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コラム:米利上げ、世界経済「変調」で先送りあるか
2015年 01月 29日 18:57 JST
鈴木敏之 三菱東京UFJ銀行 シニアマーケットエコノミスト
[東京 29日] - 28日に発表された米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明は、一部の事前予想よりも、利上げを開始する意向は固いという印象を与えるもので、株式市場もサプライズとして反応した。
そのサプライズの根源は、米国以外の世界経済(ROW:Rest of the World)にみられる「変調」に、米金融当局は十分な配慮を払っていないのではないかという危惧だ。
振り返れば2007年8月7日、FOMCが「インフレ警戒」の判断をした直後に市場は崩れ、危機に至った。8月10日に緊急資金供給を決定し、同月17日に公定歩合引き下げの緊急対応を行っている。米金融当局者にとっても歴史に残る苦い経験のはずである。では、今回のFOMCは、当時を彷彿させるものなのだろうか。
<IMFも指摘する世界経済の変調>
周知の通り、国際通貨基金(IMF)は今月20日に、世界経済見通しを改訂している。これもまた「サプライズ」の塊だった。
まず、2015年の世界経済成長見通しを、昨年10月時点の3.8%から3.5%に引き下げた。たった3カ月での0.3%の下方改訂は比較的大きなものだ。
第二に、2015年の米国経済成長見通しを3.1%から3.6%に大きく上方改訂し、他国は軒並み引き下げた。ちなみに、フィラデルフィア連銀の集計する民間の平均的な見通しは3.0%だ。IMFは米国経済について、かなり強気にみていることになる。
第三に、新興国間でも資源国か否かで下方改訂の程度が異なる見通しとなっている。これは、世界経済に看過できないショックが起きているとIMF自身がみていることを意味する。
そもそも、世界景気の不況入りの目安は3.0%割れとされる。米国経済の世界経済に占めるシェアは22%しかない。78%のROWが冴えない場合に、米国が引きずられることはないのかと危惧されるのは当然である。
懸念すべき経路は2つある。第一は、ROWの不冴えを象徴して、世界貿易が伸び悩んでいることだ。世界貿易量の変動は、ラグ(時間差)をもって、米国経済に波及する。
第二は、米国が好調、ROWが不調ならば、ドル高となる点だ。これもまた米国経済の勢いを弱めかねない。
<強い利上げ意欲を示すFOMC声明の巧妙な判断>
上記のような危惧があるのに、今回のFOMC声明は、利上げ開始への意向の強さを確認させるものだった。
FOMCは今回の声明で、景気判断を前回の「緩やかな(moderate)」拡大から「着実な(Solid)」拡大に上方修正した。国内総生産(GDP)は2014年第3四半期に年率5.0%で成長している。緩やかではないのは確かだ。
雇用は、前回の「着実な(solid)」拡大を「強い(strong)」拡大に変えた。失業率が5.6%まで低下し、FOMCのみる自然失業率に接近している。非農業部門雇用増加数は2014年11月の35.3万人に続いて、12月が25.2万人であり、雇用が強いというのは至極納得できるところだ。
また、インフレ率の低下については、エネルギー要因が、従来は部分的だったのに、今回は大半であることを強調した。この先、今までの勢いで原油価格が下がらなければ、インフレ率の押し下げ圧力が鈍るということであり、利上げ開始への積極姿勢を示す判断である。
インフレ率の今後は、インフレをどう予想するかに左右される。この点についても、FOMC声明は巧妙な判断を示した。
予想インフレ率の把握手段として、市場ベースのインフレ補填分と、サーベイによる予想インフレ率を分けて、前者は下がっているが、後者は安定していると言っている。前者は、インフレ率の予想だけではなく、資金の安全への逃避などでも動くことを、イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長が先般の記者会見で言っている。すなわち、予想インフレ率低下の動きも、利上げの妨げではないことを示唆している。
また、今後の政策運営の告知である「フォワードガイダンス」のキーワードを、前回変えた。それまでの「相当な期間」金利を据え置くという一節は維持しつつ、利上げ開始に対しては「忍耐強くなれる」との表現を盛り込んだ。今回は「相当な期間」を削除した。これは、利上げ開始に向けて、一歩前進させたシグナルと言える。
前回は、3人もの採決反対者が出た。その反対者の1人は、ミネアポリス連銀のコチャラコタ総裁で、「金融緩和の継続が必要」というハト派サイドの主張による反対だった。今回は全会一致で、ハト派サイドの反対者が消えたことになる。
以上の通り、FOMCは、利上げ開始に進む意向をかなり強めに示したことになる。確かに、前回はなかった国際情勢への目配りを言っているが、それは重視すべき監視項目の1つとするだけで、積極的に利上げをやめる位置づけではない。
実際問題として、ROWに変調があっても、米国として強すぎる経済指標の動きをもとに政策決定をしなければならない。また、4.5兆ドルのバランスシートを抱えての利上げは未知との遭遇で、経済状態がよいときに利上げが可能であることを示す必要がある。さらに、ROWに問題が起きていれば、米国経済こそがしっかりしていなくてはならない。そこでインフレ圧力がみえていて、強い引き締めを必要とするような事態は避けなければならないのだ。
こうした理由から、FOMCは利上げ開始への積極姿勢を示していると言えるが、ROWの問題が深まった場合への「プランB(次善策)」も用意していることだろう。
