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本流社長・V字回復パナソニック=勝ち組、傍流社長・不振深刻ソニー=負け組、は正しいか
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150207-00010000-bjournal-bus_all
Business Journal 2月7日(土)6時0分配信
これまでの4回で本連載の前提となる文脈について論じたので、本稿から本連載の核心に入りたいと思う。まず、本稿では「周辺事業の人材をトップマネジメントに据えて外科手術を行う企業」「中心事業の若手を抜擢し内科手術を行う企業」の例として、ソニーとパナソニックを取り上げたい。社風は大きく異なるが、両社ともこれまで日本を支えた大手電機メーカーであり、年間売り上げ規模も8兆円弱ということもあり、比較されることの多い企業である。
両社のここ数年のパフォーマンスを見る限り、津賀一宏社長率いるパナソニックは事業のリストラクチュアリングが功を奏して業績がV字回復している。事実、津賀社長は2012年の社長就任以来、積極的な改革で旧体制と決別し、これまでの家電中心の業容を丸ごと変えてパナソニックをつくり直そうとしている。
一方、ソニーはスマートフォン事業(ソニーモバイルコミュニケーションズ)の不振も足を引っ張り、2期連続赤字と業績は低迷している。ここにきて、平井一夫社長兼CEO(最高経営責任者)の退任の噂さえも聞かれる。
普通に考えると、世界累計販売台数は1850万台を突破し2000万台を視野に入れているゲーム機「プレイステーション4」のヒット以外にこれといってマスコミの着目を集めていないので、「ソニーは負け組、パナソニックは勝ち組」という世間の捉え方はうなずけなくもない。しかし、一歩踏み込んで両社を見てみると、果たしてこの捉え方は正しいのだろうか。
まず、社長の年齢的にみて、両社にとって共に若い経営者といえよう。12年に8代目(パナソニックに社名変更後としては2代目)の社長に就任した津賀社長は、1956年生まれで社長就任時点では55歳、先例主義が強いといわれているパナソニックとしては、異例の若さである。ちなみに前任・大坪文雄氏は社長就任時点で60歳、その前任の中村邦夫氏も同様である。例外的に、3代目社長の山下俊彦氏は同57歳であり、当時「山下跳び」といわれたが、異聞もあるがこれは創業者の松下幸之助氏の意向ゆえにできた人事といえよう。
一方、津賀氏と同時期にソニー社長に就任した平井社長は、1960年生まれの51歳であり、世代的には概ね津賀氏と同世代に属するといえる。ちなみにソニーも1982年、在任中に死去した岩間和夫社長の後を継いだ大賀典雄社長は、就任時に52歳であった。これも創業者である盛田昭夫氏と井深大氏の協議の上での抜擢である。
●組織体制
次に企業統治に関わる組織体制を比べてみたい。両社とも取締役会設置会社である。ソニーの取締役会の構成をみると、12人の取締役のうち、社外取締役が10人を占め、ソニーからは平井社長と吉田憲一郎EVP兼CFO(最高財務責任者)のみで、両名が代表執行役である。指名・監査・報酬の3委員会を設置する委員会設置会社なので、代表取締役の代わりとして代表執行役が置かれる。取締役会議長は、永山治中外製薬代表取締役会長兼最高経営責任者である。
一方のパナソニックは、取締役17人とソニーよりも5人多い。そのうち社外取締役は3名とこちらは格段に少ない。構成をみると、津賀社長のほかに、長榮周作代表取締役会長(前パナソニック電工社長)と松下正幸代表取締役副会長(松下幸之助の孫)という重鎮がいる。加えて、代表取締役が9人という多さである。代表取締役と表記しているので、委員会設置会社ではない。また、14年2月26日時点で、社内取締役14人のうちの9人(経理・財務と渉外担当2名を含む)が責任担当部門を持っており、執行役員制度との重複が見られる。パナソニックはうまく機能分担しているとしているが、日本企業の組織文化を考えると現実的には難しいのではないか。
本来、業務の執行ではなく、企業全体の業務の決定と監督をつかさどるのが取締役の職務である。これは委員会設置会社ではもちろん、そうでない会社であっても同様である。取締役会を設置しているにもかかわらず委員会設置会社とせず、各取締役が個別事業の担当を持つパナソニックは、これまでの因習的な日本企業の特徴を強く残すとも言えよう。
米国企業では、経営トップのCEOが業務執行上で強大な権限を持つので、その対抗機関として取締役会が存在する。そして、株主総会で選任された取締役の半数以上が社外取締役によって占められている。CEO以外はすべて社外取締役というケースもある。これが米国大企業のガバナンスの常識である。このような解説を行うと、株主利益優先の形態であると指摘されがちだが、デファクトであることは否定できない。
