01. 2015年1月28日 08:14:27
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【第562回】 2015年1月28日 菅野泰夫 [大和総研シニアエコノミスト] 未知のECB量的緩和は本当に機能するか? ――菅野泰夫・大和総研シニアエコノミスト量的緩和政策とマイナス金利政策の相反する組み合わせが上手く機能するかは、今後の大きな注目点と言える Photo:REX FEATURES/アフロ ECB、国債買い入れ型の 量的緩和をついに発表 ?1月22日、欧州中央銀行 (ECB) は定例の理事会を開き、注目されていた国債買い入れ型の量的緩和策(以下、QE)の導入を決定した。買い入れ資産は、国債、政府系機関債、EU機関債が対象とされ、既存のカバードボンド買い入れプログラム(CBPP3)および資産担保証券買い入れプログラム(ABSPP)を含めた合計で、月額600億ユーロ、総額1.1兆ユーロを超える見通しである。 ?買い入れの期間は、今年3月から来年の9月まで約1年半実施されることが予定されている。注目された国債などの買い入れ金額は、(ドラギ総裁が会見の中で述べたように)過去のプログラム(CBPP3、ABSPP)の買い入れ額のペースを勘案して推計すると、総額8000億ユーロ以上となると予想される(CBPP3は13週目、ABSPPは9週目までの買い入れペースが継続すると仮定して、大和総研推計)。 すげの・やすお 1999年大和総研入社。年金運用コンサルティング部、企業財務戦略部、資本市場調査部(現、金融調査部)等を経て、2013年4月より現職。担当は欧州経済・金融市場。著書に『バーゼル規制とその実務』(金融財政事情研究会、2014年2月、共著)。 ?また、中期的なECBのインフレ目標である2%間近(2%に近いがそれ以下)に達するまで、QEは行われるとしている。裏を返せば、2%近くを達成できなければ追加のプログラムが予想され、事実上日銀が導入している無制限型の緩和政策と言えよう。ABSPP、CBPP3を除く国債などの買い入れはECBへの出資比率(キャピタル・キー)に応じて行われ、残存期間が2年から30年までが対象となった(平均残存期間は不明)。
?EU/IMFの支援プログラム国も買い入れ対象とされたために、懸念されていたギリシャおよびキプロスともに該当することとなった。ただし、債券の価格形成機能が麻痺することを避けるため、買い入れは流通市場(セカンダリー)から行い、各銘柄について発行額の25%、単一発行体の債務の33%までが買い入れ上限とされた。この点は、今後新発国債の大半を買い入れる日銀の量的緩和とは異なると言える。 量的緩和賛成派側が勝利に見えるも 実際は反対派に大幅譲歩 ?今回の理事会で最も大きなリスクは、(全会一致を好む理事会において)結果的に意見が集約できず“通貨ユーロの規律破綻”を招き、各国の関係修復が不可能になることであった。一部の理事の根強い反対意見から生じる1票は、ユーロ域内の分断化を決定づける恐れがあり、単一通貨存続に対する否定的なインパクトの大きさは計り知れなかったと言えよう。 ?その中で、1月14日に発表された欧州司法裁判所(ECJ)の仮判断は、今回のQE実施を確実のものとした可能性が高い。これは昨年(2014年2月7日)、ECBが導入したOMT(危機時にECBが国債を買い入れするプログラム)が財政ファイナンスに該当するか否かの合憲性について、ECJの法的見解の表明をドイツ憲法裁から付託されたものである。 ?ECJの法務官による見解(意見陳述)によると、OMTの施行は異例の金融政策であることとしながらも、「必要(necessary)」であり、そしてまた「厳密な意味で適切だ(proportionate in the strict sense)」と述べ、EU法上の適法性についても条件付きで合法であるとの見解を示した。 ?ただし、その後もQE反対派の急先鋒、ドイツ連銀バイトマン氏は、理事会の1週間前(1月15日)のスピーチの中でも、「国債買い取りについての姿勢は従来通り(購入対象を最高格付けの国債に限定するなどの代案を示すも、基本的には反対)であり、変化はしていない」と、一貫した反対姿勢を示していた。 ?最終的には、ドイツ側の主張も考慮され、ECBが直接リスクを共有する部分は20%とされ、残り80%は域内各国の責任で行われ、損失が生じれば各国中銀で負担をすることとなっている。ドラギ総裁は会見の場で、今すぐ実施するかどうかについて若干の反対意見があったものの、ECB自体の共有するリスクを限定的にすることで、全会一致で決定したことを強調していた。 ?ただし、損失リスクのほとんどをECBが取らないことは(20%のうち12%はEIB債などのEU機関債で、ギリシャを含む国債部分や政府系機関債は8%のみ)、反対派に相当程度譲歩した内容とも言え、量的緩和を押し切ったドラギ総裁側の完全勝利というわけではないと言えるだろう。 量的緩和とマイナス金利が 同時に機能するのかは未知数 ?QE発表直後にユーロが対ドルでの下げ幅を拡大させるなど、当初の予想を上回る買い入れ規模が好感されたものの、ユーロ域内での金融市場のインパクトは軽微に留まったと言える。特に、ギリシャを除いたユーロ域内の長期国債利回りは前日までに低下が進んでいたため、発表前から織り込まれていたアナウンスメント効果はすでに達成済みとの印象すら受けた。 ?また、量的緩和政策とマイナス金利政策の相反する組み合わせが上手く機能するかは、今後の大きな注目点と言える。日本では、超過準備預金に関しても付利(+0.1%)が獲得できるため、銀行にとって当座預金を増やす抵抗がなく、量的緩和に応じやすい状況がある。 ?一方、ユーロ圏では貸出先から十分な収益が期待できない状況で、コストが高い(マイナス金利の)当座預金や預金ファシリティを増やす動機は乏しく、積極的に銀行が国債をECBに売却して、量的緩和に応じるかは未知数と言える。貸出コストを大きく低減させることは難しく、すでに大きく低下していた長期金利がこれ以上低下したところで、今後も競争力がある貸出金利を提示できるとは限らない。 ?また、たとえ貸出増加につながったとしても、マイナス金利分のコストを顧客から全て回収できるわけではなく、むしろ資金利ざやが大きく低下し収益力が落ちる可能性すら想定されるであろう。 ?すでに織り込まれているユーロ安をさらに進めるためには、残存期間、量ともに市場予想を超える規模での買い入れの決定が求められていたため、その点は及第点と言える。ただし、すでにユーロ圏各国の長期金利水準の低さを考慮すると、米国や日本の異次元緩和ほどの効果があるかは疑問視されている。不良債権処理でいまだ苦しむイタリアなどに至っては、銀行与信の拡大への効果は限定的であろう。 量的緩和は結果的に ロシア経済へのキラーパスか? ?また、今回のQEはTLTROs(Targeted Longer-Term Refinancing Operations:条件つき長期リファイナンスオペ)と違い、資金の用途に制約は課されてない。他国の量的緩和と同様に、国債を売却した資金を必ず域内の貸出に回す義務はないことは、事実として再認すべきであろう。 ?それを期待して、QE発表以降、東欧諸国などのユーロ域外の株式市場が上昇するなど、すでに域内で行き先に迷う余剰資金が新興国へも流れ始めている。特に、ロシア株式市場はQE発表直後に、大きく上昇している(週間上昇率では世界トップ)。 ?今後、原油市場にも資金が流れこみ、価格下落に歯止めをかける可能性も高く、結果的に西側の経済制裁で先行きが見えないロシア経済へのアシストとなった感も否めない。行き場を失った量的緩和の余剰資金が、ECBの意図とは違う方向に向かってしまうのか、今後注視する必要があろう。 http://diamond.jp/articles/-/65792