*鈴木敏之氏は、三菱東京UFJ銀行市場企画部グローバルマーケットリサーチのシニアマーケットエコノミスト。1979年、三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。バブル崩壊前夜より市場・経済分析に従事。英米駐在通算13年を経て、2012年より現職。
http://jp.reuters.com/article/jp_forum/idJPKBN0L20RW20150129
コラム:次のリスクオンで上がる通貨と下がる通貨
2015年 01月 29日 18:25 JST
亀岡裕次 大和証券 チーフ為替アナリスト
[東京 29日] - リスク許容度は為替相場を左右する重要な要因だ。両者の関係性はその時々で変化してきたが、一定のルールは指摘できる。今後の為替相場を見通すうえでも重要なポイントなので、以下、過去7年余りの変遷を時系列に分析してみよう。
まず2007―12年の各国通貨の対ドル為替と(リスク許容度を反映する)世界株価について、それぞれ5日前との比較で相関係数をとると、ほぼすべての通貨が順相関であり、株価が上昇すると通貨が対ドルで上昇する傾向があった。しかも、相関係数は全般的に高く、順相関がかなり強めだった。
2008年の株安局面では対ドルで下落し、09―11年の株高局面では対ドルで上昇する通貨が多かった。唯一、相関係数がマイナスなのは円で、株価が上昇すると円は下落する傾向があった。ただ、09―11年の株高局面を通してみると円は対ドルで上昇しており、米金利低下のドル安・円高効果を覆すほど強いリスクオンの円安・ドル高効果があったわけではない。
また、高金利通貨は対ドル為替と世界株価の順相関が高く、低金利通貨は対ドル為替と世界株価の逆相関となる傾向がわかる。米連邦準備理事会(FRB)の量的緩和政策の下で低金利通貨となったドルは、円に次ぐキャリー通貨(調達通貨)としてリスクオン時に売られやすく、リスクオフ時に買われやすい通貨だった。
米国と短期金利水準の差が小さい通貨でも、リスクオン時にドルを売って当該通貨を買う傾向(リスクオフ時はその逆)にあった。そして、クロス円は世界株価との順相関が強く、それに比べるとドル円は世界株価との順相関が弱い傾向にあった。
<昨年は逆相関に転じる通貨が続出>
2013年は、各通貨の対ドル為替と世界株価の相関係数が全般的に低下した。世界株価の上昇(下落)時に各国通貨が対ドルで上昇(下落)する傾向が弱まったのだ。各国金利が低下(対米金利差が縮小)したことで対ドル為替と株価の順相関が弱まった一面もあるが、対米金利差に変化がないなかで順相関が弱まった面の方が大きい。
FRBが将来的に量的緩和を停止して引き締めに向かう動きを市場が織り込み始めて米金利が上昇に転換し、成長の鈍い資源・新興国などの通貨価値を押し下げる方向に働いたため、リスクオン時にドルを売って当該通貨を買う動きが弱まったと言える。スイスフランの対ドル為替は株価と逆相関に転じた。一方、円の対ドル為替と株価の逆相関(マイナスの相関係数)に大きな変化はなかった。
2014年には、各国通貨の対ドル為替と世界株価の順相関が低下し、逆相関に転じる通貨が続出した。対米金利差が縮小していない通貨でも、同様の傾向が見られた。米国ではFRBの量的緩和縮小が進むなか、利上げ期待の高まりを反映して2年国債金利などが上昇し、ドルのキャリー通貨としての位置づけが一段と後退したからだ。
逆に欧州中央銀行(ECB)の量的緩和への期待の高まりを反映して金利が低下したユーロは、対ドル為替と株価が逆相関に転じた。また、日銀が量的緩和を継続している円は、金利が低下したこともあり、対ドルと株価のマイナスの相関係数がマイナス0.3程度からマイナス0.6程度へとおよそ2倍になり、逆相関が大幅に強まった。
世界株価が上昇するなどリスクオンに傾くと、ドル高・円安になる傾向が強くなっており、ドル高・ユーロ安にもなりやすいのだ。ただし、相関が弱まったとはいえ、株価が上昇すると、資源・新興国通貨などの高金利通貨は対ドルで上昇しやすい。
<米利上げは引き続き6月か9月の公算大>
現在、通貨先物におけるドル買い越しポジションは過去最大レベルにある。ユーロ、円、ポンド、豪ドル、カナダドル、メキシコペソ、スイスフラン、NZドルなど、主要通貨すべてが対ドルで売り越しにあるからだ。
2014年は先進国を中心に株価が上昇する一方で、原油などの商品価格が大幅に下落し、そのことが資源・新興国通貨にマイナス、ドルにプラスに作用した。商品価格が反発すれば逆に、資源・新興国通貨にプラス、ドルにマイナスに作用する。原油大幅安で原油生産の採算が悪化しているので、2015年は株高・商品安が続きにくく、株安・商品安か、株高・商品反発となりやすいだろうが、今後は米国での原油生産鈍化から株高・商品反発となる可能性が高いと考えられる。
FRBは1月28日に発表した米連邦公開市場委員会(FOMC)声明において、エネルギー価格下落が家計の購買力を押し上げるとするなど、米国経済の回復について楽観的な見方を示した。一方でエネルギー価格下落によりインフレ率が短期的に低下するとの見通しを示したが、原油価格が下げ止まる限り、賃金上昇を伴ってインフレ期待が上昇し始め、FRBの予想通りにインフレ率の下振れは一時的となるだろう。そのため、6月か9月に利上げを行う可能性が高い。
利上げを織り込んで米金利上昇が進行し、リスクオン時に円やユーロは対ドルで下落しやすくなるだろう。また、商品価格の反発がリスクオン時に資源・新興国通貨を対ドルで上昇させやすくするのではないか。
*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。
http://jp.reuters.com/article/jp_forum/idJPKBN0L20K720150129
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