技術進歩と融合化して加速化するグローバル化がもたらす大きなかつ急激な環境変化に対し、迅速に適応する判断を行っていくためには、ソニーとパナソニックの組織体制のどちらの成功確率が高いであろうか。
●社是
次は、両社の社是を見てみよう。ソニーの社是は、「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」であり、パナソニックのそれは「産業人たるの本分に徹し 社会生活の改善と向上を図り 世界文化の進展に寄与せんことを期す」である。経営者にまで品格を求めるという日本的な特殊事情を抜きに考えると、一般的にどちらの社是が評価されるであろうか。ちなみにこの日本的な特殊事情は、何かにつけて技(技能)に人品を組み合わせるという、段位制を取る日本人の好む「何々道」であろう。人品とワンセットの段位では人品が劣化しては困るので、ランキングと違い段位は降格しない。経営に「道」の概念を当てはめ、経営者に人品を求めたのは松下幸之助氏が創立したPHP研究所であろうか。
また、創業者の象徴的な言葉を見てみよう。ソニー創業者である井深氏の言葉に「たわいのない夢を大切にすることから、革新が生まれる」というものがある。また、パナソニック創業者である松下氏の言葉に「世の為、人の為になり、ひいては自分の為になるということをやったら、必ず成就します」というものがある。これについても経営者としての人品を抜きにして、企業家として、どちらの言葉が評価されるであろうか。
●社長の経歴
さらに、両社社長の経歴を見てみよう。パナソニックの津賀社長が事業部門トップを最初に務めたのが、カーエレクトロニクス部門のオートモーティブシステムズ社である。現在同社の事業シフトが自動車関係、特にバッテリー事業に集中している理由が理解できる。しかし、研究畑出身である津賀社長の経歴を見ると、デジタルテレビ関連のネットワークとソフトウェア領域に従事し、その後はブルーレイ(次世代DVD規格)の立ち上げに中心的に関わっていた。その後、AVCネットワークス社社長を経て、12年4月にパナソニック代表取締役専務に就任している。この経歴は、中村・大坪氏の元社長がAVC社(現AVCネットワークス社)社長であったのと同様、テレビ、ビデオ、オーディオ、PC、カメラなどパナソニックの屋台骨であった家電事業の本流を歩んできたということを意味する。この意味で、津賀社長は本流の出身といえるであろう。ちなみに14年にテレビ、ビデオ、オーディオはアプライアンス社に移管されている。
一方のソニー平井社長は、ICU(国際基督教大学)出身ではあるが、ハワード・ストリンガー前取締役会議長と英語でジョークが語れるといわれる帰国子女である。大手日本企業のトップとしては、かなり毛色が異なるといえる。
平井社長は大学卒業後、CBS・ソニー(後のソニー・ミュージックエンタテインメント)に入社。00年にSCEI(ソニー・コンピュータエンタテインメント)の北米法人SCEA (Sony Computer Entertainment America) に転籍する。06年にSCEIコーポレート・エグゼクティブ グループEVP(エグゼクティブ・バイスプレジデント)に就任。最終的に名誉会長に退いた久夛良木健氏に代わりSCEIグループCEOに昇任し、SCEIのトップとなった。ソニー本体での職歴は、09年の執行役EVP就任からである。つまり、ソニー本流ではないのである。
この点は、津賀社長と大きく異なる。加えて、現在の平井体制を支える59年生まれの吉田CFOと64年生まれの十時裕樹ソニーモバイル社長は、それぞれソネット(00年に出向)とソニー銀行(01年に転籍)で、新事業を軌道に乗せた実績を持つ。つまり彼らもまたソニー本流ではない。
『ブラック・スワン』著者で作家のナシーム・タレブ氏は「中心=本流からは本当の革新は起こせない」とするが、これを当てはめて、真の意味での「企業の脱皮」という革新を起こせる可能性はどちらが高いだろうか。つまり、東原敏昭日立製作所社長の「V字回復までは赤字を抑えたりすればよい。これから先はどうやったら成長できるか、自分の頭で考えることだ」という観点で両社の今後の可能性を考えると、どちらに軍配が上がるだろうか。
本稿のテーマである「ソニーは負け組、パナソニックは勝ち組という認識は正しいのか」に対する答えは、次回連載に持ち越したい。次回は、両社の事業について論考する。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)
小笠原泰/明治大学国際日本学部教授
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