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シャープ、赤字転落を招いた「能天気な鈍感さ」 IGZOも低評価、液晶失速で再建頓挫
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150206-00010007-bjournal-bus_all
Business Journal 2月6日(金)6時2分配信
シャープの2015年3月期連結決算は、300億円の最終赤字に転落する見通しとなった。従来予想は300億円の黒字だった。同社は14年3月期の連結決算で最終損益を2期連続の赤字から黒字(116億円)に転換。「経営再建が軌道に乗った」と株式市場から評価されたが、それも束の間、今期は再び最終赤字の見通しとなり、経営再建の迷走ぶりをうかがわせている。
1月31日付日本経済新聞は「不採算事業の抜本的な見直しで特別損失を今期に追加計上すれば、赤字幅はさらに膨らむ」との厳しい予想をしている。同社は13年5月に13-15年度の中期経営計画を発表。15年度の連結売上高は3兆円、営業利益は1500億円、最終利益は800億円の目標を掲げてきたが、こちらも計画を大幅に下回る可能性が強まってきた。
経営再建失速は、主力の液晶事業の急速な採算悪化が要因だが、経営再建はどこで計算が狂ったのだろうか。
●黒字転換の足元で赤字要素が拡大
「中期経営計画の初年度は目標を大幅にクリアしたが、これで慢心するわけにはゆかない。今年度はゼロからのスタートと気を引き締めて中計目標達成に取り組む」と高橋興三社長が14年3月期連結決算発表の記者会見をしたのは、昨年5月13日のことだった。だが「その時点で、高橋社長の頭の中の計画と足元の業績はすでに齟齬を来していた」と、証券アナリストは振り返る。
シャープが発表した14年3月期連結決算は売上高が2兆9271億円(中計目標2兆7000億円)、営業利益が1085億円(同800億円)、最終利益が115億円(同50億円)で、営業利益と最終利益は揃って3期ぶりに黒字転換。しかも中計目標も上回る、非の打ちどころのない業績だった。
黒字転換に寄与したのは3つの事業だった。
1つ目は主力の液晶事業。同社経営危機の主因だった大型液晶パネル製造の堺工場(シャープ子会社)を12年7月、台湾の鴻海精密工業へ実質的に売却。堺工場の持ち株比率が93%から46%に低下、連結決算から外れたことで減価償却費が減少した。さらに中国の新興スマートフォン(スマホ)メーカー小米科技へのスマホ向け液晶パネルの受注拡大により、事業部門営業利益が前期1389億円の赤字から416億円の黒字に転換した。
2つ目は太陽電池事業。メガソーラー(大規模太陽光発電所)向け太陽電池パネルの受注拡大により、同利益が前期45億円の赤字から324億円の黒字に転換した。
3つ目は液晶テレビなどのデジタル情報家電事業。中国など新興国で液晶テレビ販売が伸びたことにより、同利益が前期99億円の赤字から128億円の黒字に転換した。
こうした結果から、当時は「高橋改革」と呼ばれる経営再建が軌道に乗ったと思われた。シャープの経営再建を支援している主力2行も「再建への峠は越した」(三菱東京UFJ銀行)、「引き続き支援する」(みずほ銀行)など黒字転換を評価していた。
しかし現実的には、シャープの事業環境は厳しかった。黒字転換の主役となった液晶事業は中国のスマホ向け液晶パネルの先行き不透明感、太陽電池事業は太陽電池パネルの国際的な需要後退などの不安要素が強まっていた。14年3月末現在の自己資本比率は8.9%。財務体質も、ぼろぼろのままだった。
●競合の安値攻勢
特に営業利益の4割近くを稼ぐ主力の液晶は事業基盤が弱く、電機業界内からは「シャープが位置付けるような『経営再建の主軸』になる要素はどこにもない」との声さえ聞かれた。
シャープが液晶事業の中国シフトを強めたのは12年頃からといわれている。米アップルに収益を依存するリスクを減らすのが目的だった。同社は「スマホの世界市場は17年度に中国メーカー勢のシェアが40%を超える」との市場予測データなどを当てに、中国のスマホメーカーへ営業攻勢をかけたといわれる。そのかいあってまず小米との取引に成功、中国市場開拓の橋頭堡を築いた。13年度の中国メーカー取引社数は5社を超えたとみられる。
