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ついに量的緩和に踏み切った欧州中央銀行(ECB)。筆者に言わせれば、日米欧の中央銀行の中で、出口なき金融政策をとっているのは日本だけだという(写真:REX FEATURES/アフロ)
日本だけが「出口なき金融政策」を実行する謎 実は歯止めが効いている、ECBの金融緩和策
http://toyokeizai.net/articles/-/59019
2015年01月27日 小幡 績:慶應義塾大学准教授 東洋経済
ついに、ECB(欧州中央銀行)が量的緩和に踏み切った。ここ数年、市場や政治の要求に屈せず、量的緩和からは一線を画してきたECBまでが量的緩和を行うことで、金融市場はついに歯止めを失った。
■堕落したのは、実は日本と欧州だけ
では、世界は超金融緩和の世界に入り、金融市場はマネーに溢れ、バブル突入、世界金融市場崩壊、となるかというと、そうでもない。量的緩和に対して、原理的にも実践的にも強く反対している私にとっては、その方が、わかりやすく原稿を書けるのであるが、現実はそうではない。なぜなら、堕落したのは、日本と欧州だけだからだ。
米国の中央銀行(FED)、あるいはFRBのバーナンキ議長(当時)が、もっとも量的緩和の正当性を強く主張し、信じ、愛し、実行してきた。心の底から正しいと思って、ある意味、前向きに実行してきた。世界唯一の「明るい金融計画」ならぬ「明るい量的緩和」を行ってきた。
一方、日本とECBは、市場と政治とエコノミスト世論の量的緩和の催促に、抵抗を続けてきた。日本銀行の白川前総裁は、理論で量的緩和に抵抗してきたが、政治の力に屈せざるを得ず、最後はアコードを結び量的緩和を行った。しかし、それでも、量的緩和を行うに際して、副作用だけ説明する「辛気くさい量的緩和」であり、そのせいで、せっかく量的緩和を行っても効果がなくなってしまったと、揶揄された。
ECBは、実は、積極的に、資産購入を行ってきた。それは、景気対策としての量的緩和ではなく、欧州金融市場崩壊、欧州経済崩壊、ユーロという仕組みの崩壊の危機に際して、リスク資産となってしまった国債を買い入れてきた。
つまり、欧州金融危機に際して、投資家が質への逃避を行い、ギリシャを始め、ポルトガル、スペイン、イタリアといった国々の国債の価格が暴落(金利は上昇)した。国債は、暴落して一定の利回り以上になってしまうと、国債という低リスク資産としての意味がなくなり、買い手が全くつかなくなってしまう。利回りが7%を超えてくると、その国の財政は持続可能性に明らかな疑義が生じ、取引は凍り付いてしまったようになくなってしまう。投機家だけが反転を狙って、投げ売りを拾うぐらいで、金融市場が機能しなくなってしまう。
まさに、ECBは、この金融市場の機能不全を解消するために、リスクが高まってしまったと市場に見なされた資産である国債を買ったのだ。その分、ドイツ国債など格付けの高い、むしろ利回りが低下した国債を売った。これらの危機と見なされた国の国債から逃避した資金が殺到して、利回りが低下した国債は、金融市場の機能不全どころか、買い手が殺到しているわけであるから、この国債を買う必要はなかった。
そして、何より重要なことに、量的緩和は何が何でも行いたくなかったのである。したがって、国債の買い入れによって、中央銀行から流出するマネーが増加することを防止したかった。その結果、市場で買い手がいなくなったリスクの高い国債を買い入れ、一方、市場で買い手が溢れている国債を売り、マネーの量は中立的になるようにしたのである。
■米国の金融緩和によって、迷惑を被った新興国
したがって、米国は世界的にはマイノリティ、異端派であったのである。さらに、新興国を考えれば、ほとんどの新興国は、米国の大規模な量的緩和に強く反対していた。G20でブラジルが非難したのは有名だが、新興国にとっては、米国の量的緩和は迷惑なだけだった。
