03. 2015年2月03日 17:19:59
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コラム:国債のマイナス金利、さらに拡大も 2015年 02月 3日 14:03 JST Edward Hadas[ロンドン 2日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 債券市場でのマイナス利回りの広がりは痛ましくもあるが、少なくとも理論上は健全なことだ。マイナス幅は今後も深まっていく可能性がある。 電子取引システムのトレードウェブによると、ユーロ圏のソブリン債のうち23%がマイナス利回りとなった。マイナス幅はどれも1%未満。しかしスイスの2カ月物短期国債の利回りはマイナス1.6%に達している。 投資家がインフレ率を下回る利回り、つまりマイナスの実質金利を受け入れることはこれまでも珍しくなかった。しかし名目金利がマイナスになるのは新しい。エコノミストらは実際、マイナス名目金利の国債などだれも買いたがらないと確信し、「ゼロの下限」という言葉を用いてきたほどだ。投資家はマイナス金利の国債を買うぐらいなら単純にキャッシュを保有するにきまっている、と彼らは論じた。 それでもマイナス金利の国債が買われる理由の一つは、キャッシュが不足していることだ。欧州中央銀行(ECB)は約1兆ユーロを増刷したが、ユーロ圏各国政府の借金は9兆ユーロに上る。その上バークレイズの計算によると、キャッシュを保有するコストは年率約1%程度。従って経済合理性に基づけば、マイナス利回りの国債を購入するのを直ちにやめる理由は見当たらない。 しかも金融政策の標準理論はマイナス金利の必要性を説いている。低金利は貸し出しと借り入れ、支出を促すはずだ。こうした刺激効果を十分なものとするためには、金利がインフレ率を大幅に下回らねばならない。ユーロ圏の消費者物価指数(CPI)上昇率は年率0.6%のマイナスだから、ECBは金利をそれより低く押し下げるべきだ。マイナス3%まで下げてやっと効果があると言える。 ECBはその水準までは近づいていない。思いとどまらせているのは、「ゼロの下限」を尊重する気持ちの名残りか、あるいは大衆の反発を買うことへの恐怖か。マイナス金利が一般化すればこうした消極姿勢も消えるかもしれないが、キャッシュ代替的な金利を下回る金利を実現するには、自動的に残高が減少するデビットカードを導入し、紙幣および貨幣と交換してしまうといった荒療治が必要になるかもしれない。 しかしこの理論は脆弱だ。深いマイナス金利は景気を刺激するよりも委縮させる影響の方が大きいかもしれない。セントラルバンカーは別の手段を探し出す必要があるだろう。しかし当面のところは小幅なマイナス金利もまた、「ニュー・アブノーマル」の一部に過ぎない。 ●背景となるニュース *トレードウェブによると、1月27日時点ですべてのユーロ建て国債のうち、23%がマイナス利回りだった。 *2月2日の0845GMT時点で、スイスの2年物短期国債利回りはマイナス1.6%。 *デンマーク中央銀行は過去2週間で譲渡性預金(CD)金利を3度にわたり引き下げ、マイナス0.5%とした。同国政府は1月30日、国債利回りを全年限にわたって押し下げるため、国債の発行を一切停止すると発表した。 http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPKBN0L708920150203 コラム:壮大な「ユーロ安投機」がはらむ反騰リスク=唐鎌大輔氏 2015年 02月 3日 16:52 JST 唐鎌大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト [東京 3日] - マイナス預金金利に加えて国債購入型の量的緩和(QE)導入にまで至った欧州中銀(ECB)の金融緩和、そしてギリシャ総選挙に伴う恒例の脱退騒動と、ユーロ売り材料に事欠かない局面が昨年来続いている。 こうした状況をとらえてユーロ安見通しを述べることは簡単であるし、実際にそうした予想が奏功する局面が続く可能性は高そうである。 だが、市場の思惑が一方向に傾斜している時ほど冷静な相場分析が必要だ。筆者は従前から、ユーロ圏の「日本化」の結果として通貨ユーロは「円化」し、その対応のためにECBは「日銀化」するはずだと主張してきたが、その考えは今でも全く変わっていない。 特にECBの日銀化は想定以上のペースで進んでいるのが実態だ。基本に立ち返った上で今のユーロ相場の状況を見つめると、現状のユーロ安は莫大な経常黒字とディスインフレゆえの高い実質金利が維持される中で展開されていることが分かる。こうした地合いを可能にしているのは恐らく「壮大な投機」であり、それが維持される可能性に関しては十分な警戒が必要かと思われる。 例えば、1月に公表されたユーロ圏11月経常収支(季節調整前)は約250億ユーロと22カ月連続で黒字となり、過去12カ月平均では月間200億ユーロの黒字というイメージで推移している。 これを円建てにすれば月間で約2.6兆円(1ユーロ=132円との仮定)、年間では約30兆円の黒字を稼いでいることになる。日本が最も経常黒字を稼いでいた2005―07年で年間20―25兆円の黒字だったことを振り返れば、今のユーロ圏の需給環境はすでに当時の日本を凌駕している。 ドイツのIFO経済研究所によれば、同国の2014年経常黒字は過去最高の2200億ユーロ(対GDP比7.5%)となった模様だ。このドイツを筆頭にユーロ圏の経常黒字はもはやGDP比で見ても、金額で見ても中国を超えており、グローバルインバランス(国際収支の不均衡)を拡大させる主犯となっている。直感的にこのような国の通貨が一方的に下落するのは違和感を覚える。 ユーロドルが厳格にユーロ圏経常収支の動きをトレースしてきたわけではないが、2014年以降継続している経常黒字蓄積とユーロ急落の組み合わせがどこまで持続可能なのかは興味深い論点である。