10年に設立したばかりの小米は、当時は小さな新興スマホメーカーだった。このため、小米は当初商談を進めていたジャパンディスプレイに取引を断られ、困っていたところへシャープが救いの神のように現れた。シャープから液晶パネルの供給を受けた小米はその後、まさに昇竜の勢いで成長。14年には中国で首位、世界で第3位のスマホメーカーに上り詰めた。小米は液晶パネルの70-80%をシャープから調達し、小米の急成長と共にシャープのスマホ向け液晶販売も急拡大した。しかし、両社の共存共栄関係は長続きしなかった。
昨年11月以降、小米からの受注量が急減した。それをシャープは「小米の在庫調整に伴う一時的な需給調整。受注はすぐ回復すると、能天気に構えていた」(半導体業界関係者)という。小米からの受注急減は、競合の安値攻勢が原因だった。シャープが小米との関係に安住していた頃、急成長した小米の受注を獲得しようとジャパンディスプレイが安値攻勢をかけたのをはじめ、韓国LGD、台湾AUO、さらには中国国内の中小液晶パネルメーカーが一斉に安値競争を展開、小米との取引を増やしていたのだった。
「シャープは、その動きを察知していなかった。それが前述の能天気な判断につながっている。鈍感というほかない」(同)
このずさんな事業管理が如実に表れたのが、小米が今年1月15日に新製品として発表した低価格スマホ「Mi Note」だ。小米は同製品の液晶パネルをシャープとジャパンディスプレイから同量で調達したといわれている。そしてジャパンディスプレイは小米に食い込むため、1枚当たり20ドル強だったスマホ用液晶パネルを、10ドル台に値下げしたともいわれている。
小米はさらにLGD、AUO、中国国内メーカーなどからの調達量も増やしているとみられる。小米は15年のスマホ出荷量を前年比約1.5倍の1億台に増やす計画だが、「増加分の液晶パネルは、基本的にシャープ以外から調達する考え。その結果、15年の小米へのシャープの供給シェアは、従来の70-80%から50%以下へ一気に低下する見込み」(同)だ。
●「液晶で経営再建」に暗雲
「液晶のシャープ」がスマホのような汎用品市場で収益を上げるためには、例えば日本電産のモーター事業のように、競合を寄せ付けない断トツの「世界No.1事業」に育てる必要がある。そのためには競合が容易に追随できない技術力、営業力、事業管理力などが必要になる。
ところが「シャープにはそれがない」と、半導体マーケターは指摘する。同社自慢の半導体技術「IGZO技術」でさえ、最終製品メーカーの評価は低い。それは小米がシャープ製以外の液晶パネル調達を増やしている事実からもうかがえる。
「小米は、IGZO技術が優れているからシャープ製を採用したとは思えない。シャープ製を採用したところ、それがたまたまIGZO技術でつくられていたという程度の認識にしかすぎない」(同)
電機業界関係者は「シャープは需要の変動が大きく、価格競争も激しい汎用品市場で勝負している限り、『液晶で経営再建』のシナリオは成り立たない。それはテレビ向け液晶事業の破綻で経営危機を招いたことで、すでに証明されているはずだ」と指摘する。
その一方で、同社にはもともと創業者・早川徳次氏の「徳尾錠」に始まり、オールトランジスタ電卓、ターンテーブルレンジ、液晶表示電卓、電子システム手帳、過熱水蒸気オーブン「ヘルシオ」、液晶ビューカム、液晶ペン入力端末「ザウルス」など数々のユニークな「オンリーワン製品」の開発で業界に新潮流を生み出してきた輝かしい歴史がある。前出関係者は「液晶のシャープを生かそうとするなら、こうしたDNAに立ち返り、4代目の町田勝彦社長時代から引きずってきた事業規模拡大思想を断ち切る必要がある」と断言する。
シャープの経営理念も「いたずらに規模のみを追わず、誠意と独自の技術をもって、広く世界の文化と福祉の向上に貢献する」と謳っている。高橋社長も就任時に「創業精神以外はすべてを変える」と公言していた。
シャープは15年3月期の赤字転落見通しを受けて13-15年度の中計見直し作業を急遽行っており、15-17年度の新中計を今年5月頃に発表するとみられている。そこで同社がどんな大胆な経営再建策を示すのかが注目される。
(文=田沢良彦/経済ジャーナリスト)
田沢良彦/経済ジャーナリスト
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