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アベノミクスを一蹴するピケティ氏(NHK『パリ白熱教室』より)
世界が注目する経済学者・ピケティが来日して“アベノミクス”をケチョンケチョンに!
http://lite-ra.com/2015/02/post-838.html
2015.02.04. リテラ
『21世紀の資本』で大ブレイク中のフランスの経済学者、トマ・ピケティ氏(43歳)が疾風のごとく日本を駆け抜けた。1月29日朝にエールフランス機で成田に到着、3泊4日の滞在中に3カ所でのシンポジウムや日本記者クラブでの記者会見、各種メディアの単独インタビューなどを精力的にこなし、2月1日午後にはパリへトンボ返りという過密スケジュールだった。
話題の著書は世界十数カ国で発行され、700ページを超える学術書にもかかわらず累計150万部を突破した。日本語版も昨年末に発売された。1冊5940円で重さ約1キロ、厚さ約5センチの分厚い本がすでに13万部という、ある意味“異常な”ブームになっている。中身は何が書いてあるかというと、要は資本主義社会においては持てる者(富裕層)と持たざる者(貧困層)の経済的不平等(格差)が徐々に広がっていくのが必然で、このまま放置すれば「バルザックの時代のような」一部の裕福な不労所得者が多数の貧困層を支配する時代が来る、という話だ。
これが経済学に与えた衝撃は大きかった。というのも、それまでの主流派経済学ではサイモン・クズネッツが主唱していた「資本主義が発展すると、一時的に格差は広がるが、やがて縮小する」が定説になっていたからだ。ピケティ氏の主張が真実ならば、これが180度ひっくり返ることになるわけだ。
それは「r>g」=資本収益率(r)は経済成長率(g)を常に上回るというシンプルな不等式で説明される。ザックリ言うと、資本主義社会では土地や株に投資して得られる収益(不労所得)の上昇は、労働によって得られる収益(賃金)の上昇より“常に”大きい。つまり、広大な土地や株を持っている人はそこから得られる賃料や配当だけで働かずに優雅な暮らしができるが、労働者は汗水たらしていくら頑張っても絶対に追いつくことはできない。それどころか、その差は開く一方だという。
この法則をピケティ氏は世界20カ国以上、過去200年以上の税務当局のデータを15年がかりで集計・分析することで明らかにした。それによると、2つの世界大戦と累進課税の強化によっていったんは縮小した格差が80年代以降に再び拡大し始めた。とくにこの傾向はアメリカで顕著で、上位10%の富裕層が総所得に占めるシェアは、1980年の34%から2012年には50%にまで急上昇して、格差の激しかった第2次世界大戦前の水準をも超えているという。アメリカで労働者平均の300倍を優に超える超高額報酬を得るスーパー経営者が登場したのもこの頃だ。
この不平等を解消するには所得や資産に対する累進課税を強化すべきだというのがピケティ氏の強い主張だ。つまり、資本家・富裕層に重税をかけ、労働者階級に再分配しろというわけである。こうなると、当然、出てくるのが「非現実的な左翼経済学者」「隠れマルクス主義者」などという批判だ。
たしかに資本主義が抱える構造的矛盾を鋭く言い当てている点や『21世紀の資本』というタイトルの印象から、カール・マルクスの『資本論』を思い起こさせる。
しかし、なんと本人曰く「マルクスは一度もきちんと読んだことがない」そうだ。理論ばかりで事例がないのが不満だとも。それはそうだろう。マルクスが『資本論』を書いた19世紀半ばは資本主義がまだ緒についたばかりで、具体的データなどなかった。ピケティ氏が駆使したように、ビッグデータをコンピュータで解析できるいまとは時代が違う。
ただ、『資本論』も『21世紀の資本』も結論は非常に近い。マルクス経済学からのアプローチとはまったく違うが、19世紀のマルクスが予見した「資本主義には致命的な構造矛盾がある」ということを21世紀のピケティ氏がデータを使って証明したともいえる。その意味ではマルクスをちゃんと読んでいなかったこと(マルクス経済学者にならなかったこと)が逆によかったのかもしれない。
