持ちはありますが、実際はどうかなというところです。部分的に工場の機械を入れ替えることを検討しているのは事実ですが、回収した商品の処分がまだまだありますので、具体的な目処は立っていません」と話す。
■本当に増えてるの?
この「ゴキブリ混入事件」以後、食品の「異物混入」が次々と報じられた。「日清食品のスパゲティにもゴキブリのような虫が入っていた」「マルハニチロの鮭缶から金属片が出てきた」「和光堂の離乳食にコオロギが入っていた」「マクドナルドのポテトに人間の歯が、チキンナゲットにはゴムが入っていた」などなど、枚挙に暇がない。
異物混入の事実が発覚した食品メーカーには、即座に該当する商品の回収に踏み切ったところが少なくない。日清はスパゲティ75万食、マルハニチロは鮭缶108万個を回収した。なお対応の遅れたマクドナルドでは、客足が遠のき、かねてからの経営不振に拍車がかかる事態を招いている。
こうした中で「すべての商品の生産・販売を休止する」という極端な対応を見せた会社は、まるか食品だけだった。はたして、彼らのこの判断は正しかったのだろうか。
食品業界での実務経験が豊富な、食品安全教育研究所代表の河岸宏和氏はこう言って疑問を呈する。
「金属やガラス、また農薬やアレルギーの原因となる物質のように、食べた人に危害が及ぶような異物混入が起きた場合は、もちろん回収しなければなりません。しかし、虫が入っていたから全て処分するというのは、世論を気にしすぎたまるか食品の『過剰対応』ではないかと思います。
常識的に考えれば、虫が入ったものを食べたところで健康被害が出るようなことはまずありません。しかも、ぺヤングの件はともかくとして、中には悪質なクレーマーもいるわけです。この程度でいちいち全ての商品を回収し、工場を止めていたら、どれだけコストがかかるか分からない。
とはいえ、『虫を食べても死ぬわけじゃない』とか『買った後に異物が入ったんじゃないか』なんて、メーカーの側からは言えるはずもありませんから、悩ましいところですね」
そもそもぺヤングやきそばの場合、同じ商品を年間5300万個も販売しているのだから、ごく稀に異物が混ざったり、不良品が出たりするのは無理もないことだろう。
また、ニュースで盛んに報道されるようになったからといって、異物混入の件数自体がいきなり増えたとは考えにくい。冒頭とは別のまるか食品の女性従業員は、本誌の取材に対して「これまでにも『虫が入っていた』というクレームはまれにありました」と証言しているが、もちろん今回のような大騒動に発展したケースは一度もなかった。
食文化史研究家の永山久夫氏も、過熱する騒動をこう言ってたしなめる。
「私は昭和ひと桁生まれの世代ですが、若い頃は外食すると料理に石ころが入っている、なんてこともザラでした。それでも、よけて普通に食べていた。昔はそういうことも笑って済ませられる寛容さがあったように思いますね。
ひとつの商品に虫が入っていたからといって、同じ種類のもの全部が食べられないなんて、ありえないでしょう。クレーム対応や商品回収、廃棄のコストが、消費者の側に跳ね返ってくることも考えるべきです」
いまどきは、生の肉や魚を素手で触れなかったり、料理に入っている貝や魚に小さな蟹が寄生しているのを見つけ、大騒ぎするような人も珍しくない。自分が口にするものは、完璧に清潔でないと気が済まない。気持ち悪いものは触れたくない、見たくもない—。そんな「潔癖症」が世の中に蔓延しているのは確かだ。
■企業を「裁く」人々
しかし、理屈でどれだけ「大したことじゃない」「他の商品は大丈夫」と説得されても、「なんとなくイヤだ」という思いはそう簡単に消えないのが人情というもの。誰だって、カップ麺のフタを開けてゴキブリが入っていたら、不快な気分になるのは間違いないのだ。「この1匹の背後には、たくさんのゴキブリがいるのではないか」「工場では食材の上を這い回っているのではないか」と、悪い想像が多少膨らんだとしても仕方があるまい。
食品問題評論家の垣田達哉氏は、こう指摘する。
「考慮しなければならないのは、メーカー側にとって今回の事件は何百万分の一という稀なケースかもしれませんが、消費者にとっては自分が買った商品が『一分の一』だということ。当たってしまった人が不快になるのは当然です。『虫くらい食べても大丈夫』という問題ではないわけです」
食べるという行為は、必ずしも理屈で割り切れるものではない。「ぺヤング=虫」「何か入っているのではないか」「怖い」「食べたくない」というイメージが定着してしまえば、スーパーやコンビニの棚でぺヤングを手に取る人は確実に減る。
