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高橋洋一の俗論を撃つ!
【第112回】 2015年2月5日 高橋洋一 [嘉悦大学教授]
国の債務超過490兆円を意外と簡単に減らす方法
財務省は、2013年度末の国のバランスシートをまとめ、2014年3月末時点で資産・負債差額(負債が資産を上回る債務超過額)は490兆円と発表したという報道があった。
まず、その資料をみてみよう。
「財務省HP 平成25年度「国の財務書類」の貸借対照表の概要」
資産は総計653兆円。そのうち、現預金19兆円、有価証券129兆円、貸付金138兆円、出資66兆円、計352兆円が比較的換金可能な金融資産である。そのほかに、有形固定資産178兆円、運用寄託金105兆円、その他18兆円。
負債は1143兆円。その内訳は、公債856兆円、政府短期証券102兆円、借入金28兆円、これらがいわゆる国の借金で計976兆円。運用寄託金の見合い負債である公的年金預り金112兆円、その他45兆円。
先進国と比較して、日本政府のバランスシートの特徴をいえば、政府資産が巨額なことだ。政府資産額としては世界一である。政府資産の中身についても、比較的換金可能な金融資産の割合がきわめて大きいことだ。
巨額な資産をオープンにせず
債務の多さだけを強調した過去の政府
実は、国のバランスシートは前から公表されている。1998年度から2002年度までは試算として公表され、2003年度からは正式版として公表されている。それより以前、20年前にはじめて国のバランスシートを作ったのは筆者である。
その当時、政府内で資産・負債総合管理(ALM)を行う必要があり、その必要性から国のバランスシートを作成したわけであるが、幹部から口外しないようにかなり注意を受けた。あまりに資産が多額にあったからであり、それまで国の借金いくらと、資産をいわずに負債だけで財政危機を説明してきたからだ。
しかも資産の大半が特殊法人などへの出資金・貸付金であったため、仮に資産売却・整理となると、特殊法人の民営化や整理が避けられず、天下り先を失う可能性が高かったことも、大きかった。
その結果、国のバランスシートを公表しても、役所言葉で「ロー・キー」で行い、あまりマスコミへ説明しなかった。このため、バランスシートの資産・負債差額(債務超過額)の数字があっても、財務省が説明しないので、マスコミは記事を書けない状態だった。
今回、資産・負債差額が報道されたということは、財務省がマスコミにレク(説明)したはずだ。どうして、このような方向転換があったのか、興味深い。
為替介入で得た外債で運用含み益、
いわば借金で財テクという実態
資産・負債差額に着目するのは世界標準なので、財務省もようやく世界に近づいたというのが一つの理由だ。もっとも、ほかの国は政府資産が少額なので、ネットの資産・負債差額で見ても、グロスの負債額だけを見ても大差ない。日本の場合、政府資産額が大きいので、債務額をグロスで見るか、ネットで見るかは大きな違いがある。
もう一つ考えられる理由は、債務超過額をいっている以上、政府資産の売却・整理はあまりいわれないですむ。売却・整理しても債務超過額はそれほど変わらないからだ。
これは、資産のうち外貨債権が100兆円以上あり、それが最近の円安で20兆円程度の含み益が出ていることが大きく関係している。これは、外為特会に関わる部分で、バランスシートでいえば、資産の有価証券と負債の短期政府証券にあたるところだ。
日本の外貨準備が大きいことに着目して、その運用をもっと積極的に行うという政府系ファンドの提言がしばしばある。実態をいえば、実際に外資系証券会社をはじめとして「運用」の委託を財務省から受けている会社は確かに存在している。
外為運用の秘密ということで、世間ではあまり知られていないが、100兆円の運用なので、証券会社への実入りも大きい。これが財務省の利権を担っているのが問題だ。外為特会をみれば、政府短期証券という「国債」によって資金調達をして、為替介入という名目で外債購入し、その後「運用」しているわけだ。
いってみれば、借金が大変といいながら、さらに借金して財テクを行っているわけだ。どう考えても、財務省がいうような財政危機とはあまりにふさわしくないことが実際には行われているのだ。
しかも、変動相場制という建前とも、今の外為運用は矛盾している。変動相場制であれば、一度為替介入して外債を購入しても、その外債の償還期限が来たら償還し、それで調達した政府短期証券も償還し、資産と負債を両方ともに減少させるのが筋だ。ところが、日本の外為特会では、外債のロールオーバーを行うことで、事実上の為替介入を継続している。その結果、先進国では類を見ない巨額な外為資金になっている。