金融市場異論百出 【第170回】 2015年1月28日 加藤 出 [東短リサーチ代表取締役社長]
無制限為替介入を断念のスイス政策継続の危機は日銀も同じか ?日本銀行の資産規模におけるGDP比は2014年末で60%を超えた。同時期における欧米の主要中央銀行は20%台だったので、日銀が突出している(GDPはIMF〈国際通貨基金〉、欧州委員会の予想)。ECB(欧州中央銀行)が量的緩和を始めてもせいぜい30%前後になるくらいだろう。 無制限の為替介入を断念したスイス。世界中に衝撃が走った Photo:Ulrich Baumgarten/gettyimages ?一方、スイス国立銀行(SNB)のその比率は14年11月時点で86%だ。リーマンショック前の07年末は23.5%だったので、こちらの膨張も凄まじい。日銀が資産を膨張させた最大要因は日本国債の巨額購入だが、SNBはユーロを中心とする外貨購入だ。スイスフランの高騰を抑えるために無制限の為替介入を行ってきた結果だ。
?単純化していえば、円紙幣の価値の裏付けは日本国債の信用力に懸かっており、スイスフラン紙幣の価値の裏付けはユーロなど外貨の信用力に懸かっているといえる。相対的にどちらの中央銀行の資産内容が健全なのかは、極めて微妙な問題であるが……。 ?そのSNBが1月15日に無制限介入の終了を宣言した。“空中分解”のような突然の終わり方だった。大損失を被った市場関係者や、スイスの輸出企業は当然ながら激しいブーイングを発している。 ?しかし、実はスイス国内では無制限介入を続けることに対するブーイングも起きていた。SNBにとっては、「進むも地獄、退くも地獄」の状態にあったといえる。 ?無制限介入による流動性散布と超低金利政策で不動産ブームが過熱し、家賃の高騰に低中所得層は不満を述べている。今のインフレ率は低いが、「いつかひどいインフレが来るのでは」と不安を感じる市民も少なからずいるようだ。 ?さらに、SNBは政治家の強いプレッシャーにもさらされている。もし無制限介入を継続していたら、ECBが量的緩和を始めたときに一層ユーロを大量に購入することになった。その後でその政策に耐えられなくなって放棄したら、評価損は凄まじいことになる。 ?つまり、SNBの立場がぐらついていたために、政策の継続が困難になったと見なせる。日銀資産のGDP比は、16年には今のSNBのその比率を超えていく。追加緩和を行ったら、スピードはさらに速まる。スイスと日本では事情が異なるものの、「こんな政策をやっていて大丈夫か」という不安を日本国民がもし抱き始めたら、SNBの政策のように“空中分解”してしまうかもしれない。 ?ところで、元BIS(国際決済銀行)チーフエコノミストのウィリアム・ホワイト氏は、2カ月前の英「フィナンシャル・タイムズ」紙に日銀の政策について強い警告を書いていた。もし人々が、日銀が世界最大規模でマネタイゼーション(財政赤字の貨幣化)を行っていることに不安を感じ始めたら、債券の金利は上昇し、円は売られ、「インフレを急速に高いレベルへ押し上げる自己実現的なスパイラルが発生する」。 ?円の下落を防ごうと日銀が金利を引き上げたら、債券の金利はさらに上昇する。円を支えようと外貨準備を売ったら、米国の国債市場や他の市場に深刻な打撃を与える。「この危険なサイクルを止めるのは容易ではない」。 ?日本の当局が問題を制御できなくなっていることが明らかになると、世界中で動揺が生じ得る。この危険なサイクルを止めるには、東京(日本政府)は財政赤字削減を進めなければならない。「東京が何もしないリスクは、非常に大きい。私たち全てにとって」。 (東短リサーチ取締役?加藤 出) http://diamond.jp/articles/-/65820 |