だからこそ、そうなる前にいっそ全生産ラインをストップして誠意を見せ、仕切り直そう—そう決断を下した、まるか食品経営陣の危機感もよく分かる。
だが、まるか食品が工場の操業を止めて事態の収拾をはかった後も、彼らの思惑とは裏腹に、騒動は奇妙な盛り上がりを見せた。年明けには、19歳の少年がスーパーで売られている菓子の袋につまようじを突き刺す様子を撮影、インターネットで公開して警察を挑発するという事件が発生。ぺヤングやきそばを発端とする「異物混入」が、まさに2015年の幕開けを象徴する言葉になったのだ。
カギとなるのは、現在の日本に渦巻く「情報を暴露したいという欲望」である。インターネットを使い、マスコミではなく一般人によって発信された「ゴキブリ混入事件」のニュースは、まさにぺヤングやきそばの主な購買層である若者たちを夢中にさせた。彼らは積極的に噂を広め、騒ぎを増幅させていった。
ネット上では当初、「何も全部捨てなくても」「大好きなぺヤングが食べられなくなることのほうが問題だ」という「まるか食品擁護派」の意見が大半だった。しかしその後、「ゴキブリ混入」の写真(下)を引き合いに出し、「これを見てもまだ食べたいか」「他の焼きそばにもゴキブリが入ってるかもしれないんだぞ」といった反論を寄せる者が次々に現れ、優勢になってゆく。彼らの心のうちには、「真実を広めるのだ」というある種の使命感、そして「悪を裁く」という快感が多かれ少なかれあったはずだ。
「インターネットの時代になり、メーカー側が対応する前に一次情報が広がるようになった。以前ならばマスコミが報じない限り一般の人の目に触れることのなかった現物の写真まで、いまではいとも簡単に見ることができてしまいます。今回は、この写真を目にして不安や嫌悪感を募らせたという人が少なくなかったでしょう」(前出・垣田氏)
企業の側に、急速に広がってゆく悪評を止める手立てはほとんどない。しかし手を拱いていれば、最悪の場合、会社が潰れかねない。いったいどうすればいいのか—。まるか食品は今もなお、こんな出口の見えない状況におかれている。
「大量生産の食品は作っている人の顔が見えないし、製造過程がどうなっているのか知ることもできない。一方で工場の従業員の側から見ても、食べる人と直に接する機会がありません。
食べ物とは本来、そのような相手の顔が見えない、大量生産には向かないのではないかと思います。最近の消費者は、確かに神経質になりすぎている。しかしそれは裏を返せば、効率アップと人件費削減を進めるばかりで、食べる人の健康や気持ちをないがしろにしてきた、食品メーカーに対する不信の表れかもしれません」(前出・永山氏)
■社会の「度量」が問われている
国民の間に広がる怒りの原因は、食品に虫や異物が混じっていたことそのものよりも、食品工場の実態が明らかになるにつれて募ってゆく「以前にも知らないうちに『異物』を口にしていたのかもしれない」「いままでずっと騙されていたのかもしれない」という不安である。だからこそ、健康への影響という点では大したことがないはずの異物混入を、「許せない」と感じる人が多いのだろう。
一方で、消費者の側にも反省すべき点はある。お茶の水女子大学名誉教授の藤原正彦氏はこう語る。
「食品の安全を徹底することは大事です。たまにはこうした騒ぎがあったほうが、食品会社も衛生管理を見直すきっかけになるでしょう。ただ、かつての日本人は、食べ物に多少の汚れや異物があるという程度のことは、作ってくれた人の気持ちを慮って我慢したものです。
いまは日本人もアメリカや中国といった海外の人々のように、自分の権利を主張し、相手を容赦なく攻撃するようになっているのではないか。ここ最近は特に、著名人の失言や失敗を袋叩きにする傾向が強まっているように感じます。『異物混入は絶対に許さない』という風潮も、日頃の不満をどこかで晴らしたいという思いの表れでしょう」
ぺヤングやきそばは復活できるのか。そのとき、ファンは再び受け入れてくれるのか。少なくとも、長年ぺヤングとともに暮らしてきた地元の人々の間では、温かい意見が多かった。
「自分が買った焼きそばに虫が入ってたら、その時は怒鳴りつけるだろうけれど、ネットに上げたりはしませんよ。失敗を認めて、繰り返さないようにしてくれればそれでいいじゃないですか。また一から頑張ればいい。もう一度ぺヤングが食べられる日を楽しみにしています」(本社工場近くに住む40代男性)
異物混入を許すか否か—この問いかけは思いがけず、いまの日本という社会の「度量」を映し出しているのかもしれない。
「週刊現代」2015年2月7日号より
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