国際的な観点からいえば、外為資金を圧縮して、同時に政府短期証券を減らすことが望ましい。しかも、現在では円安で結果として上述のような20兆円程度の含み益があるので、絶好の機会だ。
この話は、官邸も知っている。いずれ何らかの対策をせざるを得なくなることを財務省もわかっているので、今のうちに、債務超過額をアピールしている可能性はある。
ただし、正しい財務運営は、資産を圧縮して有利子負債をその分減少させることだ。つまり、債務圧縮は避けられない。
これまで財務省は、政府資産は道路などを例に挙げて、換金できないと説明してきた。ただし、これは有形固定資産178兆円にはあてはまるが、その約2倍にもなる金融資産ではあてはまらない。特殊法人などを廃止または民営化すれば換金可能だ。
また、政府資産に含まれる運用寄託金105兆円を将来の年金のために処分できないといってきたが、それを処分せよなんていう人はいない。問題は金融資産である。財務省はこれからどのような説明をするのだろうか。
BS上は債務超過でも
徴税権という「簿外」資産が
最後に考えられる理由は、債務超過を強調して財政再建の必要性をいうことだ。普通の企業であれば、債務超過であれば、破綻である。しかし、国の場合には事情が異なる。
他の国のバランスシートをみても、債務超過は珍しくない。日本の債務超過額は名目GDPの90%程度であるが、たとえばアメリカの債務超過額も名目GDP比でみればやはり90%程度であり、日本とほとんど同じである。もし日本が財政破綻というなら、アメリカも財政破綻だが、そうなっていない。
国の場合、形式的には債務超過であっても、国家としての徴税権という「簿外」の資産があると考えてもいい。日本の場合、少なくとも年間で40〜50兆円くらいの税収が確実にある。これが将来も続くとすれば、それらの現在価値は割引率4%で1000〜1250兆円程度である。これを資産と考えてもいいのであるから、少しぐらいの債務超過は問題にならない。
もっとも、この点は、負債でも将来を縛るものがあれば、その分は差し引かなければいけない。いずれにしても、プライマリー収支が均衡しないと、まずいことには留意する必要がある(詳細は、 2014年10月30日付け「「消費増税で財政再建できる」は大間違い」を参照)。
さらに、国のバランスシートだけで判断するのもミスリーディングだ。企業のバランスシートを見るとき、単体ベースと連結ベースの両方を見るように、国の場合も単体だけではなく、連結ベースも見なければいけない。筆者が、旧大蔵省時代に初めてバランスシートを作成したときも、連結ベースは作成した。
今でも、政府の子会社である特殊法人などを含めた連結ベースでのバランスシートは作成されている。国の単体ベースより2ヵ月くらい遅れて公表されているので、今年も3月末くらいに公表されるだろう(2012年度末の連結バランスシートは、財務省HP 平成24年度連結財務書類pdf にある)。
日銀のBSを連結すると
国の負債超過は200兆円減?
ただし、ここでは日本銀行が連結対象になっていない。日本銀行は認可法人であるが、連結ベースに含めて考えた方がいいこともある。荒っぽい方法だが、日本銀行のバランスシートを合算してみよう。他の政府子会社をすべて連結として含めて、債務超過額は若干低くなるはずだが、簡潔にするために、日本銀行だけを連結に含めてみよう。
日本銀行のバランスシートは単純にいえば、資産に国債、負債は日銀当座預金と日銀券である。日銀当座預金は日銀券と代替可能なので、日本銀行の負債は日銀券のみとみても、間違いではない。
となると、アバウトには、日本銀行のバランスシート(2014年3月末)は、資産の国債200兆円、負債の日銀券200兆円とみてもいい。これを国のバランスシートに合算すれば、負債の中の公債・政府短期証券が200兆円減少し、その代わりに日銀券200兆円が入るわけだ。
ここで、日銀券200兆円は、形式的には負債だが、利息負担もないし、返済義務もない。いってみれば、この分は負債とみなさない考え方もありうる。その考え方にたてば、債務超過額は490兆円から290兆円にあるわけだ。このあたりについて、公会計で定説はないと思うが、日銀保有国債分については、国にとって償還も利払いも必要ないので、債務超過額が減ったといってもいいだろう。
こうした点について、経済財政諮問会議はしっかり議論する必要があるが、今のメンバーではとてもできそうにないのが気になるところである。
http://diamond.jp/articles/-/61359
http://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2013/20150130gaiyou01.html
http://diamond.jp/articles/-/66253
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