02. 2015年2月05日 22:39:39
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強い米ドルに潜む危険 ドル高の打撃を受ける企業収益、政界からも反発の声 2015年02月03日(Tue) Financial Times (2015年2月2日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)現金輸送車から2億円落下・散乱、交通大混乱 香港 ドル高の影響で、米企業の収益に陰りが見えてきた〔AFPBB News〕 最も重要なことをまず指摘しておこう。今日の世界で1930年代が再現されようとしているわけではない。経済大国が意図的に「近隣窮乏化政策」としての通貨安を仕掛けているわけではないし、保護主義が物騒な復活を遂げつつあるわけでもない。 この現状を米国の言葉で表現するなら、「いつも通り、すべてメチャクチャ*1」といったことになるだろう。 しかしこの水面下には、我々が危険を冒して見て見ぬふりをしている流れがある。ドル高が進行し、輸出の伸びが鈍りつつあるのだ。同じことは米国へのリショアリング(製造拠点の国内回帰)にも言える。その進展が広く予想されていたにもかかわらず、実際には生じていないのだ。 米国と競争している国のほとんどは金利を引き下げている最中で、その通貨は対ドルで下落している。もしこの傾向が続けば(恐らく、そうなる)、米国の政界が黙ってはいないだろう。ドル高は一般に言われているほど好ましいことではないのだ。 何がドル高に歯止めをかけるのか? とはいえ、何がドル高に歯止めをかけるのかは、簡単には分からない。米連邦準備理事会(FRB)のジャネット・イエレン議長によれば北米の経済成長は「しっかり」しており、北米とそれ以外の主要国との間には間違いなく開きがある。 両者の差は金融面でも拡大している。10年物米国債の利回りはわずか1.7%という歴史的な低水準にあるが、ほかの先進国の10年物国債利回り(ドイツが0.3%、日本が0.25%、英国でさえ1.3%)に比べれば魅力的だ。投資家はドルを買い続けるだろう。 FRBがほぼ10年ぶりの利上げに向かうことから、ドルが買われる傾向はさらに明白になるだろう。最近では、米国以外の国のほとんどが金利を引き下げている。この3週間で見ても、カナダとインド、シンガポールが貸出金利の引き下げに踏み切った。オーストラリアとトルコも追随すると見られている。 欧州中央銀行(ECB)とデンマークの中央銀行は、名目金利がマイナスの領域に突入しつつある。恐らく、ユーロがドルとパリティ(等価)になるのは時間の問題だろう。 *1=situation normal, all fouled up これらは、大恐慌時代に見られたような通貨切り下げとは異なる。欧州もそのほかの地域の国々も、需要を回復させるために量的緩和を拡大しているのであり、米国よりも安い価格で商品を売るためにやっているわけではない。しかし、その意図が何であれ、効果は同じだ。 ここには2つの危険が潜んでいる。第1に、米国企業の最終損益が次第に強い影響を受けるようになっている。S&P500株価指数を構成する米国の大企業は、売上高のほぼ半分を米国外で計上しており、純利益ではその割合はさらに高い。従って、ドルが強くなればなるほど増益の勢いは弱くなる。 2014年第4四半期には多くの大企業が利益を減らした。キャタピラーは前年同期比25%の減益に終わった。プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は、ドル高のために2015年はゼロ成長になると見込んでいる。 アップルやグーグルでさえ「為替による強い逆風」が吹くと警告した。今年1月にドルが上昇する一方で米国株が5%下落したのは、企業を取り巻くこうした状況のせいでもある。 「TPPに為替操作条項を」 第2に、政界で反発が強まっている。先週には共和、民主両党の議員がマイク・フロマン米通商代表部(USTR)代表に対し、為替操作に関する条項を環太平洋経済連携協定(TPP)に盛り込むよう圧力をかけた。日本を主眼に置いた要求だったが、議員たちの真の標的は、TPPに参加しない中国の人民元だった。 フロマン氏は議員らの質問を、強いドルは米国の国益にかなうと主張しているジャック・ルー財務長官に振った。 ルー氏のこの主張はいわばおきまりの文言であり、誤解を招きかねないと言える。しかし、筆者の同僚アラン・ビーティが指摘しているように、為替を操作しているかどうかは主観の問題だ。同じ行為が一方の人にとっては為替の切り下げとなり、他方の人にとっては金融政策になるのだ。 為替操作を禁じるルールを参加国に守らせることなどできはしない。無理強いをすれば、TPP交渉がまとまる可能性が失われるだろう。 とはいえ、米国で輸出が伸び悩んだり製造拠点と雇用の回帰が進まなかったりしていることから、政界では今後議論が盛り上がる公算が大きい。 元米財務長官のローレンス・サマーズ氏と英国の影の財務相、エド・ボウルズ氏は先月、シンクタンクの米国進歩センター(CAP)から格差なき繁栄に関する報告書を発表した。 西側諸国の中間層に見られる所得の減少傾向を反転させる政策を明確に示した報告書で、社員持ち株制度の拡大、育児休暇制度の改善、最低賃金の引き上げ、職業訓練制度の充実などがうたわれている。この研究成果は、ヒラリー・クリントン氏の大統領選挙戦の青写真になると見られている。 また、この報告書は「新しい通商合意に、為替操作を禁じる強制力のある規則を明示的に盛り込む」ことを推奨している。サマーズ氏がこの種の条項に長らく反対してきたことを考えれば、これは非常に意外なことだが、このように取り上げられるのが現状であるなら、この条項の導入を左派と右派の両方が要求していることはさほど不思議なことではない。 個人消費の増加が頼みの景気回復 米上院、イエレン氏のFRB議長就任を承認 米連邦準備理事会(FRB)のジャネット・イエレン議長〔AFPBB News〕 では、強いドルは今後どうなるのか。 ドル高のプラス面は、イエレン氏がゼロ金利を大方の予想よりも長い期間維持できることにある。賃金上昇の兆しはまだ弱く、インフレの兆しに至っては影も形も見えない。ドルが強くなればなるほど、輸入コストは低下する。原油価格の下落も追い風になる。 欧州の基準に照らせば、米国は贅沢な問題に取り組んでいることになる。ただ困ったことに、米国の景気回復は、個人消費の増加というお馴染みのモデルを土台にしている。 2014年第4四半期の国内総生産(GDP)成長率は前期比・年率で2.6%だったが、これを牽引したのは設備投資ではなく個人消費だった。実際、米国企業は国内での支出を減らしている。 米国の個人消費の増加は、中間層の所得の増加ではなく借り入れコストの低下に牽引されたものであるため、金利サイクルの反転に弱い。 ほとんどの米国人は、景気回復の力強さについてまだ慎重な見方をしている。期間30年の住宅ローンが3%に満たない金利で利用できるにもかかわらず、住宅を買う人の数は驚くほど少ないのが実情だ。イエレン氏がいよいよ利上げに乗り出す時に住宅購入者が増えるとは考えにくい。 ある意味で、ルー長官の主張は正しい。たしかに、強いドルは米国の成功を反映している。だがそれと同時に、願い事をするときはよく考えてからにせよ(本当に叶ってしまうのかもしれないのだから)という格言が正しいことも示唆している可能性がある。 By Edward Luce http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42823 |