ピケティ氏は米マサチューセッツ大学経済学部助教授として教鞭を執ったこともあり、考え方や理論の組み立て方は米国流のオーソドックスな新古典派経済学がベースになっている。そのくせ、導き出される結論が「資本主義の構造矛盾」ということなので、マルクス経済学者からポール・クルーグマンやジョセフ・スティグリッツ、ローレンス・サマーズら米国のリベラル系経済学者まで、幅広い評価を受ける新たな地平を開いたともいえる。
しかし、こうした“左翼系”経済学者がチヤホヤされていることに安倍晋三首相は苛立ちが隠せないようだ。
ピケティ氏来日の前日28日の参院本会議で松田公太議員が、ピケティ氏が格差解消の処方箋としてあげる世界的な資産課税強化について問うと、「執行面でなかなか難しい面もある」とそっけなく否定するだけだった。
ところが、直後に側近から「人気の経済学者なので反論ではなく、アベノミクスの恩恵をアピールすべき」とアドバイスされたらしい。29日の衆院予算委員会での民主党・長妻昭氏との質疑では、「ピケティ氏も成長は否定していない」とまずピケティ人気にあやかったうえで「成長せずに分配だけを考えていけば、ジリ貧になる」と持論を語り、2日の参院予算委員会では「(アベノミクスは)全体を底上げする政策だ」と力説した。
だが、当のピケティ氏はアベノミクスに対してケチョンケチョンだ。 例えば、アベノミクスは富裕層・大企業への税を軽減する一方で、その穴を大衆課税である消費税増税で埋めようとしている。これは、ピケティ氏が主張する累進課税強化と真っ向対立している。
「あらゆる人にかかる消費税を引き上げることが、どうして日本の成長にとってよいことなのか。納得できない」(1月31日、東大講義で)。
1月29日のシンポジウム後半のパネルディスカッションでは西村康稔内閣府副大臣がパネリストとして登壇した。政府の「雇用者100万人増」や「トリクルダウンの試み」などについてパワーポイントの資料を何枚も使って説明し、「アベノミクスで格差が拡大しているというのはまったくの誤解」とドヤ顔を見せた。
しかし、データ分析ではピケティ氏の方が2枚も3枚も上手だった。
「確かに日本の格差はアメリカほどではない。しかし、上位10%の富裕層の所得は国民所得全体の30〜40%まで上がってきており、さらに上昇傾向にある。しかも、日本はゼロに近い低成長なのに上位の所得が増えているということは、実質的に購買力を減らしている人がいるということだ。おまけに累進課税の最高税率も低い。国際的水準で見ても、日本の過去の税率と比べてみても。つまり、トップの所得シェアが増えているのに以前より低い税率しか納めていないということだ」
これを不平等といわず、なんというのか。西村副大臣はタジタジだった。
異次元金融緩和についても「紙幣を増刷することは(税制に手を着けるより)たやすいが、緩和したマネーがどこへ行っているかわからない。果たしてそれで適切な人が恩恵をうけるだろうか」「株や土地のバブルを起こすことはできるが、それでは正しい人に富が行き渡らないし、必ずしも経済成長にはつながらない」(同シンポジウムで)とバッサリ。
アベノミクス最大のキモは、まず富裕層を優遇して儲けさせ、その富の一部がやがて低所得者層にまで“したたり落ちてくる”トリクルダウン理論にある。ピケティ氏はこれを、「過去を見回してもそうならなかったし、未来でもうまくいく保証はない」(東大講義講義)と一蹴した。
それよりも、労働に対する税を低くして資産に対する税を増やし、金持ちから税金を取って資産のない若者向けの減税を実施するなどして、格差を是正すべきだというピケティ。
その理論と、富裕層だけを優遇するアベノミクスと、どちらが正しいかは、もう2〜3年もすればはっきりするだろう。まあ、はっきりしたときにはもう手遅れになっているかもしれないが……。
(野尻民夫)
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