真っ当に考えれば、当面はユーロ下落を受けてドイツの輸出が加速する一方、弱い域内需要を背景として輸入は減少しそうであり、経常黒字がすぐに減少するような展開は描き難い。少なくとも経常収支上は「需給はユーロ買い」の状況が示唆されそうである。 <ユーロ圏からの資本逃避は言い過ぎ> とはいえ、マイナス預金金利の導入以来、ユーロ域内から域外へ資本が流出しているとの声は多い。本当だろうか。筆者の見立てを述べれば、ユーロ圏の国際収支統計を見る限り、こうした指摘は必ずしも正鵠を射ているとは言えない。 確かに、ユーロ域内から域外へ資本が純流出しているのは事実であり、これに応じてユーロドルが下落した可能性は高い(これは図にしてみれば一目瞭然である)。だが、資本が純流出となっているのは対内証券投資が売り越され、逆流していることに起因しているわけではない。つまり、巷(ちまた)で連想されるように、ユーロ圏非居住者が域内に投資していたものを処分して、域外へ資本逃避(キャピタルフライト)させているわけではない。 もちろん、欧州経済が衰えを見せる中で新たな対内証券投資は事実として細っているが、少なくとも国際収支上で確認できる計数を見る限り、非居住者が「保有していた資産を積極的に売却して逃げ出している」というのは言い過ぎである。 それでもユーロ圏からの資本が純流出となっているのは、主として域内から域外への対外証券投資が出ているためだ。これをユーロ圏居住者によるキャピタルフライトと解釈することも可能だが、今のユーロ圏はそこまで危機的な状況だろうか。本気でユーロ圏崩壊に備えて資産売却を行っている層がいないとは言わないが、多数派とは思えない。現状起きていることはキャピタルフライトではなく、内外の金融政策格差、ラフに言えば欧米金利差を背景として対外証券投資が加速していると考えるのが最も自然ではないか。 内外金利差に応じて国内(域内)から国外(域外)へ対外投資が加速し、通貨安が勢いづくのは「円高の歴史」を誇る円でも繰り返し確認されてきた事象であり、ユーロが円化している兆候の1つだと筆者は考えている。ユーロが下落基調を辿っていることをとらえて「デフレ(ディスインフレ)通貨だから底堅く推移するという仮説は適切なのか」という質問を受けることがあるが、現段階で正誤を判断するのは尚早だ。 過去20年間、デフレの歴史を誇ってきた円も、幾度か円安局面は経験している。それは往々にして米連邦準備理事会(FRB)が日銀に先んじて政策正常化に乗り出し、日米金利差が拡大する中で起こってきた。「円化する通貨」が安定的に下落するためには金利差を背景として投機的な動きが主導する必要があり、現にユーロはその傾向が認められる。 <2007年夏まで3年弱続いた円の投機売り> 以上のような状況を勘案すると、現状のユーロ安は欧米金融政策格差を背景とした対外証券投資の加速とそれに乗じた「壮大な投機」に起因するものと推測される。しかし、投機的な取引という性質上、いつかは巻き戻されるリスクがある。 そもそも経常黒字に伴う需給やディスインフレゆえの高い実質金利を抱えている通貨だけに「買われる筋合い」は常にある。売り優勢のムードの中でも、再評価される可能性には常に留意すべき、というのが筆者のユーロに対する基本認識だ。 だが、現実問題として「いつかは巻き戻される」の「いつか」を特定するのは難しい。例えば2005―07年の円安局面においては、IMM通貨取引の円売り持ちトレンドは3年弱続いた。そのトレンドが2007年夏に発覚したサブプライム危機を境として急反転し、円相場が急騰したことはまだ記憶に新しいところだ。 片や、昨年5月に始まった足元のユーロ売り持ちトレンドはまだ1年も経過していない。以前に比べて投資家の取れるリスク量が減ってきているため単純な比較は禁物だが、少なくともECBとFRBの間に横たわるあまりにも分かりやすい政策格差が変わらない限り、売り持ちトレンドが変わることは難しいという見立ては筆者も同感である。 言い換えれば、現状のユーロが「円化して迎える初めての下落局面」に差し掛かっているのだとすると、初めての経験だけに投機主導でどこまで落ちるかは手探りで考えるしかない。経験則をあてにするのならば、ユーロドルの下値目途は購買力平価である1.20付近だったが、これも明確に割り込んでしまっている。この点、ユーロ安はすでに未知の局面に入っていると言えるが、その後の反騰と背中合わせであることもまた未知であることを気に留めておきたい。 少なくとも、2014年5月以降見られているユーロ売り持ち高の蓄積ペースは2005―07年の円安局面とは比較にならないほど早く、どこかで巻き戻しが来るのはむしろ必然と見受けられる。 繰り返すが、そのタイミングを予想するのは至難の業だ。だが、欧米金融政策格差がファンダメンタルズで見たユーロ高要因を押し退ける展開が続いている以上、最も目先ではFRBが順当に正常化路線を歩んでいけるか否かが鍵となってきそうである。 2005―07年の円安局面において「経常黒字とデフレを踏まえれば円高になるはず」という指摘に耳を傾ける向きは決して多くなかったことを思い返せば、今のユーロ安局面については短期と長期という時間軸を分けた丁寧な分析が重要だと筆者は考えている。 *唐鎌大輔氏は、みずほ銀行国際為替部のチーフマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。2012年J-money第22回東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では1位、13年は2位。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月) *本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here) http://jp.reuters.com/article/jp_forum/idJPKBN0L706N20150203 |