米国で余ったマネーは、新興国金融市場になだれ込み、不動産、金融バブルを膨らませた。一部の国は、金融バブルにとどまらず、実体経済も高インフレになってしまった。金融バブルが実体経済に波及したのである。それらの国は、金融市場も実体経済も米国に比べれば、吹けば飛ぶような規模であるから、金融バブルは経済のすべてを混乱させる。
新興国経済の弱点は、インフレとそれによる通貨価値の下落である。バブルにより、見かけの経済規模、成長率、株価、地価は膨らんだが、それを相殺するようにインフレが起き、それにより通貨価値が下落した。
実体経済へのプラスが大きくないままに、バブルの膨張を抑え、インフレと通貨下落を抑えるために、新興国の中央銀行は金利を引き上げざるを得ない。これにより、実体経済は腰折れする。実体経済の実物の投資が減退する。外的な金融要因による金融バブルの実体経済への影響はマイナスなのである。だから、新興国の中央銀行は、米国に対して怒っているのである。
そして、米国は量的緩和を縮小させ始めた。終了と言われているが、それは正しくない。購入をストップしただけであり、まだ量的緩和により買い上げたリスク資産は米国FEDのバランスシートの上に大量に残っている。量的緩和は縮小しているが、まだ終わってはいない。出口に向かっているだけだ。
米国の量的緩和が出口へ向かい始めると、新興国の中央銀行は、また怒りの矛先を量的緩和および米国FEDへ向けた。量的緩和を縮小するのは止めてくれと。
これを、バーナンキは冷笑した。おまえらは、本当に自分勝手で、ご都合主義だなと。量的緩和をやれば、やるなと言うし、止めようとすれば止めるなという。いったいどっちなんだ。米国経済は盤石だから、経済が混乱してあえいでいる新興国の中央銀行の人々を小馬鹿にしたように、せせら笑った。
しかし、新興国の哀れな中央銀行の方が、理論的にも現実的にも正しいのであり、バーナンキこそ自分勝手である。しかし、これは、アメリカの伝統に基づく、孤立主義、自国の経済こそがすべての世界であり、今さら驚くことではない。
■米国から「往復びんた」をくらった新興国
なぜ新興国の言い分の方が正しいかというと、要は、量的緩和とその終了で、バブルを勝手に作られ、勝手に潰されるという、いわば往復びんたであり、実体経済が、これに振り回されることになったからだ。
これが、なぜ過度の金融緩和が問題であるかを最も端的に表している。バブルを作って潰すのだ。実体経済が金融の乱高下に振り回され、それにより、資源が的確に使われず、ロスが生じてしまう。それが問題なのだ。
米国においては、実体経済の調整として金融緩和を行っている。だから、実体経済に対する悪影響は少ない。ところが、新興国は、米国の金融市場といういわば世界金融市場の影響をまともに受ける。だから、必ず被害を受けることになる。恩恵を受ける可能性は、トータルでは決してない。常に攪乱要因であり、国内経済のために、ベストな金融政策を行っているのであるから、そこへ影響を与えるということは、必ずベストな地点から経済はずれてしまうからだ。
米国の金融市場の影響が、新興国の経済に対して極端に大きい場合は、為替の調整はうまくいかない。金融市場のバランスをとる為替レートと、実体経済のバランスを取る為替レートは大きく異なるからだ。
このように、攪乱されたところへ、例えば、今回の原油安のようなショックが追加的に起こると、新興国経済のうち、原油安がマイナスな国においては、経済が崩壊する危機に陥る。ヴェネズエラが良い例だ。もちろん、ヴェネズエラはもともと、インフレになりがちな経済であり、金融政策も実体経済構造も脆弱であることが大きな理由ではある。しかし、崩壊に、外部の金融政策が影響を与えていることも間違いがない。
話が長くなったが、我々のメインストリーに大事なことは、実は、このような世界に甚大な影響を与えた米国の量的緩和は、米国FED自身は、量的緩和と呼んでいないのだ。資産買い入れプログラムと呼んでおり、またはバランスシートポリシーの一部と言われている。バランスシートポリシーとは、中央銀行が自らのバランスシートを使う政策だからだ。
そして、米国は、失業を念頭にこの緩和を行い、インフレ率のターゲットはあったものの、そのターゲットである2%に達していないにもかかわらず、失業率の低下を達成すると、直ちに出口に向かい始めたのである。すなわち、世界に迷惑をかけておきながら、自分の庭においては副作用なく、きちんと勝ち逃げを成功させつつあるのである。
■量的緩和と呼ぶのは日本だけ、他は資産買入れ
そして、実は、今回、量的緩和に踏み切ったECBも、出口の期限を2016年9月と決めており、実は出口を最初から意識している。量的緩和の危険性を良くわかっているのだ。
実際、ドイツやオランダの中央銀行は、乗り気ではなかったわけであるし、また、国債を買い入れることに関する損失のリスクは、ECBは20%しか負担せず、80%は自国で、つまり、それぞれの国の中央銀行で負担することになっており、歯止めが効いた仕組みになっている。
こうやって見ると、そもそも、量的緩和を喜んでやっている国というのは、米国と英国など一部の国に限られており、それに日本も、黒田総裁になってから仲間入りをしたのだ。つまり、量的緩和信奉者というのは中央銀行の中では、極めて例外的な存在なのである。
しかも、重要なことは、自ら量的緩和と呼んでいるのは、日本だけなのである。欧州も米国も、資産買い入れということが強調されており、マネーの量を供給する、という側面はまったく強調されていない。
実際、いわゆる量的緩和、市場関係者やエコノミストが勝手に量的緩和と呼んでいる量的緩和において、文字通り量的緩和を行っているのは日本銀行だけなのだ。つまり、量的緩和とは、金融政策の目標が金利から、マネー供給量に変わったことを意味するが、マネー供給量の目標を設定しているのは、日本銀行だけなのだ。
一方、米国も欧州も、買い入れ資産額は明示しているし、それを目標としているが、マネー供給量、マネーサプライ、ベースマネーというものの数値目標は設定していないのだ。そもそも、マネーについては、全く関心がないと言って良い。買い入れ資産をいくらにして、何を買うか、ということに終始しているのだ。だから、米国は量的緩和ではなく資産買い入れプログラムなのであり、バランスシートポリシーなのだ。
つまり、世界で、日本だけが、異次元緩和という文字通り、異次元世界の、量的・質的緩和という得体の知れないものを行っているのだ。
■出口なき道を歩んでいるのは日本だけ
しかも、出口については議論せず、国債をいつまで買い入れるのか見えてこない、出口のない道を歩んでいるのは、世界で日本だけなのだ。
さらに言えば、物価目標を一義的なメインの目標としているのは日本銀行だけであり、しかも、期待インフレ率という中央銀行にとっては直接コントロール手段を持たないものを動かそうとしているのは、黒田総裁だけなのだ。
米国のフォワードガイダンスは、金利の見通しであり、投資家たちの中央銀行の行動の将来予測をコントロールするための道具なのだ。金利は、まさに中央銀行が直接コントロールするものであるから、それへの投資家の期待を動かそうとするのは、自然であり、可能である。
一方、インフレ自体をコントロールできず、インフレの動きを注視することしかできず、インフレ目標と言っても、そこへ直接到達する手段を持たないのは、昨今の物価の動きを見ても明白であるから、さらに、その期待値をコントロールするなど、無謀と言うよりは理論的に不適切なのである。
このようにコントロールできないものをコントロールしようとし、しかも、2%の達成を何よりも優先するのであるから、達成が見えない以上、量的緩和の出口も見えず、量的緩和の大きな副作用が生じる可能性が極めて高くなっているのである。
したがって、今後、量的緩和の副作用を心配する必要があるのは、欧州ではなく、日本なのであり、世界で日本だけなのだ。それぐらい、世界的に異常な金融政策を行っているのが日本なのだ。
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